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第075話 おっさん、粉骨砕身する


 ヨシダが足止めし、スノーウルフが通り過ぎた後の骨の山を、二人の聖職者が浄化していく。そのサイクルが見事にはまり戦況が有利に傾きかけたその時。


「あらあら頑張りますわね。では、この様な趣向は如何かしら? プライデッツァさん、お暇でしょう少々お手伝い頂けますか?」


 スロウネラは振り返ると後ろに控えたプライデッツァに対してそう言う。


「私にも見せ場をくれるのか? そうだな……それでは少し見せてやるか」


 不遜な態度で一歩前に出てきた黒尽くめの貴婦人プライデッツァ、ヨシダ達は王都への旅立ちの日一瞬見掛けただけで、全てが謎に包まれた魔女のリーダー。彼女のその能力の一端を披露すると言うのだ。


「『ヘプタ(7つの)ノクティア(夜の)カラミタス(災厄)』が長、傲慢の魔女プライデッツァ、彼の方の覇道を阻むのならば一才の容赦はしない」


傲慢なる心の結晶アロガント・フィールド


 傲慢の魔女プライデッツァが唱える魔法に呼応する様に獣人を取り囲むアンデッドたちの眼窩の光が、一層強く赤く燃え上がった。魔法を受けたアンデットの見た目に変化は無いが、スノーウルフのメンバーの一人の退路を断つように包囲網が狭まっていく。


「まずい! あの脳筋、囲まれたぞ!」


 ヨシダはすぐさま重力波操作で獣人の足元を軽くし、後退を促すが、プライドが邪魔をするのか、彼はその場から動こうとしないどころかその中心で迫るアンデットに向かって行く。


「ケッ! たかが骨に囲まれたぐれぇで騒ぎすぎだ、俺の戦技で粉砕してやるぜ! オラァ〜!」


「ガキンッ!」


 それまでとは明らかに違う打撃音に、攻撃を放った獣人自身が信じれない物を見た様な顔をしている。


「バカッ! 油断しすぎだ、相手は得体の知れない魔女だぞ! クソッ世話の焼ける、ヨシダから全員へ伝達、一瞬加重を解除する」


 ヨシダは明らかに攻撃が通らなくなり殲滅力が低下した事で、敵に囲まれてしまった獣人に狙いを定めスキルを放つ。


「重力波操作――空間座標接続(メビウス・リンク)


 重力波による敵の足止めが途切れ仲間の負荷が瞬間的に増加するが、そのお陰で囲まれた獣人を強制的に後方に下げすと、素早く全体の足止めする。


「面目ねえ、敵がいきなり固くなって焦っちまった」


「足止めしてるってのに、その足引っ張ってどうする頼むぜ」


 ヨシダは内心焦っていた、先ほどまで快進撃を続けていた脳筋達が、プライデッツァの魔法一つでダメージを大幅に減らされたのだ。厳密に言うと一撃でバラバラに散っていたアンデットが、その結合を強固にし打撃に耐性を付与された。更にアンデットの骨一つ一つが強化され破壊するのに手間取って明らかに殲滅速度が落ちている。


「ちっ、此方が優勢となれば対策を打ってくる、中々楽には勝たせては貰えないか……フレア、其方の状況は?」


「こっちは変わり無い、アタシの『スペース・ファンタジー』は絶好調だし瑠奈の浄化も問題無い、鬼灯もキャトリーヌも大丈夫だ」


 ヨシダが足止めで抜けては居るが、その穴はフレアが十二分に埋めている。フレア達の状態に安堵すると続けてブルムロック達の状況確認する.


「ブルムロックのおっさん其方はどうなんだ?」


「こっちの状況は芳しく無いけん、バルドリックの魔法の効果が明らかに落ちとるんじゃ、ほぼ無効化されとる状況じゃけん」


「やれやれだぜ、コイツら自分が死んでるのを認めたくないらしい、さっきまで従順な子羊ちゃんだったんだがな」


 軽口を叩くバルドリックだが、普段の飄々とした表情は鳴りを潜め焦りの色が浮かぶ。彼の使う浄化魔法墓標の沈黙(グレイブ・サイレンス)はアンデットに自分の死を肯定させる事で成仏を促す魔法だ。一方プライデッツァの使った傲慢なる心の結晶アロガント・フィールドは防御の上昇と共に傲慢さ、あえて言い換えるならば自己肯定を強力に高め傲岸不遜たらしめる。その効果はアンデットにとって防御力だけでは無く自身の生への執着を強力に肯定し、その副作用がバルドリックの魔法を相殺したのである。


