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Will of sin  作者: Boom
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再生の腕

リンが横倒しになったままの道の上で、ルーシーはゆっくりと相手を見据えた。

男は棘付きの鉄球を鎖で繋いだまま、ゆっくりと息を整えていた。口の端にはまだ血が残っている。彼は lucy を睨みつけ、低く名乗った。

「チャだ」

そう言った直後、チャは両手にオレンジ色のオーラを集めた。詠唱のような低い声が漏れ、次の瞬間、圧縮された光の束が lucy めがけて放たれる。

ルーシーは反射的に体を低くし、ビームをかわした。熱が頬をかすめる。彼はそのまま前へ駆け出した。右手に大きな光の塊を形成する。青い光が徐々に密度を増し、拳の前方で歪んだ球状になる。

距離を詰めた lucy は、その球ごと拳を叩き込んだ。

鈍い衝撃音。

チャの体が大きく後方へ弾かれ、地面を転がる。彼は咳き込み、大量の血を吐き出した。膝をついたまま、血混じりの笑みを浮かべる。

「……見た目通りの素人じゃ、なかったみたいだな」

ルーシーは黙って前へ歩いた。体の内側で、何かが噛み合っていく感覚がある。オーラを筋肉や骨に混ぜ込むほど、外からの衝撃が遠のいていく。痛みが薄れる。防御が、意志の量に比例して厚くなっていくのが分かった。

地面に落ちていた短い刃物を拾い上げる。lucy はそれを握りしめたまま、再び走り出した。

チャも応じて前へ出る。 lucy は接近した瞬間に刃を斜めに走らせ、チャの脇を浅く切った。続けざまに腕へ深く突き刺す。チャが顔を歪めた隙に、 lucy は近くの低い枝の下を滑るようにくぐり、反対側で体勢を立て直した。

チャは刺さった刃を抜き捨てる。血が滴る。

ルーシーはリンの横倒しになった体へ駆け寄り、その背に飛び乗ると、さらに高く跳ねた。空中で体をひねり、真下を見る。

(十分な力を込めれば、地面ごと砕ける)

落下の勢いを利用し、両足と両掌にオレンジがかった光を集中させた。着地と同時に、衝撃が外側へ広がる。土が爆裂し、煙と砂が舞い上がった。

煙が晴れたとき、チャの右腕は肩から先が消えていた。

しかし次の瞬間、欠けた断面から急速に肉と骨が再生していく。チャは再生した腕を振り、 lucy を見た。

ルーシーの目が大きく見開かれる。先程のビームを思い出す。彼は同じように両手を前に出し、光を圧縮した。青い光が渦を巻き、やがて巨大な光の塊となって放出される。光は途中で丸い軌道を描くように歪み、チャを直撃した。

爆発音。

チャは血まみれで起き上がった。しかし lucy が止めを刺すより早く、彼は空間に亀裂を走らせた。黒い歪みが大きく口を開け、チャの体を飲み込む。次の瞬間、そこに人の姿はなかった。

静寂が戻る。

ルーシーは大きく息を吐き、横倒しのリンへ向かった。両手に光を纏わせ、獣の体を支えるようにして押し上げる。重い。だが、先程までの自分には不可能だった重量が、今は動く。リンがゆっくりと起き上がった。

意識のないマキとフロスティ、バレンタインを枠の上へ運ぶ。マリンも引きずるようにして乗せた。ルーシーは自らも乗り込み、リンを屋敷の方向へ向けた。

獣は傷つきながらも走り出す。

屋敷に戻ると、すぐに簡単な治療と休息を取った。マキが最初に目を覚まし、状況を聞いて顔を曇らせる。リンは一時的に使えない状態だった。

「村へ行く。人手を探す」

マキの言葉に、全員が従った。

村の広場で、ルーシーは遠くに見覚えのある後ろ姿を見つけた。ピーターだった。高速移動の残像を一瞬見せた男。 lucy は声をかけようとして、寸前で止めた。まだ何をどう頼めばいいのか、言葉がまとまらない。

そのとき、別の男が歩み寄ってきた。落ち着いた面持ちで、体躯の引き締まった男だ。

「マジンだ。話は聞こえていた。私も行く」

マキは彼の顔を見て、短く頷いた。

「助かる」

彼女の目には、宝石を手に入れた先の目的が明確に映っていた。六年待った機会を、今度こそ逃さないという意志。

出発間際になって、ピーターが不意に現れた。

「俺も乗せる。文句はないだろ」

そう言って、彼はすでにリンの近くに立っていた。マキは呆れたように息を吐きつつも、拒まなかった。

一行は再び屋敷へ戻り、最低限の準備を整える。ピーターとマジンは中庭を黙って歩きながら、出発の時間を待った。フロスティは先にリンの枠に座り、静かに足をぶら下げている。

全員が乗り込んだ。

リンは村を離れ、湖の方向へ進路を取った。先に手に入れた地図は、混乱の中で失われていた。湖畔の小さな集落で、もう一度正確な地図を入手する必要がある。

湖が見えてきた頃、マキが地図を広げながら低い声で言った。

「この先の障壁を越えるには……罪の王の領域に触れなければならないらしい」

沈黙が落ちる。

マジンが静かに口を開いた。

「可能だ。魔女の書を集め、そこの術式を使えば道は開ける。特に、新しい奴には必要なものになるだろう」

ピーターが鼻を鳴らした。

「罪の王だろうが何だろうが、潰せばいい。俺たちならやれる」

リンは湖面に反射する光の中を、ゆっくりと進んでいった。

ルーシーは自分の掌を静かに開いた。薄い青い光が、指の間で揺れている。さっきまでオレンジに熱を帯びていた力が、今は静かに沈殿している。

何も話せない秘密を一つ抱えたまま、彼は前方の水面を見つめていた。

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