15話 母性の赴くままにまさぐりたい‼
「じゃあエレンちゃん。これからメイお姉さんがここの受付について手取り足取り説明してあげるねぇ♪」
「…。」
「受付のカウンターには必ず人が立ってるからその人に声を掛けてね。あ、特に私がいたらいつでも声掛けて来てね。エレンちゃんなら他の人より先に優先してあげるから。」
「…。」
「そしたら私が抱き締めて、あんなところやこんなところをきゃきゃうふふしてー。」
「ーっ‼」
「こーら。いい加減止めないと、エレンちゃんから本当に嫌われるよ。もう手遅れだと思うけど。」
「あいたっ!?ちょっとケイ。只でさえさっきのエレンちゃんのチョップが効いてるんだからやめなさいよね。」
「自業自得だと思うけれど。とりあえずメイは黙っておくこと。流石に口まで封じるのは僕の良心が痛むからね。くれぐれもそんなことさせないでくれよ。」
「むぅー。」
「はぁー、やれやれ。」
メイトの度しがたいイタズラに精神的トラウマを植え付けてしまったエレン。メイトの言葉に反応する度に震えており、その度にケイトがメイトの後ろから本で頭を叩いている。現在エレンを落ち着かせるために今は受付のカウンターを挟んでメイトたちと話しをしている。他の人に受付を作業を任せようとしたのだが、それはそれでエレンがメイトの奇襲を恐れているらしいので仕方なくメイトに作業をさせることになった。一応二人の見えないところでドルマックが念話を通して呼び掛けて、やっと少しは話せるようにはなったのだが、今のエレンの様子にメイトが「ヤバい、萌える‼」と言って更に暴走しそうになったため、ケイトが慣れた手付きでメイトの両足を縛りながら椅子に体を固定するように縛り付けている。流石に両腕を縛ると作業が出来なくなるため、代わりにケイトがメイトの後ろで見張ることになり、現在のこのような形になったのだ。
「さて、このままだと話が進まないから僕の方から説明していくけど、エレンちゃん本当に大丈夫かい?」
「え、えぇ。お願いするわ。」
エレンは震えながらもなんとか正気を保って言葉を紡ぐ。
「わかったよ。もし辛くなったらちゃんと言うんだよ。」
ケイトの言葉に素直に頷く。それだけ精神的余裕がないことが窺える。ケイトはなるべく負担の掛からないように注意するように心掛ける。もちろん目の前に座る存在のことも注意しながらだ。ひとまず咳払いをして仕切り直す。
「それじゃあはじめにエレンちゃんのカードに登録情報を書き込もうか。そこの台座にくぼみがあるはずだから、それに合わせてカードを置いてみて。」
カウンター前に立つエレンの左側には胸元よりやや低めの高さがある石柱の台座が置いてあり、台座の中央には長方形のくぼみがあり、更にそのまん中には丸型のくぼみが象られていた。丁度ギルドカードが嵌まる大きさだ。エレンは自分のギルドカードを取りだし、くぼみに合わせてカードを置く。
「そのままカードの上に手を重ねるように置いていて欲しい。そうすることで君の魔力を認識してくれるはずだ。」
言われたとおりにカードの上に手を置く。するとカードから淡い紫色の光を放ち、そこから広がるように台座全体に何本もの光の線が走る。置いた左手には掌に巡る魔力にカードが反応して魔力を感じることが出来た。掌を巡る魔力がもぞもぞと動いてるようで少しくすぐったい。しばらくすると目の前のカウンター上に水色の窓枠が浮かび上がる。
「…何、これ。」
不可思議な現象を目の前にエレンは大きく目を見開き、驚きを隠せないでいた。窓枠の隅にエレンと書き込まれた文字が浮かび上がっていた。
「これが君のギルドカードの情報だよ。これを読み取るためにはこの専用の魔道具が必要なんだ。情報の書き込みなんかもこの魔道具でないと出来ないようになっているんだ。とりあえず今から君のギルドカードに情報を登録していくよ。メイお願い。」
「はいはい。」
「返事は一回。」
「はーい。」
返事をするやいなや、メイトは手元を忙しく動かし始めた。カタカタと音が鳴り響く中、音とシンクロするかのように窓枠の中に文字が次々と浮かび上がる。どうやらメイトが情報とやらを打ち込んでいるようだ。鼻唄を奏でながら上機嫌で作業を進めるメイトの姿に、何故かエレンは悪寒を感じた。
「その間に受付でのやり方について説明するね。ここでは主にクエストの受注と提示、あとお金の預け入れを行っているんだ。まずは待機所に提示しているクエストが現在募集している内容になる。その中から選んだらその事を一度受付に報告するんだ。そうでないとクエストを受けることが出来ないから注意してね。」
