5話 夕食
ダンッ!!
「なんなのよ、あいつ!!」
二階の部屋に案内されたお姫様。一人機嫌悪く部屋の中で地団駄を踏んでいた。
『姫様、少しは落ち着いてください。』
「うるさい!!」
イライラをぶつけるように爺やと呼ばれる杖を、部屋の隅にあるベッドに叩きつける。
「はぁ、はぁ、はぁ。何なの!?散々引っ張りまわしておきながら、最後は投げっぱなしにして!!納得いかないわ!!」
どうも先程の一階でのやり取りで納得出来ずに話が終わったことを不服に思っているようだ。
『姫様がお怒りになるのも仕方ありません。ですが今は彼もおりませんし、明日お会いすることが出来るのですから、どうかその時まで怒りをお静めください。』
「むぅ…。」
不服そうにしながらも黙りこむも、話を聞くためベッドに座る。その様子に爺やは心の中でやれやれと息をつく。
『ひとまずは明日の動きについて話し合いましょう。』
明日は冒険者ギルドから迎えが来るとのことである。もともとやることがあるわけでもないので、問題はないのだが。
「そもそもあいつの話を信じていいの?」
私怨の強い姫様としてはあまり彼のことを信用していない。それにはじめて訪れた街なのだ、警戒しない方がおかしいのである。
『確かに彼とは初対面ですし、情報が少ないので鵜呑みにはしない方がいいでしょう。』
「でしょう!!」
『ですが、私としては一度彼の話を聞いてもよろしいかと思います。』
一瞬自分の意見に賛成してくれたのかと喜ぶ姫様だったがすぐに不機嫌になる。
「爺やはあいつに味方するわけ。」
『私はいつまでも姫様の味方ですぞ。ただ我々にはこの街の情報がありません。ですので、彼に会って話が出来れば、それなりに情報を聞くことが出来るのではないでしょうか。』
この街に訪れたばかりということもあるが、彼女たちはこのクレッツィオの街についてあまり知らないのだ。多少リスクはあるが少しでもこの街のことを知るには良い機会である。
『それに仮にも本当に彼がギルドマスターであるのならば、この街だけでなくさまざまな情報を聞き集めているはずです。例えそうでなかったとしても、少なくともこの街については詳しいと思いますぞ。』
仮とは言ってるものの、街中での彼に対する人々の反応から、彼がギルドマスターなのは本当なのだろうと爺やは感じていた。しかし、本当のことを口にするとお姫様の機嫌が悪くなるので、今は黙っておく。
「もしだまされた時はどうするのよ?」
『その時はその時でまた考えましょう。どちらにしてもこれから生活するにも冒険者ギルドを利用することになりますから、とりあえず明日は冒険者ギルドに向かいましょう。そのあとに街を見て回るのもよろしいかと思いますぞ。』
「…そうね。これ以上深く考えても仕方がないわ。明日はその予定で行きましょう。」
姫様も落ち着きを取り戻し少し冷静になれたらしい、反対されずに明日の方針決まったことに爺やは胸をなでおろした。
『そう言えば姫様、ひとつ気になることが。』
コンコン。
爺やが訊ねようとしたところで、部屋にノックの音が響き、爺やは黙った。
「…誰。」
姫様は警戒するようにベッドからドア絵と移動し、ドア越しに相手に問いかける。
「私です、マールです。ご飯の用意が出来たから持ってきました。よかったら空けてもらえませんか?」
その声は部屋を案内してくれたマールのものだった。どうやら出来あがった夕飯を持ってきてくれたらしい。
(「どうする爺や?」)
(『…廊下には彼女一人だけみたいです。開けても大丈夫かと。』)
念のため爺やが気配を確認してからドアを開ける。そこには夕飯の入った籠を抱えたマールが立っていた。
「良かったぁ。なかなか下りてこないから心配しちゃいました。」
お姫様が部屋から出てきたことでマールはホッとしたようだ。
「あら?お部屋真っ暗して、明かりの場所わかりませんでしたか?」
そう言って部屋に入るなり抱えていた籠を机の上に置き、机の隅に置いてあるランタンに火を灯す。
「深夜は廊下の明かりを消しているので、トイレに行く時とかは持ち歩いてくださいね。」
「あ、ありがとう。」
えっへんと胸を張って説明するマール。しかし夜目が効くお姫様としては月明かりだけでも十分だったためにあまり必要としていなかった。
「それでは食事にしましょう。こちらがあなたの分です。」
そう言ってマールは食事用意しはじめる。籠の中からパンと水差し、お椀とスプーンを2組取り出し、それぞれお盆の上に揃えていく。そして水差しの中にスープが入っているらしい、それをお椀の中に注ぎ込む。これで食事の用意が整った。食事の乗ったお盆をお姫様に渡す。
