18話 一打サヨナラのチャンス!
※今回も一部暴力的表現が加わっております。ご了承の上お読みください。
「おいおい、お使い途中のお嬢ちゃんがこんなところで迷子かぁ?しかも正義の魔法使いとか言ってやがるぜぇ?ここは夢の中じゃあないんだ嬢ちゃん。寝言ならおうちのベッドで言うんだなぁ。なんなら俺たちがおうちに連れて帰ってやってもいいぜぇ。ゲーヘッヘッ。」
「あっしたちお仕置きされるんでやんすか?それはそれはとても怖いでやんすねぇ。でっひゃひゃ。」
「まほうつかいのおんなのこ、かわいい。」
「何コイツら?人を馬鹿にすることしか出来ないのわけ?ムカつくわねぇ。あと私は魔法使いじゃなくって魔法少女よ。」
「魔法少女も魔法使いも何も変わらねぇじゃねぇかぁ。」
「全然違うわよ‼ホントムカつくやつらね。」
(『姫様、落ち着いてください。あれは姫様を煽るためにわざとやっているのです。あのような安い挑発に乗ってはなりませんぞ。』)
(「…わかってるわよ。あんなキモい連中の話なんてまともに相手してる場合じゃないわ。」)
ブブンタたちの前に立って早々三人組から馬鹿にされて苛立つエレン。ドルマックが宥めてくれたことで少し落ち着きを取り戻し、後ろで横たわるコルトの様子を見る。
「…見た感じ結構辛そうだけど、アンタ大丈夫?」
「うっ…。」
先程のブブンタに蹴られた痛みが引いていないようで、呼吸を荒くしながら幼さのある顔を苦しそうに歪める。意識はあるようだが話す余裕がないのだろう。エレンの問いにコルトは答えられなかった。
(「爺や、お願い。」)
(『…仕方ありませんな。』)
二人は短いやり取りを済まし、エレンは紙袋を小脇に抱えながら空いてる手でドルマック杖を持ち、ドラゴンの頭の部分をコルトのお腹の部分に向けられる。すると杖を向けた先に複数の淡い光がポツポツと浮かび上がる。そして浮かび上がった光はそのまま染み込むようにコルトの中へ入り込んでいく。不安そうに見ていたコルトだったが、光が中に入るにつれて苦しそうだった表情を緩まり、呼吸も少しずつ落ち着きを取り戻していった。最後の光が収まった時には余裕が出てきたのか、コルトは驚きの表情を浮かべていた。
(『とりあえず痛みを緩和させられる程度になりますがこれで大丈夫かと思います。』)
(「十分よ。ありがとう。」)
終わったことを確認したエレンはコルトに向けていた杖をさげる。
「さて、これで心置きなく悪者退治が出きるわね。」
改めてブブンタに向き直る。三人組は歩みを止めて黙ってエレンの様子を見ていたようだ。先程のようなゲスな笑みは浮かべておらず、どこか感心したように驚いていた。
「ほぅ、回復魔法を使えるとはなぁ。コイツは驚きだぁ。お嬢ちゃんは見かけによらず聖職者なのかぁ?」
「だから私は魔法少女だって何度言えばわかるのかしら。アンタたちは見かけ通り馬鹿なのね。」
エレンは挑発し返すように呆れて言い放つ。しかしブブンタは気にせずまたゲスな笑みを浮かべて話す。
「どちらにしても珍しいもんには変わりねぇなぁ。回復魔法なんて珍しいもん使える奴は高く売れるからなぁ。その綺麗な白い髪に美人だから只でさえ高く売れるってぇのに持ってるなぁお嬢ちゃんよぉ。ゲーヘッヘッ。」
どうやらブブンタは人身売買にも手をつけているらしく、エレンのことを高く見積もったようだ。
「コルトちゃんも本当は売りてぇンだがよぉ、なかなか良い買い手が見つからねぇから困ってたんだぁ。丁度よかったぜぇ。嬢ちゃんならすぐに買い手が見つかるだろうよぉ。本当ならもう少し育ってくれた方が嬢ちゃんには良いかも知れねぇがぁ、物好きな奴はすぐにてぇ出しやがるからなぁ。ゲーヘッヘッ」