「な、何でいちいち報告しなきゃならないのよ。別に好きなものを選んでやらせればいいじゃない。」
「これはクエストにランクを付けている意味にも繋がってくるんだけど、たまに自分の力量に合わないようなクエストに挑戦しようとする人がいるんだ。それを阻止するために一度こちらで確認させてもらっている。2階でカードの説明している時にランクとクエストの受注履歴が記録されることを話したと思うんだけど、それらを照らし合わせてそのパーティーが見合う力があるかどうかここで確認してるんだ。これには生存率の底上げの意味もあるけど、成功率をあげることで依頼人への信頼度をあげる意味合いも兼ねてるんだ。そうしないと僕たちの仕事が減ってしまうからね。」
「なるほど。」
「あとは混乱を避けるため基本的には一つのクエストには一パーティーの受付しか行ってないんだ。もちろん例外もあるけれど、滅多に起きないからあまり気にしなくていいかな。そしてクエストを受けてからの流れだけど、基本的にはクエストをこなしてこちらに報告して物を渡してもえればそれでクエストは終了だね。但し場合によっては依頼人と直接やり取りしないといけなかったりするからその時は状況に応じて動いてもらうことになる。特にランクが上がるとそういう動きが必要になってくるから、困った時は周りの人からいろいろ話を聞いてみるといいよ。」
「わかったわ。ま、私なら人に聞かなくても大丈夫だわ。余裕よ。」
少し心にゆとりが出来てきたのか、強気な発言が出るようになった。その姿見てケイトは安堵しながら説明の続きを進める。
「物に関しては掲示してある物をこちらに届けてくれればいいんだ。但し収集クエストや討伐クエストの場合は回収した物を渡してもらえればいいけど、それ以外のクエストの場合は依頼主から直接受け取った物を渡して欲しい。受け取る内容はこちらから公開出来ないからその都度依頼主に確認してね。そうしないとクエストをせずに何らかの手段で手に入れた物だけ持ってくる人が現れかねないからね。一応保険としてそういう処置を取っているんだ。」
「いろいろと面倒臭そうね。」
「こっちも無償で提供してる訳だし、依頼主との信頼関係を維持したいからね。なるべく不正とか起こして欲しくないんだよ。」
「ふーん、まぁいいわ。それより報酬はパーティーで山分けするのかしら。」
「殆んどのパーティーがそうだね。とりあえずはクエストを受けたパーティー内で話し合って貰って、それに合わせてこちらで仕分けるようにしているんだ。その際にその場で現金を渡すこともできるし、こちらで預かることもできるんだ。預けたお金はカードの情報に記録されるから、他の街の冒険者ギルドでも引き出すことが出来るよ。道中お金を持ってると危ないし邪魔になるから、必要でなければみんな預けてるかな。」
「わかったわ。」
「受付でやることはだいたいこんな感じかな。何か質問とかあるかい?」
「ランクをあげるにはどうしたらいいの?クエストの数をこなせばいいわけ?」
「そう言えば話してなかったね。ランクをあげるには現ランクのクエストの数をこなしてもらうのは確かなんだけど、その上で昇格するの為の見極め試験みたいなのを行ってもらうんだ。」
「見極め試験?」
「試験と言ってもクエストには変わりないんだけど、こちらから提示した一つ上のランクのクエストを受けてもらうんだ。」
「なるほどね。つまりそのクエストを達成したらランクをあげることが出来るわけね。」
「そう言うこと。試験が受けられるようになった時はこちらから連絡するから、自信があるときは挑戦してみるといいよ。」
「ふん、言われるまでもないわ。すぐにAランクまで追いついてアンタの鼻を明かしてやるんだから。」
「あはは、その時を期待して待ってるよ。」
少しずつ会話を挟めるようになり、エレンも大分調子を取り戻したようだ。あとは時間が解決してくれることを祈るばかりである。
「とりあえずはこんなところかな。もしわからないことがあったらまた聞いてね。」
「そうさせてもらうわ。」
「メイ、そっちの状況は?」
「あと少しで終わるわ。これをこうして…、こう。ケイ、終わったわよ。エレンちゃんもお疲れ様。」
「…なんか、普通、ね。」
「何が?」
「…いいえ、何でもないわ。」
