21話 はじめの一歩
ストックがなくなったので今週からまた週一投稿になります。すみません。
「ー、と言うわけで残ってあげたわ。感謝しなさい。」
「いや、説明もなしに突然言われても意味がわかりませんよ。」
脈絡もなく唐突に話始めたエレンに対してコルトが突っ込む。
「あはは。何があったかは良く分からないけど、とりあえず残ってくれてありがとう。そしておはようエレンちゃん。それにクレスさん。」
「おはよう、ケイトに坊主。今日も一日よろしくな。」
「坊主って呼ぶのは止めてください。おはようございます、クレスさん。こちらこそよろしくお願いします。」
「ふん。アンタたちに私の偉大さを思い知らせあげるんだから。覚悟してなさい。」
ケイトたちを前にふんぞり返るエレン。結局昨日はパージュに泊まり、ケイトが来るのを待っていたのだ。ケイトはクレスと合流するため、コルトを連れてパージュを訪れたのだが、そこにエレンもいたことに驚いていた。パージュで合流した四人は冒険者ギルドに向かうために朝の街を歩いている。
「あはは、まさかエレンちゃんがこの街に残っているとは思ってなかったよ。あのまま本当に街を出たんじゃないかって思ってたからさ。お陰でメイに凄い怒られたよ。」
昨日のエレンとのことをメイトに話したようだ。ケイトはその時のことを思い出したのか、困ったように笑う。
「しかしクレスさんとも知り合いだったとは以外だったよ。」
「別に知り合いって程でもないわよ。昨日の夜にこの男にナンパされただけよ。」
「な、ナンパ!?」
「おっと、それは流石に聞き捨てならないな。俺は売り子の姉ちゃんが困ってたよう、だから気になって声を掛けただけだぜ。」
エレンとケイトの後ろを歩いていた二人にも聞いていたらしく、クレスはエレンの発言を訂正をする。
「どうだか。男が食事中の女性に声をかけるなんて、だいたいがナンパか誘拐って相場が決まっているわ。」
「それはまたえらく偏った知識だな。しかし安心しな。残念ながら俺は大人な女性にしか興味がない。嬢ちゃんをナンパするには少なくともあと十年はほしいところだな。」
「…昨日もそうだったけどアンタ私に喧嘩売ってるの?」
エレンは歩きながら後ろを振り向き、クレスを睨み付けるがクレスは楽しそうに笑っている。
「そんなつもりねぇよ。寧ろ嬢ちゃんを高く評価しているつもりだ。俺の目を甘く見てもらったら困るぜ?ただもう少し肉体的にも大人になってくれると俺的に嬉しいってだけだ。」
「『も』って何よ!?『も』って!?やっぱり喧嘩売ってるとしか思えないわ。何だったらここでやってもいいわよ?」
「はいはい、そこまでだよ。クレスさんもからかうのは止めてください。エレンちゃんも昨日の今日で暴れるのはオススメしないよ。流石の僕でも庇いきらないからね。」
クレスの言葉に過剰に反応し、暴れそうになるエレンをケイトが止める。
「はっはっはっ、すまんすまん。嬢ちゃんの反応見てると面白くてな、ついからかいたくなっちまうんだ。」
「ぐぬぬ…。後で覚えておきなさいよ。絶対後悔させてやるんだから。」
「はっはっはっ、そいつは楽しみだぜ。」
エレンが悔しがるのを見て楽しそうに笑うクレス。エレンは思わず握りこぶしを作りながらクレスを睨み付ける。そんな二人のやり取りを見ていたケイトは、呆れたようにため息を吐く。
「いい加減にしてください。やれやれ、何で僕がこんなことをしなくちゃならないんだい?ねぇコルトくん?」
「そこでボクに聞かれても困りますけど。」
助けを求めるようにコルトに話を振るが、コルトもコルトで解答に困っていた。
「…ふん、まぁいいわ。それよりもアンタ、今頃になって顔を出すなんてどういうつもりかしら?」
「…。」
クレスとのことを本当に後に回したのだろうか、エレンは話題を変えるようにコルトに話しかける。コルトは昨日と同じように青色のマントを身に纏っているが、今はフードを被らずに文字通り顔を出して歩いていた。コルトは答えずに黙ったままでいる。
「それで私に認めてもらえるとでも思っているわけ?馬鹿じゃないのかしら。」
「…。」
エレンに言われながらもそれでもコルトは答えずに黙ったまま俯く。それに合わせるように焦げ茶色の髪の上に乗る犬のような獣耳も俯くように縮み込ませる。
「…黙ってないで何か言いなさいよ。」
「…っ!?」
