表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
四章 悪魔祓い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
87/99

四章 山の海神様は嫉妬深い エピソード01 登山

 屋敷を出て二週間が経った今日。俺は自身の腕に力を籠め、掌を圧迫する岩場を掴みながら、体を押し上げている所だった。

 つまり俺は今登山中。しかも、中腹に俺の前へ現れた傾斜が急な岩場をよじ登っている最中なのである。

 とは言え、別に物語よろしく正義の味方に追い詰められて崖から落ちたとか、誰それを助けるために飛び降りたとか、そう言うサスペンスやドラマがあった訳ではない。と言うか、もしも崖から落ちたとしたって、俺は風魔術で飛べるのだから。俺にとって墜落死という事象は最も縁遠い出来事に他ならない。

 では、どんな理由が俺を山へ誘い、岩場をよじ登らせているのかと問われれば…………、


「…………たまの運動もいいものですね」


 そう、単なる気まぐれだ。

 実際、この山を踏破することは俺の目的の大筋からそれている。遠回りを許容すれば山を迂回するような通り道が、きちんと敷いてあるからだ。

 ただ、それでもしいて理由を繕うとするならば、秋が近くなったから…………でしょうかね。

 最近はそれなりに冷え込むようになってきたがゆえ、体を動かすのが億劫ではなくなってきたのです。


 いや、と言うか普通に秋ですね。

 その証拠に、岩場を登り上げたこの地点から覗ける木々のほとんどは紅葉している。

 顔を下に向け、ここまで登ってきた山肌を見ても夕焼けかと錯覚する程見事な紅色。右を見ても左を見ても、遠くに見える山脈も紅に染まっている。

 となると、じきにあの集会が始まるはずだ。 


「…………今回は誰が『カケスの巣』に出るのでしょうかね。」


 まぁ、少なくとも俺ではないし気にする必要もないのですけどね。だって、今の俺には連絡もつかないのだから関係のない事だ。

 さて、気を取り直して――――目的の場所への登山…………と言うか、捜索を再開することにしよう。


 今回山へ入った目的はとある人物を探すためである。彼は民族学者であり俺の知り合い。彼との出会いは四…………六年?まぁ、結構前になる。

 俺が閉鎖的な村出身者を捕えた時、その村の情報が欲しいと言う理由で買い取ってもらった事から細々と親交が始まったのだ。おかげで今ではお得意様だ。

 彼ならば――――ウィズ・キャネルには劣るかもしれないが――――悪魔払いをもっと簡単に行える術や、神についての情報を何かしら仕入れているかもしれないと俺は考えた訳である。

 ただ、この二週間当の鬼畜クソ女はなりを潜めている。まるで嵐の前の静けさのようで、少し胸がざわざわするのはネックだった。

 

「何を考えているのか…………」


 いや、考えるだけ無駄だろう。どうせ理解なんて出来ない。

 だから今は、無駄な事に脳の容量を割かず足を動かすのだ。幸い、この辺りは人気も無い。おかげで一般人があの毒牙に掛かる心配も杞憂となっている。

 ゆえに今は、彼が今研究しているという現地に足を運ぶため、黙々と山間を抜け、木々をかき分け進んでいく。 

 今いる山は誰のものでもない。そのためか人工物は見当たらず、自然本来の顔が俺を見ていた。

 落葉樹がほとんどを占めている地面は、色鮮やかな赤色の落ち葉で彩られている。しかも、ここ数日雨も無く乾燥しているので、俺の足裏に伝わる感触もサクサクとした心地いい音だった。綺麗な音色はリラックス効果があると聞く。おかげでいい気分転換になると言うものです。

 もっとも、気を抜きすぎると紅葉の赤から、ウィズ・キャネルの髪色を連想してしまうのは、少し困りものではあったが、


「まぁ、流石に難癖に近いですかね。この色合いに罪はありませんし…………」


 そんな風に苦笑し、休憩がてら少し立ち止まり、昇ってきた道程を振り返る。

 先程いた岩場が既に俺の人差し指程の大きさになっていた。


「結構登りましたね」

 

