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第066話 おっさん、竜に纏わるエトセトラ


 スキルの連携などを確かめつつ、あっという間に過ぎ去った四日間、俺達は作戦を明日に控え、例によって例の如くタリシアの執務室でブリーフィング中だ。


「……と言うわけで、アレスタ伯爵の私兵も動員する事となっておるが、お主ら3パーティーを呼び戻したのは他でも無い。我ら冒険者ギルドも最高戦力を投入する事に決定した」


 当然作戦の概要は既に通達済みだが、最終確認の最中だ。任務遂行のため集められたのは、俺達余燼の光の騎士団エンバーライト・オーダーを含めて4パーティ、いずれもこの王都で名の知れた腕利のパーティで、ここ王都での知名度は俺達が最も低い。


 目的地は現在放棄されて久しいトロイド砦、そこが今回の作戦の舞台となる。俺たち以外のパーティリーダーたちは、いずれも歴戦の強者といった風情で、静かだが鋭い視線をタリシアに向けている。そんな中で俺たち、特にキャトリーヌは少し居心地が悪そうに尻尾を丸めていた。


「最高戦力……じゃと、グラマス。そりゃあ……」


 集められたパーティの一人、屈強なドワーフの男がゴクリと喉を鳴らす。その視線の先で、タリシアは獰猛な笑みを浮かべた。


「そのまさかじゃ、今回の作戦、ワシも戦力として参加する」


 その言葉に、執務室の空気が一瞬で張り詰めた。タリシア・セントリー。Sランク冒険者にして全ての冒険者を束ねるギルドの頂点、グランドマスター。彼女は実務能力だけでその頂へ君臨している訳では無い。その類稀な魔法の力はたった一人で小国の軍隊すら凌駕すると言われる伝説的な魔導士だ。貴族の闇取引を押さえるにしては、あまりにも過剰とも思える戦力投入。


「そこまで……。今回の件は、それほどまでに根が深いと?」


 フレアが代表して問いかける。彼女の声には緊張が滲んでいた。


「そうじゃ。件の夜会の後色々と探らせてみたが、どうやらジャイアル伯爵が扱っていたのは、ただの素材ではなかったようじゃ。正確に言えば『竜の遺骸』じゃな。もしかすると15年前のあの夜と繋がる可能性も……ゼロでは無かろう」


 15年前のあの夜、その言葉に俺たちは息を呑んだ。『竜災の夜』それは王都最強と呼ばれた『鉄塊の旅団』を壊滅寸前に追い込んだ事件。その元凶たるドラゴンの素材が非合法に流通しているというだけでも大問題だが、それが『遺骸』となれば話は全く変わってくる。


(遺骸……死体か。それをどうするつもりだ? まさか……死霊術(ネクロマンシー)の類か? 竜の死体を操り王家転覆を企ててるとかじゃ無いよな)


 最悪の想像が頭をよぎる。竜を使った死霊術(ネクロマンシー)など、成功すれば『竜災の夜』再び、街の一つや二つ簡単に消える禁忌中の禁忌だ。


「奴らの目的が何であれ、これ以上好きにはさせん。作戦は明朝未明に決行する。各パーティの役割をもう一度確認する」


 タリシア自身15年前に苦渋を飲まされている。ここにはウチのギルマスのハルクは居ないが、ある意味リベンジとも取れる作戦だ。気合の入り用が違う。


「ワシと銀翼の隼(シルバーアロー)はアレスタ伯爵の兵と共に砦の外周を固め、逃走経路を断つ。砦内部への潜入と、取引現場の制圧は、潜入スキルを持つ余燼の光の騎士団エンバーライト・オーダーおぬしらの役目じゃ、そしてタイミングを見計らい、冬越えの狼(スノーウルフ)と挟撃、残る鋼鉄の心臓(アイアンハート)は状況次第で臨機応変に対応せよ」


 タリシアの視線が、真っ直ぐに俺たちを射抜く。周囲の腕利き冒険者たちから、侮りと好奇が入り混じった視線が注がれるのを感じた。俺たちがこの作戦の鍵を握っている。その重圧が肩にのしかかる。


「……承知しました。必ずやり遂げます」


 リーダーとして、フレアが力強く答えた。その瞳にはもう迷いはない。ブリーフィングが終わり、各パーティが準備のために退出していく中、俺たちは執務室に残っていた。


「ふう、田舎冒険者風情がグラマスのお気に入りとは、どうやって取り入ったのやら……王都のギルドも質が落ちましたかね。ま、私達のパーティの邪魔をしなければ構いませんが」


 俺達のパーティとすれ違い様に、あからさまな言葉を投げつけて来るエルフのイケメン。確か銀翼の隼(シルバーアロー)とか言う火力重視の遠隔特化型パーティだったか?

