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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
四章 悪魔祓い

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四章 山の海神様は嫉妬深い エピソード04 嫌な予感

 俺がマルファを連れ添い巫女さんのいる場所まで行こうとした時、ふとビリー爺さんの見守りはどうするのか頭に浮かんだ。けれどすぐに、「私まだ帰らないよ」と、シーサーが見守りを引き受けてくれるとの旨を聞く。おかげで、何の憂いも無くボロ屋を出発できた。


「それで、巫女さんはどちらにいらっしゃるので?」


「隣の村よ」


 そう言うと、マルファは迷いなく俺がここまで歩いてきた砂利道を戻っていった。

 そして数十分歩いた頃、また分かれ道に差し掛かる。とは言え、この分かれ道も俺が既に通った地点。勝手は知っている。つまり、このまままっすぐ行けば集落を出るが、右に曲がればもう一つの集落へとたどり着く。そんな風に思っていた俺の表情を読んだのだろうか。マルファは特に説明もなく「さ、行きましょアルマちゃん」と、分かれ道を右に曲がって行った。


 ビリー爺さんの居た集落までの道のりと、隣の集落までの道のりに大きな違いは無かった。同じ砂利道で、景色も木々や山を視界に映す点は相違ない。

 ただ、小さな違いはあった。それは時折、蛇に似た銅像が砂利道の端へと置かれていること。


「それは、ご神体を模した物ねぇ。昔、これから向かう村が渋々作ったのよ」


 俺の視線に気づいたのか。それとも、学者由来の教えたがりの性根が顔をのぞかせたのか。マルファは前を向いて歩きながら、低い声を響かせ説明を挟んだ。


「ワダツミ様とシーサー様。どちらの村でも同じものを信仰してるけど、その言葉から分かる通り、これから向かう村の方が本質を捉えれているようなの」


「…………とんとわかりませんが」


「言ってしまえば、お爺さんのいる村では偶像崇拝に近いのかしらね。海龍そのもの、もしくは長くて手足の無い生き物をシーサー様の遣いに捉えてる事が多い。でもね、これから向かう村の方は、海神様という不確定な存在そのものを崇めているの。」


「…………ですが、ここにある銅像は偶像崇拝になるのでは?」


「そう。だけれど、()()よ。元々、これから向かう村の方が信仰が盛んだった。そのうち、お爺さんの村の方にまで広まったらしいけど、当時はそれがどういう者か今一ピンと来ていなかったらしいのよ。だから、目に見える形で分かりやすい物をそこに置いたのね。」


「でも、ビリー爺さんの村の方にそう言った物は見当たりませんでした。普通、理解させるのであれば、そちらの方にこそ銅像を置いて然るべきでは?」


「そこも、渋々と言う言葉が根底にあるの。これから向かう村の方としては、お爺さんの村の方にも本質を信仰してほしかったのでしょうね。だから、ご神体として作られたとは言え、常日頃からその姿を目に焼きうつし、ワダツミ様はこういう形だ…………って固定概念を作りたくなかったのよ。」


「…………面倒な。」


「宗教なんてそんなものよ。意見の食い違いどころか、同じものを崇めていたって己の利と自我が少しでも顔を出した時点で、ですぐ争いになるんだから。この程度なら可愛いものね。」


 俺のいる裏社会では争いなんて日常茶飯事。力で全てをねじ伏せる世界だからこそ、そう言った回りくどいしがらみはあまり馴染みがない。

 特に、今回は神様が絡んでいる案件だ。アレらは超常の存在なのだし、崇め奉って欲しいのならば、正しく信仰しなければ祟りがあるとか、禍が降注ぐとか…………そう言う噂を流した恐怖での支配の方が、手っ取り早く易いと思うのだが。

 そこまで考えた時、自嘲が失笑となって漏れた。我ながら最低な思考回路だと思ったからだ。


「理解できません。」


「それは…………アルマちゃんが無意識に悪魔と同一視して、拒絶しているんじゃないかしら?」


「……………………。」


 そうだ。その通りだ。俺は今さっき、鬼畜クソ女と同じような思考回路で物事を考えていた。だからこそ、俺は少し不愉快な気持ちになり黙り込んだ。同族嫌悪というやつだ。

 バトー然りマルファ然り…………人の頭の中を己が推測のみで言い当てる。これだから賢しい人間は困る。 

 

「って、そうよ。そう言えば、あのカワイ子ちゃんは居ないの?」


鬼畜クソ女(アレ)の事を、カワイ子ちゃんと言うのは貴方くらいの者ですよ。」


「仕方ないじゃない~アタシの好みドンピシャだしぃ」


「…………こんなこと言いたくはありませんが、本当に趣味が悪いですよ…………あなた」


「それで?居ないのね?」


「ええ。何を考えているのか…………奴を殺して二週間以上経つはずですが、悪夢もまだ見ていない」


「ふぅん…………何かあったの?」


「分かるはずないでしょう。あんなゴミの腹のうちなど。」


「そう、でも…………それだと何時蘇って被害が出るか分かったもんじゃあないわねぇ~」


 マルファの苦笑に対し、俺も「お手上げですよ」と態度で示した。その時、「あっ、ほら」と彼は進行方向へ俺の視線を誘導するように指をさした。そちらの方では村人がちらほらと出歩いているのが見て取れる。

 という事は、「あれが目的地ですか。」俺は少し呆気にとられた。それというのも、ビリー爺さんの居た所よりも文化的な村が視界に映ったからだ。その感想は、そちらへと近づくにつれ、正しかったと知る事になった。

