狩りの夜
一行はホテルを出た。
ソーレ んが先頭を歩き、その後ろにマキ、ルーシー、ユダス、フロスティ、マジン、ピーター、リラが続く。昼の光は強く、壊れた街の影をくっきりと地面に落としていた。空気にはまだ昨夜の戦いの気配が残っている。誰も多くを語らなかった。足取りだけが、一定のリズムで続いている。
しばらく歩いたところで、前方の茂みから人影が現れた。
黒い髪。青く澄んだ瞳。整った顔立ちに、僅かに男性的な陰影が混じっている。髪は上に向かって尖るように立ち上がり、前髪の一部が額に落ちている。身長は一八九センチ。体躯は細身だが、無駄のない均衡を保っていた。
男はゆっくりと歩み出ると、静かな声で名乗った。
「俺の名は黒沢。クロと呼んでくれ」
ルーシーが一歩前に出かけた瞬間、ソーレ んが手を上げて止めた。
「俺がやる」
クロが動いた。
残像が残るほどの速度で拳が放たれる。ソーレ んは動かなかった。拳は彼の顔面を捉えたように見えたが、衝撃は空間を滑るように逸れた。クロの瞳がわずかに揺れる。
「当たるつもりか? それとも、ただ見てるだけか」
ソーレ んの声は軽かった。クロは歯を食いしばり、再び殴りかかる。連続した拳。全てが、触れそうで触れない。空間が微かに歪み、衝撃を受け流していく。
「動けないだろ」
ソーレ んが短く言った瞬間、クロの体が強制的に停止した。筋肉が硬直し、足が地面に縫い付けられたように動かない。
「手を出せ」
クロは抗いながらも、ゆっくりと右手を前に出した。ソーレ んがそれを掴む。肌の感触は異常なほど柔らかく、温かい。クロの脳が、一瞬だけその感触に囚われかけた。
次の瞬間、ソーレ んの拳がクロの顔面を正確に捉えた。
衝撃が走り、クロの体が後方へ大きく弾き飛ばされる。空中で体勢を崩し、地面に叩きつけられた。砂煙が舞う。クロはゆっくりと体を起こし、口の端から血を拭った。
「意志エネルギーと魂のエネルギー……それだけじゃない」
クロの声が低く落ちる。
「それだけなら、もっと簡単だった」
彼は立ち上がると、手元に風を纏わせた。拾い上げた細い枝が、風の刃へと変わる。クロは〇・六ナノ秒の間に距離を詰め、風を放った。刃はソーレ んの顔面を掠めるように走り、髪を僅かに揺らした。
だが、傷はない。
「顔に触れても、傷一つつかないのか」
クロの表情が強張る。彼は空間を裂き、ポータルを開いた。中から一振りの剣を引き抜く。刃は黒く、意思を帯びているように鈍く光っていた。
「見せてやる」
クロが加速する。剣が一直線にソーレ んの胸を狙う。ソーレ んはそれを見て、静かに足を上げた。蹴りがクロの腹にめり込み、体が後方へ弾かれる。ソーレ んは歩み寄り、クロのシャツを掴むと、そのまま上空五百フィートまで持ち上げた。
次の瞬間、彼はすでにクロの正面にいた。
蹴りが放たれる。
地面に巨大なクレーターが生まれ、衝撃波が周囲の木々を薙ぎ倒した。クロはクレーターの底で体を起こしようとしたが、力が入らない。背中を地面につけたまま、彼は小さく息を吐いた。
「……負けだ」
その言葉が落ちた直後、ソーレ んの掌に赤い光が収束し始めた。不安定に脈打つ球体。出力が上がり、周囲の空気が歪み始める。
突然、空間が裂ける。
緑の光が走り、リキューが姿を現した。
「また会ったな」
ソーレ んは赤い光を掌に留めたまま、静かに言った。
「また負ける覚悟はできてるのか」
リキューは答えず、クロの体を掴むと、そのままソーレ んへ放り投げた。ソーレ んは足でそれを受け止め、クロを近くの樹へ叩きつけた。樹が折れ、音が響く。
