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ドラぷり放浪記   作者: えだまめ
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10/22

10話 昼食

それから街中を歩いた二人はようやく冒険者ギルドに到着したのだった。冒険者ギルドは木造の三階建てとなっており、それなりに大きい建物だった。

ギルドはクレッツィオの街の中央部分の一角に建っており、パージェは中央から東側に伸びる大通り沿いにある。さらにその突き当りにはエレンが訪れた時に通った門が建っている。街の中央にはギルドの他に役所、教会、王国軍支所などの重要施設が集まっている。また街道の合流地点にもなるため、中央に近づくにつれ人の込み具合も増していく。

エレンは爺やから念話での説教を受けつつも、人ごみの中ケイトに付いて行く。そして到着した時にはすでに疲れた表情を浮かべていた。


「さぁ、着いたよ。ここが冒険者ギルドだ。」


先にケイトが入り、その後をエレンが付いていく。

中はそれなりに広いスペースがとってあり、正面には受付となるカウンターが設置されていた。窓口として何人かカウンター越しに立っており、いろいろ応対しているようだ。右側には上の階へ上がる階段があり、左側には待機所となっているのかテーブルがいくつか用意してあった。

そこは食事処としても利用できるのか、注文した料理を食べている者もいる。その光景を目にするエレン。口の中で自然と溢れる唾液を喉に流し込み、それに反応するようにおなかを鳴らした。疲れた体は癒しを求めていた。


「ふふ、あとで食事を出してあげるから、もう少し待ってもらえるかな。」


「な、別におなかなんてすいてないわよ!!」


しかし反論したあとで墓穴を掘ったということに気付き、顔を赤くして不服そうにケイトを睨みつける。


「ごめんごめん。とりあえずぼくに付いて来てくれるかな。」


そう言ってケイトはエレンを連れて二階に上がり、複数あるうちの一つの部屋へ案内する。部屋の中には誰もおらず、部屋の真ん中にテーブルとそれを挟むように二つのソファーが向きあうように置いてあった。どうやら応接間のようだ。


「ごめんだけどここで待っててくれないかい?これからクラウスさんを呼んで来るから。」


「何で待たなきゃいけないのよ?直接あいつがいるところに連れて行きなさいよ、面倒臭い。」


「クラウスさんの部屋だと食事を出来るスペースがないんだ。クラウスさん連れてきたら食事も持ってくるから。」


「そ、そう。なら仕方がないわね。でも早くしなさいよね。」


どうやら食欲には勝てなかったらしい。ケイトの言うことを聞くことにする。


「ふふ、わかったよ。それじゃあ行ってくる。」


ケイトは応接間を出て行った。残された二人?は仕方がないのでソファーに座って待つことにした。


「ここの食事はどんなものが出るのかしら?早く持ってきてほしいわね。」


もはやここに来た目的がすっかり変わってしまった模様。そんな姫様に注意するように爺やと呼ばれる杖が声をかける。


『油断しすぎですぞ、姫様。我々の目的はあくまでも情報収集です。まだ相手のことを信用出来た訳じゃないですから、警戒を怠らないでください。』


「ゆ、油断なんかしてないわよ。食事だって相手の食糧事情を知るために必要だから食べてるだけよ。別に楽しみにしているわけじゃないんだから勘違いしないでよね。」


『はぁ、やれやれ…。』


呆れたようにため息をつく爺や。こういう時のエレンは大概、人もといドラゴンの話を素直に聞かないのはいつものことだ。わかっているのだが、それでも教育者としては口を出さずにはいられないものでる。

