血の満足
ナイト市の夜は、血と焦げた意志エネルギーの残り香で重く沈んでいた。
ソーレ んは静かに歩いていた。靴音はほとんどしない。その半歩後ろを、リラが無言でついてくる。二人の周囲には、すでに倒れた人間が点在していた。壁に寄りかかったまま動かない者、地面に伏せたまま息を引き取った者、意識を失って点数だけを奪われた者。殺すたびに、無機質な声が直接意識の奥へ落ちてくる。
『現在の点数——三十』
ソーレ んはそれを聞いても、表情一つ変えなかった。ただ、次の獲物を探すように視線を巡らせ、夜の闇を測っている。リラは何も言わない。彼女の気配は薄く、余計な殺気をほとんど出さない。ただ、指示を待つように彼の後ろを歩いているだけだった。
街の空気は、すでに狩りで荒れていた。遠くで誰かが叫び、すぐにそれが途切れる。別の場所では意志エネルギーが爆ぜる音がして、赤い光が夜空を一瞬だけ照らす。点数が欲しい者が、点数を守る者が、そしてただ生き延びたい者が、同じ夜の中で入り混じっている。
ソーレ んが路地を曲がったとき、空気が変わった。
それまでの殺気とは、質が違う。重く、熱く、明確な敵意を孕んだ圧が、正面から押し出されてきた。リラが僅かに足を止める。ソーレ んは止まらなかった。
緑の光が、路地の奥で凝縮される。
空間が裂ける音と共に、リキューが姿を現した。前回の戦いの傷は、もうほとんど残っていない。だが、その目には明確な殺意と、焦げたような執着があった。右手に握られているのは、炎を纏った異様な剣だ。刃は赤く脈打ち、周囲の酸素を焼いているように揺れている。炎の竜剣。ソーレ んの『交差点』を貫ける五本の剣のうち、一本。
ソーレ んは足を止め、ゆっくりと顔を向けた。
「……また来たか」
リキューは何も答えなかった。ただ、剣を構える。炎が刃に沿って立ち上り、夜を赤く染めた。熱が、路地の空気を歪ませる。
ソーレ んはリラの方を見ず、短く命じた。
「行け。他を殺せ。あるいは、ルーシーのところへ向かえ」
リラは一瞬だけ彼の横顔を見た。言葉は出さない。彼女はただ、小さく頷くと、躊躇なく路地の闇へ走り去った。姿が、すぐに見えなくなる。
ソーレ んは肩を回した。関節が小さく鳴る。スカイブルーのオーラが、静かに体表へ立ち上がる。薄い光が血管に沿って流れ、彼の輪郭を僅かに縁取った。
「じゃあ、始めようか」
リキューが動いた。
残像が残るほどの速度だった。炎の剣が一直線にソーレ んの首筋を狙う。軌跡が赤く燃え、空気が焼ける音がした。熱が肌を刺す。ソーレ んは、しかし、動かなかった。
剣が届く寸前、彼の掌に大きな緑の球体が生成される。
球体は一瞬で膨張した。半径五十メートル。空間そのものを強引に掴むように、緑の光が拡散する。重力と空間が同時に歪み、リキューの体が強制的に引き上げられた。炎の剣が空を切り、彼の体は球体の引力に巻かれながら、路地の中で激しく振り回される。
「ちっ……!」
リキューが歯を食いしばり、剣を振り払うようにして引力を断ち切ろうとした。建物の壁が、振り回される炎の軌跡に焼かれて黒く焦げる。火花が散り、緑と赤の光が激しく交錯する。ソーレ んは球体を維持したまま、静かに歩を進めた。
「まだ、これくらいだ」
球体の出力が上がる。
リキューの体がさらに激しく軌道を変え、コンクリートの破片が宙に舞い上がる。緑の光が彼の体を締め上げ、骨が軋む音が夜に響いた。リキューは苦悶の表情を浮かべながらも、炎の竜剣に力を込めた。刃が輝きを増し、強引に引力を切り裂くように振られる。
次の瞬間、剣がソーレ んの左腕を掠めた。
『交差点』が激しく軋む。空間がひび割れる音がして、浅い、しかし確かに血が噴き出した。スカイブルーのオーラが乱れ、ソーレ んの目がわずかに細くなる。
「……届いたな」
彼はゆっくりと、目を閉じた。
次の瞬間、周囲の空気が激変した。
スカイブルーのオーラが爆発的に膨張する。魂のエネルギーが血管に沿って白く光り始め、出力が先ほどまでの比ではなくなった。圧が、路地を支配する。リキューの肌が粟立ち、呼吸が浅くなる。目の前にいる存在が、急に遠く、高く感じられた。
まるで、神が立っているような圧だった。
ソーレ んが目を開けた。
「本気の端緒だ」
彼が踏み込む。拳が放たれ、リキューの顔面を正確に捉えた。衝撃が走り、緑と青の火花が激しく散る。リキューの体が後方へ大きく弾き飛ばされ、複数の建物を巻き込みながら転がった。壁が崩れ、砂煙が舞う。
