20話 酒のツマミに子悪党
20話目突入‼
ケイトを追いかけてエレンも応接室を出ると、ケイトは一階へ向かうように廊下を歩いていたので追いかけて横に並ぶ。
「待ちなさいよ!?私はまだ納得してないっていってるでしょ!?よりにもよって何でアイツとパーティー組まなきゃいけないのよ。他にも強い奴とかいるでしょ?」
コルトとパーティーを組むことに納得出来ていないエレンがケイトに突っかかる。
「それを僕に言われても困るんだけどね。これを決めたのもクラウスさんなんだよ。だから変えるにしても一度クラウスさんに相談してからじゃないと出来ないんだ。」
廊下をそのまま歩きながら困ったように眉を寄せるながらケイトは答える。
「それにパーティーを変えるにしてもみんな他にパーティーを組んでたり、他のクエストに取り掛かってたり、それぞれの都合があるからそう簡単にはいかないんだよ。」
一重に冒険者と言ってもやり方は人それぞれである。エレンのように旅をしながら路銀稼ぎに冒険者となる者もいれば、一つの街に塒を持ち生活するために冒険者をしている者もいる。もちろん夢や憧れを持って冒険者になっている者も少なくはない。それぞれ冒険者としてさまざまな理由を抱えており、その中でお互いの利益や都合に合わせてパーティーを組んでいるのだ。そのためにパーティーを組むにしても相互関係が重要になってくる。本来なら身内や同目的の者を集めてパーティーを組む事が多いのだが、旅を目的とするエレンとしては現在路銀を稼ぐ以外の目的はなく、況しては人間の知り合いなど昨日今日知り合った者しかいないのだ。以上のことからも今のエレンに自分でパーティーを作ると言うのは難しい話なのである。
「だったら別にパーティーを組む必要はないわ。私の強さなら一人でも問題ないでしょ?」
先程ブブンタたちを半殺したことで実力は示したと言わんばかりに主張するエレン。昼間は渋々承諾していたが、やはり一人で自由にやりたいようだ。期待の眼差しをケイトに向ける。
「ごめんだけどそれは出来そうにないね。」
しかしケイトはキッパリと否定した。それによりエレンは更に不機嫌になる。
「何でよ!?まだ足りないなら他に強い奴を紹介しなさい。そしたらそいつを倒してあげるから。それともアンタを倒せばいいのかしら?」
「別にエレンちゃんの強さを疑ってる訳じゃないよ。エレンちゃんの戦闘における強さは僕よりも凄く優れていると思う。だからそう言う理由で否定している訳じゃないんだ。それに下手に僕や他の人を倒してしまうと今度は君が悪者扱いされてしまうだろうから簡単にはやらない方がいいよ。さっきも言っただろう?君の力は容易に奮ってはいけないって。」
「はぁ?何訳の分からないこと言ってるのよ。認められないのに力を出さなくてどうするのよ?馬鹿なんじゃないの?」
「力を扱うところを間違えてはいけないっていうことだよ。ただ力を奮えば冒険者になれると言う訳じゃない。知識や経験、それに周囲の信頼なんかも必要なんだ。これらを含めてギルド側を認めさせないと一人に出来ないんだよ。だからみんなはじめのうちはギルド側から紹介をうけたり、身内の冒険者とパーティーを組むものなのさ。」
ケイトは説明しながら廊下を渡りきり、階段だ一階へと降りて行く。もちろんエレンも一緒に降りる。
「今のところエレンちゃんにはパーティーを組ませるようにギルドマスターであるクラウスさんから指示が出ている。つまりギルドとしてはまだ一人にさせる訳にはいかないと言うことなんだよ。」
「何よそれ!?最初から詰んでるじゃない‼ふざけるんじゃないわよ‼アイツが原因だって言うなら他の街に行ってやるわよ‼」
ケイトの話を聞いてエレンは怒りを露にし、飛び出そうとするがすぐにケイトに止められる。
「無駄だよエレンちゃん。多分他の街でも同じようにパーティーを組まされることになるよ。寧ろここより厳しいんじゃないかな。」
「何でよ!?」