ソーレ んは目を閉じた。
「赤は、俺の手から離れていない」
リキューが気づいたとき、赤い光はすでに彼の方へ向かって加速していた。ソーレ んは振り返らずに、後ろの一行へ声をかけた。
「すぐに終わる」
リキューが低く応じた。
「殺してやる」
次の瞬間、リキューの姿が霧のように消えた。
クロは樹の下で体を起こし、最後の力を振り絞ってソーレ んへ飛びかかった。剣が空を切る。ソーレ んはそれを見下ろしたまま、短く動いた。音はほとんどしなかった。クロの体が力なく崩れ落ち、動かなくなる。
沈黙が落ちた。
ユダスが静かに言った。
「先は、あそこに続いている」
そのとき、空気が震えた。
無機質な声が、街全体に響き渡る。
『第二層フェーズを開始する。フェーズ二/四。名称——オリ。通常の人間を殺せば五点。高位の存在を殺せば十点。次の層へ進むには最低百点が必要。都市は五つ。移動は自由だ』
声が途切れる。
ルーシーが低く呟いた。
「予想、外れたな」
マキが横目で彼を見た。
「ああ。かなりな」
マジンが地図を広げた。五つの名前が並んでいる。
一・ベン市
二・プエブラ市
三・センダ市
四・ナイト市
五・シン市
「どうする」
ピーターが短く言った。
「三人か四人で分かれるのがいい」
ルーシーが口を開く。
「俺、マキ、フロスティ、ユダスで」
全員が頷いた。ソーレ んがリラの方を見て言った。
「なら俺はリラとナイト市へ」
マジンとピーターは顔を見合わせ、短く頷いた。
「俺はシン市」
「俺はセンダ市」
分かれは、あっさりと決まった。
一方、ベン市の外れで、チャが歩いていた。後ろには、引きずるようにして運ばれてきたモーグの体がある。チャが足を止めると、モーグの体がゆっくりと動き始めた。
「モーグ。生かしてやった。残りは後でいい。お前はシン市へ行け。トルはセンダ市だ。六時半にルールが発表される。今は六時二十分だ。急げ」
次の瞬間、二人の気配が消えた。
モーグはシン市へ。
トルはセンダ市へ。
時計の針が、静かに進んでいく。分かれは、思ったより早かった。
ルーシー、マキ、フロスティ、ユダスの四人はベン市の方角へ歩き始めた。道は荒れていて、建物の残骸が影を落としている。空気には、すでに殺気のようなものが混じっていた。百点を集めるために、人が人を狩る。その事実が、街全体を静かに重くしている。
マキが前を歩きながら、低く言った。
「油断するな。発表があった以上、他の連中も動き始めてる」
ルーシーは彼女の横に並んだ。掌を軽く握りしめながら、答える。
「分かってる。でも……ルールが変わった以上、予想は全部やり直しだ」
フロスティは無言で周囲を警戒し、ユダスは表情を変えずに後方を歩いていた。彼の目は、常に何かを測るように動いている。
一方、ナイト市へ向かうソーレ んとリラは、ほとんど言葉を交わさなかった。ソーレ んはいつもの軽い足取りで歩き、リラはその半歩後ろをついていく。街の入口が見えてくると、ソーレ んが短く言った。
「お前は俺の後ろにいろ。余計なことはするな」
リラは小さく頷いただけだった。
シン市へ向かうマジンは、一人で歩いていた。彼の気配は静かで、余計な殺気を出さない。だが、その足元の砂は、時折、見えない力で微かに沈んでいた。シン市は、名前の通り、最も危険な場所になる可能性が高い。彼はそれを理解した上で、選んだ。
