2話 検問中
それから少し時間は進み、日も沈みかけた頃、街道を歩いた彼女たちは〝クレッツィオ〟という街に辿り着いた。この街はこの国のお城や市街地を結ぶ4つの街道の中心地にあり、物流などはここを中心に行われるため、商業が盛んになっている。また、各方面からの情報も集まりやすいため、ギルドや大きな教会などの施設もこの街に集まっている。そのため、治安もよく交流も盛んであり、拠点として最適なこの街は冒険者にとても人気な場所であり、とても賑わいのある街なのだ。といっても街は石造りの外壁に覆われており、外からはその様子はわからない。中に入るにはそれぞれ街道につながる部分に門が設けてあり、そこでは検問を通過しないと中に入れないため、お姫様たちも現在検問の列に並んでいるのであった。
(『よいですか姫様。くれぐれも、問題を起こさない様にお願いいたしますよ。』)
彼女の腰に装備されている杖より低い声で注意を呼び掛ける。と言っても周囲に聞かれないように〝念話〟という能力により直接彼女に話しかけている。魔物には種族や環境によって能力を見つけることがあり、特に上位の魔物になればさまざまな能力を身につけていることが多い。彼女たちも様々な能力を身につけているようで、念話もその一つである。
(「うるさいわね。それじゃあまるで私がいつも問題起してるみたいじゃない?」)
彼女も念話で返答する。はじめは口頭で会話していたのだが、さすがに街中で普通に話をすると目立ってしまう(見た目がもともと怪しいので、十分目立つのだが…)ので、念話による会話を爺やと呼ばれる杖より申しつけたのだ。しかし彼女は「やだ、めんどくさい。」やら「魔法少女にはしゃべるアイテムや使い魔がつきものだから大丈夫!!」だのと駄々をこねたので、爺やも説教モードになり口論となった。結果としては念話で会話することになったものの、現在お姫様はご機嫌斜めでイライラしているのだった。
(『えぇ、そうですとも。おかげで爺は振り回されてばかりですぞ。くれぐれもお静かに。』)
(「わかってるわよ!!まったく。」)
爺やと呼ぶ杖に注意されて余計にご機嫌が悪くなったのか、後ろにオーラを出さんとばかりにイライラしているのが表立って出ているのであった。
そうしているうちに彼女たちの順番がまわってきたのだった。門扉前で検問をしていた衛兵が彼女の姿を見て少し戸惑ってしまったが、すぐに我に返り素通りしようとする彼女を引き留める。
「…何よ。」
〝止めるんじゃないわよ〟と後に続きそうなくらいイライラを声に出して衛兵を睨みつけるお姫様。その態度に衛兵も不快に思ったのか、彼女に対し強い口調で話しかけた。
「ここでは街の安全を期して、検問を行っている。中に入るのならば、まずは荷物の確認を行わせてもらう。」
厳しめの彼の口調が気になったのか、他に着任していた衛兵の一人が近づいてきた。
「別に何も持ってないわよ。だから早くここを通しなさい。」
(『ちょっと、姫様!?』)
衛兵に止められたことにより更に姫のイライラは増長した姫様は、検問を押し通して街に入ろうとする。しかしそれを衛兵に止められた姫様の怒りは爆発寸前まで登り詰めた。
「何よ!!何も持ってないって言ってるでしょ!!いいから早く街に入らせなさいよ!!」
「うるさい、黙れ!!見るからに怪しい格好の貴様の言葉など、誰が信じるか!!いいから荷物をみせろ!!それが出来ないようであれば、貴様を詰所に連行し、取り調べさせてもらう!!」
お姫様の態度に我慢出来なかったのか、先ほどよりも更に強く大きな声で怒鳴った。それに伴い、衛兵二人で彼女を取り押さえようとする。その様子を見て冷や汗が止まらない杖?は何とかお姫様を落ち着かせようと一本?躍起になっていた。
(『ひ、姫様どうか落ち着いてください!!は、早まる必要はございません!彼らにちゃんと謝って、素直に従えば、まだ間に合います!!どうか、どうか落ち着いて―』)
「…さい。」
(『…ひめ、さま?』)
「うっさいって言ってるのよ!!」
ゴオォォォォォォー!!
衛兵より何倍も大きい怒声とともに彼女を中心に周囲に向かって突風が起きた。突然のことに検問で並んでいる者たちは耳を押さえてしゃがんでいたり、驚きのあまり尻もちをついている者がいた。近くにいた衛兵たちは風圧に少し押されながらも、片腕で顔を覆いながらもう片腕で片耳をふさぎ耐えていた。そして風はすぐに落ち着き、今のお姫様の行為を危険と判断した衛兵たちは彼女の捕縛しようと構えた。しかし、衛兵たちはそこから動かなかった。いや動けなかったのだ。そして、体は震えているのだ。先ほどと変わらず険しい顔ではいるものの、そこには先ほどの威勢の良さは薄れ、代わりに怯えと困惑が入り混じり、顔には脂汗がにじみ出ていた。周囲にいた者も同じように体を震わしそこから動けずにいた。まるでこの場だけが極寒の地に変貌したかのように〝寒く、凍りついたように動けない〟とここにいる者は感じていた。ただ一人、彼女を残して。
「…。」
小さな一人の少女のはずなのだが、それを覆う黒い服装と彼女から感じる謎の圧力が、彼女の存在を大きく感じさせる。さらにその黒とは対照的に伸びる四肢と長い髪。ともに白く、普段であれば美しく感じるであろう。しかし、それも今では彼女の異様差を際立たせていた。その姿を見た者は〝女神〟もしくは〝魔女〟と揶揄するのだろうか。もっとも、現在の彼女は〝女神〟と表現する者はいないだろう。当の本人も怒りで完全に我を忘れ、目の前の衛兵しか見えておらず、腰につけていた竜の頭を象った杖を手に持ち構えた。
『姫様、おやめください!!これ以上は旦那様もお怒りになられますぞ!!人間に手を出してはなりませぬ!!』
杖から老齢の男性の声が響いた。この状況に彼?もひどく動揺しているのか、念話を使わずに慌てた声を出していた。周囲にもその声は響いているのだが、そのことに気を留めている程余裕を持った者はここにはいないようだった。
しかし彼の言葉も今の彼女には響かず、それどころか彼女の魔力が集中しはじめるのを感じ、もはやこれまでか…と杖の彼は悟る。
(『…しかたありませぬ。これも教育係として姫様を止められなかった私目の失態。姫様のためにも、ここは背に腹はかえられまい。』)
短い旅だった。いや遠足か。と思いながらも、腹をくくり行動に出ようとした時だった。
「いやぁ、ここにおりましたか。」
それは何でもないごく普通の一言。落ち着いた男性の声が飛び込んできたのであった。
次回は来週の木曜日に投稿予定です。




