第078話 おっさん、聖龍降臨
白む王都の空、フレアを乗せた白銀の聖龍は明け始めた東の端より届く僅かな陽光を受けると、流れる光の帯となって天空へと駆け上る。
「所でヨシダ、この龍、イーセリオンの攻撃方法の事なんだが」
白銀の聖龍に跨り空駆けるフレアが魔導具を通じてイーセリオンの能力を問うと、ヨシダは魔導具の向こうでしどろもどろと答え始める。
「フレア、その、なんだ、落ち着いて良く聞いてくれ、その龍の攻撃方法だが……」
「攻撃方法は?」
フレアの復唱に、ヨシダの額に冷や汗が一筋流れ、ゴクリと生唾を飲み込む。
「すまん、そいつ体当たりしか能が無いんだ」
「……はあ? なんだってぇ〜〜」
無敵の聖龍が持つ驚愕の攻撃方法に絶叫するフレア、竜災のトラウマすら乗り越えた彼女の試練はまだまだ続く。そんな絶叫するフレアをよそにヨシダはタリシアに向き直ると、冷静に、しかし力強く進言する。その瞳には、もはや迷いはなかった。
「タリシア様、状況は最悪です。アレをここで止めなければ、被害は王都にまで及ぶかもしれません」
「分かっておる、いつか魔力切れで動かなくなるとしても、あれは放置できん代物じゃ」
いつになく厳しい表情のタリシアは、自身の経験と魔法知識から魔女達の作り出したアンデットドラゴンは魔力によって動くゴーレムに類する物で、その偽りの生は魔力による束の間の命だと言う事も看破していた。
「ヨシダ、おぬしの中庭での戦いっぷりは、斥候の魔眼で始終見させて貰った。あの絶望の局面を逆転させる類稀なスキル運用と、その指揮能力には目を見張る物が有った」
そこで一旦言葉を切ったタリシアは、なんとも言えぬ複雑な笑みをヨシダに向けると、続きを放つ。
「今この戦力でアレを止めねばならぬ。正攻法では埒が開かん、そこでじゃ、おぬしに作戦立案と運用指揮を委ねる。わしも、王都のSランクパーティも、おぬしの駒として動こう。これは勝つ為の判断じゃ、異論は受け付けん!」
タリシアの言葉に、周囲の冒険者たちが息を呑む。グランドマスターが、一介の冒険者に指揮権を委ねるなど前代未聞。しかし、先ほどのアンデッドの群れを一掃したヨシダの奇策を目の当たりにした今、誰も異を唱える者はいなかった。
「俺に振るのかよ。まあいい、デカブツだが元はバラバラの遺骸の寄せ集めだ、魔女の魔法によって組み上げられたゴーレムとも言える。ならば動力源である偽りの魂、即ちそれを繋ぎ止めている『核』を叩けば巨体の維持も出来ない筈だ」
ヨシダの脳は、かつてない速度で回転を始める。アンデッドドラゴンの巨体、再生能力、そして元が「竜の遺骸」であること。断片的な情報を組み合わせ、攻略の糸口を探る。
「……STGなら超巨大ボス戦。地上部隊はアレの足元まで近付かなければ攻撃は届かない。しかしそれではリスクが大き過ぎる……だが、此方にはフレアと言う航空戦力が有る。それを最大限活用してアレの『弱点』を突き止めるのが先決だ」
ヨシダの脳裏にはそこまで考えてキングガーゴイル戦を思い浮かべる。やる事は一緒だ、その為には確認することが一つ有る。
「フレア、聞こえるか」
「ヨシダか、聞こえるぞ、作戦は決まったのか?」
「先ずはその前に確認して欲しい事が有る、『スペースファンタジー』がイーセリオンに乗ったままで撃てるか確認してくれ」
「了解だ、やってみる」
円を描く様に上空を舞っていた白銀の聖龍は地面をのたうつ穢れた竜に狙いを定めると、それ目掛けて銀の矢の如く向かって飛ぶ。すれ違いざまにフレアが一発の光弾を放ちアンデットドラゴンに当たると「コン」と軽い音と共に跳弾すると空に消える。
フレアの放つ光弾が命中したアンデットドラゴンは、イーセリオンが飛び去る空へと向けてブレスを放つ。攻撃された苛立ちか、はたまた聖なる龍への忌避感か、いずれにせよ敵意は空飛ぶフレアに向けられた。