センダ市へ向かうピーターもまた、一人だった。肩の傷はまだ完全には塞がっていない。それでも彼の足取りは安定していた。速さと氷。それが今の彼の武器だ。点数を稼ぐために、迷いなく動くしかない。
ベン市の入口に差し掛かったとき、ルーシーのグループは足を止めた。
街の中からは、すでに争った痕跡が見える。倒れた人間、割れた壁、残された意志エネルギーの残滓。発表からまだ十分も経っていないというのに、すでに血が流れていた。
ユダスが静かに言った。
「早いな」
「当然だ」
マキが答える。
「百点が必要なら、先に動いた者が有利になる」
四人は警戒を強めながら、街の中へ足を踏み入れた。
その頃、シン市の外れでは、モーグがゆっくりと歩いていた。チャに生かされた体は、まだ完全には馴染んでいない。だが、彼の目には明確な目的があった。点数を稼ぐ。生き残る。それだけだ。
センダ市では、トルが建物の影に身を潜めていた。再生した腕を握りしめ、低く息を吐く。ユダスへの殺意が、彼の中でまだ冷たく燃え続けている。だが今は、それよりも点数だ。発表まであと十分。
時計の針が、六時三十分を指そうとしていた。
各都市で、人々が動き始める。
狩る者と、狩られる者。
点数を求める者が、静かに牙を研ぎ始めていた。
ルーシーはマキの横顔を見た。彼女は前方を見たままで、炎の気配を掌に溜めている。フロスティは氷を、ユダスは何かを計算している。
「……生き残る」
ルーシーが小さく呟いた。
マキが短く頷く。
「当たり前だ」
四人は、ベン市の奥へと歩を進めた。
遠くで、誰かの悲鳴がした。
すぐに、別の意志エネルギーの爆発が夜の空気を震わせる。
第二層は、すでに始まっていた。ベン市の奥へ進むにつれ、空気はさらに重くなった。
倒れた人間の数が増え、壁には新しい傷が刻まれている。意志エネルギーの残滓が、あちこちに不安定に揺れていた。すでに狩りが始まっている証拠だ。ルーシーたちは警戒を解かず、建物の影を利用しながら移動を続けた。
マキが手を上げ、全員を止める。
「前に、三人」
彼女の声は低かった。フロスティが静かに氷を掌に凝縮し、ユダスは影に溶け込むように位置を変える。ルーシーは息を整え、自分の中のループの感触を確かめた。死んだら戻れる。だが、戻るたびに何かが削られていく気がする。その感覚を、彼はまだ言葉にできずにいた。
前方の路地から、三人の男が現れた。いずれも中位程度の意志エネルギーを纏っている。点数を稼ぎに来た者たちだ。彼らもまた、こちらに気づいた。
「四人か。ちょうどいい」
先頭の男が笑った瞬間、マキが動いた。
炎が彼女の腕を伝い、一気に前方へ放たれる。炎の壁が路地を塞ぎ、三人の視界を奪った。フロスティがその隙間から氷の刃を放ち、一人の足を正確に貫く。男が跪いたところを、ユダスが無音で背後に回り、短い一撃で意識を刈り取った。
残る二人はすぐに反撃に出た。意志エネルギーを拳に込め、Lucyに向かって突進する。ルーシーは一歩下がり、タイミングを計った。死の記憶が、脳の奥で微かに疼く。彼はそれを利用するように、相手の軌道を読んだ。拳をかわし、腹に自分の拳を叩き込む。青い光が爆ぜ、男が後方へ吹き飛ぶ。
もう一人はマキが炎で押し戻した。
短く、静かな戦いだった。
四点——いや、正確には二人分の十点近くを、彼らは稼いだことになる。だが誰も喜ばなかった。これは始まりに過ぎない。
「進むぞ」
マキが短く言い、四人は再び歩き出した。
