エピローグ
今回は短めなので、もう一話を19時に投稿予定です。
昼休憩に橘に呼び出された。呼び出し先は屋上だったので、少し警戒してしまう。
だが、そこにはモヒカンや金髪の不良が金属バットを持ってずらりと待ち構えているなんてことも無かった。
いるのは橘だけだ。他の生徒はいない。
うちの学校、屋上は使用禁止なんだよな。
こういう晴れた日には、もったいないと思ってしまう。
「で、話って何ですか、先生」
「どうだ、如月。あの面子とは上手くやれそうか?」
フェンスに背中を当てて寄りかかったまま、橘が聞いてくる。
「まあ、問題のある奴は、千条くらいだと思いますけど…」
「そうか。ふっ、千条だけか。なら、上々だな。それとも、お互いの性格や問題点もまだ把握し切れていないのか」
「どういう意味ですか。あの面子で、他に問題児がいるとも思えませんが。割と普通に話せる奴らですけど」
奈緒や優希はコミュ力高めだ。
「零点だ、如月。お前は森島ときちんとコミュニケーションが取れているつもりなのか」
「ああ、いや、それは…」
このところ欠席している森島だが、部にいたときも、特に会話した記憶が無い。千条とは議論で衝突することもあるので強く印象に残るが、衝突していない森島は俺と隔たりがあっても、そこに気づけないのだ。
「森島は自分から文化部に参加しているわけでは無い。担任教師から勧められて入っただけだ。ひょっとすると、お前達はバスケ部の脅しで彼女が欠席に追い込まれたと思っているかもしれないが、森島自身がお前達を疎ましく思って距離を置いているかもしれないぞ?」
「ええ? それは……」
無い、とは言い切れない。このまま森島が部活に出てこず、フェードアウトして幽霊部員となってしまったなら、それは永遠に判明しない。
本人に問いただしたところで、真実なら、絶対にそうは答えないだろう。
バスケ部の脅しで萎縮してしまったという理由の方が、角は立たないのだ。
それは処世術としては優れているのかもしれない。だが、俺はなんだかそんな選択は嫌だった。
だからと言って、それは森島の選択なのだから、俺にどうこうできるわけでも無い。
俺が嫌だと思おうがどうしようが、それは森島の意思なのだから。
「森島には部の設立に成功した話はしたのか?」
「え? それは、たぶん、千条がやっているかと思いますが」
「そうだろうな。だが、別にお前がメールを送ってもいいんだぞ?」
「ええ? 女子にですか? それに、連絡先も知りませんよ、僕は」
「なら、誰かに聞けば良いだろう。千条なら、許可するはずだぞ」
許可は……するだろう。千条なら理由をしつこく詮索し、確認し、俺が悪用しないように制約を細かく付けた後で、それでもたぶん、メルアドは教えてくれる気がした。そこまで行かなくても、俺のメールを転送するくらいはするだろう。
「そうですね」
「なら、どうしてお前はしないんだ?」
「いや、森島さんとは別に親しくないので…」
俺がメールすると、なんだか余計な意味が付随されてしまいそうで、彼女もそれを迷惑に思う気がした。
「それは当たり前だ。お前達はまだ部を設立したばかりだぞ。何もこれは部活に限った話じゃ無い。新しい学校、新しい学年、新しい組織、そこでお前は必ず見知らぬ者と一緒になる。そこでお互いが仲良くする努力を払わなければ、距離が縮まる訳が無いだろう。違うか?」
それは確かに真実だった。
ぼっちだからこその選択。
俺はずっとそれに気づかず、ここまで来ていたのか。
「チャンスは逃すな。こういう機会はあまりないし、メールをもらえば不安に思っている森島も安心できるだろう。それは彼女自身のチャンスにもつながっていく。嘘でも良いから歓迎しておけ。それは単なる挨拶の記号で、誰もそこに本音は求めていない」
そこは引っかかる話だったが、じゃあ俺が森島を歓迎していないのかというと、それも嘘の気がした。
「分かりました」
「よし。それと、私はお前達が自分達で気づくかどうにかすると思って待っていたのだが、そろそろ時間切れになりそうだからな。ヒントを与えておくぞ。お前達はまだ部活のスタートで忘れている儀式が一つある」
「そうですね、今、気づきました」
もう部員の大半には不要になってしまった儀式だが、森島には必要だろう。彼女にはちょっと悪いことをした。大人しい子と思っていたが、それも当然だったかもしれない。
自己紹介、してなかったな。
俺は教室に戻り、窓辺の席で文庫本を一人読みふけっている千条に声を掛けた。
「千条、俺は森島のメルアドを要求する。今すぐだ」
窓から風に乗せられた桜の花びらが一枚舞い込み、俺と千条の前でふわりと踊った。ここからはきっと未知のルートだ。新たな風向きを俺は感じていた。




