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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
四章 悪魔祓い

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四章 山の海神様は嫉妬深い エピソード05 チャーチヒューズ工業

 手を引かれ歩く事ほどなく。「あすこだ」と男が指さした場所は石作の階段の地点。そこには男が四人いた。そのうちの三人は作業着姿で、階段を背にした着物姿の一人に対し、食ってかかる様に詰め寄っている。

 遠目からでも険悪な雰囲気が見て取れた。


「………まさか、アレを治めろとか言い出しませんよね?」


「そうそう!そうなんだなぁ。巫女様から俺らじゃ何ともでききんから助けて貰えってよ」


「とは言われても、双方の言い分を聞いたわけではないのですよ。今いる所からじゃどちらに加勢すればいいか分かりませんが」


「あら、だったら近づけばいいじゃない」


 「は?」と俺が不意を突かれた時にはもう、マルファが四人の下へ小走りに近寄り、俺の方へと指を指したのだ。

 するとどうだ。四人は一斉に俺の方へと顔を回し、近づいてくるではないか。


「…………きみが話しつけてくれるって?」


 作業着姿の三人のうちのリーダー格であろう一人が俺へと渋い表情を寄せた。彼は無精ひげを生やし、体格もいいせいで、近づかれると圧迫感が凄かった。

 というか、俺は今敵意を向けられている。

 つまり終わりです。

 完全に巻き込まれた事実を痛感し、大きな嘆息が漏れた。


「なあ、ため息付いてないでさ、山に入る権利くれないかな?」


「……………………山…………ですか?」


 彼らの姿を近くでまじまじ見返すと、土の茶色や草木の緑が付着している。


「そうだよ、俺達ここへ実験に使用する鉱物採取に来ていてね。調べによると、この辺りの山に所有者はいない。だから入ったんだが…………」


 とそこで、「そ、そんな訳有りませんよ」と、着物姿の男が割って入った。


「何度も言いますが、ここは我らの村が代々管理してきた自然です。山の恵みを少量取るなら何も言いませんが、大々的に事を為すなんて許可できるわけないじゃないですか!」


「とは言えだよ。公的なこの地の所有権がきみらにあるわけでは無いんだろう。ん?どうだね?」


「っ、いや、それはそうかもしれませんが…………」


 なるほど。そう言う内容で揉めていたわけだ。事態の全貌が掴めそうだなと思った時、作業着の男はまた俺に顔を寄せた。


「で、お兄さん。山に入ってもいいかな?」


 そして途端にも皆が俺を見るのだ。

 しかしこれは…………部外者たる俺が介入するべきことではない気がするのですがね…………。

 だから、俺はたまらずマルファへと話を振った。助け船を引き寄せたのだ。

 するとマルファは「そうねぇ…………」と言ったきり、考え込むように頬に手を当て黙った。そして、次に口を開いた彼の表情は、議論を唱える者の顔へと変わっていた。おそらくは、答弁が整ったのだろう。


「実験に使用って聞いたけど、何の鉱物を使った何の実験?」


 男は間髪入れず首を横に振った。「企業秘密だ。」と突っぱねたのだ。しかし、「そう」とマルファはその話からすんなり身を引いた。

 そのやりとりの真意を俺は理解できなかった。しいて言えば、同じ学者畑ゆえ気持ちが理解できたのではないだろうか。そう、たとえば研究内容を横取りされたくないとか。

 まぁ、結局は俺の憶測の域を出ないし、今はその部分を追及すると話がそれそうだと思ったので、口を挟む気はないのですがね。


「じゃあ質問を変えるわ。その実験においてこの村に益は在るの?少なくとも、地域住民の被害になる事であるならば、抗議する権利があるわ」


「いや、この村に被害を与える事は無い。俺達の目的は山にだけある。防音措置もするし、水質を汚染する作業もしない。必要量及び必要材質以外の物には手を付けず、作業が終わり次第木々の植林だって確約する。必要とあらば、こちらの計画書も差し出すが?」


 男が懐から取り出した計画書を、マルファは手に取り隅々まで目を通した。

 すると、マルファは突破口を見出したのか口角を上げ、計画書のとある項目を指ではじいたのだ。


「随分大規模な工事をするつもりらしいわね。特にこの――――『該当地点の開発の際、安全を考慮した伐採を行い、大通りからの移動手段を確保するべし』って一文、本気?」


「周囲の安全及び視覚の確保のためだ。木々が生い茂っていては指示が行き届かない危険性がある。万が一けが人や急病人が出た際にも、人命を優先できるだろう」


「…………駄目ね。アタシが村人なら絶対に容認できない」


「何がだ」


 マルファは無言で懐から地図を取り出し、皆に見せつけた。それは大雑把な既存の物に対し、マルファ自身が独自に調査したであろう詳細な地形のメモを記したものだった。

 

「ほら見て、計画書に記された地点の近くには川がある。斜面も急よ。木々の伐採をすると土砂崩れの危険性が発生する。水質も変わるかもしれない。とてもじゃないけど、頷けないでしょう」