一方、ナイト市では、ソーレ んとリラがすでに街の中心近くまで来ていた。ソーレ んは相変わらず軽い足取りで、リラは無言で従っている。周囲からは複数の殺気が感じ取れたが、ソーレ んはそれを気にする様子もなかった。
「来るなら来い」
彼が小さく呟いた直後、三人の影が屋根から落ちてきた。刃と意志エネルギーを纏った攻撃が同時に Sor んへ向かう。ソーレ んは歩みを止めなかった。攻撃は全て、彼の体の寸前で空間に飲み込まれたように消える。
「邪魔だ」
彼が指を軽く動かしただけで、三人の体が同時に地面に叩きつけられた。動く気配はない。ソーレ んは振り返りもせず、リラに言った。
「点数は適当に稼いでおけ。俺は先を見る」
リラは静かに頷き、倒れた者たちから距離を取った。
シン市では、マジンが一人で歩いていた。彼の周囲には、すでに複数の人間が倒れている。彼は特別に技を誇示することもなく、ただ必要最低限の力で道を切り開いていた。シン市の空気は他の街より明らかに濃く、罪の気配が混じっている。
センダ市では、ピーターが屋根を走っていた。氷の軌跡を残しながら、獲物を探す。トルが同じ街にいることを、彼はまだ知らない。
そしてベン市の外れでは、チャが静かに街を見下ろしていた。
「そろそろだな」
彼の声が、夜の空気に溶ける。
六時三十分が、近づいていた。
各都市で、点数が静かに積み上がっていく。
生き残る者と、消える者。
第二層の夜は、まだ始まったばかりだった。六時三十分が、過ぎた。
街全体に、再び無機質な声が落ちることはなかった。ルールはすでに提示され、あとは各自が点数を稼ぐだけだ。ベン市の空気は、時間と共にさらに鋭くなっていく。人が人を狩る音が、遠く近くで断続的に響いていた。
ルーシーたちは、建物の二階に仮の拠点を取った。窓から外を監視しながら、短い呼吸を整える。マキが炎の残り火を掌で消し、フロスティは氷の粒を指で潰した。ユダスは壁に背を預け、目を閉じているように見えて、実際には周囲の気配を全て拾っていた。
「点数は?」
マキが低く聞く。
「今のところ、二十点前後だと思う」
ユダスが答える。
「足りない。このままじゃ、朝までかかっても怪しい」
ルーシーは窓の外を見た。遠くで誰かが走り、別の誰かが倒れる。死の匂いが、風に乗って流れてくる。彼は自分の掌を握った。ループがあれば、死んでも戻れる。だが、戻るたびに何かが削られる感覚は、確実に強くなってきていた。
「無理はするな」
マキが、彼の横顔を見て言った。
「お前が無理すると、周りが崩れる」
ルーシーは短く頷いた。言葉は出ない。ただ、彼女の声が、僅かに胸の奥を温めた。
そのとき、ユダスが目を開けた。
「下だ。四人」
全員が即座に動く。マキが先に窓から飛び下り、炎を纏って着地した。フロスティが続き、氷の壁を一瞬で展開する。ルーシーとユダスが左右から挟む形になった。
四人の男たちが、路地から出てきた。いずれも中堅以上の力を感じさせる。先頭の男が歯を剥いて笑った。
「いい獲物だ」
戦いが始まる。
マキの炎が正面を制圧し、フロスティの氷が足場を奪う。ユダスは影のように動き、一人の背中に手刀を入れた。男が崩れ落ちる。ルーシーは残る一人と正面からぶつかり、青い光を拳に込めて打ち込んだ。衝撃が走り、男が壁に叩きつけられる。
だが、四人目が違った。
彼は炎をかき消し、氷を砕き、ユダスの攻撃を寸前で読んだ。意志エネルギーの密度が、明らかに高い。ルーシーが彼と向き合う。拳が交錯し、衝撃が空気を震わせる。男の拳がルーシーの肩を捉え、骨が軋む音がした。