 どうやらタリシアが俺の事をダーリン呼びなのが気に入らないらしいが、知らんがな。だがしかし、言われっぱなしは癪だ。


「ヨシダっちがまーた悪い顔してるにゃ」


 キャトリーヌのツッコミが聴こえるがもう遅い。こちとらコロナ禍で会社倒産してヒキニートになった挙句に死んで、異世界でやっとこ手に入れたポジションだ、生まれつきイケメンエリート様に文句言われる筋合いは無いんだよ。


「あー、それは俺も激しく同意します。質が落ちてポッと出の田舎冒険者に出し抜かれるんだから、実力が知れるってもんでしょ?」


 皮肉たっぷりにそう返してやると、カルシウムが不足してるのか、即座に撃破寸前のボス敵よろしく顔が真っ赤になる。


「……ほお、言いますね、極東のお猿さん如きが」


「いえいえ、どこの誰がとは言ってませんが? 何かお気に触る事でも?」


 そう言い返すと睨み合い、その視線がぶつかり合って無数のパーティクルを飛ばす。


「まあ良いでしょう、お猿さん相手にムキになるのも大人気ない、精々死なない様に頑張りたまえ」


 最後まで上から目線のイケメンエルフはそう言うと去っていった。あ? イエローモンキー舐めんなよ! Yellow.Monkey.OrchestraがFM音源奏でるぞ?

 少し興奮して思考が支離滅裂になっていると、ドワーフのおっさんが寄って来る。


「まあ、何じゃ、あやつはタリシア様を崇拝しとるけんのう、今日は言い負かされたようじゃが、普段はもっと酷いんじゃ」


 もっと酷いんかい! 突然横に現れたドワーフのおっさんが俺の所に来て済まなそうにしている。

 確か鋼鉄の心臓(アイアンハート)だったか、ザ・ベテラン冒険者と言う風体で、鉄板構成でガチなパーティのリーダーをしてるおっさんだ。


「ま、良いですけどね、まさかそれで手を抜くなんて事は……」


「それは無いじゃろ。あやつとてこの王都でギルドの看板背負ってる冒険者のリーダーじゃけん、そがいな仁義が無い事をやらんのは犬猿の仲の我が保証するけん」


 やっぱりドワーフとエルフは犬猿の仲なんだ、世界の真理を垣間見た気がしたが、それは置いといて。


「成程、仕事中は割り切るわけか。で、アンタらは如何なんだ? ポッと出の田舎冒険者風情がシャシャるのが許せないのか?」


 この際だ、俺達がどう思われてるかドワーフのおっさんに問うてみたが、思わぬ方向から返事が返ってきた。


「小っさい事を気にする坊やだね、あんな鼻持ちならないエルフ野郎なんかほっときゃ良いのさ」


 そう言いながらまたしても俺の前に現れたのは、美しい白い髪と尻尾が特徴的な狼の女性獣人だ。確か冬越えの狼(スノーウルフ)とか言う獣人のみで構成されて、更に全員が前衛と言う、イカれた脳筋パーティのリーダーがこの人か。


「全くおぬしらは元気が有り余っとるの」


 そう言いながら俺達のイザコザに割って入るタリシア、俺はまたしても面倒事の種を蒔くのかと身構えるが、そんな事はお構いなしに続ける。


「そこなヨシダ達がそんなに気になるか、では一つ面白い事を教えてやる。こやつはFランクの時に、あの『鉄塊のハルク』に模擬戦で勝っとるらしいぞ? 果たしておぬしらに同じ事が出来るかの……」


 やってくれやがった、何で俺の周りはハードル上げたがる奴ばっかりなんだ。もうね、冬越えの狼(スノーウルフ)のリーダーなんか目の色が違うんだけど? 脳筋の前だTPO弁えろ。

 そんな俺の苦悩などどこ吹く風と「おーいヨシダ、模擬戦やろうぜ!」と軽いノリでどこぞの中島みたいに模擬戦に誘うバトルジャンキーを交わして執務室から出ようとすると……


「ヨシダ」


 タリシアが俺を呼び止める。


「あの日の夜、おぬしが居ってくれたら……いや言うても詮無いことか、いよいよ明日じゃ新スキル期待しておるぞ、ダーリン」


 悪戯っぽくウインクする彼女に、俺は任せとけとサムズアップで答える。

 仲間の思い、ギルドの期待、竜の呪いと王都の闇。俺達は諸々背負ってトロイド砦へと出発するのだった。



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