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ドラぷり放浪記   作者: えだまめ
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11/22

11話 手紙

 クラウスに勧められて、とりあえずソファーに座り直すエレン。


「そちらの封書にはエレン様宛の手紙が入っておりますので、よろしければお読みください。」


 クレッツィオに行くように指示を出した本人である。事前に手紙を出しておけばいずれはエレンのもとに届くと踏んで送っていたのだ。


「…まだ旅立って数日しか経ってないんだけど。」


 旅立ってからそれほど日が経っていないため、感動や懐かしさなど微塵もありはしなかった。


『親とはいつでもの自分の子供を心配するものです。旦那様も姫様のことを心配されているのですよ。』


 エレンを宥めるように爺やが諭す。


「ドルマック殿宛の手紙も一緒に入っているようなので、お読みになられてはいかがでしょうか。」


『そうでしたか。それでは私も姿を変えた方がよろしいですね。姫様、すみませんが少し離れた所に私を置いてください。』


「わかったわ。」


 エレンは爺やと呼ばれる杖を適当な場所に置いて離れる。すると杖を囲むように光が集まり空中に浮き始めた。光は次第に大きくなり人の形を模していく。形が整い、光が収まるとそこには燕尾服姿の老齢な男性が立っていた。


「改めましてクラウス殿。私はエルドラド王のもとで執事をさせていただいておりますドルマックと申します。」


 ドルマックはクラウスに対し一礼をする。薄灰色の髪は短く整えられており、顔の所々に堀の深い皺が刻まれていた。背はクラウスと同じくらいでありながらも肉つきが少なく体は細かった。しかし一つ一つの動きに隙がなく、落ち着きのある姿からは貫録を感じさせた。


「はい。これが爺や宛の手紙よ。」


「ありがとうございます。」


 封書を開けて確認したエレンはドルマックに手紙の何枚かを渡す。


「さて、何て書いてあるのかしら?」


 エレンは手紙に目を通し始めた。


〝エレンよ、元気にしているか?この手紙読んでいるということは無事にクレッツィオでクラウスと合流出来たということだな。もっとも問題なければ旅立ってから数日で合流出来たであろうが、お前のことだ、門前で捕まりそうになったところをクラウスが助けてくれたのではないか?〟


「う、何で知ってるのよ。どこからか見てたんじゃないの。」


 エレンの性格からして起こりえる事を予想していたのだろう。さすがエレンの父親である。


〝街中で問題を起こしてもクラウスとドルマックがいれば助けになってくれるだろうが、あまり無茶はするんじゃないぞ。お前は私の大事な娘だ。お前のことをいつも心配している。くれぐれも気を付けるのだぞ。〟



「相変わらずパパは心配性ね。そんなに心配しているなら彼のことを教えてくれればよかったのに。」


 愚痴をこぼすエレン。それを見計らったかのようにクラウスについて綴られていた。


〝さて、クラウスについては本人から窺っていると思うが、彼はクレッツィオの冒険者ギルドでギルドマスターを務めている者だ。彼とは旧知の中で私が信頼している人間だ。安心してほしい。だがお前たちには敢えて彼のことを教えなかった。それはこの旅をお前自身の足で歩んでほしいと思ったからだ。旅立つ前にも話をしていると思うが、お前にはこの旅でいろいろなことを体験してほしいと思っている。私が膳立てしては出来ることも限られてしまうだろう。お前の旅路をあまり縛るつもりはない。だからお前も皇女としてではなく一(いち)旅人として世界を歩んで来てほしい。私やエルザが歩んだように。〟


「ママ…。」


 エレンの母親エルザリーナは彼女が幼い時に病気で亡くなっていたのでエレンはあまり覚えていなかった。一応父のエルドラドやドルマックからエルザリーナのことを教えてもらっていた。特にエルドラドに至ってはエルザリーナと結ばれた事を誇りに思い、今でも愛していると言ってエルザリーナ亡き今でも妃を取らずにいた。

 父を尊敬しているエレンはエルザリーナの事も尊敬していた。しかしその反面で母親がいないことに寂しさも感じていた。別に暗い毎日を送っていた訳ではない。むしろ賑やかになったくらいだろう。母亡き後は爺やのように城で勤めていた使用人たちが乳母となってエレンを育ててくれていた。しかしいくら親密であったとしても主従の関係は変わらない。年を重ねる毎にそれを実感するようになった彼女は、より寂しさが増すのうを心に感じていた。