リキューは直ちに体勢を立て直し、炎の剣を連続で振るった。赤い斬撃が夜を切り裂き、ソーレ んの全身を狙う。ソーレ んは最小限の動きでそれをかわし、時折、掌で斬撃を弾いた。弾かれた炎が空中で爆発し、赤と青の光が交互に夜を照らす。熱風が吹き抜け、路地の温度が上がる。
「遅い」
ソーレ んが短く言い、黒い球体を生成した。球体は彼の掌を離れ、自由に宙を舞う。リキューがそれを見て、嘲るように言った。
「外したな」
「そう思うな」
黒い球体が急激に軌道を変え、リキューの背後に回り込む。直撃。背中に深い衝撃が走り、リキューの体が前方へ傾く。その瞬間を逃さず、ソーレ んは拳を腹に叩き込んだ。緑と青の火花が、再び激しく散る。衝撃が内臓を揺らし、リキューの口から血が溢れた。
リキューが大きく後退し、片膝をついた。呼吸が乱れている。
「……死の閃光、だと……?」
彼は信じられないものを見るように、ソーレ んを見つめた。
「こいつ……ソールに匹敵する、だと……? あり得ない」
リキューが歯を食いしばり、両手を前方に突き出した。緑の光が凝縮される。
「召喚——銀、忍」
空間が歪み、二人の人型が現れる。銀は筋肉質で、重い意志エネルギーを纏っている。忍は細身で、すでに掌にビームを凝縮していた。式神。人間型の、高密度な存在。
ソーレ んはそれを見て、軽く笑った。
「親切だな。友達まで連れてきてくれるとは」
彼は両手を軽く開き、スカイブルーのオーラをさらに立ち上がらせた。
「俺は、まだ本格的に力を使っていないんだがな」
次の瞬間、ソーレ んの姿が消えた。
リキューの背後に、すでに立っている。
「少しだけ、見せてやろうか」
夜が、また動き始めた。ソーレ んの姿が消えた次の瞬間、彼はすでにリキューの背後に立っていた。
「少しだけ、見せてやろうか」
リキューが振り返って蹴ろうとした瞬間、ソーレ んは足首を掴んだ。力を込めることなく、ただ回転させて建物の壁へ叩きつけた。衝撃でコンクリートが崩れ、砂煙が激しく舞う。同時に銀が正面から殴りかかってきた。重い拳。意志エネルギーが渦巻く、正攻法の一撃だ。
ソーレ んはそれを見て、静かに言った。
「障壁持ち、か」
銀の拳が『交差点』に衝突する。空間が軋む音がして、衝撃は分散された。突破はできない。その隙に、忍がビームを放った。白い光の柱が一直線に迫る。熱を帯びた軌道が、夜を裂く。
ソーレ んは大きな可動式の球体を生成し、ビームの軌道上に配置した。球体が光を吸収し、そのまま後方へ逸らす。白い光が路地の奥で爆発し、壁を大きく抉った。ソーレ んはその間に銀の腹へ瞬時に回り込み、拳を叩き込んだ。緑の火花が散り、銀の体が大きくのけ反る。重い体躯が、それでも踏ん張ろうとする。
ソーレ んは両手の指を揃え、前に出した。
「Fall Domain」
重力が局部的に爆発する。銀の体が強制的に沈み込み、膝が地面にめり込む。銀は歯を食いしばってパンチを放とうとしたが、ソーレ んはそれをかわし、蹴りを正確に顔面に入れた。銀の体がDomainの効果でさらに重くなり、動けなくなる。
忍が側面から襲いかかった。ソーレ んはそれを一手で受け止め、掌を顔に押し付ける。
赤い光が、一瞬だけ閃いた。
忍の頭部が、音もなく落ちた。体が力なく崩れ落ちる。銀がDomainを強引に振り切り、障壁を突破しようと力を込める。ソーレ んの目が、わずかに見開かれた。
「……破ったか」
その瞬間だった。
リキューが背後から現れる。炎の竜剣が、異常な速度で振り下ろされる。刃が『交差点』を軋ませ、ついに空間を割り、ソーレ んの胸に深々と刺さった。
ソーレ んの目が大きく見開かれる。
リキューは剣をさらに押し込み、下へ引きずり下ろした。血が噴き出し、複数の斬撃が体を走る。ソーレ んの体が、ゆっくりと膝をつく。スカイブルーのオーラが乱れ、光が散っていく。
リキューもまた、力尽きてその場に崩れ落ちた。炎の竜剣はポータルに吸い込まれ、消える。
「……退場だ、銀」
リキューが絞り出すように言い、銀の姿が霧のように消える。彼は血を吐きながら、這うようにしてその場を離れようとした。腕の傷から血が滴り、呼吸は荒い。
そして、何かに背中をぶつけた。
振り返ると、そこに男が立っていた。
青い髪。茶褐色の、深く澄んだ瞳。整った顎の線が、夜の光を綺麗に受けている。髪は短めで、後ろへ自然に流れ、前髪の一部が額に落ちている。動きやすさを残した、鋭い印象の髪型だった。
男は静かに聞いた。
「……お前は、誰だ」
「ジンだ」
次の瞬間、刃が光った。
リキューの腕が、斜めに斬られる。血が噴き出す。リキューは即座に空間を裂き、その場から離脱した。残されたのは、滴る血の跡だけだった。