「さっきも言っただろう?ギルド側に認められないといけないって。君のことを知っているクラウスさんですら君にパーティーを組ませようとしたいるんだ。他のところに行っても同じようになるだけだよ。それよりも人を集めたり準備をするのに時間がかかって余計身動きが取れなくなると僕は思うよ。」
本来ならパーティー集めるのに時間がかかるところを事前にクラウスが行っていたため、スムーズに事が運ばれているのだ。それを他の街に行くとなると一からやらなければならなくなる。移動時間を含めていろいろと時間がかかってしまうことになる。
「特にエレンちゃんのような初心者の冒険者をパーティー入れてくれるところは少ない。それこそ身内でもなければ相互関係が大事になってくるけど、正直言って低ランクの冒険者をパーティーに入れることに旨味はないんだ。ランクと言うのは簡単に言えばギルドがその人に対する信用度を表しているようなものなんだ。だからランクが高いと言うのはそれだけギルドから信頼受けている人物と示しているようなものなのさ。当然そんな人に依頼をしたい、パーティーを組みたいと思う人は沢山いるだろう。逆にランクが低いと言うことはまだそれだけの信用を得られていないということなんだ。そう言う人を君は積極的にパーティーに入れたいと思うかい?例え実力があったとしてもここではそう言う評価を受けることになるんだ。他の街に行ってもそれはかわらない。結局今みたいにギルド側からの紹介を受けざる負えなくなると思うよ。」
ケイトが淡々とした調子で告げたことは、実はギルド内では大きな問題にもなっていた。
ギルドではランクによる格差社会が出来ていた。もともと仕事の難易度の目安としてランク分けを行ってきたのだが、時代が進むにつれ"ランク=実力"ととらえる者が増えてしまったのだ。そのために実力がある者でも低ランクであれば程度の低い者と見られてしまうことは良くあることだった。低ランクの冒険者は足手まといの癖に収入まで奪っていく。自分にとって邪魔にしかならないのに何故パーティーを組まなければならないのか?そう考える者も少なくはなく、初心者冒険者はクエストを受けたくてもパーティーに参加できず、クエストを受けることが出来ないことが多かった。例え他ランクのパーティーに入れてもらえたとしてもパーティー内で差別を受けることが多く、酷い場合は収入すらもらえないこともある。それでも実績として記録されるため、ランクを上げるためにパーティーに参加する者もいるがそれでも長くは続かない。そうしたことがあり現在では初心者冒険者が一人前の冒険者として残ることが少なくなってきていた。ギルド側としてもそれではいずれ破綻してしまい運営出来なくなってしまう。そうならないように初心者に対するサポートを行うようになったのだ。それにより少しは冒険者の数が少し増えるようになったのだが、肝心の格差問題の解決は思うように進まなかった。長年続けてきたギルドの体制を見つめなおさなければならないため、簡単に済ませられる話ではないのだ。こればかりは仕方がないことである。
ともあれ現状としてケイトが告げたように初心者冒険者であるエレンがパーティーを組むにはギルドからの紹介を受けるか、他ランクの冒険者にお願いして入れてもらうしかないのだ。
しかしそんなことはエレンの知ったことではない。
「ふん、勝手決めつけてるんじゃないわよ。そんなのやってみなきゃ分からないじゃない。いいわ、他の街に行って試してきてあげる。そしてアンタの鼻を明かしてあげるわ。」
どうやらケイトの言葉は火に油を注く形になったらしい。エレンは対抗するかのように反発する。それを見て呆れたようにため息をつくケイト。
「やれやれ、僕はやめた方がいいと思うけど、それでもやると言うのなら止めはしないよ。まったくメイといいエレンちゃんといい、どうして女性は聞き分けない人が多いんだろう?」
「ふん、それだけアンタが嫌われてるってことなんじゃない?ま、ここでお別れする私にとっては関係ない話だわ。それじゃあね。」
そう言ってエレンはギルドの出入り口に向かって歩く。本当にこの街から出ていこうとしているようだ。それを慌ててケイトが引き留める。
