13話 ギルドカード 後編
週2回投稿する関係で今回から木から水に引っ越しします。
自分都合で申し訳ないですが宜しくお願いします。
「それでさっきの話の続きなんだけど、そのカードに魔力情報を記憶させると、それまでに記された情報は固定されてしまって書き直しを行うことができなくなるんだ。だから名前を修正するにはまだ魔力情報を記憶させていない今しかできないんだ。」
「でもそれって可笑しくないかしら?魔力を記憶させた後に書き直しが出来ないとしたら、後から追加される情報を書き加えることすら出来なくなるってことなんじゃないの?ランクやクエストの受注履歴とかの情報も更新されるんだから、そんなことになったら尚更意味を成さなくなるじゃない。」
「そのためにこの魔石が嵌め込まれてるんだ。あくまで書き直しが出来なくなるのはこっちの金属部分だけだからね。こっちの魔石に書かれている情報は書き換えが可能なんだよ。」
「ふーん、なるほどね。納得したわ。」
感心したような声をあげながら、先程受け取っていたカードを繁々と見つめる。艶のある銀盤上に何かを潜めるように輝く魔石には、どこか引かれるような魅力を感じた。
「それで?魔力を記憶させる方法だけど、どうやるのかしら?まさか、単純にこのカードに魔力を込めろとかバカみたいなことは言わないわよね。」
「まさかそんなことさせないよ。そんなことやったら簡単に魔力が尽きちゃうし、もともと魔法を扱えない人がギルドを利用出来なくなっちゃうよ。まぁ、さっきのエレンちゃんが使った魔法ぐらいの魔力を込めたら出来なくもない気がするけど。」
魔力を他の物質に流し込むこと自体は魔法を扱える者には別に難しい話ではない。それこそ魔石に魔力を送り込む要領で行えばよい。しかしその魔力を物質に留めさせるとなると話が変わってくる。というのも魔力と言うものがその場に留まりにくい性質を持っているからだ。質の高い魔力なれば幾分かその場で留まる事が出来るかもしれないが、時間が経てばいずれその魔力も霧散してしまう。そのため魔力を常に送り続けなければ維持することが出来ないのだ。ただでさえ魔力量が少ない人間がそのようなことを行ってしまえば簡単に魔力が尽きてしまうだろう。ましてや魔力を記憶させられるまで物質の変化を待つとなると、それ相応の時間が必要となってくる。それこそ人間の寿命で足りるかわからない程の時間だ。魔鉱石を人の力だけで作れないのはここに理由がある。もっとも人間でないエレンであれば出来なくはないが正直時間と魔力の無駄遣いでしかない。それでもー。
「そう?ならもう一回やってー」
「エレンさん。」
「う、冗談よ、冗談。まったく、可憐な乙女の軽いお茶目がわからないのかしら。」
柔和な表情を浮かべながらもクラウスの鋭い牽制にたじろぐエレン。もっとも、エレンの事だから本気でやりかねないため、ここで止めて正解である。傍らで見ているドルマックの精神力がガリガリと音をたててすり減っていく。
「それで?どうすればいいのよ。」
「やり方は簡単だよ。少しだけそのカードに血を垂らせばいいんだ。」
「血?」
「この銀板には血中の魔力を取り込み記憶する性質を持っているらしい。しかも一度記憶すると記憶した魔力を感知しない限り他の魔力は受け付けなくなるみたいなんだ。ギルドでは銀行みたいなことも行ってるから、他の人にカードを利用されそうになっても扱うことを出来なくしているんだ。」
「…何その悪魔と契約するみたいな魔道具。気持ち悪い。本当に大丈夫な訳?」
ケイトの説明に不信を抱くエレンは目線をクラウスに向ける。それを察したクラウスはエレンに頷いて答える。
「大丈夫ですよ、エレンさん。あなたのお父上もお持ちでした。エレンさんも少しだけ問題が生じる程度で済むと思いますが。」
「それで大丈夫と言うあたり、あなたも相当パパに毒されてるわね。…まぁなんとなく想像はできるけど。」
「恐縮です。」
「誰も褒めてないわよ。それよりもこっちに集中しなきゃいけないわね。」
「どういうことだい?」
「まぁ見てればわかるわ。」
「?」
いまいち二人の会話に要領をつかめていないケイトをそのままに、エレンはテーブルの上にカードを置いて、左手の人差し指の爪を親指の腹の部分に立て傷つける。傷ついた部分から一滴の血をカードに落とした。
すると、受け止めたエレンの血に反応したかのようにカードの魔石が光を放ちながら浮き始めた。エレンが身に纏うローブや帽子が揺れ動く程度の微風を纏いながらカードはエレンの眼前で浮遊していた。それはまるでエレンの答えを待っているかのように。
「―――。」
その姿を静かに見つめていたエレンは、浮かんでいるカードを包み込むように両手で受け止める。するとカードが放った光と風が拡散し、浮力をなくしたカードは重さを取り戻したかのように包まれた手の中に収まった。