ジンは血のついた刃を下ろし、静かに夜を見ていた。刃の先端から、赤い一滴が落ちる。
一方、血の海の中で、ソーレ んの体が微かに動いた。
傷は、完全には塞がっていない。だが、指先が、確かに震えた。胸の深い傷から、まだ血が滲んでいる。それでも、彼の指はゆっくりと、地面を掴むように動いた。
シン市では、マジンが歩いていた。
倒れた人間が、すでに複数ある。無機質な声が響く。
『現在の点数——七十八』
マジンはそれを聞いても、表情を変えなかった。ただ、前を向いて歩き続ける。彼の周囲の空気は静かで、余計な殺気を出さない。だが、その足元の砂は、時折、見えない力で微かに沈んでいた。
そのとき、前方に人影が現れた。
モーグだった。
口元に、歪んだ笑みを浮かべている。チャに生かされた体は、まだ完全には馴染んでいない様子だったが、目には明確な目的があった。
「止まれ」
モーグが殴りかかってきた。マジンはそれを、ほとんど動いていないように見えて、正確にかわした。拳が空を切り、マジンの手がモーグの腕を掴む。
「それは、失礼だな」
マジンが短く言い、そのまま蹴りを叩き込んだ。モーグの体が建物の中へ弾き飛ばされる。壁が崩れ、砂煙が舞う。マジンは追い、同じ建物へ足を踏み入れた。
建物の中で、モーグが反撃に出る。拳がマジンの肩を捉えた。衝撃が走り、マジンの体が僅かに揺れる。モーグは勢いを利用してマジンを外へ放り投げた。
だが、それが間違いだった。
マジンは空中で体勢を整え、モーグの両足を掴むと、そのまま地面へ叩きつけた。衝撃で地面が陥没する。マジンは着地し、続けざまに蹴りを入れた。モーグの体が転がる。
「少し、本気を出す」
マジンの周囲に、意志エネルギーと魂のエネルギーが同時に立ち上がる。圧が、急激に変わった。青白い光が彼の輪郭を縁取り、風が強く吹き始める。モーグの呼吸が浅くなる。目の前の存在が、急に、人間の範疇を超えて感じられた。
「……なぜ、こんなことを」
モーグが苦しげに呟く。
マジンは静かに言った。
「説明してやろう。俺には『ブルック』がある。必要だと判断したものは、全て与えられる。無限の力も、無限のオーラも。ただし、俺が対等だと認めた相手にしか発動しない」
モーグの顔が強張る。
「その力で、誰が対等だというんだ」
マジンは答えず、構えを取った。青白いオーラが、彼の体を鮮やかに縁取る。風が強く吹き、彼の姿をくっきりと浮かび上がらせた。夜の光を受けて、その姿はどこか威圧的で、同時に整っていた。
モーグも黄色いオーラを纏い、牙を剥くようにして踏み込んだ。
拳が交錯する。
マジンは相手の腕を掴み、そのまま頭を打ちつけた。額から血が噴き出す。モーグが後退する。血が地面に滴る。
「どうした。楽しくないのか」
マジンの声が、冷たく落ちる。
モーグが瞬きした次の瞬間、マジンの姿が消えていた。蹴りが側面から入り、モーグの体が屋上へ弾き飛ばされる。マジンは追い、シャツを掴んで屋上の端へ引きずった。下を見下ろすと、夜の闇が深く口を開けている。
「誰に頼まれた」
「死なないさ、俺は」
「手に力を込めれば、死ぬ」
マジンの掌に、意志エネルギーが凝縮される。肉眼ではっきりと見える密度だ。青白い光が、掌で脈打っている。
「これは、一割にも満たない」
モーグが歯を食いしばり、吐き捨てるように言った。
「教えるか——」
言葉が終わる前に、マジンが彼を放した。
モーグの体が落下する。途中で手すりに掴まったが、腕が異常な角度に曲がり、骨が折れる音がした。痛みに顔を歪め、彼は苦々しく呟いた。
「……あいつの、何なんだ」
モーグは手すりから手を離した。
夜の闇が、彼を飲み込む。
ベン市では、ルーシーのグループが激しい戦いの最中だった。
ルーシーが攻撃をかわし、マキが炎で援護する。赤い炎が夜を照らし、相手の視界を奪う。ルーシーは相手の首筋に刃を突き立て、引き抜いた。血が噴き出す。男が倒れる。
そのとき、空気が変わった。
それまでの殺気とは、質が違う。甘く、狂ったような圧が、路地を満たした。
ジンが、そこに立っていた。
青い髪が夜風に揺れ、茶褐色の瞳が満足げに細められている。整った顎の線が、明かりを綺麗に受けていた。
「今から、お前たちの誰かが死ぬ」
ユダスが静かに振り返る。フロスティが氷の剣を生成した。透明な刃が、冷たい光を反射する。
ジンは満足げに目を細めた。
「いいオーラだ。感嘆する。満たされる」
彼はユダスを見て、さらに声を弾ませた。
「特に、お前のオーラは……自分に惚れてしまいそうだ」
