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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
四章 悪魔祓い

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四章 山の海神様は嫉妬深い エピソード10 チャーチヒューズ工業への潜入道中

 社での打ち合わせから二日が経った今晩。作戦の実行日である。

 俺は集落の者から借りた汚れてもいい軽装――――繋ぎ姿に着替えた後、気が乗らないなりに社を出た。

 一方マルファの服装はと言うと、『アタシの勝負服は常にこれよ!』と豪語した上で、いつも通りのゴスロリ衣装である。彼はその他にもフィールドワークに使用している肩下げバックを携え、意気揚々と俺の前を歩きだしたのだ。


 そして現在、チャーチヒュ-ズ工業の現場へと足を運んでいる最中の俺達は、登山中であった。

 今回の作戦内容は社での打ち合わせ細部を補強したのみ。特に変更点は無い。つまり、就業後の現場にこっそり入り込み、どんな鉱石を採取しているのか確認するのである。その他にも目ぼしい不審点が無いか詳細資料を物色する。もしも作業員に遭遇したのならば、水魔術の迷彩を施した上で見つからないように聞き耳を立てる。

 まぁ、こんな杜撰な作戦で撤退させられるだけの物証を得られるのかという気持ちは十二分にあるのだが…………元々俺は気が乗らなかったゆえにあまり口出しをしなかった。そのの結果がこれだ。やむを得ない。

 とは言え、俺はそれなりに腕が立つし、最悪マルファなぞ置いて逃げればいいと思っている。だから深くは考えていない。

 ちなみに言うと、鬼畜クソ女は気づけば姿をくらませていた。ただ探す気は無い。奴は今、彼方様とやらに誓いを立てているので行動には移さないはず…………だからまぁ放っておいている。

 その代わり、今の俺を悩ませているのはこの夜間登山だ。チャーチヒューズ工業に見つからぬよう視界の確保たる魔術の火――――光源も最小限に留めている上で、土地勘も無いのだからこの夜間登山はまことに骨が折れるのです。アウェイもいいところ。そのせいで既にもう四回以上は転びかけている始末だ。


 チャーチヒューズ工業の現場は集落から北の方。約数キロ地点の山中にある()()()。と言うのも曖昧な表現なのは俺が計画書を流し読みしていたため、明確な地点を把握していないからである。いや、仕方ないだろう。こんな展開になるなんて夢にも思わなかったのだから。

 だから、大よその位置を把握しているのは計画書に目を通したマルファのみなのだが…………、

 

「…………ハァ…………ハァ…………学者先生。ほ、本当にこの方向であっているのですか?」


 俺は山の木々が覆い隠す隙間から夜闇を見上げ、三日月の位置を確認した。それによると登山を開始して既に一時間以上は経っているように思う。だから俺はマルファに対し、あからさまにも辟易した気配を投げたのだ。


「か、彼らの現場は山頂にあるのですか?」


 「いいえ。」とマルファは足を止めることなく、登山に不向きとしか思えないゴスロリ衣装の背中で答えた。


「計画書によると、この山の中腹で作業しているはずよ。今いる位置からだと山を挟んで反対側ね」


「…………それでは現場に着くころには夜が明けていそうですが」


「でもね、このルートが一番安全なのよ。彼らは作業を終えたら下山するか、近場の拠点に移るだろうし…………そうすると、その時にアタシ達とかち合う可能性があるもの」


「しかし…………このペースではとてもじゃありませんが、持ちませんよ…………」


「こういうのは失礼だと思うけど、今足を引っ張ってるのはアルマちゃんだからね?」


 「なっ」。俺は巻き込まれた被害者なのだぞ。にもかかわらず、その言葉は流石に酷ではないか?


