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第072話 おっさん、ニンジャとサムライと砦の戦い


 レイラは自慢の小手(ナックル)に付けられた新たなキズを見やる。小手の材質はミスリル、高価だがそこまで硬い金属では無い。しかしその途轍もない硬度を維持しているのが小手一面にビッシリと刻まれた硬化魔法式だ。


「俺の魔力と小手(こいつ)の能力、その硬度に刃を届かせるか……クックックッ、あのサムライ只者じゃない」


 持って生まれたエルフすら凌駕する膨大な魔力と、生来の性格故か、はたまた獣人の本能か、兎に角物理で殴るスタイルの彼女に魔導士の道など無かった。しかし有る日偶然出会ったのが、終焉の手甲と呼ばれる小手だった。


 使用者の魔力を際限なく吸い続ける呪いの小手、その対価と引き換えにアダマンタイトすらも凌ぐ最強の硬度をもたらす。その武具との出会いが、レイラを瞬く間に王都最強の物理アタッカーに押し上げた。


「宴は始まったばかりだ、楽しませてくれよ!!」


 生粋の戦闘狂は強者と対峙した歓喜に打ち震え、刀と拳を交えるのだった。


 一方、ヨシダは仕方がなかったとは言え、よそのパーティのリーダーに命令を出した後ろめたさも有りフォローを入れる。


「勝手にレイラにサムライを押し付けたのは悪かったが、残ったアンタらは如何する?」


 脳筋揃いで一癖も二癖もある有るメンバー揃いと見て取れる。些細な事など一笑に付すとヨシダに向けて牙を剥く。


「おうおう、ウチの姫には良い部位(トコ)くれたが、俺達にゃ残飯だけか?」


 如何やらその矛先はパーティリーダーを勝手に使った事よりも、自分達にも美味い獲物を寄越せと言う要求だった。こんな事ならニンジャもスノーウルフに任せれば良かったかと考えたが、既にマッチアップは済んで戦闘中だ、如何にもならない状況にヨシダは素直に謝罪する。


「それは済まなかった、だけどな、サムライやニンジャで終わりじゃ無い。後には得体の知れない魔女が三人も控えてる」


 そう言ってヨシダは奥に下がった魔女達を顎でしゃくる。何処の誰だか、どんな目的でジャイアル伯爵達に加担しているのか。その全てが謎に包まれている不気味な存在が、楽しそうに此方を伺っている。


「最悪その後は……いや、それは置いても、幾らでも獲物は残ってる。それに、美味い獲物は早い者勝ちと相場は決まってる、そうだろ?」


「ああ、確かにそうだ、俺たちゃ餌を貰って尻尾振ってる飼い犬じゃねぇ、血に飢えたオオカミだ! 先ずは雑魚で腕慣らし、美味い獲物は仕上げと行くか」


 ヨシダに上手く言いくるめられたスノーウルフの面々は我先にと敵を求め、ジャイアル伯爵の私兵に襲い掛かる。その絵面は思わず兵士側に助太刀したくなるほどの様相だった。


「ほう、上手い采配じゃのう、達人二人に一人づつ、残った我らで先ずは数を減らすか。脳筋共も手懐けおるし……この間までAランクと聞いとったが、中々様になっとるじゃないか」


 火床で焼けた赤銅色の髭面で、ヨシダの采配に感心するドワーフ――鋼匠の心臓(アイアンハート)のブルムロック・ハンマーフォージが私兵を相手しながら話しかける。


「これでも一応、パーティの司令塔もやってるんで」


 ブルムロックとの会話で、ヨシダの頭には瑠奈達の言葉がリフレインする。ヨシダが司令塔になってからフレアは戦いに集中できるようになったと言っていた。ヨシダの今の役目は、皆がそれぞれの力を最大限に発揮できるように盤面を整えること。


「おっと、感傷に浸ってる暇は無かったな」


 ヨシダは思考を切り替え、戦場全体を俯瞰する。その言葉を裏付けるように、フレアの剣は水を得た魚の如く躍動していた。ニンジャの変幻自在な体術と手裏剣の波状攻撃を、炎を纏う剣閃でいなし、焼き尽くす。指揮という重圧から解放された彼女は、純粋なアタッカーとして、その剣技を存分に発揮していた。


