16話 渡る世間は砂糖のように甘くはない!
今週も追加投稿します!
ちょっと調子に乗ってるような気がする今日この頃。
「アイツら相手にするのは疲れるわ。」
冒険者ギルドを出て、早々にため息を吐くエレン。先程受付でケイトとメイトを相手にして精神的に疲れているようだ。本当なら二度と関わりたくない二人であるが、そう言う訳にもいかない。特にケイトは明日からパーティーメンバーの一人となるため、ほぼ一日顔を会わせないといけない。
「…ま、アイツに比べればたらはまだマシよね。」
ケイトのことは確かに嫌いではあるのだが、それでも選べと言われたら即答でケイトの方を選ぶだろう。それぐらいメイトに対するエレンの評価は最悪なものとなっていた。精神的トラウマを植え付けられたのだ、仕方がない話である。今も少し思い出しただけで背中に悪寒が走る。
「あぁもう、ヤメヤメ‼もうアイツらのことは忘れなさいよね。馬鹿馬鹿しい。やっと一人になれたんだから他のことを考えましょう。」
自分に言い聞かせながら思考を切り替えるため頭を振り、呼吸を整えるように深呼吸をしながら心を落ち着かせる。
(『落ち着かれましたか?』)
(「えぇ、なんとかね。まったくとんでもない目に会ったわ。」)
エレンが落ち着きを取り戻したところで黙っていたドルマックが念話を使って話しかけてきた。先程トラウマを抱え、放心状態に陥ったエレンに彼が声をかけ続けたことで何とか意識を取り戻したのだが、その後も不安定な様子のエレンを窺いながら静かに見守っていたのだ。
(『まだ立ち直ったばかりなのですから、あまりを無理を致しませんよう気を付けて下さい。』)
(「分かってるわよ。とりあえず気分転換に適当に街の中でも歩き回りましょう。」)
宛もなく適当に街の中を歩きはじめる。ギルドで過ごしているうちに時間が経っていたようで、今はお昼過ぎとなり陽が傾きはじめていた。街は相変わらず賑わっており、特に街に住む主婦層が多く出歩き、今日と明日の分の食材を求めて買い物に来ているようだ。街に並ぶお店も朝と比べて所々入れ替わっており、先程と同じ道であっても変化があって飽きさせない。先程エレンたちが訪れた武器屋も今日は店を閉めたらしく、違うお店と入れ替わっていた。エレンとしてはあの武器屋に置いてあったプリティー・モモの杖をもう一度見ておきたく、お店のあった場所を訪れて来たのだが時既に遅かった。杖を見れなかったことにぶつぶつと文句を言いながら他のお店を見て回る。結局他の武器屋や防具屋などを見て回ったが魔法少女的なモノは見つかることはなかった。
「ここにいる奴ら全然ダメね。本当に商売する気あるのかしら?唯一モモちゃんの杖を置いてるあの男はギリギリ及第点てところかしら。」
(『いいえ姫様。あの者の武器を見る眼はなっておりませぬ。あそこに置かれている武器たちが可愛そうですぞ。』)
「そうね。早くあそこからモモちゃんの杖を取り出してあげなきゃ。」
ドルマックは杖としての自分の価値を酷評されたことに相当機嫌を損ねたらしい。自分も彼の店主のことを辛辣に評価しながら取り扱われている武器たちに同情する。その思いに乗せられて、エレンも変な使命感を抱きはじめる。
(『しかし、先程のアクセサリー屋にありましたアリスとか言う者の作品は中々の代物でしたな。見映えす形もさることながらあそこまで魔力を調和出来る代物は中々出来ることではありませんぞ。』)
「そうね。あれなら人間の少ない魔力でも安定して扱うことが出来そうね。もっとも私なんかが使ったら魔力に耐えられなくてすぐに壊れてしまいそうだけど。」