 目的の人物が居るのはこの山を越えたふもとである。だから目的地まではあと少し。

 

「もう一超え踏ん張りますか。」


 その意気込みを表すように肩を回し疲労を振り払い首を振って凝りを解した。その時、きらりと光るものが視界に映る。それは、先ほどまで見ていた岩場近くからだった。

 顔を少し突き出して目を凝らした。やはり見間違いではない。岩場近くから、陽光が反射している。


「あれは、鉱物…………?」


 だと思うのだが。この山が鉱山であるとの噂は聞いた事が無い。それに、如何せん遠目であるため鉱物である確証もない。かと言って、わざわざあそこまで戻って確認するのも手間だ。

 なら、ひとまずは光沢を持った何かと言う事にしておくほかあるまい。


「やれやれ。『金の木』だったかもしれないのに。惜しい事をしました。」


 思わず本音が零れる。

 しかし、体は別だ。既に山頂へと足は勝手に動いており、俺の顔も頂上を見つめていた。

 それからしばらくは黙々と登山を続けた。

 すると途中、風かはたまた魔獣であろう何かが草木を怪しく揺らした。けれど、俺は気にはしなかった。そちらに意識を割くなんて時間の無駄であるからだ。

 何しろ、自分で言うのも何だが俺はそれなりに腕が立つ。もしも凶暴な魔獣や、山賊まがいの輩であろうとも返り討ちにできる自信がある。ともすれば、魔獣なら今晩の夕食にしてもいいし、山賊なら逆に金品を奪ってもいい。

 理由としては、ここが人目につかない山であることもそうだが、元々俺が悪人だからです。そこに関して負い目も躊躇も俺にはないのですよ。


「来るなら来なさい。相手になりますよ」


 歩みを止めることなく言い放った挑発に対し返事はない。俺の落ち葉を踏みしめる軽快な音だけが辺りを占めている。

 と言う事は、やはり風のようだ。 

 そう思った時、陽光がひときわ眩しく俺の瞳を焼いた。木々がまばらになり視界が開けた。頂上に着いたのだ。

 俺が景色を見ようと日向へ足を向けている最中、落ち葉とは思えない硬質な感触を踏み抜いた。

 「なんだ」と思い、ゆっくり足を上げると、そこには丸みを帯びていたであろう真っ二つに割れた石があった。

 手に持つとズシリと重い。やはり材質は石だろう。しかし、割れた内部をよく見ると、そこには貝としか形容できない模様が浮かんでいた。

 と言う事は、


「化石…………ですかね。これは」


 ならば遠い昔ここは水に浸っていたのだろう。もっとも、俺は地質学者でも歴史学者でもないから、見当違いな推測かもしれない。と言うか、たとえ間違っていたとしても、元々別段興味もないからどうでもいい。

 今の俺の目的は、景色を見る事なのだから。化石を元あった場所に捨てると、再度気を取り直して日向へと向かった。


「…………ほぉ…………登って来たかいがあったと言うものですよ。」


 頂上から覗ける景色は、感嘆のため息が零れる程の絶景でした。個別に佇んでいると思っていた山々は、魚の背びれのように連なり、山脈となっていたことを分からされたのです。

 しかも、中腹からの景色では気付かなかったが、俺が登ってきたルートから外れた場所には滝壺もあったのだ。そこでは飛沫が上がり、薄く虹もかかっている。

 その時不意に零れた「美しい。」との感想は、一陣の風が拾い上げていった。だから、まるで誘われるように俺は風上へと顔を向けた。そして、そちらを見た際、これまで抱いていた自身の考えを改める事になる。

 水が流れ落ちるよりさらに上流の方には、何やら赤い社のような建物が見えたのだ。


「と言う事は、人の手が入っていたのですね」

 

