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第081話 おっさん、最後の攻撃


 ルシアンの矢もかくやと言う勢いで突撃して行く脳筋達を見ながらも、ヨシダはフレアへの指示も忘れて無い。



「フレア、俺達もレイラ達に続く。お前は空で引き続き牽制してくれ」


「《分かった、ヨシダ達も踏み潰されるなよ!》」


 ヨシダは拘束されたアンデットドラゴンを見つめたまま、魔導具からのフレアの返事を確認すると、独り言の様に話し始める。


「やれやれ、これで何とかなりそうだな。で、アンタらはそこで突っ立って見てるだけか?」


 巨大な死竜が暴れる様と、それに力を合わせて立ち向かう冒険者達。その光景を茫然と眺めていた極東の刺客二人にヨシダは声を掛ける。


「あのデカブツは、空飛ぶ龍で弱点を探り、伝説級の魔導士達が拘束しコアを貫いた。しかし、それでもなお油断ならない状況だ。アンタらも雇い主の尻拭いぐらい手伝ってもいいと思うが?」


 ヨシダの言葉に、マサクニと呼ばれたサムライはハッと我に返ったように、アンデッドドラゴンを睨みつけた。隣のニンジャ、ムエイも、覆面の下で苦々しい表情をしているのが窺える。


「……ふん、確かに見ていて気分の良いものではござらんな。某らの雇い主があのような醜態を晒した以上、義理立てする必要も無かろう」


 マサクニは静かに柄に手をかけ、鞘から刀身を僅かに覗かせる。チリ、と夜明け前の冷たい空気に金属音が響いた。


「それに、あれほどの業物(つわもの)たちが死力を尽くしておるのに、武士が黙って見ているなど、我が矜持が許さぬでござるよ」


「へっ、侍ってのは面倒くせぇ生き物でござるな。だがまあ、アレを野放しにして王都まで行かれちゃ、拙者らの寝床もなくなるかもしれんでござるしな」


 ムエイは肩をすくめると、逆手に持った忍者刀を構え直す。


「それに……借りは返さねばならんでござる」


 その視線は、上空でイーセリオンを駆るフレアに向けられていた。


「話が早くて助かる。二人とも腕は立つようだしな。先ずは全員で足を狙い横倒しにする。アンタらも奴の動きを少しでも止められるか? 足でも尻尾でもいい、注意を惹きつけてくれればそれでいい」


「承知したでござる! ムエイ殿、参る!」


「やれやれ、人使いが荒いでござるな」


 言うが早いか、二人の姿が掻き消える。マサクニは移動スキル紫電脚を発動すると、常人離れした速度で死竜の足元へと肉薄。

 ムエイは影から影へと飛び移り、巨大な尻尾へと狙いを定める。


「よし、俺たちも行くぞ。レイラとブルムロックの援護だ、続け!」


 ヨシダの号令に、『余燼の光の騎士団』のメンバーも動き出す。

 その頃、先陣を切ったレイラとブルムロックは、既にアンデットドラゴンの懐に到達していた。


「オラァッ! まずはそのデカいツラを砕いてやるぜ!」


 レイラはアダマンタイトすら凌ぐ硬度を誇る呪いの小手で、死竜の脛を掛けて渾身の一撃を叩き込む!


「我も遅れは取らんけん! 食らえ、我が魂の一撃!」


 ブルムロックも負けじと、鍛え上げられたドワーフの膂力を込めて、自ら打った巨大な戦斧を、竜の足へと振り下ろした。


 二つ有るコアの一つを失い、タリシアの聖鎖に動きを封じられているとはいえ、アンデットドラゴンの抵抗は凄まじい。その巨体がもがき、瓦礫が雨のように降り注ぐ中、最後のコアを巡る総力戦が始まる。


「ガギィィィンッ!」


「ゴッッ!!」


 レイラの小手とブルムロックの大斧が、ほぼ同時にアンデッドドラゴンの巨大な足を捉える。アダマンタイトをも砕く一撃と、ドワーフの業物が叩きつけられ、分厚い脛骨に巨大な亀裂が走った。


「「ギシャアアアアアアアアッ!!」」


 コアを一つ失い、聖鎖に縛られてなお、その巨躯は最後の抵抗を見せる。苦悶の咆哮と共に、全身を震わせ身をよじり、足を踏み鳴らし纏わりつく冒険者達を振り払おうと暴れる。