 今も母親の名前を目にした彼女は悲しげな表情を浮かべていた。


〝だが全てお前だけで抱える必要はない。もし何かに行き詰った時はドルマックやお前が信頼できる者に相談し協力すると良い。クラウスにも協力してもらえるようお願いしているから街のことなどを彼に聞いてみるのも良いだろう。もっともお前の場合は思いついた事をすぐに行動に移してしまうだろうがな。〟


「うっ…。」


 本当のことなので何も言えない。


〝別にそれが悪いという訳ではない。時には必要な場合もあるだろう。だが場合によっては自分だけでなく仲間を危険に晒すこともある。そうなった時に傷つくのはお前自身だ。そうならないためにも良く考えてから行動するのだぞ。〟


「わ、わかってるわよ。言われるまでもないわ。」


〝それと冒険者ギルドに登録していると良いだろう。これから先は自分の力で人間として生活しなければならない。冒険者ギルドに登録しておけば、ギルドがある街にならどこでも依頼を受けることが7出来き、またいろいろと優遇される部分もあるのだ。旅をするうえで都合が良いだろう。ギルドについてはクラウスから説明を受けるが良い。そのためにお前たちをクレッツィオに行かせたのだからな。〟


 高らかに笑う父の姿が浮かび、呆れながら思わずクスリと笑ってしまった。


〝それでは気を付けて旅をするのだぞ。くれぐれも人間たちの秩序を乱すような行為は避けるように。約束を破るようであれば旅をやめさせるようにドルマックにも伝えているから心するように。〟


「はいはい、わかっているわよ。」


 約束に関してドルマックから散々言われているため正直ウンザリしていた。


〝もし旅の途中で寂しくなったらいつでも帰ってきていいからな。〟


「ま、当分は帰らないかしらね。」


〝パパはいつでもお前の帰りを待ってるぞ〟


「…。」


〝待ってるぞ。〟


「しつこい!!」


 思わず突っ込んでしまうエレン。


 エルドラド王は娘であるエレンを溺愛していた。特にエルザリーナ亡き後はぞっこんである。嬉しくない訳ではないのだがお年頃?のエレンとしては正直やめてほしかった。

 そんな彼が溺愛している愛娘を旅に出したのは、ひとえにエルザリーナとの約束があったからだ。彼女は自分たちが見てきた世界を娘にも見せてあげたいと思っていた。そのことを聞いたエルドラドは妻の願いを叶えると彼女に約束したのだ。本当はエルドラド本人が一緒に旅をしたかったのだが、さすがに国を離れる訳にはいかないし、エレンに強く反対されたのだ。さすがにエレンだけで行かせるのはいろんな意味で危険であるため、執事であるドルマックを付けるようにしたのだった。仕方がないこととはいえそれでも不満だったエルドラドは、エレンが旅立つその時まで悪足掻きのように策を弄して頑張ったようだが、結局無駄に終わってしまうのだった。


「パパも相変わらずね。」


 父親のこういうところがなければ良いのだがと呆れたようにため息をつくエレンだったが、相変わらずの父親の様子にほっとしたのか自然と肩の力が抜けるのを感じていた。大胆不敵のように見えるエレンといえどやはり慣れない環境に緊張していたようだ。そういった意味でも父親からの手紙はありがたかった。