「…ふぅ。」
エレンが一息ついて静寂を破る。突然の不可思議な現象に部屋は嵐が過ぎたあとのように静かだった。と言ってもこの中で驚いているのは眼鏡をずらしながら目と口が開きっぱなしにして呆けているケイトだけである。クラウスはエレンの様子を静かに見守りながらも念のために身構えて備えていた。そして今、エレンが吐息を漏らしたことによって事なきを得られたことを確認する。
「何事もなく終えることができたわね。」
「いやいや、すごいよエレンちゃん!!さっきのは一体何なんだい!?びっくりし過ぎて何も声をあげることができなかったよ‼」
「ちょ、何よ!?離れなさい‼」
現実に戻ってきたケイトが飛びかからんとばかりに、テーブルに手を付けながら前傾姿勢でエレンに食いつく。その顔はまるで宝物を見つけた少年のように目を輝かせて明るく晴れやかな表情を浮かべていた。
さすがのエレンもソファーの上で驚いたように身を引かせながらも、ケイトの頭を片手で押さえつけて遠ざけようとする。
「ケイト。少しは落ち着きなさい。」
「あはは、すみません。ついつい。」
「やれやれ。」
クラウスに止められたことで我に帰ったケイトは、はにかみながら頬を掻いてソファーに座り直すのだが、それでもまだ落ち着きを取り戻せていない様子だった。エレンはケイトを警戒するようにクラウスの向かい側に座る。
「それにしてもさっきの現象は何なんだい?」
興奮が冷めないケイトの疑問に答えたのはクラウスだった。
「あれは魔力の暴走だよ。」
「魔力が暴走したんですか!?」
「そう。殆どの人が起こすことはないんだが、魔力の多い人が魔石を使うとたまに起こしてしまうことがある。もともと魔石は魔力の少ない我々が魔力を補うために使うの物なのだが、それを越えるような魔力が魔石に送り込まれた場合、魔石が過剰な魔力に耐えられなくなり、さっきみたいに暴発してしまうんだ。幸いエレンさんがある程度制御してくれたお陰で被害は出なかったが、物によっては大きな被害を被り兼ねない。それだけに危険な状態ということなんだ。」
「あの程度制御するなんて簡単なことよ。」
腕組み、脚組み、右手の人差し指を立てながら誇らしげにドヤ顔で決めるエレン。しかしその実、ドルマックの力を借りて魔力の分散を促していたのであった。
「なるほど。そうだったんですね。」
「ともあれ何事もなく済んで良かったよ。」
そう言いながらクラウスは安堵の息を漏らす。クラウスのその姿に珍しいものを見たと思いながらケイトはふと気が付く。
「もしかしてエレンちゃんとクラウスさんはこうなることをわかっていたと?」
「まぁね。パパの名前が出てきたからなんとなく予想していたわ。」
「さすがですね。」
「当然のことよ。」
先程の二人の会話はこうなることを想定してのやり取りだったという訳だ。暴発しても落ち着いていたのも納得できるものである。
「しかしいくらエレンちゃんの魔力の質が普通の人より高いと言っても、血の一滴だけで暴発してしまうのはいくらなんでもおかしいと思いますよ?先程の会話からしてカードの不良という訳ではなさそうですしね。それに暴走した魔力の制御までしてみせた。只でさえ魔力を制御することは難しいことなのに、暴走した魔力すら制御できてしまうその力は、正直度外ししすぎだと思いますよ。」
「ドキッ!」
「クラウスさんとエレンちゃんのお父さんは知り合いでみたいですが、そんな規格外の力を持った人、本当にいるんですか?」
「…何よ。それじゃあまるで私が人間じゃないとでも言いたいのかしら?」
「別にクラウスさんやエレンちゃんを疑う訳じゃないけど、その可能性は大いにあるよね。」
「…。」
ケイトは鋭い眼差しをエレンに投げ掛ける。その視線は疑惑よりもどこか品定めをしているようなそんな雰囲気だ。今までのケイトとは帯びている空気が明らかに違うのを感じた。
ともあれ確信を迫るケイトの発言にエレンはもはや心穏やかではなかったのだが、ここで引いたら負けだと負けず嫌いのプライドがプラスに働きを虚勢を保つことが出来た。しかし下手な発言は出来ない上に沈黙を続けても状況は不利になるばかりで、焦燥感に駆られて冷静に考えることが出来ないでいた。
(「爺や、どうにかならないかしら。」)
自分だけでは打開策が浮かばず、逸る気持ちでドルマックに聞いてみる。が、しかし―
(『…私からは何とも言えませんな。』)
(「…どうにもならないっていうの。」)
(『今我々が弁明したところで状況は変わりそうにありませんな。下手な発言はかえって悪くなるような雰囲気です。沈黙もよくありませんが、今は手の打ちようがありませんな。』)
(「…。」)
