第065話 おっさん、リンクデバイスと新スキル
準備期間の一ヶ月も瞬く間に過ぎ去り、作戦決行まで残すところ五日。
この一ヶ月はそれぞれの長所を伸ばすべく鍛錬漬けの毎日で、俺は専ら新しいスキルセットやリンクデバイスの取得に向けて、討伐系の依頼を精力的に受けスコア稼ぎに精を出した。その甲斐あってか約15000ポイントのスコアを稼ぎ出し、お決まりのスキルショップを開き思案中だ。
今回の作戦はざっくり言うと、王都の闇を牛耳る貴族達が流通させている御禁制品の押収と、それに加担する者の捕縛が主たる任務だが、今回のクエストは対人戦がメインとなりそうで頭を悩ませる。これまでのモンスター相手の戦闘が対人戦に変わり、人同士で命のやり取りになる。
彼我の実力差が圧倒的で有れば、捕縛など造作もないが、ジャイアル伯爵に雇われるような連中がただのチンピラの筈がない。夜会で遭遇したサムライのような、一芸に秀でた手練れが複数いて何ら不思議は無い。そうなると相手を捕縛などと悠長な事を言っている間に、此方が命の危険に晒される。
(今の俺のスキルセットは『捕縛』と相性が最悪だ。そもそも元日本人で一般市民の俺が、敵とは言え人に向けてスキルを使うことが出来るかどうか……)
モンスター相手ならば、良心の呵責にも言い訳もできるが、相手が人間となると例えこの世界の法で許されたとしても、現代日本人の価値観を持つ俺には、到底看過出来ない難問である。
(いっそバルムンクで砦ごと粉砕し、中を見なければシュレディンガーの猫では無いが生死が重なって……まあ、無いか)
俺はスキルショップのリストをスクロールしながら、くだらない思考で現実逃避をする。必要なのは、敵の戦力を削ぎ、動きを止め、無力化するようなスキル。つまり、支援や妨害に特化した能力だ。
効果としては『時間停止』や『バインド』などの敵を動けなくするスキルが欲しいが、いかんせんシューティングゲームにそんな都合のいいものは無い。
指先で空中に表示されたウィンドウを操作し、ずらりと並んだスキルと雑な効果説明に目を通していくと、一つ、目を引くものがあった。
『Gストーム・メタルアーマー』重力操作を駆使して敵を倒すアクションシューティングゲームだ。純粋なシューティングゲームではないが変わったシステムで記憶に残る、知る人ぞ知る名作だ。
「これが有ったか……!」
思わず声が漏れる。ただし取得に10000スコア必要とかなり高額で、更に言うと欲しいのは重力操作と言うレアなスキルだけで、攻撃スキルはバルムンクで間に合ってる。
しかし、その一点のみに高いスコア突っ込むだけの価値が有り、今回の作戦のような場合、重力を操作できれば戦闘を圧倒的に有利に進められる。何より、直接的なダメージを与えないため、躊躇なく使用できるのが良い。
「問題は、これを取得後にリンクデバイスまで手が回るかどうかだな」
スキルが有ってもリンク出来なければ、俺以外がスキルを使う事は出来ない。オマケに狭い砦内での遭遇戦、誰が適任かなどと思案に暮れるが……そこで、はたと気が付く。
「よし、決めた」
俺は意を決して『Gストーム・メタルアーマー』の購入ボタンを押した。脳内がフラッシュしたような感覚に捕らわれ、スキルがインストールされる。しかしそれも一瞬の出来事ですぐさま収まり、ステータスウインドウに『NEW』のアイコンが付いたスキルが僅かな自己主張と共に表示されている。
(後はリンクデバイスだが……一番安いのでいいか、どうせ操作に使う訳でなし持ってるだけだ、使い勝手など意味が無い)
そう決めると新たなスキルとデバイスを手に、俺は仲間たちが待つ訓練場へと向かった。
訓練場ではゴーレム相手に力比べをしている鬼灯、他の冒険者との実践形式で剣技を磨くフレア、バードビューを展開しながらの移動訓練に没頭しているキャトリーヌ、そして目敏く俺を見つけて寄ってくる瑠奈と、瑠奈以外は訓練に余念がない。
「失礼やな、ウチも他の冒険者に混ざってやっとった魔法の訓練が今し方終わった所や」
「心の声がダダ漏れだった。スキルリンカーとして登録はして無いんだがな……」
「何ゆうてんねん、ヨシダはんの言いそうなことぐらい、顔見たらすぐにわかるわ」
なんだよ、スキルリンカーじゃ無くても心が繋がってると言う事か? これはもう、あれだな。
「以心伝心?」
「……顔に出てる、ゆうてるやろ? 全く、そんで何やウチらに用がありそうな顔しとるけど?」
顔に出てたそうです。グラブザカードで挑んだのがブラックジャックもどきで良かった、ポーカーだったらパーティ除名されてたかも。などとくだら無いやり取りをしていると他のメンバーも一段落ついたのか、俺と瑠奈の所に集まってくる。
「おいーす、ヨシダっち、なんかソワソワしてるにゃ」
「うむ、何かこう自慢したくて仕方ない感じがする」
「なんだ、またしゅーてぃんぐネタでも披露するのか?」
どうよ? この信頼感、全く当てにされて無いとか、おじさん頑張ってるんだけど?