急に、陽射しが強くなり、風が吹き始めた。夜であるはずの空が、不自然に明るくなる。
「太陽と風。完璧だ」
ジンがオーラを解放する。圧が、路地を支配した。ルーシーの体が、一瞬だけ硬直する。動けない。そのとき、誰の目にも見えない白い手が、ルーシーの胸に触れた。
ブルウの手だ。
彼女はルーシーの心臓を、静かに握った。
ルーシーの目が見開かれる。
ジンがユダスに歩み寄る。
その瞬間、ルーシーが体を強制的に動かし、ジンにタックルした。
ジンが喜ぶように言った。
「ああ、触れてくれ。最高だ」
彼はルーシーを蹴り飛ばした。体が建物に激突し、一階まで落ちる。瓦礫が散乱する。
ジンは残った三人を見て、手を広げた。
「次は、誰だ」
フロスティが氷の剣を振り下ろす。刃がジンの肌を切り、血が滲む。赤い血が、白い肌を伝う。
「いい……痛みが、最高だ」
フロスティが後退し、声を硬くした。
「……お前は、おかしい」
マキが炎を放つ。炎がジンの体を包む。赤く燃える光が、彼の輪郭を焼く。彼はそれを浴びながら、恍惚とした声を出した。
「もっと焼け。もっとやれ」
ジンがマキに向かって歩き出す。炎を受けたまま、笑顔で。ユダスが拳を叩き込んだ。紫のフレアが爆ぜる。
「楽しませてもらう」
ユダスの周囲に、八体の残像が生まれる。クローン。夜の中に、複数の影が重なる。
ジンが目を輝かせた。
「これは、最高に面白い」
建物の下から、ルーシーが再び姿を現した。彼は走り、ジンの顔面に拳を叩き込む。青いフレアが爆ぜる。衝撃が走り、ジンの体が僅かに揺れた。
ジンの目が大きく見開かれた。
「……生きてる? 殺したはずなのに。素晴らしい。大好きだ」
ルーシーがさらに連打する。青い光が連続で夜を照らす。ジンの腕が折れる音がした。だが、すぐに再生する。骨が繋がる音が、小さく響く。
「もっとやれ。もっと折れ。もっと痛みを」
フロスティが氷の剣を投げ、ルーシーがそれを受け取る。氷の刃が振られ、ジンの腕に深い傷を作った。血が噴き出す。ジンはそれを見て、満足げに笑った。
「上手い。まるで、戦ったことがないように動くのに。そのオーラは……愛おしい」
夜の風が、強く吹き抜けた。
陽射しと風が、不自然に路地を支配している。
戦いが、本格的に始まろうとしていた。ジンの笑い声が、路地に反響した。
血が腕から滴っているというのに、彼の表情はどこまでも満足げだった。茶褐色の瞳が恍惚と細められ、青い髪が不自然な陽射しを受けて光っている。ルーシーは氷の剣を握り直した。マキが炎を再点火し、フロスティが次の氷を凝縮する。ユダスのクローンが、静かに位置を変えた。
「いい……本当にいい」
ジンが腕の傷を眺めながら言った。傷はすでに塞がり始めている。血が止まり、新しい肌が広がっていく。
「痛みも、お前たちのオーラも、全部が最高だ」
彼が一歩、前に出た。
その瞬間、ユダスのクローンが同時に動いた。八つの影が異なる角度から襲いかかる。紫のフレアが夜を裂き、拳と刃がジンに集中した。ジンはそれを見て、喜ぶように両腕を広げた。攻撃が彼の体に命中する。衝撃音が連続し、血が再び飛ぶ。だが、ジンは後退しなかった。むしろ、一歩ずつ前へ出る。
「もっと来い」
マキの炎が正面から彼を包んだ。赤い光が爆発し、熱風が路地を席巻する。フロスティがその炎の隙間から氷の槍を放つ。透明な槍がジンの肩を貫き、血が噴き出す。ジンはそれを抜き取り、血のついた槍を眺めてから、放り投げた。
「最高だ」
ルーシーが踏み込んだ。青いフレアを拳に込め、ジンの顔面を狙う。拳が当たる。衝撃が走り、ジンの顔が横に向いた。だが、彼は笑っている。口元から血が溢れているのに、目は喜びに満ちていた。
「お前のオーラは、特にいい。愛おしい」
ジンが手を伸ばし、ルーシーの胸を掴もうとした。ルーシーは即座に距離を取る。その隙に、ユダス本体が背後へ回った。紫の光が凝縮され、ジンの背中に叩き込まれる。衝撃でジンの体が前方へ傾く。マキがそこに炎の柱を落とした。
爆炎が上がる。
赤と青と紫の光が交錯し、夜を派手に照らす。熱と冷気がぶつかり、蒸気が立ち上る。ジンはその中から、ゆっくりと歩み出してきた。服は焼け焦げ、肌には複数の傷がある。だが、どれもすでに塞がり始めている。再生速度が、異常に速い。
「楽しい。本当に楽しい」
ジンが首を回す。骨が鳴る音がした。
「もっとやれ。もっと傷をつけろ。もっと、俺を満たせ」
フロスティが顔をしかめた。
「……本当に、おかしい」
「おかしい? これは正当な欲求だ」