「天井のない中庭は、地下通路とは勝手が違うかい?」


「くっ、此処では拙者が若干不利でござるか」


 ニンジャはそう悪態つくと、バク転を二回三回繰り出し距離を取る。地下通路での対戦ではヨシダのサポートにより奇想天外な機動を披露したフレアだったが、今、一対一ではその信じられない動きはなりを潜めた。

 ニンジャはそう冷静に分析し、距離を取ると手裏剣を使い牽制しつつ戦況を仕切り直そうと思案する。


「フッ、アタシが剣だけ振るう、ただの前衛だとでも思ったかい?」


 距離をとり慎重に相手を伺うニンジャに、フレアは近づくでも無くそう言い放つと、ニンジャに向けて指を刺す。


「見せてやるさ、これがアタシの新しい力だっ! 『スペース・ファンタジー』発射!」


 フレアが叫ぶと、ニンジャを指したその指から一つの光弾が発射される。スキルリンカーで得たフレアの新しい能力、『スペース・ファンタジー』のスキルが炸裂したのだ。

 多少の照準のズレなどモノともせずに敵を目掛けてホーミングする光の弾を辛うじて避けるニンジャ、標的を見失った光弾はニンジャの脇をすり抜け背後の外壁に跳ね返ると虚空の彼方へと消え去る。


「スペース・ファンタジー発射って、電車かなにかじゃ無いんだから……まあ使いこなせてるようだし、いっか」


 異世界とのジェネレーションギャップに苦笑しながらも、スキルを効果的に使い敵を翻弄するフレアの様子に安堵したヨシダは、戦場全体へと意識を向ける。


 一進一退の攻防が続く中、ブルムロック率いる『鋼匠の心臓』は、まさしく鉄壁だった。大槌を振るうブルムロックを先頭に、パーティメンバーが密集隊形を組み、押し寄せる私兵の波を微動だにせず受け止めては、的確に打ち砕いていく。派手さは無いが、その連携は長年の経験に裏打ちされた盤石の安定感を誇っていた。


 そして俺たち『余燼の光の騎士団』も、それぞれの役割を果たしていた。鬼灯は瑠奈の前に立ち、飛来する矢や魔法をその巨体とバスターソードで受け止め、瑠奈が詠唱する回復や支援の祝詞を守り抜く。


「ヨシダはん、右翼が手薄や! スノーウルフの連中が突っ込みすぎとる!」


「分かってる! 重力波操作――加圧領域プレッシャー・フィールド!」


 瑠奈の的確な報告を受け、俺は右翼の敵兵集団に狙いを定める。彼らの足元に強烈な下向きの重力波を発生させ、動きを鈍らせる。その隙を突いて、血に飢えた狼たちが敵陣を蹂躙した。


 冒険者たちの圧倒的な実力の前に、私兵たちは徐々に劣勢へと追い込まれていく。砦の中庭に響くのは、もはや兵士たちの悲鳴と、獣たちの咆哮、そして鋼のぶつかり合う音だけだった。


 その戦況を、三人の魔女はつまらなそうに眺めていた。


「あらあら、もう終わりですか。前座にしては少々盛り上がりに欠けましたわね」


 怠惰の魔女スロウネラが、ふぁあ、と大きなあくびを一つする。その言葉を合図にしたかのように、彼女は一歩前に出た。


「では、少しだけ私の能力を見せましょうか」


 怠惰の魔女が初めてその眠たげな瞳をカッと見開うと、その魔力によって中庭の空気が凍り付く。先程までとは比較にならない、絶望的なまでの魔力が、戦場全体を支配する。


「なっ……なんだ、この寒気は……!?」


 誰もが動きを止め、その異様なプレッシャーの発生源へと視線を向けた。広い中庭のそこかしこで地面が不気味に隆起する、ヨシダの脳裏に過ぎる最悪の展開――怠惰の魔女の振るうその力に粟立つような感覚が走る。


「まさか、こんな事が可能……なのか?」


 ヨシダがそう呟いた時、新たなステージの開幕に敵味方入り乱れて固唾を飲む。中庭の地面を突き破り夥しい数のそれが生える。肉は腐り落ち骨が所々露出するそれは、生きとし生けるものを地獄へ誘い手招きをしているようだ。


 怠惰の魔女のスロウネラ、彼女の能力はヨシダの懸念を最悪の形で具現化し、戦場は阿鼻叫喚の地獄絵図とかするのであった……


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