 もしくは昔の名残りかもしれないとも思った。だって、考えてみれば民俗学者である彼がこの地を訪れているのだから、何かしら曰くがあってしかるべき。


「まぁ、それが俺の一助になるかは甚だ疑問ではありますが」


 とりあえず休憩も済んだことだし、後は下山するだけ。

 絶景を瞳に焼き映した後、頂上を少し進むと徐々に傾斜が下り坂となって行った。

 ただ、登りと違い下りは思いのほか膝に負担がかかる。ガクンガクンと視界が上下し、何度か蔦に足を引っかけ転びそうになった。

 だから、中腹に差し掛かるよりずっと前の段階で、俺は考えを改めたのだ。


「膝がダメになる前に…………飛びましょうか」

 

 体に流れる魔力を意識し口を開いた。 


「葬風が成る。我が息吹は終わり、世間を床に臥せん。」


 風の中級魔術。唱えた直後、風が俺の髪を巻き上げ体を持ち上げる。遠目からすれば小さな竜巻にも見えるかもしれない上昇気流は、俺を空へと誘った。

 その瞬間、


「――――。」


 何かの音が聞こえたような気がした。それはどこか名残惜しそうな声音にも感じられた。

 でも、下を見ても誰も居ない。

 ならばきっと、空耳でしょうね。






                ※※※※※※※※※






 山から飛び立ち僅か十分ほどで俺は目的地近くへと到着し、目立たぬよう木々に隠れながら着地した。

 それから何食わぬ顔で大通りへと踏み入り、まばらに流れる人波に身を委ねた俺は、とある集落へと足を運んでいる最中である。

 ただ、大通りへと混ざる際に問題が生じなかった訳じゃない…………いや、問題と言うには御幣が有るか。正確には疑問だ。

 それは、なぜこんなにも人通りが多いのか、と言う事。

 俺が聞いた情報だと、この先は集落がぽつぽつと点在しているだけで活気ある街も、ましてや大きな商業施設も宿すら無い筈。しかしながら、俺の視界に映っているのは見知らぬ八名の後ろ姿。そして俺の背後には更に五名いる。計十三名が荷物を担ぎながら俺と同じ進行方向へと足を動かしている事がなんとも不可解であったのだ。


 一度、彼らに話を聞いてみようか…………。

 そんな風にも思ったが、結局声を掛ける事はしなかった。と言うのも、俺が顔を上げるより早く、彼らの方がポツリポツリと会話を始めたからだ。

  

「まだ着かないのか」


「もう少しよ。男のくせにだらしないわね」


「仕方ないだろ。力があるって偏見のせいで、お前に荷物持ちさせられてんだから」


「そんなんじゃ、お宝掘り当てた時に持って帰れないわよ…………。」


 その会話と、男がジャラジャラと音を鳴らした鉱員道具でおおよその見当がついた。鉱物採取だろう。実際、俺が登った岩場あたりにきらりと光る物があったのだから、たぶん当たっているはず。

 だが、そうなると本当に惜しい事をした。あの時、手間がかかるとは言え一度戻ってじっくりと物色してみるだったかと少し落ち込んでしまいましたよ。


「ま、仕方ありませんかね。」


「何が?」


 「いえ、口にするほどでもない些細なことです」と、言いかけて口をつぐんだ。その声はあまりにも自然に俺の耳に侵入してきていたからだ。 

 しかも、声の感じからしてまだ幼そうだったことが、更に俺の猜疑心を掻き立てる。咄嗟に顔を左右に振ったが、俺の視界にその声の主は映らない。


「お兄ちゃん。こっちこっち」


 見やれば、俺の腹当たりの背丈をした少女が、可愛らしく微笑んでいた。


「こんにちわ。」


「こ、こんにちわ。」


 思わず返答してしまった。でも、なぜこんなところに少女が。先ほど周囲を伺った時は見かけなかったのだが…………もしかして草木と戯れていたのだろうか。それならば、見落としていても合点がいく。


「お嬢さん、ここにいる人たちいずれかの娘さんですか?」

  