それからしばらく待つと部屋の中にクラウスが入ってきた。


「お待たせしてすみません、お嬢さん。冒険者ギルドへようこそお越しくださいました。」


「遅い。いつまで待たせるつもりよ。女性を待たせるなんて紳士として如何なものかしら?」


それ程時間は経っていないはずなのだが余程おなかがすいているのだろう、エレンは文句を言い出した。


「そうですね。ギルド長としてこのような失態をしては下の者にも示しがつきませんね。誠に申し訳ございません。」


それに対し紳士然とした態度で謝るクラウス。


「お詫びと言っては何ですが、私の奢りで昼食をお出しさせていただきます。」


するとタイミング良くケイトが部屋を訪れた。


「クラウスさん、料理出来上がりましたので持ってきました。」


「ありがとう。助かるよ。」


ケイトは持ってきた料理をテーブルの真ん中に置く。クラウスとケイトはエレンの向かい側のソファーに座る。


「それでは先に食事にしましょうか。お口に合うかわかりませんが、よろしければお食べください。」


大皿には昨晩食べたパンと同じように間に具材が挟まれているのだが、具材が違うものが二種類あり、それを三個ずつ用意されていた。パンから漂う芳ばしい香りはエレンのおなかに刺激を与え、催促するように再び音を発てる。


「コホンっ。し、仕方がないわね。今回はこれで許してあげるわ。」


咳払いをして恥ずかしさを誤魔化そうとするのだが、エレンの顔は赤くなっていた。そして大皿からパンを一つ手に取り勢いよくかぶりつく。


「っ!?ごほっ!!~っ!?」


咳こんだエレンは鼻を押さえながら訝しむようにパンを見つめる。少し涙目である。

見た目は昨日食べたパンと同じようにお肉と野菜が挟まれたパンなのだが、食べた瞬間ツーンと鼻につくような強い刺激が襲ってきたので驚いてしまったのだ。そんなエレンの様子にケイトは苦笑する。


「あまり急いで食べない方がいいよ。それにはマスタードが入ってるんだ。」


「ますたーど?」


「調味料の一種さ。癖のある辛さだけどお肉や野菜なんかと相性がいいんだ。慣れてくると結構美味しいんだけど、さっきみたいに一気に口にすると鼻に強い刺激がきたりするから気お付けた方がいいよ。」


「…それを早く言いなさいよ。」


「あはは、ごめんごめん。」


そう言ってケイトも同じパンを手にして食べる。エレンは不服そうな顔をするも、まだ刺激が残っているのか鼻は押さえたままであった。


「ほう、二人とも仲良くなったんだな。それはよかった。」


「…どこをどう見たらそう思うのよ。」


少し余裕が出てきたのかクラウスのつぶやきに突っ込みを入れるエレン。押さえていた鼻はまだ少し赤いままだが改めてパンを食べ始める。今度は先ほどよりも控え目にかじる。


「…うん、結構美味しいじゃない。まだ鼻が痛いけど。」


マスタードの辛さがいい具合に肉の旨みを惹きたてており、肉のジューシーさをより感じさせている。またマスタードの酸味が肉の脂っぽさを抑えてくれるので飽きることなく食べることが出来た。これで鼻の痛みさえなければと複雑な思いで口にするエレンである。


「お口にあったようで良かったです。では私も。」


クラウスもパンを手に取り食べ始める。一つ目を食べ終わったエレンは二個目に手を伸ばす。二個目のパンには野菜と一緒にオレンジやリンゴなどの果物が挟まれていた。お肉料理を食べた後にはちょうど良い。新鮮な野菜と果物は歯ごたえが良く、噛むごとに口の中に果汁が広がる。