「ちょっと待ってエレンちゃん。もしかして今から出ていくつもりじゃないよね?もう陽も落ちている。流石に今から行くには遅すぎるし危険だよ。出るにしても一度パージュで泊まって明日出発した方がいい。」
「昼も夜も私にとって関係ないわ。ここに来るまでも関係なく移動してきたもの。」
エレンとしては人のいない夜の方が元の姿に戻れるため都合が良かった。もはや止まるつもりはない。ケイトそれを感じたのか早々に諦める。
「だったらせめてマールにでも顔を見せてあげなよ。今度いつ会えるか分からないんだから。」
「言われなくってもそうするつもりよ。」
そう言ってエレンは今度こそギルドから出ていく。ケイトはエレンを追いかけずにその場に佇む。
「…うーん、これはまたやってしまったね。クラウスさんとメイに怒られるかな。」
困ったような顔をしながらケイトはとりあえず放置していたコルトを迎えにまた二階に戻ることにした。
*****
「まったく、何が無駄なのよ。もぐもぐ。勝手に決めつけてるんじゃないわよ。もぐもぐ。」
「え、エレンさん、もう少し落ち着いて食べた方が良いですよ。そうでないと、ってエレンさん!?あわわ、は、はい、お水です‼」
勢い良くパンを食べていたエレンだったが、勢い余ってパンを喉に詰まらせてしまった。心配になって見ていたマールがすぐに水を用意してくれたため、事なきを得てホッとする。
「ふぅ、助かったわマール。ありがとう。」
「もうびっくりしたじゃないですか。そんなに慌てなくてもパンは逃げたりしません。落ち着いて食べてください。」
「えぇ、そうするわ。水をもう少しいただけるかしら?」
「はい、どうぞ。」
エレンは自分を落ち着かせるためにマールから水をもらって飲む。
現在エレンは昨晩泊まっていたパージュに来ていた。マールに別れの挨拶をするついでに夕食を取っていた。小脇に抱えていたシュティックはパージュに向かう途中で食べきったのだが、それでもお腹が満足らなかったため、マールに頼んで昨日食べたパンと野菜スープを作ってもらい、一階のカウンター席で食べていた。夕食時のパージュは仕事上がりの冒険者たちが集まり込み合っていた。空腹と先程のケイトとのことでイライラしていたのか、エレンは小さな口に無理やり頬張り込みながら勢い良く食べていたのだがその結果がこれである。
「はははっ、嬢ちゃん威勢が良いじゃねぇか。若い時はそれぐらいでなくっちゃいけねーよ。…くはー、やっぱり酒はうまいぜ。」
隣に座っている中年の男性が話しかけてくる。男性は酒を呑んでいるのか、顔に少し赤みが出ていて酒の匂いを漂わせていた。
「もう、笑い事じゃありませんよクレスさん。またお酒ばかり呑んでここで寝ないでくださいよ。いつも部屋まで運ぶの大変なんですからね。」
「はははっ、気が向いた時にそうしてやるよ。それにしてもそこの嬢ちゃんはえらく気が立ってるじゃないか?変な男にでも絡まれたのか?」
「今まさに変な男に絡まれてるわよ。ふん、気安く私に話しかけてくるんじゃないわよ。」
「はははっ、そいつは一本取られちまったな。わりぃわりぃ。」
クレスと呼ばれる単髪青髪の男性は口では謝ってはいるもののその姿はまったく悪びれた様子はなく、むしろ酒の肴として会話を楽しんでいるようにも見えた。
「笑ってないでクレスさんもエレンさんを止めてください。エレンさんこれから街を出ると言ってるんですよ。」
「そいつはちっと穏やかじゃないな。威勢が良いのも時と場合を選ぶもんだ。こんな遅くに街を出るのは危険すぎるぜ?急ぎでない限り街を出るのはやめた方が良い。」
「そうですよエレンさん。危ないですからやめてください。行くにしても明日にした方がいいですよ。」
マールの話を聞いたクレスもまた止めるように説得に入る。しかしエレンは聞く耳を持たないかのように再び食事に取りかかる。
「もう行くって決めたんだから止めても無駄よ。もぐもぐ。一刻も早く別の街に行きたいんだから。もぐもぐ。」
「それにしちゃあここで飯を食う余裕はあるんだな?」
「う、うるさいわね。いざって言う時にお腹が空いてて力が出なかったらどうするのよ。そう、これは必要なことなのよ。」