ジンが笑ったまま、右手を横に振る。空間が僅かに歪み、血の刃が生成された。自分の血を触媒にした、赤い斬撃。刃が lucy の首筋を狙って放たれる。ルーシーは氷の剣でそれを受け止めた。金属音が響き、火花が散る。血の刃が氷を溶かし始め、ルーシーは歯を食いしばって押し返す。
その間に、ジンがマキへ向かって加速した。
マキは炎を盾のように展開する。ジンが炎を突き破り、至近距離まで詰める。拳がマキの腹に入った。衝撃が走り、マキの体が後方へ滑る。彼女はすぐに体勢を立て直し、炎を鞭のように振るった。炎の軌跡がジンの胸を焼き、新しい傷を作る。
「いい痛みだ」
ジンがそれを喜び、さらに前へ出る。
ユダスがクローンを再展開した。今度は五体。認識を分散させ、同時に異なる技を仕掛ける。紫の光が路地を埋め、ジンの動きを封じようとする。ジンはそれを見て、目をさらに輝かせた。
「複雑な動き……最高だ」
彼が血の刃を複数生成し、クローンに向かって放つ。赤い軌跡が夜を裂き、残像を次々と切り裂いていく。クローンが消滅するたびに、ジンの笑みが深くなる。
ルーシーはマキと並び、息を整えた。肩で息をしている。ジンの圧が、路地を支配していた。不自然な陽射しと風が、まだ続いている。環境そのものが、ジンに味方しているような違和感があった。
「こいつ…… regenerating が速すぎる」
マキが低く呟く。
「しかも、痛みを楽しんでいる」
「気を散らすな」
ユダスが短く言い、再び前へ出た。
戦いが、さらに苛烈になる。
一方、ナイト市の路地では、ソーレ んの指がゆっくりと動いていた。
胸の傷から血がまだ滲んでいる。だが、スカイブルーのオーラが、少しずつ安定を取り戻しつつあった。彼は地面に手をつき、上体を起こす。視界が揺れ、すぐに戻る。
「……まだ、死んでない」
低く呟く声が、夜に溶ける。
リキューが離脱した方向を、彼は静かに見た。ジンという男の気配も、すでに遠くへ移っている。ソーレ んはゆっくりと立ち上がった。傷は完治していない。だが、動ける。
「……面倒なのが、増えたな」
彼はそう言って、夜の闇を見据えた。
シン市では、マジンが屋上の端に立っていた。
モーグを落としたあと、彼は特に追わなかった。点数はすでに七十八。必要なら、後で決着をつければいい。マジンは青白いオーラを静かに収束させ、再び街の奥へ歩き出した。
彼の背中に、風が当たる。
夜は、まだ終わらない。
ベン市の路地では、ジンの笑い声が、また上がった。
ルーシー、マキ、フロスティ、ユダスの四人が、再び同時に動く。炎と氷と紫の光が、赤い血の軌跡と交錯する。
戦いが、本格的に深まっていく。ジンの血の刃が、再び夜を裂いた。
赤い軌跡が複雑に交差し、路地を埋め尽くす。ルーシーは氷の剣でそれを払い、マキが炎で軌道を焼いた。フロスティが足元に氷の膜を張り、ユダスのクローンが側面から圧力をかける。四人が連携し、ジンを中央に閉じ込めようとする。
だが、ジンは笑っていた。
「いい動きだ。本当にいい」
彼が腕を振ると、血の刃がさらに増える。自分の血を触媒にしているのか、傷から溢れた血がそのまま武器へと変わる。赤い斬撃が lucy の肩を掠め、血が噴き出す。痛みが走る。ルーシーは歯を食いしばり、後退した。
マキが即座に炎の壁を展開し、ジンの視界を塞ぐ。その隙にフロスティが氷の槍を放つ。槍がジンの太ももを貫き、血が地面に滴る。ジンはそれを抜き取り、血を舐めようにもせず、ただ満足げに息を吐いた。
「痛みが、深くなる。最高だ」
ユダスが本体で踏み込んだ。紫のフレアが最大まで凝縮され、ジンの胸に叩き込まれる。衝撃が走り、ジンの体が後方へ滑る。壁に背中がぶつかる音がした。ユダスは追いすがらず、すぐに距離を取った。冷静に、次の手を測っている。
「再生が速い。だが、無限ではないはずだ」
ユダスの声が低く落ちる。
ジンは壁から離れ、首を回した。骨が鳴る。胸の傷が、すでに塞がり始めている。
「気づいたか。でも、それでも足りない。もっとやれ」
彼が一気に加速した。
残像が残るほどの速度でマキに詰め寄り、拳を放つ。マキは炎を纏った腕でそれを受け止める。熱と衝撃がぶつかり、火花が散る。ジンは構わずに連打を入れた。マキの防御が軋み、彼女の体が徐々に押し戻される。フロスティが横から氷の刃を振るうが、ジンはそれを見て、血の刃で弾いた。金属音が響き、氷の破片が宙に舞う。
ルーシーが背後から回り込む。青いフレアを拳に込め、ジンの後頭部を狙った。拳が当たる。ジンの顔が前に傾き、血が新たに溢れる。だが、彼は即座に振り返り、ルーシーの腕を掴んだ。
「触れてくれるな。嬉しい」
