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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
四章 悪魔祓い

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四章 山の海神様は嫉妬深い エピソード09 ライフライン『陣』

 傷を癒した後、俺はまた社の最上階へと来ていた。理由としては社へとやってきたマイルスと巫女さんの二名が、例のごとくしきたりとやらに従いまたも最上階へと上って行ったためだ。

 もっとも、今回の俺は外から飛んで最上階へと上がり込んだため疲労は無いからよしとするが。


「さて、それで学者先生は今後どうするおつもりか」


 昨日と同じ配置で部屋に座る俺は、隣へと声をかけたのだ。

 しかし、反応を示したのはマイルスと巫女さんであった。彼女達はチラチラと部屋の壁際を見ている。それというのも、今この場には鬼畜クソ女も上がり込んでいるため、気になってしようが無いのだろう。

 

「先に言っておきますが、奴は居ない者と思ってほしい」


 俺の言葉にただならぬ気配を感じたのか、巫女さんとマイルスはそれ以上深入りしてこなくなる。

 するとようやくマルファの手番となった。彼は顎に添えていた手を離し、口を開いたのだ。


「まず、チャーチヒューズ工業の概要をおさらいしておきましょうか。彼らは首都のほど近い工業地域で活動しているの。主な事業内容は新しい陣の開発ね」


「あの、陣と言うのは…………」


 巫女さんは確認するように聞いた。


「魔力を流して、火や水を出すあの陣で間違いないでしょうか?」


 対してマルファは「そうよ」と頷く。


「アルマちゃんやアタシ達は身近にあるけど、ここの人たちはやっぱり、陣について馴染みが無い?」 


 やっぱりと言うのは、マルファがここへ来てから薄々感じてた事。もしくは調査の上で知ったのだろうか。そんな風に俺が考えていたところ。巫女さんの方は一方的に後者の方と捉えたようで、「ご存知かと思いますが」とこの村の文化レベルについて軽くさわりを語った。

 巫女さん曰く、陣を用いずとも元来の魔術によって基本的には事足りる事。また、その他にも、陣を用いた日常生活へ移行するには資金が足りないと言う。

 しかし、俺が聞いている限り、もっともな理由としては資金面が存在している気がした。何しろ、巫女さんの説明は主に金銭面に寄っていたからだ。


「ここから最も近い街の方でも、徒歩で通り道を抜け一週間はかかります。その上、元々自給自足をして生きていた手前。私どもには資金を得る商才も、新たな技術を受け入れる心構えも整える事が叶わず、ここまで来てしまいましたから。」


 自給自足と言えば聞こえはいいが、閉鎖的とも言い換えられる。

 もっとも、そう言う風土が出来上がっても仕方ないとは思う。実際、文化レベルが上がる一昔前であれば、この大自然の恵み溢れる『楽園』から出て行くなど、馬鹿のする事だろうさ。


「じゃあ、ひとまず陣について軽く説明しておこうかしらね」


 マルファが陣の説明を始めたが、俺からすれば陣など常識だ。それこそ、トイレと変わらないレベルの日常生活品。頭を悩ませなくとも二つや三つは思い浮かぶ。たとえば、飲食店ではおしぼりの代わりに陣が用いられ、触れるだけで手を潤したあと乾かす事が出来るし、炊事で火を灯す際には魔術と違い、その場を離れても火力を保つことができるのだ。その他にも、手錠や拘束具に刻めば人の魔術発動の阻害も可能…………等々、利便性は計り知れない。


「なるほど、では皆さんの身の回りは陣に助けられているのですか」


 どうやら俺がマルファの話を聞き流している間に、大まかな説明は終わったらしい。もっとも、巫女さんの反応から察するに、俺が思い浮かべていた説明内容と相違ないと見える。


「陣が普及する理由が分かりました。確かにあって困る事は無さそうです」


「ええ、陣の普及で魔術練度の低い小さな子供でも、安全に火や風を起こすことが出来るようになったわ。それまでは日常生活において、魔術の加減が出来ず怪我をする子供も多かったし。でもね、陣にも一応デメリットが存在するわ」


「それは…………?」


「陣の暴発ですよ。」


「え。」


「と言っても、これは売られている陣としては、不良品の話なんですけどねぇ」


「正規品ではないと言う事ですか?」


「ま、そんなところかしら。基本的には店で買えるんですよ陣て。長持ちするように金属に刻印されているものもあるし、使い捨てなら紙に書かれてるものもある。技術と知識のある者によっては自ら手製して使ってる人も居ると聞くわ。ただ、それらは全てギルドと国々が定めた規格内で届け出を出して運用されているの。要は爆発するものや、毒をまき散らす等の危険物は所持しているだけで犯罪ということね。」


