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第070話 グランドマスター、タリシア・セントリー


「よし、信号弾確認! 全員トロイド砦に向け進行開始!!」


 キャトリーヌからの信号弾を確認したタリシアが声を張り上げる、彼女の号令に、待ってましたと飛び出したのは冬越えの狼(スノーウルフ)、続いて鋼匠の心臓(アイアンハート)が走り出す。銀翼の隼(シルバーアロー)は遠隔揃いのパーティでタリシアの護衛の様に付き従う。


 それから少し遅れて動き出すアレスタ伯爵軍。30名余の常設部隊はその一糸乱れぬ動きから練度は高く統率が取れている。


 冬越えの狼(スノーウルフ)が先陣切って砦の正面から斬り込み、ベテラン揃いの鋼匠の心臓(アイアンハート)が、サポート役として続く。後続のタリシアと銀翼の隼(シルバーアロー)は後方から援護、アレスタ伯爵軍が砦を包囲し退路を断ち、逃げ出す者を捕縛すると言う布陣だ。


「全くあやつらは、運が良いやら悪いやら、夜会のサムライに次いで、ニンジャに遭遇するとはのう……」


 斥候の魔眼(パスファインダー)を通じて共有されたキャトリーヌのバードビューで、潜入するヨシダ達の一部始終を確認していたタリシア呟く。

 立て続けに強敵に遭遇する運の悪さと、それをことごとく乗り越えたヨシダの常識外れなシューティングスキルに呆れる。


「ルシアンよ、おぬしら王都冒険者ギルドのトップティアの目から見てヨシダ達は如何映る?」


 配置に付いたタリシアは、作戦の舞台となる砦を見ながら、後ろに控えた銀翼の隼(シルバーアロー)のリーダー、ルシアン・アルヴェインに問う。崇拝するタリシアの護衛を自負する彼は、ひざまづいたまま顔を上げると彼女に答える。


「タリシア様とも有ろうお方が、あの様な何処の馬の骨とも知れぬ冒険者などお気になさるなど有ってはならない事です、どうかお考え直しを」


「ルシアンよ、わしは同じ事は二度言わんぞ? おぬしは如何評価する?」


 ルシアンにとって彼女は絶対だ、答えろと言われればそれに答えるのが彼の義務である。姿勢を正すと彼は問われた事に答え始める。


「承知致しました、私が見た余燼の光の騎士団エンバーライト・オーダーの評価ですが、結論から申しますと総合Sランクは妥当な評価と存じます」


「むふ、してその理由は?」


「はい、彼らの潜入調査の報告書、そして今作戦で見せた潜入とニンジャとの戦いに於いて、類い稀なるスキルとその応用で任務を完遂、実行しており、高い実力を有していると評価します、ただ……」


 ルシアンはそこまで述べると言い淀む、崇拝するタリシア様が評価する冒険者パーティに、自分如きが異を唱える事が許されるのか、そもそも自分の評価が間違ってる可能性すらあるのではと逡巡する。


「続けよ」


 躊躇うルシアンにタリシアは短く、しかし有無を言わせぬ口調で先を促す。それに逆らう事など彼に出来ようはずもなく、促されるまま先を続ける。


「ただし、そのスキルに頼りすぎる嫌いが有り、そこが強みで有り、弱点にもなりかねないと存じます」


「うむ、良く見ておるの、流石はウチのエース達じゃな、ま、わしの指導の賜物よの」


 満足そうな彼女を見上げて、ルシアンは疑問に思う、この作戦と彼らの評価にどの様な繋がりが有るのかと。それが顔に出たのかタリシアが続ける。


「何故わしがこの様な事を問うか、じゃろ?」


「いえ、あ、はい、確かにランク相応の実力は備わってます、しかし、我らを超える程の突出した実力にも見えません、私にはタリシア様が固執する理由が解りません」


 確かに見たことも聞いたこともないスキルを、魔力消費も無く使えるメリットは大きい、しかしスキルが使えさえすればSランクに上がれる訳でもない。それをいかに使いどう問題を解決するか、その能力こそが高くなければSランク足り得ない。