心を持ち直したエレンはメイトに対して身構えていたのだが、以外にもメイトが落ち着いていることに肩透かしを食らった気分だった。その様子に思わずケイトが苦笑する。
「メイは普段こんな感じだよ。さっきみたいに暴走すると周りが見えなくなってしまうけど、落ち着かせれば普通に接することが出来ると思うよ。もっともそのためには他のことに集中させないといけないけどね。」
「…本当にめんどくさいやつね。」
「まったくだね。」
お互いにため息吐きながら、メイトに対する認識をまとめた。それに対し椅子に縛られたいるメイトはガタガタと椅子を揺らしながら不服そうに抗議する。
「二人して酷い言い様じゃない。確かに私が悪かったのは認めるけど、これも全部エレンちゃんが可愛いかったのがいけないんのよ。そうでなければ私もあそこまで暴れたりしないもの。エレンちゃんを見た時からエレンちゃんを抱き締めたいと私の母性本能が叫ばずにはいられなかったわ。」
「君の行動には母性の欠片もなかったと思うんだけど。」
「ふふ、ケイは女と言うものをわかってないわ。」
「いやいや、僕も女性なんだけど。」
「いいかしら。女性と言うのは愛おしく感じたものを思わず包み込みたくなってしまうものなの。それは煩悩や欲望なんてちゃちなものじゃないわ。心の奥底から求めて止まないの。そして気付けば体が勝手に動いてしまう。そこには煩悩や欲望なんて入る隙間もないの。本能の赴くままに抱き締めてしまっているのよ。だから私はエレンちゃんの全てを包み込む思いで抱き締めてあげたのって!?痛い痛い‼ケイやめて、やめなさいってば‼」
メイトの頭にケイトは持っている本で容赦なく叩く。しかも何回も。メイトは空いてる腕を頭に回してケイトの攻撃から身を守るようにしてカウンターに突伏する。
「せっかく大人しくなったから解放してあげようと思ってたんだけど、どうやら今しばらくこの状態にしておかないといけないみたいだね。」
「ちょ、ちょっと待ってケイ。反省したから。もうしないからこの縄を解いて欲しいなぁ。エレンちゃんにも抱きつきません。もう変なことも言いません。仕事も真面目にしますから‼だからこの縄解いて下さい‼お願いします‼」
涙目になりながら必死に懇願するメイ。心優しい者ならばその姿に少ない罪悪感を抱き、思わず許してしまいそうなあざとさを抱いた仕草だった。
「と言うことらしいけど、エレンちゃんはどうしたい?」
ケイトとしてはいつものことなので許すつもりはないのだが、今回の主な被害者はエレンであるため、エレンの意見を尊重することにする。
「そうね。当分そのまま見張りをお願いするわ。もちろん縄もそのままで。可愛そうだから腕だけはそのままでいいわ。お仕事頑張らないといけないでしょ?」
「そうだね。そうしてもらうと僕も助かるよ。」
お互いに冗談めかしたように話しながら笑う。
「それじゃあ仕方がないわね。他は解けないようにしてしっかり縛っておきなさいよ。もし私がここを離れてからそいつに襲われたら只じゃおかないから、その時は覚悟しておきなさい。」
「わかったよ。その時はお手柔らかにお願いしたいね。」
「それはコイツ次第ね。精々逃げられないように頑張りなさい。」
そう言ってエレンは自分のギルドカードを台座から回収して受付から離れていく。
「明日も迎えに行くからよろしくお願いね。」
ケイトの声に振り向かず、代わりに杖を振って答えるエレン。そのまままっすぐ出口に向かい、エレンはギルドを去って行った。
「さてと、それじゃあ僕たちも仕事に戻らないとね。君のお陰で仕事が全然進んでないからね。」
「私のせいにするのはお門違いじゃない?別にケイが居なくても、私とエレンちゃんだけでも作業は出来たわよ。」
「相も変わらず君は懲りないね。まぁそれが君らしいところでもあるんだけど。くれぐれもエレンちゃんを怒らせないようにしなよ。僕にまでとばっちりが来るんだから。」
「うるさいわよケイ。心配しなくともエレンちゃんを怒らせるようなマネ、私がするわけないでしょ?」
「どこからそんな自信が出るんだろうね、君は。やれやれ。」
そして、残された二人はいつものように仕事に戻る。
「それよりいい加減にこの縄はずしなさいよ。」
「残念ながらそれは出来ない相談だね。」
どどーんと今週も2話出します。
次回は11日(土)投稿予定です。
読んでいただきありがとうございます
m(_ _)m
やっとギルドの外に出れた(-_-;)