卑しい目付きでエレンを見つめる三人はゲスな笑みを浮かべながら目をギラつかせる。しかし当のエレンは本当に気にしていないのかどうでも良さそうに呟く
「何が良いかは知らないけど、少なくともアンタが思ってるようなことには絶対にならないから安心しなさい。キモ顔トロル。」
すると笑っていた三人が表情を固めたまま笑い声を止める。それと同時に場の空気が固まる。
「き…、キモがお、トロ、…ル。」
「気に入らなかったかしら?それじゃあその不細工な豚鼻に合わせてオークと読んだ方がいいかしら。アンタたち臭そうだしその方がお似合いかもね。今度からオーク3バカトリオ、略してクサ男って読んであげるわ。アンタクサ男1であと二人は2と3ね。」
相手が反応したのが嬉しかったのか、エレンは調子に乗って重ねるように挑発かける。その態度が気に食わなかったのか、はたまた変な仇をつけられたことが気に食わなかったのか、その両方か。ともあれクサ男1と呼ばれたブブンタの表情が険しくなるなるが、またゲスな笑みを浮かべながらエレン近づいてくる。
「あまり調子に乗らねぇことだなぁお嬢ちゃん。いくら商品だからと言って俺たちが手を出さねぇわけじゃねぇんだぜぇ。そこのコルトちゃんのようになぁ。ゲーヘッヘッ。」
両手の調子を確かめるように指の骨をボキボキと鳴らしながら相手に威圧を掛けるブブンタだが、それに対しエレンはまったく動じていなかった。それどころかブブンタなど気にもしないように後ろを向いていた。
「ちょっとアンタ、これ預かってくれる。中のモノ勝手に食べるんじゃないわよ。あとでちゃんと返してもらうんだから。絶対食べちゃダメだからね。」
脇に抱えていた紙袋をコルトに渡してブブンタに向き直ろうとするがコルトが引きとめる。
「ちょ、ちょっと待ってください!?何をしようとしてるんですか!?危ないですから逃げてください‼」
「何で逃げなきゃならないのよ?逃げるんならアンタだけ逃げなさい。ここにいると巻き込まれるわよ。」
エレンの言っていることが理解できかなったのか、コルトは一瞬キョトンとしていたが、すぐに理解できて驚いたように目を見開く。
「巻き込まれるって…、まさかブブンタさんと戦うきじゃないですよね?」
「戦うんじゃなくってお仕置きしに行くのよ。アンタ、私の話し聞いてた?」
エレンは呆れたような表情を浮かべながらコルトの問いに答える。
「歯向かうことには変わらないじゃないですか‼危ないですからやめて下さい‼いくらあなたが魔法を使えるからと言ってもブブンタさんには敵う訳がありません‼」
「ちょっ、バカ!?離しなさい‼」
ブブンタに立ち向かおうとするエレンを止めようと、コルトは横になりながらもすがるような形でエレンのローブの端を掴む。エレンはコルトをひきはがそうとするがその前にブブンタが動く。
「良くやったコルトちゃんよぉ。おめぇもお嬢ちゃんと一緒にお仕置きしてやるからよっ‼」
エレンたちを殴り付けるようにブブンタが右手を降り下ろす。巨体に似合わず鋭い速さで拳が降り下ろされる。誰もが惨劇を想像しただろう。周りからは悲鳴に近い声が上がる。
しかし降り下ろされた拳をエレンは杖で受け止める。
「あ?」
ブブンタは思わず声を漏らしてしまった。まさか自分の拳を少女に止められるなど予想出来るわけがない。況しては少女が手にしている杖はボロい木で出来た杖である。自分の拳に耐えられるとはとても思えなかった。
「驚いたなぁ。まさか俺の拳を受け止めちまうとはなぁ。回復魔法以外の魔法が使えるなんて珍しい杖持ってるじゃねぇかぁ。何の魔法だぁ?」
何か魔法を使って受け止められたのだろうとブブンタが推論を述べる。ブブンタの拳を受けながらもそれを聞いてエレンは呆れたような表情を浮かべる。