 川辺には水車が備え付けられ、穀物をすり潰している鈍い音が聞こえてくるし、商店のように野菜や干物、川魚を並べ物々交換している様子も見受けられた。

 その他にも、斧を持った木こりのような人物や、刃物を作り上げる職人のような風貌の人物も確認できる。


「思いのほか、逞しく生きているのですね」


「ま、アレぐらい出来なきゃ生きていけないわよ。畑を素手で耕すわけにもいかないでしょう?」


 それもそうだ。心のどこかで見くびっていたらしい。反省しましょう。

 

「それで、巫女さんとやらは?」


 マルファが「こっちよ」と低い声を響かせた。俺も彼の背中を追いかけ、村の中を突っ切って行く。

 しかし、家屋が点在している居住区へ――――要は懐に立ち入っても、俺とマルファが衆目を集める事はほとんど無かった。もちろん、村人の多くは俺達を珍しそうに見てはくるが、別に行く手を阻んだり、負の感情を孕んだ声を掛けてくることも無かったのだ。

 何というか、庭に入り込んだ犬を見る様な生暖かい視線だった。


「アタシ、そこそここっちにも顔出してるからねぇ。見知った顔もちらほらと居るわ」


「ああ、そうなのですか」


「そ。まぁここ最近は鉱物採取家も少なからず立ち寄る事もあるから、部外者の事を尚の事気にしてないんでしょうね。あ、アルマちゃんは鉱物の事は知ってる?ここ最近、どこからか情報が流れて山へ入ってくる人が増えてるんだけど」


「ええ、一応は。というか、ここまでの道中彼らと共に来ましたから」


「あら?でもその人たち、アタシは見かけてないけど…………?」


「俺が誤った場所へと誘導しましたので。今は見当違いな場所で四苦八苦しているのではないですかね。」


 「良い儲けになりました」と俺がふところの潤いを口にすると、マルファはその際のやり取りを察したのか、歩みを止めることなく顔だけをこちらへ寄越し、「わ、悪い子ねぇ」と口元を引きつらせた。


「神様が間近に居るここでよくそんな悪事できるわ。罰が当たっても知らないわよぉ?」


「何を今さら。悪人から甘い汁を吸おうなどと思うほうが悪いでしょう。」


「相手はアルマちゃんの素性なんて知りようも無いじゃな~い。というか、一般人は商売の対象外じゃあなかったの?」


「俺はカタギを売らないだけです。彼らの利になる事を手助けする義理は在りません。まったくもって滑稽で脳の足りない者達だ。反吐が出ましたよ。」


「まっ!ほんとに悪い子だわ…………」


「他者をよく知りもしないで聞くからそうなるのです。彼らにとってはいい授業料となったでしょう」


「ひねくれた啓発だこと…………」


「ハッ。何とでも言えばいい。それで、まだ着かないのですか」


「もう少し…………あら?」


 マルファはそこで小首を傾げ立ち止まった。しかし、マルファの背中についている俺は彼が邪魔で前方を確認できない。

 ゆえに、「何があったのですか」と訊ねると、


「な、なんか、誰かが早く来いって手招きしてるんだけど――――」

 

 マルファの隣へと並び立ち、俺も進行方向の奥へ焦点を絞ると…………確かに。誰かが大きく手を動かし、「こっちへ来い!」と招いている。


「――――アルマちゃん、何かした?」


「どうしてそこで俺に、責任の所在を求めるのですか。」


「だ、だって、さっきの話聞いたらアルマちゃんだと思うじゃない?」


「言わせてもらいますがね、それならこの地へ来て日が浅い俺よりも、この地を嗅ぎまわっているあなたの方が怪しいでしょうが…………。」


「そ、それを言われると…………まぁそうね」


 「そら見た事か」。俺は少し仏頂面にも鼻を鳴らした。

 しかし、


「おーい!白い兄ちゃん!!早く!来い!!」 


 と、特徴を名指しされた。

 

「…………アルマちゃん?」


「い、いや!俺は別に何もしてないのですが!?」


 なんだ、それとも俺が知らぬ間に粗相でもしていたか…………?

 俺の頭の中を困惑と混乱がグルグルと回りだした時、マルファは「ここに居たら埒が明かないわ」と、呼んでいる村人のところまで早足に近づいた。

 マルファはやはり村人を知らないようだったが、俺はその人物を知っていた。


「ああ、やっぱ兄ちゃんだったな」


「あなた、村の入り口で農作業していた人ですよね」


 そう、俺を呼んでいたのは、俺がマルファの事を訊ねた時、知らないと首を傾げた男だった。  


「何か御用ですか?」


「俺じゃあないんだけどな。ちょっと頼まれて欲しいんだわ」


「何をです。いやそもそも、なぜ縁もゆかりもない俺が?」


「いや、縁はあるだろうさ。」


「はい?」


「巫女様から、()()()()()()に解決してもらえって言われたんだわ」


 おい、今何と言った。流石に空耳だですよね…………。そう思いたかったのだが、隣ではマルファが既に「ブファ!」と噴き出している。

 という事は、俺の耳は正常に彼の言葉を聞き取ったらしい。


「……………………馬鹿にしているのですかね。甚だ不愉快なのですが」


「プッ。ククク…………アルマちゃん、い、いいじゃない…………プッ」


「チッ、人の不幸を笑うものじゃあありませんよ。それで、巫女さんはどうして俺の事を知っているのですか」


「今はそんな事いいからヨォ、早く来てくれ」


 「こっちだ」と、是非も言えぬまま。俺は手を引かれとある場所へと導かれた。

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