十三話〜踊れ 舞え 縛れ〜
ガーウィンを拘束していた鎖が突如切れる。
「家族が出来て、変わったなガーウィン。待たせた。」
剣で鎖を断ち切り、ミルフィーナの前に立ちはだかる。身に纏う純白の騎士団服よりも白く輝く長い銀髪を、一つに括り靡かせる。
ガーウィンに後ろ手で治癒をかけるその男は、
「カイル!?なぜここに!!」
【王宮騎士団長 カイル・ロズヴァル】
治癒能力の持ち主で、戦場より後ろの救護班として、前線で傷ついた兵を回復するのが務めの男だ。治癒持ちでありながら、他者を圧倒する剣術と指揮官としての才能を開花させ、平民でありながら騎士団長まで登り詰め貴族となった。
「勝利したと聞いた途端に、前線からお前の爆発音が聞こえたから、急いで駆けつけたんだ。前線に居た兵が撤退してくるから、嫌な予感がして案の定だよ。」
「助かる、が、今回はマズイ。」
「団長に匹敵する敵を二人同時に相手してたんだもんね。そりゃキツイわ。」
「そうじゃない。あの、道化師の男。ヒュビネスという名だが、奴の神賢が分からないんだ。攻撃は当たり、ダメージは与えられる。でも、次に見た時には何も無かったかのようにその場に現れる。治癒とも、身体が再生しているとも違う。不死身を与える神賢かとも思ったが、それなら服まで再生するのは不自然だ。」
「___それ、どうやって勝つの?」
「それを考えている。何かカラクリがあるはずなんだ。コイツは人形で本体は別にあるのか、急所が普通の人間と違う位置にあるのか、再生なら、再生に回数制限があると考えて、何度も殺すしかない。突き止めるから手伝ってくれ。」
「わかった。なら、そいつはお前に任せる。俺はお前が集中できるように、鎖の女を食い止めるよ。」
ミルフィーナは、苛立たしげにコチラを見ている。
「作戦会議終わったー?あのさーわたしのことほぼ無視だよね?ヒュビネスをどうのこうのってさー私の対策の話し合いはしないわけー?わたし舐められてんのー?」
「これはこれはお嬢様。退屈させて申し訳ございません。さて、では私と踊っていただけますか?平民の手で宜しければ。」
「へぇー?いいよ。わたぁし踊り大好き。せいぜい振り回されないようにがんばってねぇー。」
ミルフィーナは胸の前で両手の指を組み、祈りを捧げた。組んだ指の隙間から、光が零れる。
零れた光は、地面に落ちる前に細く伸び、輪を作り、輪が輪を呼んで、瞬く間に一本の鎖になった。
次々に増えていく鎖が七本になり、ミルフィーナの周りに浮かんでいる。
輪の一つ一つに、教会の聖句のような細かな文字が刻まれている。王都の大聖堂の柱という柱に彫られているものと似ている。
「___神は名を与え、人はその名に誓う。」
輪の外側には、小さな棘が隙間なく並んでいる。
「じゃあぁ、一曲目ねぇーー!」
ミルフィーナが、くるりと回った。
白いローブの裾が、花のように広がる。それに合わせて、七本の鎖が一斉に宙を舞った。
子どもが振り回す、色とりどりのリボンのように見える。ただし、その一本一本が、人の骨を砕く重さで唸りを上げていて、可愛くない。
カイルは、一本目を剣の腹で受け流した。
二本目は、身を沈めてくぐる。
三本目は、頬を掠めて血が垂れる。
「あはぁーっ!上手ぅ!!上手だねぇー!!」
ミルフィーナが、舞いながら笑う。
四本目、五本目___右へ跳ぶが、跳んだ先に六本目が迫ってきていた。
「___ぐっ!避けきれない!」
カイルは、左腕を盾にした。
鎖が腕に巻きつき、棘が食い込む。白い袖が、見る間に赤く染まった。
(___治すか?)
右手の剣で鎖を断ち切りながら、カイルは頭の中で考える。駆けつけた時に、ガーウィンへ一度かけている。あと残りは三回、全身なら一回が限度というところか。
「予想以上にキツイな......。」
あのガーウィンが、消耗戦になると言った。なら、この先で傷を塞ぐべきなのは、自分ではない。
カイルは、腕の傷をそのままにする。
「あれれぇー?ねぇねぇ?なんで治さないのぉ?」
ミルフィーナが、人差し指を頬に当て首を傾げた。
「治癒持ちなんでしょぉ? 知ってるよぉ。さっき、あのおっさん回復してたもんねぇー?なんで自分に使わないのぉー?痛いの好きなのぉ?」
「お嬢様の前で、すぐに傷を塞ぐなんて無粋な真似は出来ませんよ。踊りの相手が汗一つかいていなかったら、興醒めでしょう?」
「何その理屈ぅー!!へんなのぉー!!」
ミルフィーナは、けらけらと笑った。
カイルは、その笑い声を聞きながら、彼女の目を見ていた。
___彼女が見ている先に、鎖が来る。
七本の鎖は、ばらばらに暴れているように見える。だが、違う。一本一本の先端が向かうのは、いつも彼女の視線が止まった場所だ。
子どもが、欲しいものを指さすように。
ならば___
ガーウィンとは反対の、針葉樹の林の方へ、一歩、二歩と下がる。
ミルフィーナの目がカイルを追うと同じように、鎖もまたカイルを追いかける。
(そうだ、いい子だからこっちを見てろよ。ガーウィンの邪魔だけはするな。)
カイルは踊るように鎖を避ける。
右へ、左へ、くるりと回り、また下がる。
避けきれないものは、剣で弾く。
剣が鎖を弾くたびに、光の欠片が雪のように散った。散った欠片は、すぐにまた集まり輪に戻る。これが舞踏会なら、拍手喝采だろう。
すぐそばに、大人の背丈ほどの岩を見つけたカイルは、岩の周りを駆ける。
鎖が、カイルを追って岩に巻きつき、二周目で、別の鎖がその上に重なった。三周目で、三本の鎖が互いに噛み合い、一つの塊になった。
「あーーっ!!」
ミルフィーナが、鎖を引いた。
岩がぎしりと鳴るが、外れない。
「ちょっとぉ! ずるいずるいずるいー!!踊りの途中で相手を置いてかないでよぉー!」
「申し訳ございません、お嬢様。少々、連れの様子を見て参ります。」
カイルは芝居がかった一礼をすると、身を翻した。
「えっ!?嘘でしょー!?放置ぃぃー!?」
左腕から滴る血が一筋、焼けた地面に線を引いた。