「はははっ、ちげぇねぇな。」
茶化すように笑うクレスを不機嫌そうにエレンは睨む。しかしクレスは気にせず酒を飲む。
「しかし"他の街に"と言うことはここじゃあダメな何かあったのか?」
エレンの言葉が気になったのかクレスは改めて質問する。飄々としていて不真面目そうに見えるが以外と人の話は聞いているようだ。
「ふん、ここのギルドの連中は見る眼がないってだけの話よ。もぐもぐ。」
「…ははーん。さては嬢ちゃん。クラウスの旦那にパーティーを組むように言われたんだろ。それが嫌でこの街を出たがってる。違うか?」
「っ!?ゲホゲホッ‼」
「エ、エレンさん!?大丈夫ですか?!」
クレスに図星を突かれたエレンは驚きのあまりパンを喉に引っ掛けてむせかえす。その様子に満足そうな笑みを浮かべながら酒を飲むクレス。
「やっぱりな。さしずめケイから何か言われたんだろ。アイツは説明はするがそれだけだからな。なんと言うか器用に見えて結構不器用なやつだよ。」
どうやらケイトのことも知っているようだ。
「嬢ちゃんの気持ちは良くわかるよ。俺もその口だったからな。」
クレスはどこか遠い眼をするように酒の入ったコップを眺める。
「ケホッ、そう思うんだったら止めないでくれるかしら。ケホッケホッ。」
まだ咳を抑えきれず咳き込み続けるエレン。背中をマールが優しく擦っている。
「他の街に行くのは別に構わないが、多分状況は変わらないぞ。俺も同じようなことをしたことがあるからな。それにそっちの方が余計時間がかかって面倒くさいことになるだろうよ。」
「ケホッ、アイツにも同じこと言われたわよ。でも私自身がやってみなくちゃわからないわ。それに弱い奴とは組みたくないのよ。」
「弱い奴?誰だよそいつは?」
「…はぁ、混じり者よ。ありがとうマール。もう大丈夫…、ってどうしたのよ?」
やっと落ち着いたエレンは擦ってくれていたマールにお礼をするが、擦る手を当てたままにマールは寂しそうな表情を浮かべていた。
「…そいつはもしかしてコルトのことを言っているのか?」
しかしマールが問いに答える前にクレスが相手のことを聞く。
「そうよ。なんだ知ってるじゃない。」
「そりゃあこの街で混じり者って言えばアイツぐらいしかいねぇからな。まぁ、あまり混じり者って言い方は好きじゃねぇから、俺は混血者って呼んでるけどな。」
「そんなことどうでもいいわよ。それよりアイツがいるパーティーなんてごめんだわ。」
「…確かにコルトの奴は強い訳じゃねぇが、そこはパーティーなんだから補いあえば良いじゃねぇか。何がそんなに不満なんだ?」
「ふん、何も出来ない奴がいれば邪魔になるだけよ。」
「おいおい、それはいくらなんでも言い過ぎじゃないか?少なくとも嬢ちゃんが思っている以上にコルトの奴は優秀だぜ?何せ明日のクエストはアイツの力がなくちゃいけねぇからな。」
「何を言って…!!」
怪訝そうな表情をしていたエレンだが、クレスの言葉に何か気付いたのか驚いたように目を見開く。
「…明日のクエストって、まさかパーティーのもう一人って…。」
「おうよ。よろしくな、嬢ちゃん。」
どうやら組む予定だったパーティーの最後のひとりはクレスだったようだ。楽しそうに笑いながら答えるクレスにエレンは呆れていた。
「…よろしくも何も私はアンタたちとパーティーを組むつもりはないわよ。この街から出るつもりなんだから。」
「そんなつれないこと言うなよ。後ろの依頼人様も困ってるじゃねぇか。」
クレスはエレンの後ろに立つマールを見ながらそう告げる。エレンも後ろにいるマールを見ると彼女は困ったように笑う。
「本当は私がやれば良い仕事なんですけど、お店を離れるわけにもいきませんし、それにコルト君の方が仕事が早いですので、いつもお願いしてるんですよ。」
「クエストってどんな内容なのよ。」
「それは…。」
「おっと、そいつは聞かせられないな。何せ嬢ちゃんはうちのパーティーに入らないんだからな。」
「え?」
突然クレスに止められてマールはキョトンとする。
「何よ、減るもんでもないんだし別に良いじゃない。」