ジンがそう言って、ルーシーを壁に叩きつけた。衝撃で息が詰まる。ジンはさらに拳を上げたが、その瞬間、ユダスのクローンが三体同時に彼の腕に絡みついた。動きが一瞬だけ止まる。マキがその隙に炎の柱を真上から落とした。
爆炎が上がる。
赤く燃える光が路地を埋め、熱風が吹き荒れる。ジンの姿が炎の中に消える。四人はすぐに距離を取り、構えを直した。 lucy の肩から血が滴っている。マキの呼吸も、少し乱れていた。フロスティは氷を再凝縮し、ユダスはクローンを収束させて本体に戻した。
炎が消える。
ジンが、その中から歩み出してきた。
服はほぼ焼け焦げ、肌には複数の深い傷がある。だが、どれもすでに再生の途中だった。血が滴りながらも、彼の表情は崩れない。むしろ、目はさらに潤んでいるように見えた。
「素晴らしい。本当に素晴らしい」
ジンが両腕を広げた。不自然な陽射しが、彼の青い髪を照らす。風が強くなり、路地の砂が舞う。環境そのものが、彼の興奮に呼応しているようだった。
「お前たちのオーラは、俺を満たす。もっとやれ。もっと傷をつけろ。もっと、俺を壊せ」
ルーシーは拳を握り直した。青いフレアが、再び立ち上がる。痛みを無視するように、彼は前へ出た。
「……こいつを、止める」
マキが隣に並ぶ。炎が彼女の腕を伝う。
「一緒だ」
フロスティが氷の剣を構え、ユダスが静かに頷いた。
四人が、同時に動く。
炎と氷と青と紫の光が、再び赤い血の軌跡と交錯する。夜の路地が、激しい光で塗り替えられていく。
一方、ナイト市では、ソーレ んがゆっくりと歩を進めていた。
胸の傷は、スカイブルーのオーラで内側から焼かれるようにして塞がりつつある。完全ではない。だが、戦闘に支障がない程度までは回復していた。彼は夜の闇を見据え、小さく息を吐いた。
「ジン、か……」
名を低く呟く。先ほどの気配は、すでにベン市の方角へ移っている。リキューもまた、どこかへ消えた。
ソーレ んは肩を回し、オーラを安定させた。
「面倒なのが、本当に増えたな」
彼はそう言って、歩き出した。
シン市では、マジンが街の奥へ進んでいた。点数は七十八のまま。彼は特に急がない。必要なら、後で決着をつければいい。青白いオーラを静かに収束させ、ただ前を向く。
夜は、まだ深くなる。
ベン市の路地では、ジンの笑い声が、また高く上がった。
戦いが、さらに苛烈な段階へ入ろうとしていた。ジンの咆哮に近い笑い声が、路地を震わせた。
四人が同時に放った攻撃が、彼の体に命中する。マキの炎が胸を焼き、フロスティの氷が脚を封じ、ユダスの紫の拳が顔面を捉え、ルーシーの青いフレアが腹に食い込む。衝撃が重なり、ジンの体が後方へ大きく押し戻された。壁が崩れ、瓦礫が散乱する。
だが、煙の中から、すぐに彼の声が聞こえた。
「いい……本当にいい!」
ジンが瓦礫を蹴って飛び出してくる。服は裂け、肌には新しい傷がいくつも刻まれている。それでも再生は止まらない。血が滴るたびに、その血がまた刃へと変わっていく。赤い斬撃が複雑に夜を埋め、四人の動きを封じようとする。
ルーシーは氷の剣で血の刃を受け流しながら、前へ出た。青いフレアを最大限に凝縮し、ジンの懐へ踏み込む。拳が顎を捉える。骨が鳴る音がした。ジンの顔が横に飛び、血が弧を描く。だが、彼は即座に体勢を立て直し、逆にルーシーの腕を掴んだ。
「触れてくれるな。嬉しい。もっと触れろ」
ジンがそう言って、ルーシーを地面に叩きつけた。衝撃で息が詰まる。ジンはさらに拳を振り上げたが、その瞬間、マキの炎が彼の背中を直撃した。熱風が吹き荒れ、ジンの体が前へ傾く。フロスティがその隙に氷の棘を地面から生やした。棘がジンの足を貫き、血が噴き出す。
「痛みが、深まる……最高だ」
ジンが氷を引き抜き、血のついた棘を放り投げる。その動きに合わせて、ユダスが本体で加速した。紫の光が一直線に走り、ジンの胸に深々と拳を叩き込む。衝撃が走り、ジンの体が壁にめり込む。コンクリートがひび割れ、粉塵が舞う。
ユダスはすぐに距離を取った。呼吸を整えながら、冷静に告げる。
「再生速度が落ちてきている。限界は近い」
マキが炎を再点火し、頷いた。
「なら、一気に畳みかける」
四人は再び同時に動いた。
炎が正面を制圧し、氷が足元を奪い、クローンが側面を埋め、ルーシーが中央を貫く。青と赤と紫と透明な光が激しく交錯し、路地を光の嵐に変える。ジンはその中で両腕を広げ、全ての攻撃を受け止めるように立っていた。傷が増え、血が飛び散る。それでも彼の表情は崩れない。むしろ、目はますます潤み、恍惚としている。
「もっとやれ! もっと壊せ! 俺を、もっと満たせ!」