「ちげーよ、全く俺をどんな目で見てんだよ。まあ聞いて驚け、新スキルを取得しました。拍手」
パチパチ……
なんか拍手がまばらで景気悪いが気にしない。
(ドロロロロロロロ、ザカッ、ザンッ! とドラムロールを脳内で再生しつつ)
「では発表します、新スキル、重力操作(プラスオマケの攻撃)を取得しました」
……なんだ? そこは、「おおー!」とかじゃ無いのか、なんかピンと来てなくね?
「じゆうの力を操作するにゃ?」
「うむ、我らは自由気ままな冒険者ではあるな」
「ウチらヨシダはんに付きおうて、運命の輪から外れる程自由やなかった?」
「そうだぞヨシダ、自由は大切だけどそれには責任が付いて回る、自由だけではダメだぞ」
なんか叱られてるし……と言うか自由力じゃねーよ、重力だよ。マジでこの世界には万有引力や重力の概念が無いのか?
「なあ皆んな、一つ聞いても良いか。なんで物を空に向かって投げたら落ちてくる?」
「「「「……投げたから」」」」
オイオイ、アリストテレスの自然学かよ、いや、もしかして……これが異世界の真理か? まあ、投げたから落ちてくるのは正解ではあるか。
納得はして無いが理解はしたので、重力とは何ぞやと俺の日本の常識的な知識でこの現象を説明する。
「……という訳で、重力とはものを地面に引き寄せる力で、重力波はその現象が伝播する様子を波として捉えたもの? らしい、多分」
俺の拙い科学知識に基づいた説明に、仲間たちはまだピンと来ていない顔で首を傾げている。まあ、概念自体が存在しない世界なのだから無理もないか。
「要するに重力は地面に物を引き寄せる力と言う事だ、別に理屈を知らなくても、そう有るのは皆んな知っての通りだ」
この世界の物理法則が地球と同じ保証もないので、そう切り上げると、いよいよメインイベントの発表だ。
「新スキルのことはこのぐらいにして、新たなリンクデバイスを手に入れたので、使用者を決めようと思う」
「「「「おおー!、パチパチパチ」」」」
おい、何でさっきと反応が違うんだ? リンクデバイス持ってるキャトリーヌまで一緒になって騒いでるし。
「今回のスキルリンカーは色々考えた結果、フレアが適任だと思うのだが、どうだろう?」
そう俺が切り出すと。
「遂にアタシの時代がやって来たか! それで、それで、さっきの新スキルをリンクしてくれるんだよな?」
軽い興奮状態で早口に捲し立てるフレアと、一方であからさまにガッカリとする瑠奈と鬼灯……すまんが君たちの分はまた今度だ。
「それをこれから試してみようかと思うんだ」
スキルリンカーとなったキャトリーヌが、新たなスキルを手に入れて目覚ましい活躍をした事も合って、皆んな我先にと求めるのは分かるが、いかんせんスコアが……甲斐性なくてすみません。
瑠奈や鬼灯に対して申し訳なく思う反面、キャトリーヌやフレアに新たなスキルをリンクできる誇らしさも感じながら、新しいスキルを実践投入すべく、残り僅かな時間を訓練に明け暮れるのだった。