黙りを決め込んだコルトに痺れを切らしたのか、歩みを止めて体ごと後ろを振り向いてコルトを睨む。エレンが歩みを止めたため他の三人も歩みを止めるが、コルトはエレンの気迫に怖じ気ついてか一歩下がる。そして獣耳も怯えたように竦まみながらふるふる震わせている。
「まあまあ、コルトくんのことをそんなに責めないであげてよエレンちゃん。」
横で見ていたケイトが宥めるように止めに入る。
「コルトくんだって今まで好きで顔を隠していた訳じゃないんだ。こうやって歩くのにも結構勇気が必要だったと思うよ。」
ケイトの話に頷きながら続けてクレスも味方するように会話に加わる。
「そうだぜ嬢ちゃん。男にとってはじめてって言うのは大事なもんだ。その一歩がこれからの自分の行く道を決めるんだからな。踏み出すのにも勇気と覚悟が必要なる。それが出来てはじめて男は漢になれるんだ。今の坊主は漢としてようやく一歩踏み出したところだ。凄いことなんだぜ?後は女を喜ばせられるようになれば一人前だな。」
「…オトコって最低ね。」
「何か酷い誤解を生んでいるんですけど!?クレスさんは黙っていてください‼」
先程まで黙っていたコルトだったが、クレスのせいで変な誤解をされそうになったため慌てて訂正する。コルトに注意されたはずのクレスだが、悪びれたようすもなく楽しそうに笑っている。明らかにコルトをからかっている。その姿にコルトは呆れたようにため息を吐くが、同時にで落ち着くことが出来たようだ。一度咳払いを挟みエレンに向けて言葉を紡ぎだす。
「別に貴方に認めてもらうためにこのフードを脱いでる訳ではありません。ただ自分自身と向き合うと決めただけです。」
一度は引いてしまったが今度はしっかりとエレンの眼を見て話すことができた。それだけでもコルトの中では昔の自分より前進出来た気がして嬉しかった。
昨日のエレンの言葉はコルトの胸の奥の深い部分に突き刺さっていた。分かっていたことなのだ。逃げても強くなれる訳がない。目を背けても何かが変わるわけではないのだ。だが、それでも願わずにはいられなかった。こんなの自分が望んだ自分じゃないと。それだけ辛くて苦しくて理不尽なことを受けてきた。自分は普通の人とは何も変わらない。ただ血と見た目が少し違うだけだ。それなのに周りからは差別され、苛めにあい、蔑まされた。辛かった。本当に辛かった。弱い自分を守るにはそれしかなかった。弱い自分を憐れみ嘆いた。醜いこの血を憎んだ。非情なこの世界を恨んだ。何もかもこの世界が全て悪い。全てこの世界のせいである。自分は悪くない。そう思えば自分自身から目を背けることなんて思いの外簡単だった。そしていつからかそんな自分が正しいのだと思うようになっていた。
ー 自分のことを認めていないのはアンタの方じゃない。そんな奴誰が認めるものかしら ー
まったくその通りである。結局は自分なのだ。どんなに願っても、逃げても、目を背けても、憐れんでも、嘆いても、憎んでも、呪っても、受け身である以上世界は望んだようには変わってくれない。ならば自分から変えていくしかない。変えられる自分になっていくしかない。そのためにもまずは自分と向き合わなければならない。自分から逃げるのはもうやめよう。自分が認められる自分になれるように。そのための第一歩がフードを外すことだった。
混血者である自分には普通の人にはない犬のような耳と尻尾が付いているため、それらを隠す必要があった。混血者である自分の姿を見て嫌う人は多かった。そのために少しでも誤魔化せるように体を覆えるマントとフードを被っていたのだが、同時に自分が混血者であることを認められない表れにもなっていた。街中でのフードの有無だけで人々の視線の数は激変する。しかも受ける視線はあまり良い感情を抱いていないのだ。それを避けられるだけでもコルトにとっては大きな安らぎとなっていたのだ、仕方がないことだ。それだけにこのフードを外すことがコルトにとっていかに勇気がいることなのか、もはや本人にしかわからないところである。今歩いている時も様々なところか視線を感じており、緊張のあまり頭上の犬耳がキョロキョロと世話しなく動いていた。それを察しってか時折ケイトやクレスが話しかけてくれている。正直に言えば今朝はケイトが迎えに来てくれなければ途中で心が折れていただろう。いかに自分の心が弱いかを改めて実感させられた今日この頃でである。
そんなコルトが小さな喜びを実感していることなど露知らず、コルトの態度に思わず、
「はぁ?」
と声が出てしまうエレン。どうやら気にくわなかったらしい。不機嫌そうに片眉をつり上げながらコルトにガンとばす。