静観していたドルマックもエレンと同じような結論に至ったらしい。答えを聞いてよりどうにもならない現状を強く叩きつけられたのだった。それでもなお諦めたくないとの思うも良い考えが浮かばず、煮え切らない気持ちに思わず歯噛みする。
部屋は先程とは違った静寂で満たされていた。ケイトも動かずに静かにエレンの様子を見守っていた。エレンも変わらず考えを巡らせながらも、口は動かず沈黙を続けた状態だった。静寂の時間は短いようで長いような、むしろ止まっているような錯覚にさえ囚われてしまうぐらいに変化のない空間と化していた。
しかしそれも永遠とは続かない。
「ケイト、意地悪はそこまでだ。」
クラウスが手打ちするように会話に加わる。しかもそうなることをわかっていたのか、ケイトもいつもの調子に戻る。
「あはは、すみません。エレンちゃんがあまりにも可愛かったものですから、つい意地悪したくなっちゃいまして。」
「なっ!?」
ケイトの空気の変わりように驚いたエレンは、思考が追いつかないまま固まってしまう。
「いやぁごめんね。本当はこんなことはしたくなかったんだけど、あまりにも君の反応が可愛くてね。ちょっと意地悪してみたくなったんだ。」
はにかみながら謝るケイトだが、その姿からはあまり悪びれているようには見えない。どちらかというと友人をからかう少年のような無邪気さを感じさせる。しかしその表情はかえってケイトという人物の不気味さを増長させる。幸いと言っていいのか、未だ思考の戻らないエレンにはそんなことを思う今は余裕すらなかった。
「でもエレンちゃん。これからは気を付けなきゃダメだよ。」
そこでまたもケイトの空気が代わり、真剣な表情を浮かべる。しかし声には先程と違ってどこか優しさを感じられた。
「君にとっては容易なことかもしれないが、人間にはとってはそうじゃない。今みたいな力を人前で安易に奮ってしまえば、いずれ君の事を疑うような人間が現れるようになる。況してはその力を利用しようと企む人間も必ず現れるはずだ。」
「…。」
「まぁ、君がそれで構わないというのであればいいかもしれない。だけど本当にそれでいいのかい?そうなってしまえば君がここに来た目的を成し得ることが出来なくなるんじゃないのかな?」
「…。」
「あ、別に僕は君の事情や目的はわからないし、無理矢理聞き出そうとも思っていないからそこは安心していいよ。君の弱味を握って利用しようと思えば出来るのかもしれないけど、そんなことはするつもりはない。それも安心してほしい。」
「…。」
「本当ならギルド側として君のことを警戒するべきなんだろうけれど、クラウスさんが事情を知った上でここまで連れてきたんだ。だから僕は君を歓迎するよ。君とはこれからも仲良くやって行きたい。」
「…。」
「とりあえず、僕からはこんなところかな。何か質問はあるかい?」
「…やっぱりアンタのこと嫌いだわ。」
「あはは、それはとても残念なことだね。」
思考の戻ったエレンの一言を聞いてケイトはいつもの調子に戻る。どこまでもふざけたように話す彼女の本心を掴めないでいたエレンは、とりあえず彼女が自分の中で嫌いな部類の人間だということだけは把握した。
「それじゃあ嫌いになったところ申し訳ないんだけど、明日から一緒に行動することになるからよろしくね。」
「はっ、冗談でしょ?」
そしてこれである。やっぱりこいつのこと嫌いだと確信する。だからクラウスに聞こうと視線を向けると、首を振ってエレンの言葉を否定する。
「冗談ではありませんよ。明日からはケイトとパーティーを組んでもらいます。あとで残りの2名を紹介致しますが、明日はその4人で回ってもらいます。」
「ちょっと聞いてないわよ、そんな話。」
「すみません。ですがこちらもお父上より頼まれたことですので、先に手配しておきました。」
「…またパパなのね。」
「さすがに私が付いて行く訳にもいきませんので、代わりに彼女に付いてもらいます。性格上誤解されることもありますがケイトはAランクの冒険者なんですよ。少なからずお力になるかとは思います。」
「Aランク?嘘でしょ?」
エレンの驚く顔を見てケイトは苦笑する。
「みんなからもよく言われるよ。まぁAランクと言っても僕個人にそこまで戦力がある訳じゃないからね。期待される程の力は持ってないよ。」
「ふん、Aランクも大したことないのね。これなら私も余裕でAランクになれるわ。」
「ふふ、そうだね。それじゃあまずはその第一歩をしっかり成功させないといけないね。」
「…仕方がないわね。せいぜい私の足を引っ張るんじゃないわよ。」
「期待に応えられるように頑張るよ。」
エレンの皮肉をものともせず、爽やかな笑顔を向けてくるケイトを見てエレンは思った。
「…やっぱりアンタのこと嫌いだわ。」
今週も2話投稿致しましょう‼
次回は4日(土)投稿予定です。
読んでいただきありがとうございます!