「もう少し、慈悲を恵んでくれても罰は当たらないと思いますが…………」


「でもねぇ、本当ならもう山頂付近のはずなのよ?」


 そうは言うが、これでも俺はそれなりに体力がある方だぞ。普段から悪魔祓いのために歩き回っているからな。そんな俺が音を上げるのだから、この登山は相当な苦行なのだ。

 しかしながら、俺よりも歩きにくいゴスロリ衣装のマルファからは荒い息が聞こえない。そうなると、俺が足を引っ張っているとの暴論に対し反論が出来ない。非常に癪である。


「…………本当に、あなた、体力お化けが過ぎませんか。」


「学者は足で稼ぐのよ。」


「…………学者にならずによかったと、今心底思っておりますよ」


「口を動かしてる暇あったら、足を回す。ほらほら山頂まであともうひと踏ん張り。頑張って!」


「…………ハァ。飛んでいければこんな山一超えなのですがね…………」


「ない物ねだりは辞めましょう。そんな事で出来る人いないわよ」


「…………いや、出来ますが」


「は?噓よそんなの。竜巻でも起こす気?」


「いや、俺は集落へ続く大通りまでは山を見下ろし、飛んできましたので。」


「…………は、はぁ。本気で言ってるの?」


「…………ん。なんですかその反応は。俺は打ち合わせの際にその案も出しましたが、あなたはそれを『馬鹿言わないでよ』と、ばっさりと却下したではありませんか。だから、その後は口を挟まなかったのですよ…………?」


「え、ええと。確かにそう言われたけど。てっきり場を和ませる冗談かと…………」


「…………え。は?じゃあなんですか。ここまでの俺の苦労は徒労であったというのですかっ!?」


「いや、えっ?本当に?本当に飛べるのアルマちゃん??」


「飛べますが。あなた、俺の魔力量を舐めていますね」


「え、へぇ?だ、だってそんなの前代未聞よ?黄金ランクにだってそんな人聞いた事無いのに…………」


「あんな脳筋連中と一緒くたにしないで頂きたい。確かに、奴らに比べれば身体能力では劣っていますが、魔力量と魔術の練度では漆黒ランクに届くと自負がございます。」


「いや、だって。ねぇ…………そんな風には感じないわよ?」


 当然だ。俺は普段から魔力量を偽装しているからな。とは言え、その事を口で説明するつもりはない。どうせ「嘘よ」、「本当です」と押し問答になるに決まっている。

 「ハァ…………面倒ですが、それなら一端をお見せしましょうか。」ただし、胃袋がひっくり返っても俺のせいではありませんよ。

 マルファが「ほえ?」と半信半疑に口を開けた直後、俺は魔力の枷を一瞬だけ解いた。

 すると、


「…………!っ、オエェ!」


 案の定。この夜闇の中でも識別できるほど、マルファの顔色が真っ青に変わり、腹を押さえてうずくまったのだ。


「誰も彼も、人の顔を見て失礼な事です…………」


 しかしながらこの反応は予想の範疇。

 だから「大丈夫ですか」と手を差し伸べたのだが…………マルファは「ヒッ」としゃくり上げ、俺の手を弾いた。そして直ぐ、彼は自身の行いに軽蔑をにじませ自身の手を握り締めた。


「あ、ご、ごめんさい。違う、違うのよアルマちゃん。あの、少し、当てられて。あ、その。本当にごめんなさい」


「構いません。慣れています。でもこれで分かったでしょう。」


「え、ええ。驚きだわ…………」


 マルファは俺から少し距離を取り立ち上がった。むろん、気にはしません。これも何時もの事です。


「確かに、魔力は自身の血液も同然。謂わば最も身近な心根よ。でもだからって、他者に己が精神性(感情)をぶつけられる程の魔力量なんて、でたらめもいいとこよ。これだけで一つの研究が為せる。学会で発表したら…………ううん、世間に知られたらそれだけで…………」


「俺は最悪実験動物ですね。ゆえに、普段は魔力量を抑えているのです。もっとも、向かってくるのならば、容赦はしませんが。」

 