「ヨシっ! 想定通りだ、フレア先ずはヤツを隈なく撃って着弾した時の音を聞いてくれ、弱点にヒットすれば「カン」と高い音で跳ね返る筈だ」
「ヨシダがガーゴイルキング戦でやってた奴だな? 分かったやってみる」
「騎乗しながら空中での射砲撃だ、慌てなくても良い、出来るだけ全身を確認してくれ」
「分かってるって、イーセリオンは乗り慣れた馬の様に言う事聞いてくれるから大丈夫だ」
フレアの弱点の調査砲撃で暫くはアンデットドラゴンのヘイトも空へと向き足止め出来ると考えたヨシダは、次に保有戦力の確認を行う。
「『核』の調査はフレアがやってくれる、次はアンタ達のスキルを教えてくれ、特に遠隔攻撃持ちは何が出来るか詳しく知りたい」
ヨシダの指揮に初めは難色を示す者も僅かながらいたが、タリシアの援護も有って、皆手持ちのスキルを開示する。
タリシアは生ける伝説の二つなに違わず、射砲撃、強化弱体、補助魔法とおおよそあらゆる用途と属性を習得し、魔法の殿堂と言えるほどの多彩さだ。
それに続くのが銀翼の隼のリーダー、ルシアン・アルヴェイン。タリシアには譲るものの此方も魔法のデパートと言えるほどには引き出しの多さが有り、弓の扱いも超一流だ。
冬越えの狼は脳筋揃いだが、その中でもレイラの物理攻撃力は規格外だ。アレの動きを止めるならレイラしかいない。
最後に鋼匠の心臓、ブルムロックを筆頭にベテラン揃いで抜群の安定感で、数少ないバルドリックの浄化はアンデッド相手には切り札になり得る
ヨシダはレイラに視線を送ると彼女は既に臨戦態勢で、獰猛な笑みを浮かべて拳を打ち鳴らしていた。
各パーティの戦力を瞬時に把握し、ヨシダは脳内で最終的な作戦を組み立てる。フレアの索敵、タリシアとルシアンの遠距離魔法、レイラ達の物理攻撃、そしてブルムロック達の支援。全てのピースが揃った。
「よし、攻略法は決まった!」
ヨシダは顔を上げ、集まった歴戦の冒険者たちを見渡し、力強く宣言する。
「作戦は全部で4つのフェーズに別れます。先ず、第一段階はフレアの空撃でデカブツの弱点を探ります。そして空を自由に動けるのでヘイトコントロールもフレアに任せます。フレア、聞こえてるな?」
「ああ、了解だ。任せとけ!」
「続く第二段階ではタリシア様と『銀翼の隼』は最大火力の射砲撃で弱点を含む全身への攻撃をお願いします」
「ふむ、わしらはただあのデカいのを撃てば良いのか?」
グランドマスターであるタリシアがヨシダの作戦意図を問いただす。その姿は新米指揮官をテストする様な、返答次第では指揮権剥奪も辞さないと言わんばかりの態度だ。
「奴は以前戦ったガーゴイルキングや先ほどのアンデット達と同じく十中八九、強力な再生能力を持ってると思われます。故に弱点を含む全身へ隈なく攻撃を行い、再生能力が飽和するまで追い込んで下さい」
「解った、了解じゃ。ルシアン、おぬしも異論はないの?」
「……ええ、道具の使い方を覚えたばかりのお猿さんにしては、まあまあ考えてる様ですね、承知しました」
嫌味なイケメンエルフは兎角ヨシダと対立するが、崇拝するタリシアの言葉には否は無く、不承不承では有るが首を縦に振る。
「そして第三段階は残った3パーティの地上部隊が突撃し、どちらかの脚部を破壊して動きを封じます」
そこで一旦言葉を切ったヨシダは、眼前に集う猛者どもの顔を一つ一つ確認すると、力強く吠える。
「最後に全総力を挙げ、あの巨大なアンデットドラゴンを殲滅する! 勿論アレスタ伯爵軍も最終フェーズには協力して頂きたい、此処は皆んなでドラゴンスレイヤーの称号を頂きましょう」
そう言ったヨシダは下手くそなウインクをしておどけて見せると、作戦開始を宣言する。それに呼応する丈夫達の怒号が開け始めた空に木霊する。