人間は魔力が少ないために魔道具や術式を使って魔法を発動しるのだが、魔道具の場合素材や職人の技術力により魔力量や効果の程が変わってくる。特に職人の技術によって魔力の安定性が変わり、それにより必要な魔力量が大きく変わるのだ。そのため人間がまともに扱える魔道具は希少となってしまい、魔道具の市場価格が高くなってしまうのだ。一応他国に比べて生産量の多い魔法王国マーテルネウス産の魔道具は家具型やアクセサリー型が多く出回っている。武器型や防具型の魔道具は技術の漏洩や他国の戦力増強を阻止するため、国外流出は規制がかけられているようだ。彼の店主がどのように手に入れたかは不明だが、まともな方法では手に入らないだろう。
「いずれは魔法王国にも行ってみたいわね。特にアリスとか言う職人には会って、私専用の可愛らしい魔法少女用の杖を作って貰うわ。」
(『多分それは無理だと思いますが、確かに魔法王国には私も興味がありますな。』)
「爺やも行ったことないの?」
(『はい。私の場合はあまり人と関わらないようにしておりましたので、あまり街には出向いておりませんでした。ですので、今回の旅は私にとっても有意義な旅となっておりますぞ。』)
「ふーん、そうなんだ。」
ドルマックも旅をしたことがあると小さい頃に聞いてはいたが、詳しいことまでは聞いていなかったと思い出す。あまり面白いものにもならなそうだったので、興味を持たなかったと言うのもあるのだが。今度どうしようもなく何もすることがなくって暇を持て余してしまった時にでも仕方なく少しは聞いてみようと心の片隅に留める。
(『…今何かとても下らないことを考えておりませんでしたか?』)
「別に。」
何でもないように答えながら街中をぶらぶらと歩く。そろそろパージュにでも戻ろうと考えはじめていた時に、中年の男から声を掛けられた。
「ちょっとそこの嬢ちゃん。良かったらこれ食べてみてくれよ。すごく美味しいぞ。」
そこそこに体格の良い男性は一つの細長い棒状のものを差し出してきた。長さはエレンの手よりも長く、狐色に染まった胴の上に白い粉がまぶしてある。よく見るとその棒はパンの外側の部分に見えた。
「何それ?見たところパンっぽいけれど。」
「おう、良くわかったな。コイツはシュティックって言うんだ。これはパンの耳にバターを塗って焼いたもんに砂糖をまぶしたんだ。コイツが面白くてよ、パンなんだがパイみたいにサクッとした食感が楽しめるんだよ。結構旨いぞ。モノも小せぇから小腹が空くこの時間に持ち歩いて食べるにはちょうど良いってもんよ。」
「ふーん。」
何気なく渡されたパンをエレンは、繁々と見ながら一口食べてみる。男性が言うようにパンを噛んだ時にサクッとした音が面白く、噛む度に砂糖の甘さとバターのまろやかさが程よくパンと合わっている。それはエレンの疲れをまどろみの中に包み込んでいるかのような甘さだ。疲れていたエレンを虜にするには十分の美味しさだった。いただいた一本は徐々に長さをなくし、あっという間にエレンの小さな口の中へと送り込まれていった。エレンのその様子にシュティクを差し出した男性は満足そうな表情を浮かべていた。
「どうだい嬢ちゃん?コイツは旨かっただろう?」
「えぇ、とても美味しかったわ。御馳走様。」
「がははは。良い顔するじゃねぇか。コイツを一本やった甲斐があったもんだな。その一本はサービスでやるよ。後は是非とも買って行って欲しいもんだぜ。」
「あら?結構余ってるじゃない。こんなに美味しいのに勿体ないわね。」
「そう言ってくれるのはありがてぇけど、中々世の中上手くいかねぇもんだ。今日はじめて出したばかりだからよ、まだ周りもコイツのことを知らねぇんだわ。あとは砂糖とバターを使うもんだから、どうしても材料費がかかってしまって値が張っちまうんだ。」
「いくらするのよ?」
「今は銀一枚でやってるがこれでもギリギリだ。本当なら二、三枚は欲しいところだが、そうすると他に客が流れちまうからな。とりあえず軌道に乗るまではこれで我慢するしかない。軌道に乗れば量を増やせるから材料費も少しは押さえられて銀1枚でもやって行けるんだがな。」
