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第067話 おっさん、潜入トロイド砦


 周囲は未だ暗闇に包まれ夜明け迄暫くあると言うのに、打ち捨てられ無人の筈の砦には幾つもの篝火が焚かれ不気味な人影を落とす。


 砦から少し離れた場所を作戦本部とし、トロイド砦を包囲すべく集結したタリシアと俺たち冒険者、アレスタ伯爵軍の幹部達は、既に偵察に出たキャトリーヌが夜会の潜入調査でも使用した魔導具、斥候の魔眼(パスファインダー)から送られて来る映像を共有し、作戦の最終調整を行っている所だ。


 その上空からの俯瞰視点の映像には、砦の内部の構造や、城壁や見張り台に立つ兵士たちの配置までつぶさに映し出された。

 その数、ざっと見積もっても五十は下らない。無人の廃砦とは名ばかりで、ジャイアル伯爵達の手のものによって完全に武装されていた。


「ある程度の予想はしておったが、やはり警戒されておったか……」


 夜会から一ヶ月、小さな取引は幾つか有ったみたいだが、こちらの動きを悟らせない為、敢えて泳がせた上で作戦を決行したが、やはりサムライとの一戦が悪い方向に働いたようで、厳重な警戒体制が敷かれていた。


 作戦本部の天幕でアレスタ伯爵が苦々しい表情で呟く。隣に立つタリシアは、腕を組んだまま静かに映像を睨みつけていた。


「そうじゃな、じゃがのう伯爵よ、それがここに居ながらにしてほぼ正確に把握出来ておるのじゃ、その意味はわしが語るまでもあるまい」


 ニヤリと笑みを作ったタリシアの言葉に、集まった各パーティのリーダー達も驚きを禁じ得ない。それもそのはず、通常は斥候役の主観視点のみが送られてるが、今眼前に展開されているのは、リアルタイムで変わる見取り図のようなものだ。


 いかに魔導具と言え見えてないものは送りようがない、だがそれを可能としているのが、キャトリーヌが持つシーフの技術とスキルリンカーがもたらすシューティングスキルだ。


「どうじゃ、最近わしが気に入っとるパーティは?」


 次々と送られてくるキャトリーヌの視線を投影する魔導具、一人称視点と砦をスライスした様な上からの俯瞰視点、それらがシームレスに切り替わり砦の警備を丸裸にして行く。

 一ヶ月の特訓で獲得した俯瞰視点での移動も相まって、無人偵察機グローバルホークも顔負けの情報収集能力を発揮する。


「流石の慧眼で御座いますな、タリシア様」などと煽てられて、得意満面鼻高々で笑っているが、初対面で俺を見習い呼ばわりしたのは、忘れてないからな。タリシアとの初対面を思い出し、僅か一ヶ月前の事を、何故か懐かしいと感じながらブリーフィングは続き作戦は程なく最終調整を終える。


「キャトリーヌ、潜入経路は確保できそうか?」


 魔導具越しにフレアが小声で問いかけると、潜入している彼女からバードビューの映像と共に返事がある。


「ちょっと待つにゃ……砦の北側、崖の洞窟が隠し通路へ続く入り口にゃ。そこなら見つからずに中に入れるはずにゃ」


「了解だ。ではタリシア様、予定通りアタシたち余燼の光の騎士団エンバーライト・オーダーが先行します。現場に押さえ次第キャトリーヌに合図をさせますので、それまでに各員は配置に付き待機を」


 フレアの言葉に、タリシアは獰猛な笑みを浮かべて応える。


「うむ、任せたぞ。取引現場を押さえ狼煙を上げよ。それが全軍突撃の合図じゃ」


 タリシアの号令に、その場にいたもの達は三々五々持ち場へ散っていく。


 バードビューのお披露目も終わり、作戦開始まであと僅か、騒つく心を落ち着けようと眼前の砦を見つめていた俺を目ざとく見つけたタリシアが隣に立つ。


「どうしたのじゃダーリンよ、まるで初めての戦場を前にした新兵の様な顔付きをしとるが」


「ああ、今回のクエストの事を考えていた……」


 これ迄とは全く勝手が違う、人間相手の戦いだ、元日本人の価値観では答えなど出るはずも無い問いが、頭の中をループする。まるで出来の悪い(バグった)プログラムの様に。


「ふむ、おぬしは異世界人で、わしらとは異なる価値観を持っておるのじゃったな……」


 遠く揺らめく砦の篝火に視線を移し、彼女はそう語り始めた。


「あの砦には理由は如何であれ、王命に叛いた馬鹿どもが居る。捕まれば極刑は免れまい。一族郎党その使用人達に至るまで塁が及ぶじゃろう」


「ゴクリ……」


 彼女の話に俺は自然と生唾を飲み込む。


 俺は目の前の人間との戦いしか見えてなかった、その先の結末(・・)など全くの想定外だった。シューティングゲームスキルだクエストだと浮かれていたが、その凶銃(スキル)引鉄(トリガー)を引く意味が今になって理解出来た。


 人を撃つのが嫌だと、重力操作スキルならそんな事はないと、甘えていた。この作戦が成功すれば砦の中の人間は等しく処罰されるだろう。


 直接殺した訳じゃ無い、しかしその放たれた銃弾は、紛れも無く俺達が引鉄(トリガー)を引いたものだ。


「少々酷とも思うたのじゃがな、わしらの仕事は時に直接罪を犯して無い者達を殺める事もある。直接(みずから)やるか、間接(だれかが)やるか、それに拘るのは残ったわしらの我儘じゃろうか……」


 幾度となく同じ思いをして来たのだろう、ましてや冒険者ギルドを束ねるその頂点の重圧は端倪(たんげい)すべからざるものだろう。普段の行動からは想像も出来ない(恐らくはさせたくない)、真面目な横顔に俺も真摯に向き合う事にした。


「全く、今から出ますって時にそれ言うかな? だけど、知らなかった、直接やった訳じゃ無い、なんて言い訳と後悔はしたく無い」


 俺はこれから起こる戦いの舞台を真っ直ぐ見つめ、続けた。


「答えが出せるか判らない……ただ、タリシア様のお陰で他人のせいにして逃げ廻るだけのダサい野郎には、ならずに済みそうだ」


 俺はこの世界の理の外にいる者、運命すらも自分で選択しなければならない、そんな事は分かっていたつもりだった。

 しかし、その甘ったれた覚悟はタリシアの言葉で粉砕された。異世界転生チートスキルでハーレム無双、その裏側(フィクション)で決して描かれることの無かった現実(リアル)に俺は諦観する。


「……流石はわしのダーリン様じゃ、その様子なら心配は無用かの?」


 隣に立つ横顔は慈愛に満ちた優しい笑顔で、そんな表情も出来るのかと? つい失礼な事を思ってしまう。いつもの傍若無人な冒険者ギルドの頂点(カリスマ)とは打って変わったその表情に……


「一体幾つの仮面があるのやら、そんな顔されたらフラグが立つだろ」


 つい照れ隠しの言葉が出てくる。少年漫画なら師匠の師匠に当たるポジションだが、そうは見えない美女にそんな表情をされると我ながらチョロいと思うが、やるしか無いかと思うのだった。

 

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