痛みが走る。
ルーシーは歯を食いしばり、ループの感触を意識した。死ねば戻れる。だが、今はまだ死にたくない。彼は一歩踏み込み、魂の力を僅かに混ぜて拳を放った。青い光が男の防御を割り、腹にめり込む。男が膝をつく。
マキが即座に炎で止めを刺した。
短く、激しい戦いだった。
点数は増えた。だが、消耗も確実に積み重なっている。
「休める時間はない」
マキが言った。
「まだ夜は長い」
四人は再び、街の奥へと歩き出した。
その頃、ナイト市ではソーレ んがすでにかなりの点数を稼いでいた。彼の周囲には倒れた人間が点在し、リラはそれを無言で確認している。ソーレ んは手を振るようにして言った。
「適当でいい。俺は先に進む」
シン市ではマジンが、一人で静かに点数を積み上げていた。彼の戦い方は無駄がなく、派手さもない。ただ、確実に相手を排除していく。
センダ市では、ピーターが氷の軌跡を残しながら屋根を走っていた。そして同じ街の別の場所では、トルが再生した腕を握りしめ、獲物を探していた。
ベン市の外れでは、チャがまだ街を見下ろしている。
「もう少しだな」
彼の声が、夜に溶ける。
点数が、静かに、しかし確実に、各所で積み上がっていく。
生き残るための夜は、まだ終わらない。夜は、さらに深くなっていた。
ベン市の中心近くまで来ると、争った痕跡はより濃密になっていた。倒れた人間の数が増え、建物の壁には新しい黒い焦げ跡と氷の破片が残されている。点数を稼ぐための狩りは、すでに過熱していた。
ルーシーたちは、短い休息もそこそこに移動を続けた。肩の痛みがまだ残っている。先ほどの戦いで負った傷だ。マキが時折、彼の方を見たが、何も言わなかった。言葉にするまでもなく、互いの状態は分かっていた。
「前方に、強い気配だ」
ユダスが低く告げる。
四人は建物の影に身を潜めた。路地の奥から、三人の人影が現れる。先ほどの相手とは明らかに密度が違う。意志エネルギーの流れが安定し、動きに無駄がない。中堅の上、あるいはそれ以上。
マキが炎を掌に溜めた。
「避けられない」
戦いが始まる。
相手の先頭が瞬時に距離を詰め、マキに向かって拳を放った。炎と意志エネルギーがぶつかり、衝撃波が路地を揺らす。フロスティが側面から氷の槍を放つが、相手の一人がそれを掌で砕いた。破片が散る中、ユダスが無音で背後に回る。だが相手はそれも読んでいた。肘がユダスの顎を捉え、体が壁に弾かれる。
ルーシーは残る一人と向き合った。
拳が交錯する。青い光と、相手の赤いフレアが夜を照らす。肩の痛みが走るたびに、死の記憶が脳の端で疼いた。ループがあれば戻れる。だが、戻った先でまた同じ痛みを味わうのか。その思考が、一瞬だけ動きを鈍らせた。
相手の拳が腹にめり込む。
息が止まる。体が後方へ滑る。ルーシーは歯を食いしばり、地面を蹴って体勢を立て直した。今度は魂の力を、僅かに深く引き出す。青い光が鋭くなり、相手の防御を一拍遅らせた。その隙間を突いて、彼は拳を打ち込んだ。
男が膝をつく。
同時に、マキが炎の連鎖で一人を押し込み、フロスティが氷で足を封じた。ユダスは壁を蹴り、回転しながら相手の頸部に手刀を入れる。音は小さく、しかし確実だった。
三人を倒したとき、四人の呼吸は明らかに乱れていた。
「点数は、かなり増えたはずだ」
ユダスが冷静に言う。
「だが、消耗も同じだ」
マキが炎を消し、ルーシーの方を見た。
「立てるか」
「立てる」
ルーシーは短く答えた。腹の痛みは残っている。だが、動けないほどではなかった。