男性は腕を組ながら渋い顔で唸る。顔も少し強面であるためその仕草には少なからず人に圧力を感じさせるものがあり、それも要因の一つとなっていそうだ。もっとも人間的価値観が薄いエレンはそのことに気付いていない。
「ふーん、いろいろ大変ね。」
「あたりめぇだ。コイツには俺の命がかかってんだ。必死にならねぇでどうすよ。やるんならとことんやるのが漢ってもんだ。」
「男がどうなのか私は知らないけど、その気持ちはわかるわ。アンタのその心意気に免じて、取り敢えず五本買ってあげるわ。」
「本当か!?いやぁ嬢ちゃんが話がわかる奴で良かったよ。オジさん嬉しくて涙が出ちまいそうだ。それじゃあ五本用意してやるから、ちょっと待っててくれ。」
そう言って男性は紙袋を用意し、五本のシュティックを袋に詰めた。
「ほいよ。シュティック五本上がり。五本で銀五枚だ。」
「わかったわ。今は金貨しかないけど、これ一枚で足りるでしょ?」
紙袋を受け取った代わりに金貨を一枚男に差し出す。すると男は一瞬驚きを見せるもすぐに困ったように表情を曇らせた。
「…嬢ちゃん。悪いとは思うがもうちっと世の中勉強してた方がいいぜ。」
「どういうことかしら?これで十分足りると思うけど。」
男の言っている意味がよくわからず、エレンは首をかしげる。
「いや、十分足りているんだが、コイツはちとデカ過ぎるんだ。」
「それの何が問題なのかしら。足りるんなら別に問題ないじゃない。」
「いや、大有りだ。アンタ、どっかのお姫さんだろ?そうでなくともどっかの良い家柄のお嬢さんであることは違いねぇだろうな。アンタは商売と言うモノを知らなすぎる。」
「ーっ!?」
「あぁ、だからと言って別に何かしようって思ったりしてねぇから、勘違いしないでほしいんだが。コイツをそのまま出すって言うことは、少なくともそういう経験がないってことを表してるに過ぎない。それは別にアンタが悪い訳じゃねぇ。そいつを教えなかった周りの奴らが悪い。」
エレンは男の言葉に何も言い返すことが出来なかった。それが例え男の言葉を肯定と示すことになると気付いていたとしても、否定する言葉が頭の中に浮かばなかった。男もなんとなくそれを察しているのだろう。エレンを気遣うように言い回した言葉がそれを示している。
「本来なら俺もここまで甘くするするつもりはなかったが、嬢ちゃんは俺の漢心を認めてくれたからな。オジさんも一肌脱いで良いところを見せてやろう。」
「…一肌脱ぐって、アンタ変態なの?」
「誰が変態だ、まったく。一肌脱ぐってのは、世間知らずの嬢ちゃんに世の中の渡り方を教えてあげようってことだ。分かったか?」
「…やっぱり変態じゃない。危ないやつね。」
「お前さんのその考え方の方が危ないだろ!?ったく、誰だこんな風にこの娘を育てた奴は?」
『私ですが?』
「おうっ!?何だ!?どっから声がしやがった?」
突然声が聞こえたことに驚いた男は、声の主を探してキョロキョロと周囲を見渡すが、特にそれらしい人物は立っていない。
「空耳か?まぁいい。取り敢えず本題に入ろう。嬢ちゃんはこの金貨の価値については知ってるか?」
「アンタ、私を馬鹿にしてる訳?そんなの知ってるに決まっているじゃない。銀貨百枚分でしょ。だから私がアンタに渡したんじゃない。馬鹿にするんじゃないわよ。」
「別に馬鹿にはしてねぇよ。そうだ、コイツには銀百枚の価値がある。そしてアンタはコイツを使って銀五枚分のシュティックを買おうとした。当然その分のお釣りを俺は返さなきゃならねぇ。もちろん返すつもりだ。」
「当たり前でしょ。返さなかったらぶっ飛ばすわよ。」
「本当に嬢ちゃんは逞しいな。それはまぁいい。問題はここだ。仮に嬢ちゃんにお釣りを返すとしよう。誰がお金を数える?」
「それはもちろんアンタでしょ。」
