第69話 おっさん、隠し通路の攻防
やはりあのニンジャはまともに戦う気など無く、俺達を足止めするのが目的だ。それに付き合わされた俺達は防戦一方で、そろそろフレアの消耗も無視出来ない段階に差し掛かり、仕切り直しを考える。
「フレア、一旦下げるぞ?」
「ああ、了解だ」
絶え間なく雨のように降り注ぐ攻撃のタイミングを測る。例え異空間収納を持っていようとも出し入れの瞬間は攻撃の手が途切れる筈だ……
「今だ、鬼灯、フレアとスイッチだ!」
「応、任せろ」
手裏剣攻撃の一瞬の隙を突いてフレアと鬼灯のポジションを入れ替える。デカいバスターソードでは攻撃は無理だが、守る事ならタンクの鬼灯の専門だ。
「ハアハアハア、瑠奈……回復を頼む」
「まかせとき、すぐに治して前線に送り返したるわ」
鬼灯と入れ替わったフレアは息も絶え絶えの様子だ、元来純アタッカーの彼女が飛んでくる無数の手裏剣を、その剣一本で捌ききれば尋常ではない集中力と体力が必要なのも頷ける。
「お疲れだが、休んでる暇は無いぞ、回復貰ったら即出るぞ」
「当たり前だ、アタシだってこのまま引っ込んでるつもりは無いよ」
ああ、出し惜しみは無しだ、ニンジャを捉えていた重力波を解除し、天井へと流れる重力の波を形成する。
「今だ! 奴の度肝を抜いてやれ!」
フレアはジャンプして半回転すると、流れを変えた重力波は彼女を捉え天井に着地させる。
「なん……だと」
盾を構えて防御する鬼灯を一方的に攻撃してご満悦のニンジャは、お株を奪われ驚愕する。その一瞬の隙を突いてフレアは反転した重力を足場に容赦なく斬りかかる。
「さっきはよくもやってくれたね、お礼は倍返しだよ。そらそらそらそら!」
フレアは得意の斬撃で敵を激しく攻め立てる。不意を突かれたニンジャは、彼女の連続剣に防戦一方かと思われた、しかし短い忍刀で彼女の剣を器用にいなすと、特異な体術で剣戟を縫う様に蹴りを入れると、素早くバックステップし間合いを取る。
「くっ、面妖な術を使うかと思えば、拙者の『天逆の術』に類する体術も持ち合わせるか……大陸の冒険者侮り難し」
自らの忍術に絶大な自信が有ったのか、それを破られ明らかに狼狽が見て取れる。感情が表に出る様では一流に届いては無いと見える。しかしそれは精神面の話で有って、その戦闘能力にいささかの劣りもないだろう。
「クソ、奇妙な体術を使うね」
一方、腹を蹴られて多々良を踏んだフレアが溢す。敵も然る者引っ掻く者、流石は上級貴族に雇われてるだけ有り曲者揃い、正攻法では分が悪い。
(だったら俺が見せてやるよ、異世界には無い物理の法則を!)
「フレア、ワームホールで一気に決めるぞ」
「分かった、タイミング合わせてくれよ」
俺はニンジャの背後の僅かな空間に意識を集中させる。そこにある重力の波を掴み、それをメビウスの輪のように捻るイメージでぐにゃりと時空を捻じ曲げた。
「重力波操作――空間座標接続」
次に、その歪んだ座標の端を、床に立つフレアの足元と強引に繋ぎ合わせる。これで二つの異なる座標が、捻じれた重力波によって一時的に重なり合う。
「今だ!」
フレアの合図と共に、捻じれを一気に解放する! 歪んだ重力波が元に戻ろうとする反動を利用しフレアの体は今いる場所からニンジャの後ろへ空間ごと入れ替わる。
彼女の姿がその場から掻き消えた次の瞬間、ニンジャの真後ろへと出現する。時空の捩れを利用し数メートルの距離をワープしたのだ。
「消えた!?」
突然敵が目の前から消失し驚愕するニンジャ、背後に現れたフレアは振り向きざまにガラ空きの背中へ斬撃を叩き込む。
ざんばらと切り裂かれた黒装束から鈍く光る鎖帷子が露わになる。彼女の一撃は、その鉄の襦袢によって阻まれ致命傷には至らなかった。
「くっ、不覚、拙者が冒険者如きに背後を取られるとは、剣客の旦那が語った手練れの仲間か?」
そう言うが早いか、地面に煙幕玉を投げつけ煙と共に姿をくらました。
「ふう、取り敢えず勝ったな、先ずはステージ1クリアだ」
「ふふ、ブレないね。しかし、取り敢えずどころか完璧だったじゃないか、アタシは正直言って最初見た時は、なんか地味なスキルだと思ったけど、実戦でここまで使えるモノだったとはね」
俺も最初は重力の強弱だけと思ってた、だが実際は重力波をコントロールするイコール時空を操るスキルだったのだ。それに気付いてからは、CS放送でやってたディスリマクリーチャンネルの物理や宇宙理論を必死になって思い出したのだった。
「スキルだけやないで、ヨシダはんが司令塔になってからはフレアも敵に集中出来てるみたいやし」
「うむ、以前はアタッカーと指示役、相性が悪かった」
「そ、そうか?」
なんか俺が戦闘時のリーダー的なポジションになって良いのかと思ってたりしたんだが、上手く回ってるなら良しか?