「ありがとう。」
食事を受け取りベッドに座るお姫様。するとそれに向き合うようにしてマールは椅子に座る。
「ではいただきましょう。」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。」
「はい?」
「なんであなたもここで食べようとしてるのよ。」
「…ダメですか?」
「当たり前じゃない。」
「うぅ、そうですかぁ。がっくりです。」
断られたことにしょんぼりするマール。その姿に心くるものがあったのか、爺やがフォローをする。
(『姫様、少々に冷たすぎますぞ。一緒に食事くらいよろしいのでは?』)
(「うるさいわねぇ。爺やには関係ないでしょ。」)
(『そういうわけには行きません。こういうところで情報を仕入れることも大事ですぞ。それに我々にはこの街に知人がおりません。少しでも多くの味方を作っておいた方が後々役に立つというものですぞ。』)
(「そんなこと言って、本当はあの子のことが可哀想とか思っただけじゃないの。」)
(『ギクッ!!』)
図星をつかれる。しかし、漢としてもここで引き下がるわけには行かない。
(『コホンッ。姫様、これも我々の旅の目的の一環ですぞ。もしここで彼女を返すようであれば、この旅も短い終止符を打たせていただきますぞ。』)
(「はぁ!!ちょっとふざけないでよね。」)
(『私は本気ですぞ。さぁ、早くしないと彼女が出て行ってしまいますぞ。』)
(「あぁもう。わかったわよ。やればいいんでしょ、やればっ!!あとで覚えておきなさいよ。」)
「ちょっと待ちなさい。」
「…はい?」
落ち込んだマールは椅子を戻し、夕飯の入っていた籠を持って部屋を出ようとしていた。
「し、仕方がないから、今回だけは特別に許してあげるわ。」
「…はい?」
お姫様の言っている意味が理解出来ず、マールはキョトンとした顔をしていた。否定されてすぐのことだ、当然である。
「…えっと、それはつまり一緒にお食事してもよろしいということですか?」
「だからそう言っているでしょ。」
「ほ、本当ですか!?あの、ありがとうございます!!」
何故そうなったのか疑問に残るところでもあるが、それよりも許可が貰えたことが嬉しく、マールは喜んだ。
「お、お礼はいいから、早く椅子に座りなさい。」
「はい!」
マールはお姫様と向かいになるように椅子に座る。二人のその姿に爺やはホッと胸をなでおろす思いだった。夕飯にはパンと野菜スープだ。パンはこぶしより一回り大きいパンを真ん中を横からスライスし、野菜と焼いた干し肉を間に挟んだものだ。豪快ではあるが食べ応えがあり、コストも安く抑えられるため、腹ぺこの冒険者たちには大人気である。お姫様ははじめてみるものに戸惑っていたが、パンにかぶりつくマールに習って姫様もパンにかぶりつく。
「ッ!?」
その瞬間口の中に広がるジューシーさに驚く。
「何これっ!?すっごく美味しいんだけど!!」
そう言ってもう一口。またも口の中に旨みが広がる。干し肉であるため少し硬いもの肉の旨みが凝縮されており、さらに火で炙ることで肉の旨みが増されている。またシャキシャキと歯ごたえのある野菜がマッチしており、舌の上で絶妙なハーモニーを奏でる。そして何よりもお肉にまぶしてある固くて小さい粒を噛み潰すと、ピリッと電撃が走るような刺激が走り、舌を飽きさせないのだ。また一緒についてきた野菜スープは味付けはあっさりしているが、煮込まれた野菜のほのかな甘みが舌を休ませてくれるので、パンとの相性は最高であった。お姫様にはまさに衝撃的だった。こんなもの今まで食べたことがない。あまりの美味しさに病みつきとなったお姫様は、あっという間に食べ終えた。夕飯の美味しさに満足そうにしていると、目の前でニコニコと微笑みながらこちらを見ているマールに気付き、顔を赤らめて恥ずかしがる。
「こ、こっち見るんじゃないわよ!?」
「うふふ。良かったら私の分も食べます?」
そう言ってマールは自分の分のパンを差しだす。
「本当!?」
「はい、どうぞ。」
「いや、でも…」
躊躇しているのかなかなか手を伸ばさない。しかしパンの魅力に負けたらしい。マールのパンも貰うことにする。
「…いただきます。」
「はい、召し上がれ。」
恥ずかしながらももぐもぐとパンを食べ始める。その姿を嬉しそうに眺め続けるマールであった。
今回は2話投稿しましたので、よろしければ続きをどうぞ!