彼らは再び歩き出した。
その頃、ナイト市ではソーレ んがすでにかなりの点数を稼いでいた。彼の周囲には倒れた人間が複数あり、リラはそれを無言で数えている。ソーレ んは手を振るようにして言った。
「もういい。俺は先を見る」
シン市ではマジンが、一人で静かに、しかし確実に点数を積み上げていた。彼の戦い方に派手さはない。ただ、必要最小限の力で相手を排除していく。シン市の空気は他の街より明らかに濃く、罪の気配が肌に絡みついてくる。
センダ市では、ピーターが氷の軌跡を残しながら屋根を走っていた。そして同じ街の別の区画では、トルが再生した腕を握りしめ、獲物を探していた。二人の気配は、まだ交差していない。
ベン市の高い建物の屋上では、チャが夜風に当たりながら街を見下ろしていた。
「順調だな」
彼の声が、虚空に溶ける。
モーグとトルは、それぞれの街で動き始めている。点数は、静かに、しかし着実に積み上がっていく。
生き残るための夜は、まだ終わらない。
ルーシーは歩きながら、マキの横顔を見た。彼女は前方を見たままで、炎の気配を静かに保っている。フロスティは氷を、ユダスは計算を。
四人は、ベン市のさらに奥へと歩を進めた。
遠くで、また誰かの悲鳴がした。
第二層の夜は、深くなる一方だった。ベン市の奥は、もはや静かな場所ではなかった。
争いの痕跡が通りごとに残り、倒れた人間の数が明らかに増えている。意志エネルギーの残滓が不安定に明滅し、時折、遠方で爆発音が響いた。点数を稼ぐための狩りは、夜の深まりと共に苛烈さを増していた。
ルーシーたちは、短い休息もほとんど取らずに移動を続けた。肩と腹の痛みはまだ残っている。先ほどの戦いで負った傷だ。マキが時折、彼の方を見たが、励ますような言葉は出さなかった。今は、言葉より行動が優先される。
「左側に、複数の気配」
ユダスが低く告げる。
四人は即座に建物の陰に散った。路地の奥から、五人の集団が現れる。先ほどの相手より、さらに密度が高い。リーダーらしき男は、すでにかなりの点数を稼いでいるのだろう。視線が鋭く、動きに迷いがない。
「排除する」
マキが短く言い、炎を纏った。
戦いが始まる。
炎が正面を制圧し、氷が側面を封じる。ユダスは影のように動き、一人の頸部を正確に刈った。ルーシーは残る一人とぶつかり、青い光を拳に込めて打ち合う。衝撃が連続し、壁がひび割れる。相手の拳が彼の頬を掠め、血が飛ぶ。痛みが走るたびに、死の記憶が脳の端で疼いた。
ループがあれば戻れる。
だが、戻るたびに削られる何かがある。
その感覚を、彼は今は押し込めた。拳に魂の力を僅かに混ぜ、相手の防御を割る。青い光が爆ぜ、男が後方へ吹き飛ぶ。マキが炎で止めを刺し、フロスティが最後の一人を氷で貫いた。
五人を倒したとき、四人の呼吸は激しく乱れていた。
「点数は、かなり乗ったはずだ」
ユダスが冷静に言う。
「だが、このまま続けば体が持たない」
マキが炎を消し、ルーシーの方を見た。
「無理はするな。死ぬな」
ルーシーは短く頷いた。言葉は出ない。ただ、彼女の声が、僅かに胸の奥を支えた。
彼らは再び、街のさらに奥へと歩き出した。
その頃、ナイト市ではソーレ んがすでに十分な点数を稼いでいた。彼の周囲には倒れた人間が点在し、リラはそれを無言で確認している。ソーレ んは手を振るようにして言った。
「もういい。俺は先を見る。お前はここで待機だ」
リラは静かに頷いた。
