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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
四章 幕間 アルマ・サンの日常が崩れる時  

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間幕 エピソード09 バーバラの決断と行動5

 わたくし達が賭博場に足を踏み入れ、最初に思ったのは同じ事だったと思います。何しろ、「なにあれ」との心の代弁がエンフィーから零れましたから。

 わたくし達が見る先にはルーレットを挟んでディーラーと一騎打ちと陣取る薄桃色の髪の女性が居たのです。しかも、彼女の両脇のチップは山のように積み重なっており、その山の数も大量です。

 まごう事無き独り勝ち。今晩熱気が凄かったのも、彼女の勝負を目に焼き付けるためだったのでしょう。

 実際、


「ストレートで行くわ。七。全賭け(オールイン)ね」 


 と、彼女が冷笑を浮かべながらベットすると、ディーラーは顔を引きつらせながらも、ルーレットに玉を弾きます。

 果たして玉が収まった番号は、


「すげーー!!また勝ったぞ!!!!」


 ドンピシャですわ。しかも、


「これで、何連勝だ?」


「十七だぞ、まじか」


 周囲の人々が困惑するのも頷けますわ。そんなことありえるのでしょうか。


「次、六ね。」


 と、彼女がまたも指定した時、「お客様、流石に看過できませんね」そう言ったディーラーは、青筋を眉間に浮かべていた。


「うちは、正々堂々を謳い文句にやってるんですよ。」


「…………で?」


「イカサマは、いただけない。」


 しかし、彼女は言葉で反論するより早く自身の腕を見せた。そちらには魔術の阻害を促す陣が刻まれた腕輪をしている。


「そっちがこの状態でやれって、客にルールを敷いてるんでしょ。で、私はそれに従順なはずだけど?」


「魔術阻害も、万能ではありませんから。」


「魔術を使った証拠は?焦げた匂いもしないでしょう。」


「その積み重なったチップの山々がそうですとも。十七連勝?あり得ない。」


「ははは、おかしなこと言うのね。」


「何がですか」


「客が一億も負けそうな時は、そんな風に止めはしないくせに。勝つか負けるか裏か表か。確率は二分の一でしょう。前回はそっちが勝った。だから今回の勝利の女神は、私に微笑むようにできてるのよ。」


「…………なんのことですか」


「自分の胸に手を当てて聞いてみたら?さ、続きを始めましょ。私、一億とんで三百万稼ぐまで辞める気はないから。」


 あぁ、そういう訳でここにいらしたのですかあの人。まったく、素直じゃないですね。

 わたくしが、やれやれと肩をすくめた時、エンフィーから服の裾を引っ張られます。

 何事かと聞くと、


「アレ、なんか、やばそうな雰囲気ですけど…………」


 エンフィーが指さす場所では、ディーラーが大きく深呼吸をしたのち、腕まくりをして舌を打ったのです。そしてそれに呼応するように、舞台裏から物々しい雰囲気の男女八名が姿を現し、彼女を取り囲んだ。

 今ではもう、熱狂的な観客と入れ替わる様に、彼女を取り囲んだ男女たちは、闘技場のリングのように円を作りながらじわじわと迫っている。

  

「まぁ…………可哀そうに」


「そう思うなら、見てるだけでいいんですか」


「何をいうのですか。わたくしが可哀そうと言ったのは、取り囲んでいる方にですわ」


「どういうことですか」


「あら?あなた彼女のこと聞いていませんでしたか?」


 「いや」とエンフィーは小首をかしげる。

 おかしいですわね、わたくし部下に彼女を探すよう命令を出したはず…………あッ。そう言えば、あの時伝えたのはチェインでしたわ。

 なら、彼はエンフィーをかり出さなかったのですわね。それならつじつまが合いますわ。


「なるほど。じゃあ知らなくとも無理はない」


「あの、説明を頂きたく…………」


「見ていれば分かりますわ」

 