 「でも」、ここからが本題であると暗に示すように、マルファの低い声が渋みを増した。


「その規約の網をかい潜る不良品も少なからず出回っているの。それが、陣の特性を利用した『暴発』。陣てね属性に準えた現象を起こせるように魔術式を一つ刻んであるんだけれど、それらは近年になって同属性では同じ術式が刻まれるようになったの。大量生産性を上げるために汎用的に術式を簡略化したのね。でもその結果、火を灯そうと炊事を始めた家庭で作動した陣が、別の家庭の陣に遠隔で作用して火事が起きた。これが最初の事件。国々とギルドはこの件を重く受け止め、陣を開発販売している各位に厳重に改善改良の命を出した。それが魔術式に遠隔で作用しないよう、『固有名詞(ナンバリング)』を設ける事。最終的にその措置を設けたおかげで暴発は起きなくなったけれど、遠隔で作用出来るその特性を利用し、ナンバリングを意図的に排した不良品を用いた暗殺も行われていると、まことしやかに噂されているわ。」


「あ、あんさつ…………物騒な話ですね」


 と口を押えた巫女さんの驚きはさておきだ。


「学者先生、陣の説明にしては少々熱を入れ過ぎな気がしますが…………チャーチヒューズ工業と関係があるのでしょうね?」


「当然よ。その不良品を横流ししてお金を稼いでいるって噂()あるんだもの」 


「…………も。とは穏やかではありませんね。他には何を?」


「声を大にするのは憚られるけど、人体実験よ」


 その言葉を境に部屋の中へ静寂が訪れた。

 まぁ、言葉に詰まる内容ではあるから仕方ないとは思うのだが…………しかしだ。俺が押し黙ったのは皆とは理由が違う。

 俺はその時、黒と青色のツートンカラーの男が脳裏に浮かんでいたのだ。要は、俺はその悪行に対し対し身に覚えがあった。


「学者先生。まさかとは思いますが、その人体実験とは陣を体内に埋め込むという内容ですか?」


 俺の質問に対し、マルファは返答の代わりにギョッとしたのだ。

 いやもうその反応だけで十分です。どうやら俺の予想は当たっているようだ。


「なんで知ってるのアルマちゃん。あ、もしかして()()()()()だともう噂が出回ってたの?」


「いえ…………ぁー、まぁそんなところです」


「歯ギリが悪いわねぇ?」


「お気になさらず。今はその噂が正しいか否かの方を優先しましょう。」

 

「んー。そ、そうね。話を戻しましょうか。とりあえず、チャーチヒューズ工業の良くない噂はそんなところよ。ここからは、彼らをどう追い払うかね」


「ならば、その良くない噂を調べ、つつくのが効果的では?」


「俺も巫女さんの案に賛成ですね。立ち退かせることは出来るのではないですか?もっとも、その噂が事実ならば…………ではありますがね。」


「…………アルマちゃん。自分がその立場になった時、立ち退く?」


「ええ、一旦は」


「ほら、一旦でしょう?その後に報復があったら困るのよぉ」


 「はぁ、面倒な」。俺としてはマルファから悪魔祓いの噂を聞きだせればそれで目的は達せられるのだから、正直なところ縁もゆかりもないこんな田舎どうなってもよいのですが…………、