シン市ではマジンが、一人で静かに、しかし確実に点数を積み上げていた。彼の戦い方に派手さはない。ただ、必要最小限の力で相手を排除していく。シン市の空気は他の街より明らかに濃く、罪の気配が肌に絡みついてくる。モーグが同じ街にいることを、彼はまだ明確には感知していない。
センダ市では、ピーターが氷の軌跡を残しながら屋根を走っていた。そして同じ街の別の区画では、トルが再生した腕を握りしめ、獲物を探していた。二人の気配は、徐々に近づきつつあった。
ベン市の高い建物の屋上では、チャが夜風に当たりながら街を見下ろしていた。
「そろそろ、面白いものが動き出すな」
彼の声が、虚空に溶ける。
点数が、静かに、しかし着実に積み上がっていく。
生き残るための夜は、まだ終わらない。
ルーシーは歩きながら、マキの横顔を見た。彼女は前方を見たままで、炎の気配を静かに保っている。フロスティは氷を、ユダスは計算を。
四人は、ベン市の中心へと、さらに歩を進めた。
遠くで、また誰かの悲鳴がした。
第二層の夜は、深くなる一方だった。夜は、さらに深く沈んでいた。
ベン市の中心近くまで来ると、争いはすでに過熱していた。通りごとに倒れた人間が残り、建物の壁は新しい傷で覆われている。意志エネルギーの残滓が不安定に明滅し、遠方では断続的に爆発音が響いていた。点数を稼ぐための狩りは、生存競争の色を濃くしていた。
ルーシーたちは、短い休息もほとんど取らずに移動を続けた。傷は残っている。消耗も確実に積み重なっている。だが、止まる選択肢はなかった。マキが先頭を歩き、フロスティが側面を固め、ユダスが後方の気配を削ぎ、ルーシーがそれを支える形になっている。
「点数は、おそらく七十を超えた」
ユダスが低く告げる。
「百まで、あと少しだ」
マキが短く頷く。
「無理はするな。死ぬな。それだけだ」
ルーシーは彼女の横顔を見た。言葉は少なかったが、その声には明確な意思があった。彼は自分の掌を握り、ループの感触を確かめる。死んでも戻れる。だが、戻るたびに何かが削られていく。その事実を、彼は今はただ受け入れていた。
四人は、再び歩き出した。
その頃、ナイト市ではソーレ んがすでに百点を超える点数を稼いでいた。彼の周囲には倒れた人間が点在し、リラはそれを無言で確認している。ソーレ んは手を振るようにして言った。
「もう十分だ。俺は先を見る。お前はここで待機しろ」
リラは静かに頷いた。
シン市ではマジンが、一人で静かに、しかし確実に点数を積み上げていた。彼の戦い方に派手さはない。ただ、必要最小限の力で相手を排除していく。シン市の空気は他の街より明らかに濃く、罪の気配が肌に絡みついてくる。モーグが同じ街にいることを、彼はまだ明確には感知していない。
センダ市では、ピーターが氷の軌跡を残しながら屋根を走っていた。そして同じ街の別の区画では、トルが再生した腕を握りしめ、獲物を探していた。二人の気配は、徐々に近づきつつあった。交差は、時間の問題だろう。
ベン市の高い建物の屋上では、チャが夜風に当たりながら街を見下ろしていた。
「順調だな」
彼の声が、虚空に溶ける。
点数が、静かに、しかし着実に積み上がっていく。
生き残るための夜は、まだ終わらない。
ルーシーは歩きながら、マキの横顔を見た。彼女は前方を見たままで、炎の気配を静かに保っている。フロスティは氷を、ユダスは計算を。
四人は、ベン市の中心へと、さらに歩を進めた。
遠くで、また誰かの悲鳴がした。
第二層の夜は、深くなる一方だった。
そして、朝はまだ遠い。