「…………アルマちゃんがその力を悪用するような人じゃなくて良かったわ」


「ははは、俺は善人ではありません。その対極ですが。」


「そうかもしれないけど、その中でもあんまりいないタイプなの自覚してる?」


「しょっぱい砂糖はありはしない――――奴隷商ですよ、俺は。」


「でも、好んで人殺しはしないでしょう」


「さてはて…………どうでしょうかね。悪人は好きですし、商品ですからむやみやたらに殺しはしませんが。善人は苦手ですので、虫唾が走って加減を間違えるかもしれません」


「もしそうなら、アタシはアルマちゃんと仲良くできてないわよ」


「勘違いしないで頂きたい。仲良くなどありません。俺は売人であなたはその顧客。今回は立場が逆なだけの他人です」


「もぉ!本当にひねくれてるわね!!」


 その言葉に対しては、マルファの衣装を半目で見据えた。


「あなたの趣味趣向程ではありませんよ。男女めが」


「ああ言えばこういう!」


「うるさいですね。あなたの低い声は体の芯に響くのですよ。もう少し抑えていただきたい。」


「っとにっ~~もぉ!!いいわよ!!で、飛べるのね!?」


「ええ。遊覧飛行と洒落込みますか?」


「やってちょうだい、お願いッ!」


 マルファの癇癪混じりの怒鳴り声に対し、肩をすくめた後「葬風が成る。我が息吹は終わり、世間を床に臥せん。」と、俺は風魔術の中級を唱えた。

 その直後、木々が冷えた山の風でざわめきを奏で始め、極小の竜巻程の風速が俺達を飲み込む。

 マルファの黒髪が何度も彼の頬をはたき上げ、ついに上昇気流が俺達の足を地切りしたのだ。 


「ちょ、ちょっとさっきの詠唱中級でしょ!?人が死ぬ威力よ?!これ。本当に大丈夫なのっ?」


「だからうるさいですよ。問題ありません。完全に制御下にありますので」

 

 魔術は『(クラス)』によって威力が決まっている。そして当然ながら、級が上がるごとに魔力の消費量も増える。

 俺はこの感覚を大雑把に数字で捉えている。低級は1~10。中級は30~60。上級は80~100以上魔力を流すと言った感じだ。要は、流す魔力の量により、『級』の中でも少なからず加減が利く。

 ちなみに言うと、今回は二人分を浮かせるため、40程魔力を込めた。とは言え、俺で40なのだから、常人ならば相対的に100以上の魔力を秒で消費していく事だろう。

 もっとも、俺にとっては瞬きする程度の労力に過ぎない。だからなんの問題も無いのだが…………、


「う、うそうそ。これまじ??浮いてる。浮いてるんだけど!?あ、アルマちゃん。これほんっとうにヤバい事よ!?」


 マルファにとっては目が回る驚愕の出来事だったようで、今や喧しく喚き散らしている。この分だと風音が無ければやまびこでも発生していたのでしょうね。

 とは言えだ、流石にはしゃぎ過ぎだろう。


「ハァ…………学者先生、口を閉じていた方がいいですよ。これから現場近くまで飛ぶので舌を噛みます。」


「りょ、りょうかいぃー。お口はチャックしますぅ…………ん、あれ?アルマちゃん、その目黄色くない?どうしたの?」


 左目に手を添えると、普段覆い隠いている前髪が風でまくれていた。「あぁ…………」だから見えたのか。


「前に会った時はオッドアイじゃあ無かったわよね?」


「色々ありまして。魔眼をもらい受けました。名は知りませんがね」


「うっそ!?ほんとに?眼って移植できるの!?すんごく珍しい例じゃない!!ちょ、後で良く見せてもらえる?!」


「…………構いませんが。俺も一つお訊ねしたい事がございます」


「なに?」


「あなた、黒髪ですが…………魔力量を偽っていたりしますか?」


「アルマちゃんみたいにってこと?そんなまさか。もしそうなら、ギルドメンバーにでもなってるわよ。」


 まぁそうだろうな。俺もマルファから魔力量の偽装を感じたことは無かったですからね。彼の証言に間違いは無いだろうさ。

 しかしそうなると、ウィズ・キャネルが言っていた落胤足りえる理由――――白髪と黒髪の法則は他にも条件があると言う事だろうか…………。


「と言うか、魔力量と黒髪って関係あるの?アルマちゃんは白髪(シラガ)じゃない???」


「っ、シラガと言うのは辞めていただきたい。プラチナ。もしくは白亜と呼んでもらいたいものです」


「…………アルマちゃん、自意識過剰よねぇ…………そのうぬぼ…………もとい、自信は見習うところがあるわ」


「あなた今、自惚れと言いかけましたか…………?」


「ま、まさかぁ、いやねぇもう」


 言い繕っても遅いですよ。俺は既に腹が立っている。だから俺はマルファを空中で天地がひっくり返る様に回転させた。

 すると、「ウォオオオ!!!」なんて野太い絶叫が三百六十度響きわたる。その獣の雄たけびのような下品な声に対し、俺はいい気味だと嘲笑をくれてやった。


「俺は事実を申しているだけだと言うのに、誠に遺憾なのですよ。」

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