「甘いでござる!」


「させるか!」


 アンデットドラゴンが巨大な骨の尾を引きテールスイングのモーションに入ったその瞬間、足元に肉薄していたムエイとマサクニが動いた。


「影分身・吹雪!」


 ムエイは素早く印を結び忍術を唱えると、紙兵を宙へばら撒く。

 風に舞う無数の札は術者の影を写し取り、瞬く間に幻影(ぶんしん)となって現れる。

 ムエイがクナイを構えると、影の軍団も本体と寸分違わぬ動作で狙いを定める。


「影縫い――針千本!」


 分身の手から無数のクナイが放たれる。

 それはまるで雪片のように尾の影を覆い、突き立てられた刃が地面へと縫い付ける。

 振り上げられた巨大な骨の尾は影ごと地面に固定され、振り上げられたまま動きを止める。


「マサクニ氏、今でござる!」


「おうよ! 次は某の番だ――大蛇狩り流剣技・大蛇大刀(オロチダチ)!」


 ムエイによって攻撃を止められた一瞬の硬直を逃さず、マサクニが竜の鱗も断ち切る大蛇狩衆の剣技を繰り出す。

 後脚の腓骨を目掛け剣閃が走る。僅かに響くキンと澄んだ斬撃音。数瞬後、腱は断ち切られゆっくりとズレ始める。


「グオッ!?」


 まるで我が身に何が起こったか分からないという、疑問符付きの咆哮と共にアンデッドドラゴンが大きく体勢を崩した。


「ナイスだ、サムライ、ニンジャ!」


 後方から迫ったヨシダが叫ぶ。


「鬼灯、瑠奈、キャトリーヌ! 前衛のカバーに入るぞ! 俺が奴の頭を押さえる!」


 ヨシダは両手をアンデッドドラゴンに向け、全力でスキルを放つ。


「重力波操作――加圧領域プレッシャー・フィールド・最大出力!」


 崩れた体勢から頭をもたげようとする死竜の頭部に、強烈な下向きの重力が圧し掛かる。動きが一瞬、明確に鈍った。


「《フレア、今だ、イーセリオンの必殺技だ!》」


 上空で機を伺っていたフレアが、ヨシダの声を合図にイーセリオンと共に垂直に近い角度で急降下する。


「イーセリオン! アイツの脳天目掛けて突撃だ!」


「グルルルルァァァァッ!」


 イーセリオンは一つ咆哮を上げると、自身の質量を乗せた全力の体当たりを敢行する。


「ドッゴォォォンッ!!」


 龍対竜、技術も何も無い、ただ純粋にどちらが頑丈か、ただそれだけの勝負! アンデットドラゴンに放たれたイーセリオンの強烈な体当たりは、頭蓋を砕き巨体をぶっ倒した。


「ズ、ズウゥゥーンッ!!」


 脚を斬られバランスを崩したアンデットドラゴンは、ヨシダの強力な重力と、イーセリオンの必殺の頭突きで頭蓋の破片を撒き散らし横倒しになる。


 瓦礫を巻き上げ盛大に倒れたアンデットドラゴンの頭部は割れ、ついに禍々しく脈打つ巨大なコアが顔を覗かせる。


「「見えた!!」」


 吹き飛ばされながらも即座に体勢を立て直していたレイラとブルムロックが、同時に地を蹴る。


「最後だ、ヨシダッ!」


「アレを叩けば終いじゃな!」


 ヨシダは頷き、指揮官として最後の号令を放つ。


「タリシア様、ルシアン! 全魔力をそこに!」


「言われんでも!」


「これで、終わりだ!」


 タリシアが聖鎖の出力を最大にし、ドラゴンの動きを完全に封じる。ルシアンの『天穹を射る銀の矢』が再び放たれ、剥き出しのコアを寸分違わず貫いた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアANNNNN!!」


 断末魔の絶叫が王都の夜明けに響き渡る。


「「終いだ!!」」


 レイラとブルムロック、二人の最強格の物理アタッカーが、コア目掛けて最後の一撃を叩き込んだ。


 パリン、と。


 あれほど強靭だったコアが、夜明けの光を浴びた薄氷のように、甲高い音を立てて砕け散った。


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