第14話「崩れ落ちる砂上の楼閣と手放された刃」
王太子の宣言が広間に響き渡った瞬間、ヴァレリア男爵とクロードの足元から、文字通りすべての土台が崩れ去る音がした。
彼らが所有物として見下し、搾取し続けてきた娘。
その彼女が、国家の最高権力者の隣に立つ次期王太子妃であるという事実。
それはつまり、彼らがこれまでの人生で行ってきた虐待と暴言のすべてが、王家に対する直接的な反逆罪に等しい意味を持つということだ。
男爵の膝の力が抜け、無様な音を立てて大理石の床に崩れ落ちた。
彼は泥に汚れた手で顔を覆い、何事かをぶつぶつとうわ言のように呟いている。
クロードはなおも現実を受け入れられず、血走った目でリゼットを凝視していた。
「嘘だ。そんなことがあってたまるか。あの女は僕の婚約者で、僕の領地を豊かにするための道具なんだ」
もはや理性を失った彼が、騎士たちの包囲網を破ろうと半狂乱で前へ飛び出した。
しかし、彼の体がリゼットに数歩の距離まで近づくよりも早く、レオンハルトの冷酷な声が彼を射抜いた。
「貴様らの罪状はすでに調べがついている。ヴァレリア男爵、娘に対する長期的な虐待および監禁、ならびに王族への不敬。ルグラン伯爵令息、自領の防衛義務の放棄、および同盟領への魔獣被害の拡大」
レオンハルトの背後に控えていた文官が、分厚い羊皮紙の束を銀の盆に乗せて掲げた。
そこには、彼らの悪行を裏付ける決定的な証拠が記されていた。
領地の帳簿、地下室の惨状を記した調査報告書、そして魔獣の侵入を防げなかったクロードの怠慢を示す騎士団の記録。
レオンハルトは証拠の束に視線を落とすことなく、真っ直ぐにクロードを見据え続けた。
「君たちの領地が崩壊したのは、リゼットの力が失われたからではない。君たち自身の傲慢さと無能さが、長年隠蔽されてきただけのことだ」
その言葉は、クロードの肥大化したプライドを根底から打ち砕く決定的な一撃だった。
自分の才覚だと思い込んでいた栄光が、すべて他人の犠牲の上に成り立っていた幻影に過ぎなかった。
その真実を大勢の貴族たちの前で暴かれ、彼はついに糸の切れた操り人形のように床へと頽れた。
華やかだった彼の夜会服はシワだらけになり、額からは冷や汗が滝のように流れ落ちている。
マリアンヌだけが、まだ自分が置かれている状況を理解できずに甲高い声を上げ続けていた。
「どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないの。私は誰よりも美しくて、強い魔力を持っているのに」
彼女は狂乱したように両手を振り上げ、指先から小さな炎を発生させようとする。
しかし、周囲の近衛騎士がその動きを見逃すはずがなかった。
金属の冷たい閃きとともに、二人の騎士が瞬時にマリアンヌの両腕を背後にねじり上げ、冷たい床へと押さえつける。
彼女の悲鳴が上がり、ドレスの装飾品が床に散らばって乾いた音を立てた。
琥珀色の瞳からボロボロと大粒の涙をこぼし、マリアンヌは床に頬を押し付けられながらリゼットを睨みつける。
「お姉様のせいよ。お姉様が私の邪魔ばかりするから」
一切の反省もないその言葉を聞き、リゼットは静かに息を吸い込んだ。
彼女はレオンハルトと繋いでいた手を優しくほどき、ゆっくりと一歩前に踏み出す。
大広間の視線が彼女の一挙手一投足に集まる中、リゼットの足取りに迷いはなかった。
彼女は床に押さえつけられているマリアンヌを見下ろし、そして、崩れ落ちた父とクロードに順番に視線を巡らせる。
かつては彼らの足音を聞くだけで怯え、顔色を窺って息を潜めていた。
しかし今、彼女の瞳に映っているのは、権力と虚栄心にしがみつくだけのひどく哀れな三人の姿だった。
「私は、あなたたちを恨んではいません」
リゼットの澄んだ声が、静まり返った広間に静かに響き渡る。
怒りも、憎しみも込められていない、春の風のように穏やかな響きだった。
「ただ、もう私の心の中に、あなたたちの居場所はないというだけです。あなたたちがこれからどれほど苦しもうと、助けを求めようと、私の光が届くことは二度とありません」
それは、彼女からの完全なる決別の宣言だった。
家族としての情も、かつての婚約者としての未練も、すべてがこの瞬間に完全に断ち切られたのだ。
その静かで揺るぎない言葉の重みに、クロードは呼吸を忘れ、マリアンヌは声にならない嗚咽を漏らした。
彼らはようやく理解したのだ。
自分たちが失ったものが、決して代わりのきかない、この世界で最も尊い光であったということを。
レオンハルトが再びリゼットの隣に歩み寄り、彼女の肩を大きな手で包み込んだ。
彼は近衛騎士たちに向かって、氷のように冷たい声で短く命じる。
「この者たちの貴族籍を剥奪し、地下牢へ連行しろ。後日、辺境の採掘場での終身労働を言い渡す」
一切の情けを容れないその裁定に、三人は抵抗する気力すら奪われていた。
騎士たちに引きずられるようにして広間から退出させられていく彼らの背中を、リゼットは静かに見送る。
重厚な両開き扉が閉じられ、彼らの姿が完全に視界から消えた。
残された広間には、深い余韻と、嵐が過ぎ去った後のような静寂が漂っている。
レオンハルトはリゼットへと向き直り、その美しい銀色の髪をそっと撫でた。
「よく言い切った。君は本当に強い女性だ」
「殿下が、隣にいてくださったからです」
リゼットは花がほころぶような笑みを浮かべ、彼の大きな手に自身の頬をすり寄せた。
彼女の胸の奥で、淡い金色の光が静かに、そして力強く脈打っている。
過去の鎖から完全に解放された彼女の魂は、彼と共に歩む未来へと向かって、真っ直ぐに羽ばたき始めていた。