「それだけあなたのことを想ってらっしゃるということですよ、エレン様。エルドラド王はあなたのことを良く話しておりましたよ。」


「なんかそう言われると恥ずかしいからやめてよね。」


 恥ずかしくなったエレンは頬を少し赤く染め、顔を隠すように俯く。


「ま、まぁでも、あなたがパパの知り合いだっていうことは良くわかったわ。」


「ありがとうございます。」


「それじゃあさっそくだけどこの街のことと冒険者ギルドについて話を聞きたいんだけどいいかしら?」


「えぇ、よろしいですよ。」


「爺やもそれでいいわよね?」


「…。」


「爺や?」


 ドルマックの反応がなかったので後ろを振り向くと、気難しい顔で手紙を読んでいるドルマックがいた。


「どうしたの?」


「…いいえ、何でもございませんよ。字がぼやけて少し読み辛かったものですから。」


「ふーん、爺やも歳ね。もうお城に帰って隠居した方がいいんじゃないかしら?」


「その場合はここに旦那様をお呼びしなければなりませんがよろしいでしょうか?」


「お仕事で大変なのよ。呼んだところでパパが来るはずないわ。」


「あの旦那様のことですから、姫様のためなら何が何でも来そうですがね。」


「うっ…。」


 エレンは言い返すことが出来なかった。エレンがエルドラド王を避けている事を知っていたドルマックの方が一枚上手であった。



*****



「すみません、クラウス殿。改めてこの街と冒険者ギルドについて教えていただいてもよろしいでしょうか?」


 エレンが黙ってしまったので、代わりにドルマックがクラウスに話を切り出す。


「わかりました。それではまずはこの街、クレッツィオについてお話しましょう。」


 そしてクラウスは説明し始めた。

 クレッツィオはフィン王国東北部にある四つの街道の交差地点に在しており、商業が盛んな街である。国境付近でもあるこの街の北側と東側の街道はそれぞれ他国に伸びている。また西側は外海との交易が進んでいる港町ミルタスがあり、南側は王都フィンクスへと繋がっている。そのため中間に位置するこの街にはさまざまな国の特産品が流れ着くのだ。商人たちにとってこれ程便利な街はない。また多くの人の往来があるこの街ではさまざまな情報が流れてくるため、この街の存在は国やギルドから重要視されていた。

 街の構造としては交差点を中心に丸型に外壁で囲っている。街道沿いにさまざまな店が並んでおり、中央にはギルドや役所などの重要な施設が配置されている。街道間の扇部分に小道を通して、住宅や小さなお店などが並んでいる。街の中央と各門には憲兵の詰め所が配置されており、見回りなど定期的に行われているため、治安はある程度安定しているようだ。だが憲兵だけでは対処できない事件など起きることもある。別に憲兵が無能ということではない。この街では人の往来が多いため、対処しきれないのである。そのため重要度の低い事件などはたまにクエストとしてギルドに回ってくることがある。もちろん報酬は出るためギルドとしても協力を惜しまないでいた。もっともクラウス自身街の治安に力を入れており、周りもそれを理解しているため協力的な冒険者が多かった。幸い街周辺の動物や魔物はおとなしく被害が少ないためその点においてはあまり心配することはない。逆にそれを利用してギルドではFランクやDランクのクエストを多く発行して冒険者の増加を図ったりしていた。もちろん初めはなるべくパーティーを組ませて行わせている。いくら大人しいと言っても動物と魔物が危険であることには変わりはないのだ。場合によっては死んでしまう可能性もある。そうなっては本末転倒のためギルドとしても配慮して行っている。


「もちろんエレン様にも他の方とパーティーを組んでいただきます。」


「嫌よ。私一人でも十分だわ。」


クラウスの申し出にキッパリと断るエレン。


「これはエルドラド王からの指示ですので。」


「げっ、またパパからなの…。」


「はい。人との生活に慣れてもらうことが目的だとおっしゃっておりました。エレン様は人としての経験がまだ少ないかと思います。他の者とパーティーを組めば人と接する機会が増えますのでいろいろと良い経験になるかと思います。」


 一応最低限の人としての知識を身につけて来てはいるものの、こういうものは実際に経験してみないとわからないものだ。手本と出来るものが近くにいればそれに習って行動することができ、いろいろと学ぶことも出来るため、環境に慣れるのにも丁度良いのだ。


「でもそんなことしたら私の正体がばれやすくなるじゃない。」


 人と接する機会が増えるということはそれだけリスクが増えるということだ。エレンが懸念するのも当然である。


「そうかもしれません。ですがエレン様のような可愛らしい女性が一人でいるのは大変危険なのです。この街ではあまり被害はありませんが、他の地域では女性や子供たちを攫って人身売買に使う者もいます。」


 世間では人身売買を行っている組織は意外にも少なくない。人身売買と言っても基本的には能力ある人材を紹介することで報酬をいただき商売として成立させている。実は王族や貴族が従者や兵を雇う時などに組織を利用することが多いのだ。また戦争など人手が必要な場合にも利用するため、国として認めているところが多かった。もちろん国以外にも利する組織もあり、地域によっては職業案内所のようなことを請け負ったりするところもあった。しかし中には奴隷として人の販売も行っている者もいるのだった。こちらは表立って行われていることはないが、競り市などを行い人に価格をつけて売り出していた。商品となる人間の明確な出所は不明であったが、誘拐された女性や貧困な家庭から身売りされた子供などが売り出されていることが多いようだ。ギルドには行方不明者の捜索依頼がたまに入るが、そういう所が絡んだ依頼もあった。