 わたくしはエンフィーの肩を掴み、遠巻きに見える位置へと下がります。その時のわたくし達の足音は、ゴングのように響きました。

 まず、男女の中から一人の男が抜け出し、彼女の腕輪が掛かった両腕を器用にも回し、後ろ手に拘束します。そして、その状態で店の外へ放り出そうと力を込めたのです。

 しかし、彼女はビクともしませんでした。


「な、んだ。コイツ、やけに力つエェな…………っ?」


 それどころか彼女が軽く身動きしただけで、優位をとっていた男の方が床に投げ出された。

 ドスンッ!!…………という鈍い音は、喧騒を静寂へと誘います。

 賭博場側の人間達は、その事実に呆気にとられたのでしょう。床で悶える男と彼女を何度も見比べていました。

 でも、しばらくすると皆の思考が追い付く。彼女と一騎打ちをしていたディーラーが、ポケットから刃物を取り出したのです。 

 対して、彼女が吐き出したのは大きなため息。


「あのさぁ…………お前達がやるって言うなら構わないけど、私がどんなに手加減しても、絶対怪我するからおすすめはしないわよ?」


「まぐれ勝ちで調子に乗りましたね、お客様」


「ぇー…………アレをまぐれだと思うような()()でしょう。弱い者いじめは趣味じゃないんだけど…………」


 その瞬間、ディーラーは床を一度踏み鳴らした。それを合図としたのか、彼女を取り囲んでいた者達が一斉に殴り掛かり、飛び掛かり、魔術の火を灯した。

 けど、言った通りほんの一瞬の出来事でした。


「…………っ」


 最高瞬間火力にすら届く前に、悲鳴すら上げさせてもらえず、男女八名とディーラーの男は白目をむいて泡を吹くと、その場に倒れ伏したのですわ。

 ちなみに言いますと、わたくし瞬きもしなかったですが、何が起こったのか詳細を瞳に映すことも出来なかった。しかも彼女は未だ腕輪をしたままにも拘らずです。

 

「まぁでも、当然ですわね」


 つい零れた感想を、エンフィーが拾い上げました。


「バーバラ様、アレ誰ですか」


「『ケンテイ』と呼ばれているのは、エンバー・ライトだけではございませんわ。もう一人居らっしゃいますの。」


 昔アルマ様が『名簿を探す際、異名の見分けがつかない』、『ややこしいのです。本当に』と、愚痴っていたのを思い出しますわ。


「それが彼女。剣帝デイジー・ベネット。まごう事無き、黄金ランク(英雄)の一人ですわ。」


「お、黄金ランクはまずいですよ…………逃げた方が良くないですか」


「もう遅いですわ。今からあなたはわたくしのお友達。演技してください、エンフィー。」


 「ほら」とエンフィーの視線を顎で誘導したその先では、彼女がこちらを見て、ゆっくりと手を振りながら近づいてきている。


「バーバラだったわね。偶然ね、それとも奇遇?」


「偶然ですわ。そちらこそ、どうしてこちらに?」


「遊びに。」


「ではやはり偶然ですわ。わたくし達もですので。」


 と言った途端、彼女がエンフィーをジロリと見やったため、わたくしは庇う様に前へ出て、話題を変えました。

 

「それより先の連勝は凄まじかったですわ。何か秘訣でも?」


「あぁアレ?なんてことないわ。単にルーレットの入った玉を私の宣言したところへ入れ替えただけ」


「え?どうやって」


 「こうやって」と、彼女が言った時にはもう、その手に玉とチップが握られておりました。しかも今回はわたくしに気付かせるよう、あえて微風まで起こしたのです。

 つまり力業。高速で動いたのでしょう。


「…………見えませんでしたわ。」


「見えたらイカサマでしょ」


「見えなくともイカサマですわ。」


「バレなきゃセーフ。ってわけで、お前今日はもう帰った方がいいわよ。」


「あらまぁ、なぜですか」


「これから私、『特権』を行使するから。ここはこれから立ち入り禁止よ。」


 「理由は」あそこに寝転がっている賭博場側の人間達で事足りるのでしょうね。


「そゆこと。この私に暴力を振るった。豚箱いき確定ね」


「なら、当分はここで遊ぶことはできませんわね」


「かもね。ちなみに聞くんだけど、()()()()()()()()()()()()()?」


 心臓をワシ掴みされたかのような緊張が走りました。カマを掛けられているのではないかと、背筋にブワリと汗が浮かびましたもの。隣ではエンフィーもぎこちなくなった。

 顔に出なかったでしょうか…………心配ですわ。


「あの、なぜわたくしにそのような事を?」


「ここの人たちもさぁ、私の顔に気付かなかったのよね。でも、お前はこう言ったわ『有名人だから、目撃証言があった』って。おかしくない?考えられるとしたら、私がギルドカードを見せたお前が、目撃証言を集められる機関――――衛兵に聞き込みした、あるいは頼み込んだってのが妥当じゃない?」