「はぁ?アンタ馬鹿じゃないの?こんなことで魔力を使うわけないじゃない。こんな軽い攻撃片手でも受け止められるわよ。ただアンタに触りたくないから仕方なく杖を使ってるだけ。勘違いしないでよね。」
「強がりかぁ?まぁいい。どちらにしてもそう何回も受け止められないだろう?後でじっくりとおめぇさんのことを聞いてやるよ‼」
「くっ。」
空いている左腕の拳をエレンに目掛けて横合いから飛んでくる。避けたくても後ろにはコルトにしがみつかれているため動けなず、そのまま横に殴り飛ばされて地面を滑る。しがみついていたコルトも一緒に。
「いった~‼良くもやってくれたわね‼」
「結構本気で殴ったんだが思った以上にとタフだなぁ。風魔法でも使って衝撃を緩和してるのかぁ?」
砂ぼこりを叩きながら立ち上がるエレンを見ながら考察するブブンタ。以外にも力任せで戦っている訳ではないようだ。
「って言うかアンタははやくその手を離しなさいよね‼アンタのせいで避けられなかったんだから‼反省しなさい‼」
「あうっ‼」
エレンの容赦ない蹴りがコルトの顔に直撃し、掴んでいたエレンのローブを放す。
「何のためにここに来たのか分からなくなるじゃない。助ける相手に邪魔されるなんて、まったく困ったものだわ。あ、でも魔法少女的には王道的展開ね。ピンチではないけれどそれはそれで有りなのかもしれないわね。」
「いや、ないと思いますよ。邪魔をしてしまったボクが言えた話じゃありませんけれど。本当にすみません。」
「ホントに困った奴だわ。とりあえずアンタはここで大人しくしてなさい。」
「…はい。」
本当なら止めるべきか協力すべきなのだろうが、どちらにしても彼女の邪魔になってしまうだろう。当事者であるはずの自分が傍観することしかできなくて歯痒くて悔しい。しかし何故部外者であるはずの彼女が戦い自分が助けられているのか分からない。この街では忌み子である自分を助けてくれる人はいない。たまにクラウスさん助けてくれるが、それも街の治安を維持するために巡回している時だけだった。彼女と自分は初対面である。何故彼女は自分を助けようとするのか本当に分からなかった。だから後で必ず聞かなければとコルトは決める。
「…動けない。」
戦闘に参加できなくともクラウスやケイトなどを助けに呼べればと思い体を動かそうとするが、先程のダメージが残っておりコルトは立ち上がることすらままならなかった。
「まだ体力が回復してないんだから下手に動くんじゃないわよ。さっきの魔法も痛みを和らげた程度の応急処置に過ぎないんだから。」
動こうとするコルトに注意しながらエレンはブブンタに向き直る。相変わらずゲスな笑みを浮かべながらも動かずにこちらの様子を窺っていたようだ。
「さてと、これで心置きなく悪者退治が出きるわね。」
「ゲーヘッヘッ。さっきも同じ科白を聞いたけどなぁ。俺様にはまだ指一本も触れちゃいないようだがぁ。おっと俺様の拳が大事な体に当たってたかぁ。ゲーヘッヘッ。」
「う、うるさいわね‼もう容赦しないんだから覚悟しなさい‼」
「ゲーヘッヘッ。その科白はしっかりと攻撃を当ててから言うんだなっ‼」
先程と同じようにエレンに向けて右腕を大きく振る。
「同じ手は食らわないわよ‼」
しかしエレンは先程とは違って体を横向きにしながら足を開き、杖先を握った両手を顔の高さまで持ち上げて構える。
「秘技!ホームラン打法‼かっとびなさいっ‼」
コースを読んでブブンタの拳を打ち上げるように腰を落として杖を振り上げる。
ドォーンッ‼
杖と拳がぶつかり合い、普通の人間同士が起こせないような衝撃が周囲に響く。エレンとブブンタは衝撃を堪えるために足に踏ん張りを効かせていたのだろう、二人の足下の地面にはヒビが入っていた。それだけお互いの力が凄まじいことがわかる。
