第18話「星屑の祝福と永遠の鐘」
王都の中心にそびえ立つ大聖堂に、重々しくも祝祭に満ちた鐘の音が鳴り響いた。
青空に吸い込まれていくその音は、街の隅々にまで波のように広がり、人々の歓声を呼び起こす。
聖堂の内部は、高い天井のステンドグラスから差し込む色とりどりの光で満たされていた。
祭壇へと続く長い大理石の通路の両脇には、国中の高位貴族や諸外国からの賓客が整然と立ち並んでいる。
空気には神聖な乳香の香りが漂い、無数に飾られた純白の百合が甘い吐息を漏らしていた。
入り口の重厚なオーク材の扉が、ゆっくりと左右に開かれる。
光を背にして現れたリゼットの姿に、参列者たちから一斉に感嘆の吐息が漏れた。
純白のウェディングドレスに身を包み、銀色の髪には星を模したダイヤモンドのティアラが輝いている。
彼女の足取りは静かで、しかし決して揺らぐことのない確かな重みを持っていた。
参列者たちの視線には、かつて彼女に向けられていたような好奇や軽蔑の色は微塵も存在しない。
そこにあるのは、大地に恵みをもたらす『星屑の魔力』の持ち主に対する、純粋な敬意と畏れだけだった。
リゼットは前だけを見据え、一歩ずつ祭壇へと歩みを進める。
その視線の先には、白銀の式服をまとったレオンハルトが立っていた。
彼は他の誰を見ることもなく、ただリゼットの一挙手一投足を、熱を帯びた双眸で追い続けている。
祭壇の前にたどり着くと、レオンハルトが静かに右手を差し出した。
リゼットがその手を取ると、革手袋越しではない彼の力強い体温が指先から伝わってくる。
二人は大司教の前に並び立ち、神聖な誓いの言葉に静かに耳を傾けた。
大司教の荘厳な声が、高いドーム型の天井に反響して降り注ぐ。
健やかなるときも、病めるときも、互いを愛し敬うという古の誓い。
「誓います」
レオンハルトの低くよく通る声が響き、続いてリゼットの澄んだ声が重なる。
「誓います」
言葉を紡いだ瞬間、リゼットの胸の奥で、かつてないほど温かく巨大な光の渦が生まれ始めた。
レオンハルトが彼女の被る薄いベールを指先でそっと持ち上げ、背後へと流す。
露わになった彼女の顔を、彼は愛おしげに両手で包み込んだ。
少し身をかがめた彼の顔が近づき、リゼットはゆっくりとまぶたを閉じる。
唇に柔らかな熱が触れ合った瞬間だった。
リゼットの体から、淡い金色の光の粒子が爆発的な勢いで溢れ出したのだ。
それはリゼットが意図して放ったものではなく、極限まで高まった幸福感と深い愛が、魔力となって物理的に顕現したものだった。
金色の光は細かい雪のように大聖堂の空間を舞い上がり、ステンドグラスから差し込む光と乱反射して幻想的な輝きを放つ。
光の粒子は参列者たちの頭上へ降り注ぎ、肌に触れた瞬間に温かな安らぎを残して消えていった。
聖堂内を満たしていた緊張の糸がほどけ、誰もがその奇跡のような光景に息を呑んで立ち尽くす。
神の祝福そのもののような光の中で、レオンハルトはゆっくりと唇を離した。
彼は目を開けたリゼットを見つめ、どこまでも優しい微笑みを浮かべる。
「君の光が、世界を祝福している」
彼のささやきに、リゼットの目から一粒の涙がこぼれ落ちた。
悲しみではなく、これ以上ないほどの喜びからあふれた透明な雫。
レオンハルトはその涙を親指でそっと拭い、彼女の細い腰を抱き寄せて参列者の方へと向き直った。
その瞬間、大聖堂を揺るがすほどの割れんばかりの拍手と歓声が湧き起こった。
人々は涙を流しながら、新たな王太子妃の誕生を心から祝福している。
重厚な扉から外へ通じる大階段に出ると、王都の広場を埋め尽くすほどの民衆が二人を待ち受けていた。
五色の紙吹雪が青空を舞い、歓喜の声が風に乗って空高くへと立ち昇っていく。
リゼットはレオンハルトと繋いだ手に強く力を込めた。
彼もまた、その手を決して離さないと誓うように握り返してくる。
冷たい雨に打たれ、泥の中に倒れ伏していたあの夜。
すべてを失ったと思っていた彼女は、今、誰もが羨む眩い光の中で、最高の居場所を手に入れたのだ。
吹き抜ける初夏の風が彼女の銀髪を揺らし、二人の足元には光り輝く果てしない未来への道が真っ直ぐに続いていた。