遮るクレスの行動を不満に思ったエレンが抗議するが、クレスは左手を顔の前に出し、人差し指を立てて左右に振る。
「チッチッチッ、そうはいかないな。これは依頼人が俺たちを信用して預けてくれた仕事だ。他人である嬢ちゃんに教える訳にはいかねぇ。」
「私とマールは友達よ。他人じゃないわ。」
「エレンさん…。」
エレンに言われて嬉しかったのか、はにかみながら頬を紅くする。しかしそんなマールの様子に気付いているのかいないのか、お構いなしにクレスは続ける。
「だがこの依頼に関して嬢ちゃんは今は他人だ。それでも話を聞くと言うことは俺たちの仕事を横取りすると言うことになる。」
「なっ!?バカじゃないの‼そんなことするわけないでしょ。」
「そのつもりがなくてもここではそう考えるのが普通だ。俺たちは同じ冒険者だが同時に仕事敵でもある。つまり今の俺たちは敵同士と言うことだ。敵に自分の仕事を奪われるようなことをする訳にはいかないからな、止めるのは当然だろ?どうしても聞きたいって言うのなら、うちのパーティーに入るしかないと言うことだ。どうするよ?」
「ぐっ。」
何故かそこで押し黙ってしまうエレン。街を出ると決めたはずなのにクエストの内容が気になるのかすぐには言い出せなかった。マールはマールで二人の空気が気まずくなるのを感じてか一人おろおろとしている。
「ま、あくまで決めるのは嬢ちゃんだ。俺に止める気はねぇよ。やりたいようにやれば良いさ。どうせ明日のクエストは嬢ちゃんがいなくてもやらないといけないからな。」
酒を一口つけながら待っていたクレスだが、どうやら止める気が失せたのかどうでも言いように呟く。しかしその言葉はエレンを煽っているようにしか聞こえない。
「それにFランクの嬢ちゃんよりEランクのコルトとパーティー組んだ方がまだ良いしな。」
「っ!?」
それはまさにケイトが言っていたランクによる偏見差別を示した発言だった。エレンを突き放すようにクレス言い放った。そしてコップに残った酒を煽るように飲み干したクレスは、コップをカウンターの上に置いて席を立ち上がる。
「それじゃあ俺は部屋に戻るぜ。ま、精々死に急がないように気を付けるんだな。」
「えっ!?あの、ちょっと、クレスさん!?」
この場を去ろうとするクレスをマールは慌てて引き留める。
「ん?どうした?」
何事もなかったかのように聞き返すクレス。本当にエレンを止める気がないようだ。その様子にマールは面食らって戸惑う。
「えっと…、その…………、おやすみなさい…です。」
「おう、おやすみ。嬢ちゃんも縁があればまたな。」
結局マールは何も言い出すことが出来ず、挨拶の言葉を交わして二階へ上がるクレスを見送ることしか出来なかった。俯いていたまま黙ってしまったエレンをどうしようかおろおろとするが、とりあえず話をしようとおずおずとエレンに声を掛ける。
「あの…、エレンさん?クレスさんが言ってたことは気にしない方がいいですよ。その…、何て言えばいいか分かりませんが、エレンさんならきっと大丈夫ですよ。だからあまり気を落とさないでください。あ、そうです。昼間に作ったお菓子があるので後で一緒に食べませんか?私の自信作なんですよ。」
俯くエレンを見て落ち込んでいると思ったのか激励を贈るマール。しかしそれでも反応しないエレンにお手上げとなって助けを求めるようにキョロキョロと辺りを見回す。しかしその必要もなくなる。
「…ふ…ふふっ…。」
「え、エレンさん?」
突然笑い出すエレンに驚き目をしばたたかせる。何故彼女が笑っているの困惑する。しかし、肩を震わせながら笑う様はどこか不気味だった。
「ふふふっ。どいつもこいつも私をコケにしてくれるわね。いいわ、やってやろうじゃない。私の凄さを思い知らせてあげるわ‼」
お店のカウンターで子悪党のような科白を口にしながら笑う小さな魔法少女。そんな彼女に生暖かい視線を送りながら、周囲の冒険者たちはお店の料理と酒を楽しむ。
今日もパージュは平和であった。
次回は3/1(水)に投稿予定です。
読んでいただきありがとうございます。