「ここの神様はアルマちゃんをご指名なのよ?もうちょっとやる気出して欲しいわ。」


 マルファの言葉に連鎖するように、巫女さんとマイルスの二人も申し訳なさそうに俺を見るのだ。

 嘆息が出ます。この感じだと安全が保障されるまで解放はおろか、マルファも情報を話す気は無いらしい。


「では、どうするおつもりなのですか。」


「アハッ、だぁったら~皆殺ししちゃえばん☆??」


 その物騒な発言でまたも室内が静寂に落とされた。皆が鬼畜クソ女を苦い表情で見たのだ。

 くそが。ここまで黙っていたかと思えばなんで今更、「どういうつもりだ」。


「だってだってぇ、ド外道君私とお喋りしてくれなくてぇ、さみしかったんだもぉ~~ん。ズっこいよ~キヒヒ」


「噂が事実か分からない以上相手はカタギだ。殺しは無しに決まってるだろ。というかお前、彼方様とやらに誓っただろうが」


「えー、私は殺さないよぉ~君達がやるのぉ~~♡だってぇ、その方が簡単じゃな~い??」


「易いか難いかの話じゃあないんだよ馬鹿が。言っただろうが、報復があると」


「ブーーぶー!来たらそれらも殺しちゃえばいいじゃん!?」


「…………場を引っ掻き回すつもりなら、お前から殺してやってもいい」


 俺が魔力を体内で回し、右手を構えようとした時、「ま、待って。落ち着いて」とマルファに腕を掴まれ諫められた。


「毎回挑発に乗ってたんじゃ、話が進まないわよアルマちゃん」


「しかし…………先に仕掛けてきたのはあちらだッ!」


「しかしもへちまも無いわ。今は優先事項を間違えないで。ここを焼け野原にする気?」


 「ちっ」。まぁ確かに。マルファの言うことも一理ある。そもそも、あの鬼畜クソ女とまともに取り合おうとしている俺の方が馬鹿なんだ。

 そうだ。その通りじゃないか。頭に血が上っていたな反省だ。今後はすべて無視。視界にも耳にも奴の存在を入れぬよう努めよう。

 まずは深呼吸だ。


「…………アルマちゃん。落ち着いた?」


「ええ。巫女さんとマイルスさんもお見苦しい所を見せました。話を戻しましょう。で、策は?」


「決まってるじゃない。忍び込むのよ」


「はい?どこに?」


「工事現場に。」


「何を言っているのですか。」


 まさか、現場に物的証拠を持ち込んでいるとでも思っているのかこの学者先生は。

 ありえない。わざわざ機密情報を外部に持ち出すわけが無い。だって、誰それが見るともわからないのだぞ。ここに来るまでの間に、衛兵や部外者から検問や移動理由を聞かれる可能性だってある。

 少なくとも俺ならばそんな馬鹿な真似は犯さない。そんな危険な橋を渡る理由が見当たらない。

 だからと言ってチャーチヒューズ工業の黒い噂が事実だとしても、それを末端の構成員が知っているとの確証も無いはずだ。


「意味が分かりませんよ。策が無いと遠回しに言っているのですか?」


「アルマちゃんは、陣の研究に必要な物って何か知ってる?」


「…………何です突然。何が言いたいのですか」


「その顔を見るに知らないってことで話を進めるけど?」


 俺は表情には出さず内心で少しムッとした。知識マウントをとられた気がしたからだ。

 確かに俺は陣の開発研究に対し造形は深くない。陣は普段使っているが構造を深くまで理解してはいないのだ。例えるなら、マッチ棒をこすると火がつくのは理解しているが、マッチ棒に含まれる発火成分の詳細までは分からないのと同じだ。

 だから知らないと言っても間違いではないが、それを正直に言うのは癪だ。ゆえにここは、「巫女さん達に分かるよう噛み砕いて説明すればいいでしょう」と言っておきます。

 するとマルファは苦笑した。「知らないなら知らないでいいじゃない。素直じゃないわねぇ」と、呆れ気味に息を吐いて語りだしたのだ。


「まず、陣の開発には既存の魔術式と、魔力経路の流れを理解することが必要よ。特に後者が重要ね」


 マルファが既存の魔術式の説明を省いたのは、前提条件たる術式効果を俺達に教えるのが手間だったからか。それとも、今回語る上で必要のない項目だったのか。あるいはどちら共かもしれないが、俺には分からない。

 ゆえにひとまず、清聴しましょう。


「人体に流れる魔力を捉える。それが既存の魔術式全てに組み込まれている最低保証の仕組みなんだけど、それら魔力を勝手な方向で、勝手な量で縦横無尽に流しても術式は発動しない。そういう安全装置(インターロック)が組み込まれている。そうでなければ短絡――――暴発する危険があるから。だから、理想的な流れになるようルートを整える必要があるの。そのルートの組み合わせが陣の開発においてもっとも難所なのよ」


 と言われても、専門用語が右耳から入って左耳から抜けていくせいで、想像がつかない。いまいちピンとこない。

 俺と同様、巫女さんとマイルスも首をかしげていた。


「…………はぁ、それで?」


「それだけなの。陣の開発に必要な主なプロセスはね。」


「つまり…………?」


「鉱石を陣の研究開発に使用する例を、アタシは知らないわ。」


「…………ほぉ。ではチャーチヒューズ工業がなぜ鉱石を採掘するのかを突き止めればいいという訳ですか。そこに彼らの柔い部分があると?」


「ええ。もっとも、魔獣の身体構造――――魔力の流れから着想を得て、開発された陣の存在は確かにある。それにアタシは陣の開発を専攻していないわ。だから知らないだけで実は鉱石を基にした新たな仕組みの考案が上がっている可能性も捨てきれない。」


「そう言われてしまってはお手上げですが…………この際置いておきましょうか。ひとまずは学者先生の言い分に騙されてみる事に致しましょう…………いや、というかあなた、本当に民俗学専攻なのですか?いやに知識がある様に見受けますが…………」


「学者がみんな尖った知識人だと思わない事ねアルマちゃん。大体の人が全ての分野に浅く広く浸かっているわ。そうでもなきゃ、偏見にまみれたもの言いしかできなくなっちゃう。閃きから見捨てられ、多角的にものを見れないでしょう?」


「まぁ、そうかもしれませんね」


「じゃないと本も出せてないし、お得意様になれるほどお金も持ってないわ」


「…………なるほど…………」


 俺が納得したのを境に、マルファは「さて」と低く頷いた。


「それじゃあ、いつ乗り込みましょうかしらね」

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