「ちょっと食べ辛いけど、悪くないわね。」


そう言いながらも美味しそうに食べる。二個目のパンもぺろりと平らげてしまった。


「あはは、気に入ってもらえたようで良かったよ。」


美味しそうに食べるエレンの姿に微笑ましいものを感じるクラウスとケイトだった。


*****


程なくしてケイトとクラウスもパンを食べ終わり、ケイトがお茶を用意してくれた。


「これもお茶なの?あそこで飲んだお茶とは違うみたいだけど。」


パージュで飲んだお茶とは違い赤茶色に澄んだお茶だった。お茶からは刺激のない落ち着いた香りは、食後のひとときには丁度良い感じに心を落ち着かせてくれる。


「これは紅茶って言うんだ。少し渋みがあるけどさっぱりとしていて、食後の口直しに丁度いいんだ。」


「ふーん、そうの。」


ケイトの説明に適当に相槌打ちながらお茶を一口飲んでみる。


「…微妙ね。」


「そうかい?ぼくは結構好きなんだけどな。」


「それでしたら砂糖を一つ入れてみてはいかがでしょう。」


クラウスは水差しと一緒に置いてあった角砂糖の入った瓶を差し出した。


「面白い形をしてるわね」


角砂糖を一つ摘みあげてティーカップ入れてからまた一口。先程よりも渋みは抑えられ、口当たりがマイルドになり飲みやすくなった。


「うん。これなら美味しく飲めるわ。」


「あはは、エレンちゃんは甘いものが好きなんだね。」


「甘いものは大歓迎よ。」


そういってまた一口。どうやら気に入ったようだ。


「さて、そろそろお話をさせていただきたいのですが、その前にケイト、すまないが君には下に行ってもらって彼女の手続きの準備をしてきてほしい。」


「わかりました。それじゃあエレンちゃん、またあとで。」


ケイトは席を立ち部屋を出て行った。二人きりになったということで今更ながらもクラウスを警戒する。するとクラウスは立ち上がりドアに向かうと鍵をかけた。


「…なんで鍵をかけるのかしら。」


エレンも身動きとりやすいように立ち上がり、クラウスとは反対側に移動した。扉の向かい側には窓がある。最悪の場合はここから外に出るためだ。


「他の方に聞かれたらまずいものですから。」


『「なっ!?」』


クラウスから魔力を感じたかと思うと部屋を囲むように魔力が広がった。魔法である。しかも結界魔法だ。


「何をするつもり!!」


「何も致しませんよ。エレンさん。いや、エレネシア姫様。ドルマック殿。」


『「なっ!?」』


クラウスが自分たちの正体を知っていたことに驚かされる。ちなみにドルマックとは爺やの名前である。


「な、何でアンタが私たちのことを知ってるのよ!?」


当然の疑問だ。初対面の、しかも人間である。自分たちのことは知っているのはおかしいのだ。


「あなた方のことはエレネシア姫のお父様。エルドラド王よりお伺いしております。」


「パパから!?」


思いがけないところから父の名前が出てきたことにさらに驚かされる。


「はい。エルドラド王には昔助けていただい事がありまして、それ以来連絡を取り合ったりしております。あなた方がこの街に来ることも王より連絡をいただいておりました。」


「…爺や、知ってた?」


『…いえ、私も何も聞かされておりません。』


もはや隠す必要がないため、普通に会話する二人。


『ですが始めにこの街を訪れるように指示を出したのは旦那様です。おそらくクラウス殿がいたからなのではないでしょうか。』


それだけにクラウスという人物がエルドラド王にとって信頼に足る存在だということが汲み取れる。


「…なんで教えてくれないのよ、パパ。」


今まで警戒してきた自分が馬鹿みたいに感じてしまったエレンは、思わずその場にへたり込んだ。


「王曰く、それではおもしろくないからだそうです。」


「…意味がわからないわよ。」


呆れてものも言えない。悲しくなったエレンは手を床につけて項垂れた。


「すみません。私も昨日説明出来ていればよかったのですが、何分あのような状況だったので。一応王からは出迎えてほしいと言伝を受けていたのですが、さすがに街の中で出来る話ではないのでここにお招きしたかったのです。ここであれば結界を張れますのでお話しが出来ます。」


ちなみに結界魔法にも属性や効果によって種類が様々ある。例えば、今この部屋に張られている結界は風属性の結界で、音を外に漏らさない様にする防音効果の結界だ。重要な話を外から聞かれないようにするためである。しかしこの結界は内外の出入りは出来るためドアに鍵を掛ける必要がある。もちろん術式を変えれば結界の出入りを遮ることも可能ではあるが、その場合必要とする術式と消費する魔力量が増えてしまうのだ。そのためにここでは必要な防音効果だけにとどめている。


「こちらがエルドラド王よりいただきました封書になります。」


クラウスは懐から白い封書を取り出し差し出してきたのでエレンはそれを渡す。


「…確かにパパの名前が書いてあるわ。」


表にはクラウスの名が記されており、裏面にはエレンの父、エルドラドの名が記されていた。


次回26日(木)更新予定です。


お読みいただきありがとうございます!

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