しかしそれだけではなかった。いや、それだけでは済まされなかった。
「があぁぁぁぁーっ!?」
激しい咆哮が街中に響いた。その咆哮はひどく激しいもので、腹の底に響くような重さがあり寒気を感じさせる叫び。しかしそれ以上に苦しみを堪える悲痛の叫びにも聞こえた。声をあげたのはブブンタだった。ブブンタは先程エレンに向けて放った右腕を押さえて跪く。その腕は肘から先が血まみれになっており、肘から先が変な風に捻れており、何故か手の甲が内側に向いていた。手も人差し指は抉れて無くなっており、中指と薬指が内側にめり込んでいる。親指と小指の位置が異様に近くなっており、もはや拳を作るのも困難な程手の形状を保てていない。それだけにエレンの奮った力が凄まじく腕が耐えることができなかったようだ。最悪腕が吹き飛ぶまでにはいかなかったようだがそれでも脱臼しているのか、右腕は力なくだらりと下がっていた。
「う~ん、当たりが悪かったのかしら?今のはツーベースヒットくらいだわ。やっぱりこの形じゃ難しいわね。」
一方エレンは特に変わりようはなく、ピンピンとしながらも先程の杖の攻撃に不満でもあるのか、眉をハの字にしながら手に持つ杖を見ている。因みに唯一変化があった杖の頭の部分であるドラゴンの頭は血まみれになっており、その姿は禍々しくなっていた。
「うわっ、爺や汚いわよ。それに臭い。私の衣装に染付いたら嫌だからやめてよね。」
(『姫様がやったことですぞ‼私は寧ろ被害者でございますぞ‼それより、何やっやってらっしゃるのですか!?いくら何でもやりすぎですぞ‼』)
「いいじゃないあれくらい。寧ろまだやり足りないくらいだわ。なにせこの私を馬鹿にしたあげく、何処かへ売り飛ばそうと考えていたんだから、これぐらいの覚悟はしてもらわなくちゃ。まだ殺してないだけ感謝してほしいくらいだわ。」
(『…手加減してあげてください。あと私の汚れも拭き取っていただけると助かります。』)
「わかっているわよ。簡単に死なせるものですか。どうせすぐ汚れるんだから終わったあとに吹いてあげるわ。」
楽しそうに笑みを浮かべるエレンだが、その姿はこの場では異常でしかなかった。先程まで止めようとしていたドルマックだったが、ブブンタたちがエレンに行おうとしていることを思い返し止める手を引いた。
「さてと、それじゃあお仕置きの続きをしてあげようかしら。」
ゆっくりとした調子で今度はエレンの方からブブンタに歩み寄る。
「…。」
ブブンタは痛みを堪えるため必死に歯を食いしばりながら近づいてくるエレンを睨みつける。しかしそれは今までと違い恐怖に怯える動物の威嚇に近いものであった。彼女が与えた痛みはブブンタの心に恐怖を植え付けるには十二分の働きをもたらしていた。しかも相手は無傷である。拳とぶつかり合ったはずの杖も無事のままだ。あまりの理不尽さにもはや絶望すら感じずにはいられない。それはブブンタだけでなく周囲にいる者も同じであった。あまりの惨劇にブブンタの取り巻き含めて動くことができなかった。いや元から絶望的な状況には変わっていなかった。ただ立場が変わっただけの話である。しかしそれだけで世界がこんなにも狂って見えるとは誰も思わなかった。いや、思いもしなかっただろう。何せブブンタに比べてエレンは明らかに小柄だ非力な可愛らしい少女にしか見えないのだから。明らかに場違いな表情を浮かべている彼女はもはや化け物としか思えなくなっていた。そしてブブンタは後悔した。
「そういえばアンタのお腹は固いのよね?」
こんな化け物を相手にした己の浅はかさに。
「それじゃあ私の特訓に付き合ってくれるかしら?」
そして黒い悪魔による地獄が始まる。
次回は22日(水)に投稿予定です。
読んでいただきありがとうございます。