「…………だから、そうならぬよう細心の注意をはかって、整地する事も視野に入れているんだ。」


「おかしいわね。整地するって事は何かを敷き固めるって事でしょう。植林なんて出来なくなると思うけど」


「…………それは上の判断だ。現場はそれに従うのみ」


「そうそう、おかしいと言えばあなたたち、企業名は何。どこにも記されていないんだけど?」


 確かに。俺も計画書を観てみたが、何処にも名前が載っていない。

 きな臭くなってきましたね…………その思いを表すように俺が片眉を上げ男を見ると、彼はバツが悪そうに口を動かした。


「チャーチヒューズ工業だ。」


「聞かない名前だけど…………アルマちゃん知ってる?」


「いえ、俺も知りませんね」


「こんな大事業計画を施工できるなら、それなりに名が知られていてしかるべきだと思うんだけど…………ねぇ?どうなの?」


 何時までも食い下がるマルファにうんざりしたのだろうか。男は計画書を半ば無理やり奪い返し、「もういいだろう」と舌を打った。


「とにかくだ。俺達は既に段取りを進めている。こちらの村に手は出さない。いいな?危険だからもう作業中にこちらへと侵入してこないように」


 吐き捨てるように作業着の三人は踵を返した。彼らの背中へ「話はまだ終わってませんよ!」と着物姿の男は声を張り上げたが、完全に無視。ピクリともしなかった。

 それからしばらくして、着物姿の男は肩を落とした姿勢から、こちらへと振り返る。


「すみませんでした。急にこんな事に巻き込んでしまいまして」


 まったくもってその通りだ。その謝罪を待っていましたよ。もっとも、俺は今回何もしていませんがね。

 俺の仏頂面を見て、着物姿の男は苦笑しながら言う。


「で、では行きましょうか。」


 はい?転換が急すぎて意味が分からない。一体どこへ行くと言うのだ?


「巫女様がお待ちです。着いてきてください」


「巫女さんは…………俺の事を誰から?」


「ワダツミ様からです。」


 着物姿の男はごく自然な感じでそう言った。だから俺は「だろうな」とは思いつつ、訝し気に眉をひそめざるを得なかった。

 一方マルファは目を輝かせ、嬉しそうに低く唸る。


「~行きましょう、アルマちゃん」


 気分は乗らないが、どうせ行かないと言っても無理やり連れて行かれるのだろうさ。

 ならば、俺に残された選択肢は首肯の一択でしょう。

 

「わかりました」


 俺を連れてきた村人の男とはここで分かれ、俺とマルファは着物姿の男に着いて、階段を上って行った。

 階段の傾斜は急ではなかった。三足分は縦に揃えて置けるスペースがきちんと確保されている。ただ、永く永く上へと続いていた。一見すると70メートルか下手したら100メートル以上は続いているのではないだろうか。

 もっとも、頂上の方は霧が立ち込めるように視界が白く不明瞭に濁っているせいで、全長は計り知れない。

 黙々と足を前へ動かす今の状況は、捉え方によっては登山と言っても過言ではないだろう……。


「…………ですが、気が乗らない登山は地獄です。飛べばよかったですかね。」


 俺が文句を垂れると、マルファが「こら」と注意してきた。

 続いて着物姿の男も苦笑気味に謝意を寄越す。


「すみません。も、もうすぐ着きますので」


 本当か?と俺は表情で再度文句を訴えた。

 それからほどなくして、視界が霧で不明瞭に陥った。俺達は頂上付近の霧に飲まれたのだ。

 ただ、霧の中においても階段はまだ続いていた。

 こつん、こつんと足音だけが響く中、一応の生存確認を聞く。


「学者先生、いますか」


「ええ、いるわ。アルマちゃん…………は、声の方向からしてアタシの後ろのままね?」


「当然です。して、案内役はどこです?」


「彼もいるわ。アタシの一段上を登ってる。足元踏み外さないよう気を付けてね、アルマちゃん」


「あ、もう大丈夫ですよお二人共。境内に着きました」


 言葉を証明するように、着物姿の男の声の足音が砂利を踏みしめる様な音に変わる。

 という事は、「本当に着いたようですね」。俺は額の汗をぬぐった。

 正確に時間を計っていた訳ではないが、かれこれニ十分は登り続けて居た気がする。もちろん体感だから実際は分からないが…………「しんどかった」と言う感想は嘘偽りのない本音です。

 だって俺は今、脚が生まれたての小鹿のように震えているのですよ?降りる際は必ず飛ぶことをここに宣言します。

 

「ハァ…………で、巫女さんとやらはどちらに?」


「社に居ります。すみませんけど、もう少し辛抱して着いてきてはくれませんか…………」


「えぇ…………出迎えも無しですか。いえ、というか…………まさかまだ登るのですか?」


「い、いえ。今度は平地ですので。どうか…………」


「ほら、あんまり困らせないでよアルマちゃん。せっかくのお呼ばれなのよ?」


 その時のマルファは汗一つかいていなかった。化粧も階段を上る前のまま、綺麗で涼し気な表情のままだ。

 俺は思った。「不公平だ」と。「なぜそんなにも元気なのですか」と。


「あなた、学者ならば机と睨めっこしているはずでしょう。その割に体力あり過ぎじゃあありませんか?」


「偏見よ」


「…………え、そうなのですか?」


「そうよ。フィールドワークで鍛えたアタシの脚力。見くびってもらっちゃ困るわ」


 ああ、そう言えば先ほどその証拠たる地図を見たばかりだったな…………いや、それ以外にも、あなたは研究がはかどるかもしれないのだから、気分も上がっているのでしょうけどね。


「俺は嫌な予感がプンプンしているのですよ…………」


「つべこべ言わず行くわよ、助手君」


「そんなご無体な…………って、誰がいつ助手になりましたかっ」


 肩を落とした俺の手を、マルファは男特有の力強さで引っ張った。

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