「ま、なんにせよ敵とエンゲージしたからには、こちらの事はバレてしまった筈だ」
「そうだね、騒ぎになるのも時間の問題、此処からはスピード勝負だよ、キャトリーヌ聞いてるかい? 取引場所までのナビを頼むよ」
「分かったにゃー、任せるにゃ」
ニンジャの奇襲を跳ね除けた俺達は『竜の遺骸』の取引現場を押さえる為に、キャトリーヌの案内を頼りに地下通路を抜け、中庭に有る訓練場へと走り出す。
途中遭遇するジャイアル伯爵の私兵は重力波操作で無力化してやり過ごす。ニンジャの様な厄介な術を使う輩はおらず、単体で遭遇する歩哨などはフレアや鬼灯に任せ、数が多い時は強烈な重力で通路の壁に叩き付けて気絶させる。
「ヨシダ、やり方がエグイ」
俺の戦いを見た鬼灯が苦笑いと共にボソリとこぼす。出会い頭に不意打ちで、訳も分からず壁に叩き付けられるんだ、そりゃ白目剥いて気絶もするわ。
さらに拘束する時間も惜しいのでその場に放置して走り去る、気絶した兵士が折り重なって倒れるその光景は、さながら屍の道を超えて行くと言った有様だった。
次々と現れる見張を倒し暫く走り続けると、雑魚ステージは終わり訓練場も兼ねた広い中庭に到着する。広い中庭で一際目を引くのが御禁制の品を満載してるであろう幌をかけた大型の馬車だ、馬は切り離され荷車だけにされたそれが十数台ほど止められている。
広場中央に目を向けると、篝火が焚かれ揺らめく炎に照らされた身なりの良い男達が10人程度集まっている。これから始まる取引を前に男達は闖入者の俺達を認めると、表情を強張らせ叫び声を上げた。この広場に詰めている護衛である兵士達に瞬く間に囲まれ、その数20人は下らない。
俺達を囲んで尚、護衛を呼ぶ声を張り上げるが、道中遭遇した見張の殆どは気絶させてるので一向に集まる気配はない。
「どうやら間に合った様だな」
「そうだね、後はキャトリーヌに信号弾を上げさせれば第一段階終了だね」
「せやな、敵さんもようさんおるようやけど」
「問題ない、グラマス達と合流するまで、持たせば良いだけ」
少なくない数の兵士達に囲まれてる俺達四人は、気負うでもなく、いつもの様にやり取りをする。フレアが魔導具で指示したのだろう、吹き抜けの空にキャトリーヌが上げた信号弾が炸裂し花火の様に周囲を明るく照らす。
「ようこそ、ヨシダ様、そして余燼の光の騎士団の皆様」
三人の中央、黒いドレス姿の女が前に出ると、そう挨拶をする。
信号弾の光が浮かび上がらせたのは、地下通路で兵士が話していた三人の魔女。一人は街で見かけた黒づくめの貴婦人、一人は妖艶なカジノディーラー、一人は何処か眠そうな美女。
「……お前は、カジノで会った」
「せや、街で会うた黒づくめの貴婦人に新顔もおるで」
「地下通路で見張りから聞いた話に、もしかしたらと思ったが……」
得体の知れない三人の魔女、しかし俺達と少なからず因縁が有る者達。ジャイアル伯爵のバックには仮面の紳士が言う彼の方の手先が付いていたとは。
ここ王都の地で深まる竜の因縁に、俺達はこの任務がただでは終わら無い予感を抱くのだった……