「で、ですから、今まで避けてたことから逃げないように、す、少しずつでも変えて行こうと思ったんです。そのために、まずは、その…、フードを被らずにいるんです。」
内心喜んでいたコルトだったが、流石にそこまで強気でいられる程の強心には至れていなかったらしく、少し怯えながら説明する。犬耳もピクンと反応しながら小刻みに震えている。
「…はぁ。」
そんなコルトの姿を見て呆れたのか、エレンは腰に手を宛ながらため息を吐く。そして中指と親指で輪っかを作った右手をコルトの額の前に突きだし、中指を弾いた。
バチンッ‼
「っ!?」
目の前が明滅する程の物凄い衝撃を感じながらコルトは後ろに倒れる。コルトは避ける暇すら与えられない程の速さで何かをされた。それが多分デコピンだと思ったのは倒れた時に彼女が構えからそう感じたからだ。普通の人間ならあり得ないことだが、昨日の出来事を目の当たりにしたコルトには彼女ならあり得ると考えた答えだった。
「格好付けるなら最後まで意地張りなさいよね。ま、その勇気に免じて今はこのくらいで勘弁してあげるわ。」
そう言ってエレンは冒険者ギルドに向けて再び歩みを始める。
「だ、大丈夫かいコルトくん!?凄い音がしたけれど。」
倒れたコルトを心配してケイトが駆け寄る。
「は、はい、なんとか。少し頭が痛いですけど。イタタッ。」
頭を押さえながら体を起こすコルト。幸い脳震盪は起きていないようだ。自分と向き合うまではあまり感じなかったが、以外と丈夫だなと変に感心してしまう。それでも痛いことにはかわりないのだが。
「見た限り怪我はなさそうだけど、念のために後でギルドで見てもらった方がいいかな。それにしてもエレンちゃんもここまでしなくてもいいだろうに。まったく困ったものだよ。」
「…口にしているわりにはあまり困っているようには見えないのですけど。」
「そう見えるかい?まぁ一先ずの問題が片付いたからね、とりあえずは大丈夫だと思うんだけど。それでもちょっとやり過ぎかなぁ。まぁ最悪メイでもぶつけておけば問題ないか。」
「…あの、言ってる意味がわからないんですけど?」
ケイトの言っていることが今一つ掴めずに困惑するコルト。
「まぁ気にしなくてもいいよ。こっちの話だし。それより一人で立てるかい?」
「あ、はい。大丈夫です。すみません、心配お掛けしました。」
「コルトくんが謝る必要はないよ。悪いのは全部エレンちゃんだから。」
コルトは少しふらつきながらも一人で立ち上がる。そこへ二人を待っていたクレスが声をかける。
「そうだぜ坊主。寧ろお前は逃げ出さずに頑張ったじゃないか。漢見せたな。」
そう言ってコルトの頭を撫でる。そのさまは子どもと誉める父親のようだ。
「や、やめてくださいよ。別にボクは何もしてませんし、デコピン一発で倒されましたから。」
「あんな不意打ち、気にすんじゃねぇよ。お前はまだ歩み始めたばかりなんだ。これから強くなればいい。」
「クレスさん…。」
クレスに言われたことがコルトにとって純粋に嬉しかった。ようやく向き合い始めた自分に対して優しく背中を押してくれる、そんな風に感じ取れて、前へ進む勇気をもらえた気がした。
「それにこれから先輩としてあの嬢ちゃんに教えてやらないといけないんだ、しっかりしろよ。何せお前はEランクで嬢ちゃんはFランクなんだからな。」
「…聞こえているわよ。」
先程一人で歩いていったはずのエレンが戻ってきていた。しかもクレスの言葉を聞いていたのか不機嫌そうに眉を寄せている。
「おっと、聞こえてたか。」
「…アンタ私が来るのを分かってて言ったでしょ?」
「はっはっはっ、バレてたか。」
悪びれたようすも見せずに楽しそうに笑うクレスに呆れてため息を漏らすエレン。もはや起こる気にもなれないようだ。
「…アンタの相手をしてるだけ無駄な気がしてきたわ。いいから早くいくわよ。」
エレンは踵を返し再びギルドを目指して歩き始める。どうやら来るのが遅い三人を見に戻って来たようだ。
「はっはっはっ、せっかちな嬢ちゃんだな。仕方がない、俺たちも向かうとするか。」
「はい!」
「やれやれ。これからどうなることやら。」
それぞれこれからのことを思いながら、先を歩くエレンを追いかけるように急ぐ三人であった。
次回は3/8(水)投稿予定です。
読んでいただきありがとうございます‼
あっという間に3月ですよ。はやいなぁ。
まずは早く暖かくなってほしいですね。