 憎らしいほど察しが良いですわね。でも幸い、わたくしの職業までは推察が足りていない様子。

 これならまだごまかせそう。エンフィーからメモ用紙を受け取った後、わたくしは本署への地図を簡素にしたため譲りました。

 あと念のため、わたくしと本署側の人間関係を軽く明かしておきましょう。後で深堀される方が厄介ですもの。


「本署にはイーブ様という衛兵長が居られますわ。彼とは友人ですので、計らってくれるかと」


「顔が広いわね、ありがと。」


「いえ、他に何か手伝えることはございますか?」


「無いわ。もう遅いし気を付けて帰って」 


「はい。お気持ち感謝いたしますわ」


 ここまでだんまりを決め込んでいたエンフィーの背中を押し、わたくしは店を後にしました。

 それから安堵の息を吐いたのは、拠点も近くなった道中。月明かりだけが夜道を照らすほとんど真っ暗闇の中です。 


「…………バーバラ様。空振りしちゃいましたね」


「いえ、そうでもありませんわ。」


「そうなんですか?でも、商品はあの女が」


「彼女がこの町を去った後、イーブ様達と交渉し、譲り渡してもらえばいいだけです」


「そううまくいきますかね。前に言ってたじゃないですか。収監された後だと公的に記録が残るから、バトー様のように地位があればともかく、自分達じゃあ面倒だって。」


「面倒なだけですわ。だからわたくしの腕の見せ所。あなた方はいつも通り販売ルートの整備と、輸送の手続きを準備しておけばいいのですわ」


「流石です」


「これが仕事ですから。ああそれと、そろそろ()()()が近いのでした。」


「…………『カケスの巣』の事ですか。」


 「そうですわ」。『カケスの巣』は、裏の世界でも地位が低く、見くびられやすい我ら人身売買(マンハンター)の数少ない集まり。そこでは奴隷を通した痴話げんか程度の噂話から、大きなところまで行くと世間を揺るがすレベルの様々な情報が飛び交い、多種多様な商品が自慢を伴い集められる。

 昔の自分の言葉を借りるならば、悪趣味な会合の一言に尽きますわ。


「開催は大体秋頃か年始だったはずですわ。もっとも、ころころ時期が変わるので何とも言い難いですが。」


「今回は誰が出るんですか?と言うか、何処でやるんですか?」


「それはまだ。事前に知らされては待ち伏せを食らいかねませんから。いつも通り、直近になったら連絡が来るでしょう。リンドウからは、その時一番近い地域の者が選ばれるはずですわ」


「私達じゃないといいですね。色々面倒ですし。聞きましたか?前回は集まったマンハンターが数人行方不明になったとか。」


「ええ、前回の参加は確かヴォルドでしたわ。彼曰く、もちろん真偽は不明ですが、消えたマンハンターは、余所の島の王侯貴族に手を出したとかいないとか…………」


「…………そんな危ない橋を渡ったんなら自業自得ですね」


「そうですわね…………ただ、開催地で言いますと、クォールの街近郊では最近開かれてはいないですし、あり得ない話ではありませんわ。だからこそ準備をね?」


「はい。あ、それで…………話しは変わるんですけど、きょ、今日の分の給金は…………?」


「安心しなさい。きちんと払いますわ。」


「上乗せですよね?」


「そうですわ」


「流石ですっ」


「もうっ、今日一番声が明るいのではなくって?現金ですわね…………」


「あと、この服って貰えるんですか?」


「…………誰が差し上げると言いましたか。洗って返してください。調子に乗り過ぎですわ、エンフィー。」


「そ、そうですよねぇ…………すみません。」


 まったくもう…………やっぱりもっと厳しく接した方がよさそうですわ。

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