ジンが血の刃を最大限に展開した。無数の赤い斬撃が渦を巻き、四人を飲み込むように拡散する。ルーシーは氷の剣で正面を切り開き、マキが炎で軌道を焼いた。フロスティが氷の壁を重ねて防御し、ユダスがクローンを犠牲にして本体の進路を作る。
その開いた隙間を、ルーシーが駆け抜けた。
青いフレアが、これまでで最も鋭く凝縮される。彼はジンの胸に拳を叩き込んだ。衝撃が爆ぜ、緑と青の火花が散る——いや、ジンの血が青白い光に照らされて飛んだ。ジンの体が後方へ大きく吹き飛び、複数の壁を突き破って消える。
静寂が、一瞬だけ落ちた。
四人は肩で息をしていた。 lucy の拳から血が滴る。自分の血か、ジンのものか、もう分からない。マキが炎を消し、フロスティが氷を解く。ユダスはクローンを全て収束させ、静かに周囲を警戒した。
「……倒したか」
マキが低く聞く。
瓦礫の奥から、音がした。
ゆっくりと、ジンが起き上がってくる。体は傷だらけで、再生も明らかに遅れている。だが、彼はまだ笑っていた。血に染まった顔で、茶褐色の瞳を細めている。
「素晴らしい……本当に、素晴らしい」
ジンがふらつきながらも、歩を進める。
「お前たちのオーラは、俺をここまで満たした。感謝する」
彼が右手を上げた。血の刃が、不安定に生成される。以前より薄い。出力が落ちている証拠だ。
「だが、まだ終わりじゃない」
そのとき、遠くで無機質な声が響いた。
『現在の点数——更新中』
誰かの点数が、また動いている。街全体が、まだ狩りを続けている証拠だ。
ルーシーは拳を握り直した。痛みが肩に残っている。それでも、彼は前を向いた。
「終わらせる」
マキが隣に並び、フロスティが氷を構え、ユダスが静かに位置を取る。
四人が、再びジンを見据える。
一方、ナイト市では、ソーレ んが夜の通りを歩いていた。
傷は、ほぼ塞がっていた。スカイブルーのオーラが安定し、以前の軽さが少しずつ戻ってきている。彼はベン市の方角を一瞬だけ見ると、小さく息を吐いた。
「…… surviving してるな、あいつら」
独り言のように呟き、彼は歩き続けた。
シン市では、マジンが静かに点数を積み上げていた。七十八から、また数字が動く。彼は特に表情を変えず、ただ前を向く。
夜は、まだ終わらない。
ベン市の路地では、ジンの血の刃が、再び夜を裂こうとしていた。
最後の攻防が、始まろうとしている。ジンの血の刃が、最後の力を振り絞るように夜を裂いた。
不安定な赤い軌跡が複雑に交差し、路地を埋め尽くす。以前のような密度はない。再生が遅れ、出力が落ちているのがはっきりと分かった。それでもジンは笑っていた。血に染まった顔で、茶褐色の瞳を細め、四人を見据えている。
「まだだ……まだ、足りない」
ルーシーが先に動いた。
青いフレアを拳に込め、血の刃の隙間を突いて駆け抜ける。氷の剣を一振りし、正面の赤い斬撃を切り払った。マキがその後ろから炎の柱を落とし、フロスティが足元に氷の棘を密集させる。ユダスはクローンを最小限に抑え、本体で側面を取る。
ジンが血の刃を振り下ろす。ルーシーはそれを受け流し、距離を詰めた。拳がジンの顔面を捉える。衝撃が走り、ジンの体が揺れた。続けざまに腹、胸、顎。青い光が連続で爆ぜる。ジンの口から血が溢れる。だが、彼は後退しない。むしろ、腕を伸ばしてルーシーの肩を掴もうとする。
「触れてくれ……最後まで」
マキが炎でその腕を焼いた。ジンの手が弾かれ、フロスティの氷が彼の脚を凍結させる。ユダスがその隙に紫の拳を叩き込んだ。衝撃が重なり、ジンの体がようやく大きく後方へ押し戻される。
壁にぶつかる音がした。
ジンは膝をついた。呼吸が荒い。再生が、ほとんど追いついていない。傷が開き、血が地面に滴り続けている。それでも、彼は顔を上げて笑った。
「素晴らしい……本当に、素晴らしい」
声が、少し掠れている。
「お前たちのオーラは、俺をここまで満たした。感謝する」
ルーシーは拳を握ったまま、前へ出た。マキが炎を構え、フロスティが氷の剣を直し、ユダスが静かに位置を取る。四人の視線が、ジンに集中する。
ジンはふらつきながらも、立ち上がろうとした。膝が笑い、体が傾く。それでも、彼は右手に薄い血の刃を生成した。以前の比ではない。か細い、消えかけの刃。
「まだ……終わらない」
その言葉が落ちた瞬間、四人は同時に動いた。
マキの炎が正面を焼き、フロスティの氷が動きを封じ、ユダスの紫が認識を乱し、ルーシーの青が中央を貫く。光が交錯し、路地が激しく明滅する。ジンの体が、その全ての中心で揺れた。
衝撃が重なる。