「やれやれはこっちだぜ、スノーウルフの殲滅力は一人を除いてガタ落ちだわ、ただでさえ発動に時間の掛かる浄化魔法の一つが効かなくなるわ、流石に新しいアンデットは湧かなくなったがまだまだ山盛り残ってる、如何するよ?」


 脳筋共がバラした骨の山を瑠奈とバルドリックで交互に浄化すると言う、破壊と浄化のパイプラインが完全に狂ってしまった。レイラの殲滅力は相変わらずだが、他のメンバー達は目に見えて遅くなっている、浄化のサイクルも瑠奈一人では回らず、残りのアンデットを全て一人で賄うのは時間的にも魔力的にも現実的では無い。全ての歯車が狂い始め頭を抱えるヨシダ。


「ヨシダこれはまずいぞ、アタシらも今は問題ないがいずれ回らなくなる」


「そうにゃヨシダっち、一発逆転のテーブル返しにゃ」


「そんな秘策が有ったらとっくにやって……テーブル返し? ちゃぶ台返しの事か…………分かったぜキャトリーヌ、この盤面、ド派手にひっくり返してやるっ!」


 キャトリーヌの何気ない一言で閃いたヨシダは、完璧に詰んだと思われるこの局面を打開する為、仲間達に矢継ぎ早に指示を出し始める。


「スノーウルフは一旦ここ迄下がってくれ、アイアンハートは俺が度肝を抜いてやるからその間に罪人の捕縛を頼む、残った奴で遠隔持ちは牽制、近接は臨機応変だ!」


「ヨシダ、俺に此処まで下がれと命令したんだ。この局面、打開できなきゃただじゃ済まないぜ」


 白狼の姫、レイラはヨシダの胸ぐらを掴んで眼前まで引き寄せると、牙を剥いて凄む。鬼灯ほどでは無いが大柄なレイラは軽々と釣り上げたヨシダをポイと捨てる様に解放する。


「ゴホッゴホッ、ったく乱暴だな。そんな事は百も承知、此処で逆転できなきゃどのみちアンデットの餌食だ。まあ見てろって重力波……いや、加重魔法の有り得ない使い方を見せてやるから」


 ヨシダはレイラにそう答えると少し距離を取ると戦場を見回す。

未だヨシダの重力波によって数倍の重力下のアンデット達は、ノロノロとだが此方に赤い目を向けて這いずるように向かってくる。


(キャトリーヌには感謝だな、この詰んだ状況にテンパって重力波操作の――いや、『Gストーム・メタルアーマー』の基本を忘れてた……)


「よっしゃ、いくぜ!」


 ヨシダは両の手で自分の頬をピシャリと叩き気合いを入れると、集中を始める。既に彼の目には中庭全体を覆う下向きに流れる重力が波の様に映っている。


(まずは重力波を空間座標接続(メビウス・リンク)の要領で空に向けて伸ばして行く。そして捻りを加えながら先端を収束させる……よし重力波螺旋は出来た)


 ヨシダの重力波操作によって捻り上げられた下向きのベクトルは、ユルユルと空気を巻きながら地面へと向かって流動し始める。その風は頬を撫でる微風程ほどだが、プライデッツァはその変化を敏感に感じ取る。


「む、この塀に囲まれた中庭で風が起こるだと? しかしこの程度で何を始めるつもりか……」


「ふあぁ、そうね、ワンコさん達も下がってしまった様ですし、撤退の準備かしら? ご苦労様ね」


 三人の魔女達も状況の変化は認識するも余裕の態度を変える事はなかった。この戦場に立つ者達でヨシダの戦術、その物理学をベースにしたロジックを看破出来る者は一人として居ない。それもそのはず、目に見えない重力波の流れを操作し時空そのものを捻じ曲げているのだ、それに気づけと言う方が無理というものだ。


(誰も彼もが懐疑的な目で見ている、フレア達すら不安げだが、それはこの目の前の超現象が見えてないからだ。クククッ、だがこいつを見れば盛大に腰を抜すぞ!)


重力波螺旋昇龍陣ノックアップ・トルネード


 ヨシダは叫ぶと共に、空高く捻り上げた重力波の螺旋ベクトルを反転させると同時にその流速を極限まで引き上げる。アンデット達を地面に縫い付けて居たそれは突然空へと向かい猛烈な勢いで、螺旋を描き逆巻いてゆく。

 強烈な上向きの重力波が瞬間的に超低気圧帯を生み出し、その気圧差で大気が一気に流れ込むとアンデットの群は気流に飲み込まれ螺旋の頂点目掛け激しく廻る。


 重力波の螺旋は収束した先端に近づくにつれ流速を増し、魔法によって防御力を高めた骨の体すら木っ葉の如く粉砕すると、まだ開けやらぬ王都の空へと撒き散らすのだった。


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