「ふん、私が人間ごときに簡単には捕まるとでも思ってるの?」


「姫様、旦那様はそれだけ心配なのです。それに人間を侮ってはなりません。我々の先祖にはその奢りにより敗れた者が多くいるのですぞ。」


 自分たちの種族の歴史は今でも代々に渡って語り継がれていた。かつて世界を支配する程の力を持つ存在としての誇りを忘れないために。そして過去の過ちを繰り返さないようにするために。


「確かに人間は単体では決して強くはありません。ですがそれを補う程の知恵と技術、そして集団による結束力があります。例え姫様がお強いといえども油断してはなりませんよ。特にクラウス殿程の実力を持った人には勝つことは出来ないでしょう。」


「え?嘘でしょ?」


 ドルマックの言葉に一瞬耳を疑ってしまい思わず聞き返してしまった。


「いいえ。本当ですよ。おそらく私が本気を出しても厳しいのではないでしょうか。」


「いくらなんでもそれは言いすぎですよ。」


 さすがにクラウスも否定するのだが、それでもドルマックは首を振る。


「門前で暴れていた姫様を止めに来た時、我々は声を掛けられるまでクラウス殿に気づきませんでした。それに姫様の攻撃を軽く受け流したあなたの実力は人間としては少々異常なのではないかと、あなたとお会いしてから疑問に思っていたのですよ。」


「そんなことはありませんよ。私なんかまだまだ未熟な方です。」


「…やはりあなたはドラゴンスレイヤーなのですか。」


「ドラゴンスレイヤーですって!?」


 ドルマックの突拍子のない言葉にさすがのエレンも驚く。


「…嘘よ、ね?」


 問題となった本人の顔を見たがクラウスは先程と変わらず柔和な表情を浮かべていた。しかしそこには哀愁漂うものを感じさせた。


「…昔の話です。今はもう引退しておりますよ。」


 ドルマックの言葉をクラウスは否定しなかった。


「ちょ、ちょっと待って!?ドラゴンスレイヤーなんて昔の話でしょ。もういなくなってるんじゃなかったの?」


 エレンにとっても昔話しか聞いていなかった存在が目の前にいるということでさらに驚く。そしてエレンの疑問に対して答えたのはドルマックだった。


「表向きでは存在していないことになっておりますが、彼らもまた我々と同じように隠れて存在していたのでしょう。」


「そう言うことです。人間にとって危険な生き物は多く存在しておりますから、私みたいに冒険者や傭兵として暮らしているのですよ。」


「なるほど、ね。」


 エレンには少し衝撃的だったようで、落ち着かない様子で目を白黒させて驚いている。


「そう言う訳ですから人間だからと言って油断してはなりませんぞ。先程のように街中であのような強力な魔法を使ってしまえば、姫様が魔物であると気付かれる恐れがあります。」


「ここからでも感知できる程の魔力でしたからね。勘の良い方でしたら気付かれるのではないのでしょうか。どちらにしても周りに被害を及ぼしかねませんので、力の制御を覚えないといけませんね。」


「うっ、うるさいわね。わかっているわよ。」


 先程から痛いところばかり突かれてうめき声しかあげられず、挙句の果てに言い返しても負け犬の遠吠えにしかならないエレン。哀れである。


「しかしそれに慣れてしまえば周囲がエレン様の味方となり助けになってくれるでしょう。そう言った意味でもパーティーを組まれるのは良い事だと思います。」


 単独よりも複数で動いた方が人として認知されやすく、多少制限されても怪しまれることなく行動が出来るし、困った時には仲間に助けを求めれば良いのだ。しかし単独の場合それが難しくなる。昨日の門前での出来事やクラウスによる仲介が入ってしまって目立っている。その上エレン自身街ではいろいろと浮いた存在となっているのだ。こそこそと単独行動していれば疑ってくださいと言っているようなものだ。例え自由の身だったとしても街中では下手に動くことが出来なくなってしまう。もちろんパーティーに正体がばれてしまうリスクはあるが、それでも一人で行動するよりはパーティーで行動した方が人として街に融けこみやすく安全である。


「エルドラド王もこれも旅をする上で必要な訓練だと思って頑張りなさい、とおっしゃっておりましたよ。」


「結局縛りつけてるじゃないのよ!!パパの嘘つきーっ!!」


 父親のとどめの言葉に思わず叫ばずにはいられなかった。


活動報告にも書かせていただきましたが、今週は2話投稿致します。

次回日1/28(日)更新予定です。


お読みいただきありがとうございます。

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