「それはの、おぬしとあやつとのいざこざの仲介じゃ、と言うのは冗談じゃが、15年前の夜の悲劇、それがヨシダ達を中心として時を超え、再び動き出したのじゃ」


「あの『竜災の夜』が15年の時を経てで、ご御座いますか?」


 あの日の事はルシアンも良く覚えている。たった一匹の竜によって街が一夜にして消え、当時最強の呼び声も高い『鉄塊のハルク』率いる『鉄塊の旅団アイアンマスブリゲイド』が壊滅させられたのだ。あの時のタリシアの悲嘆に暮れた姿は、正直、見ていられなかったと当時を振り返る。


「そうじゃ、ソルバルドの街で起こったスタンピードはハルクに復讐を誓う輩が黒幕じゃった。また、王都までの旅での敵襲や監視の形跡、そして今回の『竜の遺骸』の取引、そのことごとくがヨシダ達の周りで起きておる」


「左様で御座いますか、にわかには信じられませんが……」


「じゃが、全て事実じゃ、これをただの偶然と見るか、竜の呪いが引き起こす必然と見るか……おぬしはどう見る?」


 タリシアの言葉に思考を巡らす……様々な場所で、竜災の夜に連なる出来事が起き、それが全てヨシダ達の周りで起こった事ならば、それは偶然では無く、何者かの手により意図的に起こされているとしか思えないと結論付ける。


「それが事実ならば、ただの偶然とは到底思えませんが」


「そうじゃな、わしらにとっても看過できん問題じゃ、じゃが幸い敵はヨシダ達にご執心じゃ、その方がわしらに取っても都合が良い」


「と、言いますと?」


 如何にタリシアと言えど自分の気に入った冒険者達を餌に、黒幕を釣り出そうとはなどとは、彼女を良く知るルシアンには思えず、その真意を訪ねる。


「わしらの手の届く場所で、精々精進してもらおうかと思うておる訳じゃ」


「そうですか……それでは我々に手解きをせよと、おっしゃる訳でしょうか?」


 幾ら崇拝するタリシアの命であっても出来る事と、出来ない事が有る。厳密に言うならやりたいか、やりたく無いかでは有るが、極東のお猿さんに芸を仕込むも、また一興か、などと顔に出ていたのか。


「何やら良からぬ事を考えておる顔じゃが、手取り足取り懇切丁寧に指導せよと言っとる訳では無い」


「はぁ」


 指導にかこつけて、生意気なお猿さんを調教してやろうと思っていたルシアンは、あからさまにテンションを下げる。


「……何を考えておったかは聞かんが、あやつらもSランクの端くれじゃ、おぬしらの背中から学べんようでは其れ迄じゃ、それにホレ、ブルムロックの奴なら言わんでも構うじゃろ」


 ブルムロック・ハンマーフォージ、『鋼匠の心臓(アイアンハート)』のリーダーで有るドワーフの顔を思い浮かべて、ルシアンの端正な顔が見る見る渋面へと変わっていく。


 方やずんぐりむっくりの髭面、暗い穴蔵で鉄を叩いて暮らす。方や見目麗しく長身、自然を愛し魔法を生活に取り入れて暮らす。そして双方に共通するのがプライドの高さだ。その相容れない価値観が種族の対立にまで発展したのは想像に難くない。


 彼は思い浮かんだ髭面を頭から追い出すも、確かに彼なら世話を焼くだろうと納得する。それに『冬越えの狼(スノーウルフ)』のリーダー、レイラ・ヴォルフハルト、あの粗野な犬ッコロは既に模擬戦だなんだとジャレついてたと思い出す。


「私の出る幕は余り無さそうですが、気に留めておきます」


 それならそれで構わんさと、興味の失せたルシアンは事務的に返答する。


「そしてわしらはヨシダ達に敵の意識が向いてる間に独自に動く、勿論おぬしらにも協力してもらうぞ?」


「成程、承知致しました」


 彼らを手元に置きその成長を見守る傍ら、接触して来た敵や組織の調査を極秘裏に進めると言う方針に、タリシアの手腕を傍でつぶさに見届けてきた彼をして、驚愕せしめるので有った。



 その様なやり取りなど露とも知らず、得体の知れぬ三人の美しい魔女に対峙するヨシダ達。

 今、トロイド砦でその決戦の火蓋が、切って落とされようとしている。













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