「そう俺だ。俺が数えた金を嬢ちゃんに渡すんだ。」
「そんなの当たり前じゃない。何をおかしなことを言ってー。」
「嬢ちゃんはそれを本当に信じるのか?」
男の一言に一瞬息が詰まる。そして男が何を言いたいのかエレンは理解した。
「なるほどね。つまり簡単に相手のことを信用するなってことね。」
「いろいろとはしょってはいるが、つまりはそう言うことだ。商売っていうのはお互いの腹を探りながら如何に自分の利益に繋がるか考えながら進めていかなきゃならねぇ。嬢ちゃんみたいに相手の事をホイホイ信用してると何処かで必ず痛い目に会うってもんだ。ちょいと話は飛んじまったが、さっきの釣り銭勘定だって野郎によっちゃあ、釣り銭くすねとられるところだったんだぜ。もちろん目の前で数えさせてやってもいいが、数枚位ならくすねることなんて余裕で出来る。失敗しても数え間違ってましたって誤魔化せばいいんだからな。」
種明かしをする男の顔はどこか楽しそうだ。それはどこか子供を驚かす大人のイタズラめいたものを感じさせた。
「いい大人が悪い顔してるわよ。」
「お、言うじゃねえか。そんな悪い大人から教わってる嬢ちゃんも悪い大人の一員だな。ともあれ商売って言うのはそういうもんだ。どんなことだろうが生き残るためにみんな必死でやってるのさ。そういった意味でもここは俺たちの戦場だな。」
「なるほどね。分かったわ。」
「オジさんから教えてやれるのはここまでだ。後は自分で考えながら逞しく生きてくれ。今回は俺がちゃんと釣り銭出してやるが、もし小銭がなくなった時は冒険者ギルドか銀行の方で両替してもらうといいだろう。」
「そうさせてもらうわ。」
「それじゃあ今から釣り銭用意してくるから待ってろ。」
男はエレンから金貨を受け取り店の奥で銀貨を数え始めた。
(『パン一つ買うのにもいろいろ学ぶことがありましたな。次からは我々も気を付けなければなりませぬ。』)
(「ふん、今回はちょっと緊張してただけよ。次からはそう簡単にいかないんだから。」)
(『そうですな。ともあれ御仁には感謝しなければなりませんな。』)
(「シュティックも無事買えたし、良かったわ。」)
(『それに関しては異論がありますぞ。そもそも何を勝手に購入しているのですか!ただでさえまだ収入がないのに無駄遣いされてどうするおつもりですか‼只でさえ手持ちは多くないのですぞ‼』)
(「別に無駄遣いじゃないわよ。さっきも言ったでしょ。人間の食糧事情を知ることは大切だって。これもその一環よ。」)
(『何をまた訳のわからんことをー。』)
「待たせたな、ってどうした嬢ちゃん?何か嫌なことでもあったか?」
店の奥から戻ってきた男が怪訝そうな顔をしているエレンを不思議そうに見る。
「な、何でもないわよ。」
「そうか。ま、聞かないことにしとくか。それよりほら。お釣りの銀九十五枚だ。落とすなよ。」
「言われるまでもないわ。」
銀貨の詰まった袋を男から受け取り、懐にしまう。
「それじゃあ行くわね。また気が回ったら買いに来てあげるから頑張って続けなさいよ。変態オヤジ。」
「誰が変態オヤジか‼嬢ちゃんも他人に騙されないように気を付けなよ。」
冗談を言い合いながら二人は別れを告げる。エレンは早速購入したシュティックを一本頬張りながら上機嫌で歩いていく。それを見送りながら男が呟く。
「…あの嬢ちゃん本当に大丈夫か?性格的には大物なんだがな。あれを育てる方は相当苦労するだろうな。」
もちろん男の心配などエレンたちは知るよしもしない。
「ま、こいつは授業料としてありがたく貰っておいてやるぜ。」
掌にある五枚の銀貨の感触を確かめながら男は店の奥へと戻っていった。
シュガースティックバターパン、略してシュティック!
安直ネーム素晴らです!シンプルイズザベスト!
次回は15日(水)に変更します。
読んでいただきありがとうございます!