ジンの体が、ゆっくりと壁に背中を預けて滑り落ちた。血の刃が消え、腕が力なく垂れる。茶褐色の瞳が、まだ細められたまま、四人を見ていた。
「……最高、だった」
低い声が、夜に溶ける。
ジンの体が、動かなくなる。
静寂が落ちた。
四人は、しばらくその場を動かなかった。 lucy の肩から血が滴り、マキの呼吸が乱れ、フロスティの氷がゆっくりと解け、ユダスは冷静に周囲を警戒している。遠くで、また誰かの悲鳴がした。街は、まだ狩りを続けている。
「……終わったか」
マキが低く聞いた。
ユダスが短く頷く。
「少なくとも、ここはな」
ルーシーは拳を緩め、ゆっくりと息を吐いた。痛みが全身に残っている。それでも、立っている。マキが彼の方を見、何も言わずに炎を消した。フロスティが氷を完全に解き、ユダスが路地の出口を確認する。
点数の声が、無機質に響いた。
『現在の点数——更新中』
数字は、また動いている。
四人は顔を見合わせ、短く頷いた。休んでいる余裕はない。まだ夜は長く、百点には届いていない。
彼らは、ジンの体を残したまま、路地を抜けた。
一方、ナイト市では、ソーレ んが夜の通りを歩いていた。
傷は、ほぼ塞がっていた。スカイブルーのオーラが安定し、以前の軽さが戻ってきている。彼はベン市の方角を一瞬だけ見ると、小さく息を吐いた。
「……surviving してるな」
独り言のように呟き、彼は歩き続けた。次の獲物を探すように、あるいは、何か別の気配を追うように。
シン市では、マジンが静かに立ち止まっていた。点数が、八十を超えたところだった。彼は青白いオーラを収束させ、夜風を受けながら、前を向く。モーグの気配は、もう遠い。
夜は、まだ終わらない。
ベン市の路地に残されたジンの体は、動かなかった。血が地面に広がり、不自然な陽射しが、ようやく消え始めていた。風だけが、静かに吹き続けている。
戦いの余韻が、夜に溶ける。
そして、狩りの夜は、まだ続く。夜は、まだ深かった。
ベン市の路地を抜けた四人は、しばらく無言で歩き続けた。肩から滴る血、乱れた呼吸、残る痛み。どれも、今は無視するしかなかった。ジンとの戦いは確かに終わった。だが、街はまだ狩りを続けている。遠くで意志エネルギーが爆ぜる音がし、誰かの悲鳴が風に乗って聞こえる。点数は、まだ足りない。
マキが足を止め、短く言った。
「休める場所を探す。傷を放置したら、次で死ぬ」
ルーシーは黙って頷いた。拳を握ると、痛みが走る。それでも、指は動く。フロスティが氷で簡易的な止血を施し、ユダスが周囲の気配を消すように位置を取った。四人は廃れた建物の影に入り、短い呼吸を整える。
無機質な声が、再び意識に落ちた。
『現在の点数——八十四』
まだ、十六点足りない。
「朝までには、終わらせる」
マキの声が低かった。誰も反対しなかった。
その頃、ナイト市ではソーレ んが屋根の上に立っていた。
傷は、もうほとんど残っていない。スカイブルーのオーラが安定し、夜風に揺れても乱れない。彼はベン市の方角を一瞬だけ見ると、小さく息を吐いた。
「……生き残ったか」
独り言は、すぐに風に消える。彼は手を振り、次の獲物を探すように夜の闇へ溶けていった。点数は、すでに百を超えている。それでも、彼は止まらない。止める理由が、ないだけだ。
シン市では、マジンが静かに歩いていた。
点数は八十二。青白いオーラを完全に収束させ、余計な気配を消している。モーグの件は、まだ決着していない。だが、急ぐ必要はなかった。必要なら、後で潰せばいい。彼はただ、前を向いて歩き続ける。
センダ市では、ピーターが氷の軌跡を残しながら屋根を走っていた。点数は七十六。遠くで、トルの気配が微かに揺れている。二人の距離は、まだ indifférent だ。だが、夜が明ける前に、交差する可能性は十分にあった。
そして、ベン市の高い建物の屋上では、チャが夜風を受けていた。
「ジンが、やられたか」
彼の声が、虚空に溶ける。楽しげでも、残念そうでもない。ただ、事実を確認するように呟いただけだった。モーグとトルは、まだ動いている。点数は、各所で静かに積み上がっていく。
「もう少しだな」
チャが目を細める。
夜は、まだ終わらない。
ルーシーたちは、短い休息を終えると、再び街の奥へ歩き出した。傷は残っている。消耗もしている。だが、足は止まらない。マキが先頭を歩き、フロスティが側面を固め、ユダスが後方を消し、ルーシーがそれを支える。
四つの影が、夜のベン市に溶けていく。
遠くで、また誰かが倒れる音がした。
狩りの夜は、深くなる一方だった。
そして、朝は、まだ遠い。