「ううん。この先の村に住んでるの」


 あぁそうだったのか。じゃあ、現地民であるがゆえ、俺同様に途中からこの大通りに混じりこんだのだろう。

 と言う事は、


「お嬢さんもしかして、集落までの近道を知っていたりしますか?」


「ううん。この道が一番安全だし、近道だと思うよ」


 そうか。ならばもう何も言うまい。

 それから黙々と歩みを再開したのだが、少女はずっと俺について回った。それも、物珍しそうに顔をのぞき込んできたかと思えば、脈絡もなく嬉しそうに笑う。時にはぬかるみに足をとられないよう注意もしてくれる。

 少女はガイドのように、ずっと足並みを揃えていた。


「なにか、あなたの琴線にふれましたかね。俺は?」


「うん。カッコイイ」


「…………マセていますね。見知らぬ男に話しかけるなんて、親御さんが心配致しますよ。誘拐でもされたらどうするおつもりか。」


「知ってるから大丈夫大丈夫!」


「いえ、先ほど知り合ったばかりですよね、俺達は?」


「うん。だからもう知らない人じゃないよ?」


「…………そう言う意味ではないのですが…………」


「ねぇねぇ。さっきの仕方ないって何のこと?」


 俺の心配をよそに、自身の興味関心にだけ意識を割くその疑問はまさしく子供のソレです。とは言え、こういった場合無下にすると、機嫌を損ねる可能性が高い。

 それは少し困る。

 少女は集落の娘だそうですし、変な噂でも流されては集落にいる間の行動が渋くなりかねない。ここは大人しく無難な返答でもしましょうか。

 

「ねね、何が仕方なかったの?」


「鉱物があるかもしれない場所を、素通りしてしまった事ですよ」


 その途端、あっという間に人だかりが俺を包み込み、少女が輪の外へと追いやらてしまう。その際には彼女から驚嘆ゆえの悲鳴が零れたことで、俺は少し不愉快な気持ちになった。 

 まったく、こんな展開簡単に予想できたはずなのに…………俺としたことが迂闊でしたね。


「あの、鉱物がある場所の話、詳しく教えてもらえませんかね」


 彼らの相手はさておき。俺は追いやられた少女に手を貸そうと姿を探した。

 けれど、影も形も見当たらない。

 

「はて、皆さん女の子を見かけませんでしたか?」

 

 俺が彷徨わせる視線に追随した皆は、顔を見合わせ顔を横に振ると片眉を上げたり肩をすくめた。と言う事は彼らにも見当たらないようだ。

 いやしかし、そんなはずはない。俺がもう一度少女について呼びかけると、今度は思わぬ返答が帰ってきた。


「女の子って、誰の事です?」


「はぁ…………?いや、俺の周りを付きまとっていた子供ですが。皆さんも見ていたでしょう?」 


 その証拠を見せるため、俺はここまでの道のりを振り返りそちらを指さした。

 しかし、またも皆は訝しげにも小首をかしげる。そして、今回は俺も面喰らう事となる。

 何しろ、俺達の足跡は確かに存在していたが、少女然とした小さなものは一つも残っていなかったのだ。


「いや、そんな。あり得ない…………」


 でも、現に少女の痕跡は無い。あるとすれば、それは俺の記憶の中の姿形だけ。

 まさか、白昼夢を見ていたとでも言うのですか…………。


「だ、大丈夫ですか。なんか、顔色悪いですけど…………?」


「…………ええ、問題ありませんとも。」


 と、深呼吸を挟み、軽く頭を振ることで俺は驚愕を振り払う事にした。

 冷静になってみれば少女は集落に住んでいると言っていた。なら俺の知らない抜け道から帰ったに決まってる。人が魔術も扱わず消える訳が無い。そう、その通りだ。俺の予想は集落に着けば自ずと分かる事だ。別段取り乱すような問題じゃない。

 だからこの場は皆さんに頭がおかしいと思われぬよう、一旦話題を変えましょう。


「鉱物がある場所を、思い出しました」


「え、それでどこに…………?」


 俺は鉱物がある場所とは真逆の方角を指さし、適当に嘯く事で謝礼を得た。

 当然です。俺は悪人ですからね。苦も無く利を得ようなどとするからそんな目に合うのです。そうでなくとも、少女を押しのけてまで聞くような事柄ではありませんよ。まったくもってけしからん。いい授業料となったでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