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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
四章 幕間 アルマ・サンの日常が崩れる時  

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間幕 エピソード06 バーバラの決断と行動2

 衛兵の方々が集めた目撃情報と部下の証言を頼りに、目標が泊っているであろう宿に目星をつけたのは、本署へ赴いてから僅か二日後の事でした。

 彼らの迅速な対応には感謝しかありません。それと、今日一日家事をお休みする旨を快く受け入れて下さったホーン様にも、後ほどお礼を差し上げなければ。

 

「さて、参りましょう」


 宿は可もなく不可もなくと言った感じで、富裕層貧困層問わず誰でも利用できそうな、普通の二階建ての建物でした。

 期待できそうですわ。だって、思い返してみれば目標はお金を使う趣味がないと言っていましたもの。こういった場所にも頓着しないのでしょう。

 わたくしはここまでの道のりを記した地図を仕舞い込み、代わりにこれから渡す土産品を手に持つことで、宿へと侵入する準備を終えました。

 宿に入って右側にあるフロントには、年配のおじいさんが立ったまま舟をこいでいる。その奥には宿泊者に渡すであろう鍵がズラリと壁に掛けてあります。

 とは言え、今回は尋ねてきただけですので。おじいさんを起こして受付を済ませる必要も、ましてや、鍵を盗む必要もございません。

 それに最も重要な、薄桃色の髪の女性が泊っている部屋番号も既に知っていますから。おじいさんにはここで眠っていてもらいましょう。 


 目的を果たすため、わたくしの視界は二階へ続く階段へと向かう。階段は窮屈な造りで、くの字に折り曲がって設置されており、踊り場で回れ右をするようにまた上って行く。

 彼女の寝泊まりしている部屋は、大体廊下の中央に位置している。そこまでたどり着いたわたくしは、ひとまず息を整えてから、「間違っていませんように。」と小さく祈ってからノックし、彼女の名前を呼んで様子を伺った。

 すると、 


「…………誰。」


 よかった。いらしたみたいですわ。くぐもってはいるものの、探していた声で間違いはなさそう。

 ただ、少し不機嫌そうな感じもいたしますわ。警戒をされぬようできるだけ丁寧を心掛けましょう。


「あの、わたくし、バーバラと申しまして。以前ご家族を探しているとの件で、謝礼金を頂いたものなのですが」


「…………ん?どの時の?」


「え、どのって…………」


 いえ。そうですわね。わたくしなんて、相手方からすれば大勢の中の一人にすぎないのですし。印象が残っていなくても仕方ありませんわね。

 えっと、そうなると…………、


「あの、海辺近くの地域で、一軒家に訊ねてきた時、友人であるわたくしが家主に代わり、対応したのですが。憶えておられませんか?」


「あー、あぁ。はいはい。あの…………青緑の髪の人、よね?」


「はい。そうですわ」


「でもなんで…………まあ、いいわ。今開ける。」


 足音がドアのすぐそばへと近づいた途端、ドアが開き、彼女は顔を出しました。

 この前と同じ薄桃色の髪を後ろで乱雑にまとめ、外を出歩けないくらいラフな服装ですわ。


「人が来るとは思ってなかったのよ。いつもはきちんと着てるから。」


「いえ、突然の訪問ですし。わたくしこそ、申し訳ございません。」


「いいよ、入って。流石にこの格好で廊下に居るのは恥ずかしいから」


 そんな風に招かれ。わたくしは部屋の中に入りました。

 適当な椅子を用意され座った時、わたくしは手に持っていた荷物を床に置いた。そしてすぐさま、その自身の行動に対し「あ、そうでしたわ。」とハッとした。

 わたくし、どうやら思いのほか緊張していたようです。


「その、お口に合うか分かりませんが、クォールの街の名産品をお持ちしました。よろしければお納めくださいませ」


「えぇ、悪いわね。私返せる物なんてないんだけど」


「いえ、代わりと言っては何ですが、実は折り入ってお願いがあって参りまして…………」


「…………もしかして、ギルドの遣い?おかしいな、休暇だからって言ってある筈なんだけど、私を呼び戻すなんて、一体どんな化物が出たの」


「え、ま、まさか。勘違いですわ」


 わたくしが手を軽く振って否定すると、相手は「そう」と些か声が柔らかくなり、続いて「ならいいけど。」とベッドに腰を下ろし、足と腕を組んだ。そしてこちらを見た。

 だからわたくしも応対の姿勢を取り、背筋を伸ばしたのですわ。


「ならなんで、私の居場所が分かったの」


「それはもう有名人ですから。ちょっと周りに話を伺ったら、あなたであろう特徴の人がここに居ると、すぐわかりましたわ」


「っ~…………参ったわね。だから、目立たない宿を選んだのに。意味ないじゃない…………」


「すみません。気に障りましたか」


 すると今度は「いいわ。」と、彼女は組んでいた腕を解いて、肩をすくめるような姿勢でベッドに手を着いた。それは隙だらけの所作であり、警戒心も同じように無くしたことを意味する。

 なら、ひとまず安堵ですわね。


「それで、この私にお願いって。一体どんな化物退治をさせたいのかしら。」


 その時の彼女は皮肉気な笑みを浮かべていた。絶対の自信からくる強者の余裕が漏れ出ている。


「竜?それとも魔獣の軍勢?もしかして…………国?まぁ、実体があるなら大体なんでもいけるけど。終末級の大物でもなければ拍子抜けよ。それなら、格下(ヒヨッコ)を紹介してあげる。」


「それも勘違いですわ。荒事のために足を運んだ訳ではないのです」


「ほへ、ぁ、っそう…………別の意味で拍子抜けね。じゃあなんなの」


「ズバリ。あなたが人探しの謝礼として渡している大金。それが理由で被害を被った方がいる可能性がありまして。わたくしはその件で参りましたの。」


「…………はぁ…………?どゆこと?」


 「つまり」わたくしはここに足を運ぶことになった理由を掻い摘んで伝えました。

 ご子息様のご友人。そのお父様があらぬ疑いを掛けられている事については、少し語気を強めに叱りつけたのです。

 説明が終わるころには、彼女は何とも言えない表情で髪をかき上げ唸っていた。

 

「あ、ぁ~そう。それは、悪いことしたわね。聞く限りたぶん私だし。あ、言っておくけど私は不倫とかそう言うのはしてないわ。だからそれは…………うん、良かれと思った行動が、完全に裏目に出たようね。」


「はい。ですので、出来ればこれから無実を証明するため、一緒についてきてもらいたく。」


「ええ、勿論。それならすぐ向かう。私の沽券に関わるもの」


「それと、今後はあのような大金をポンと渡すのは控えて欲しくもありますわ」


「そうね、学びを得たわ。」


 言い終える前に彼女は既に衣服を手に取り、外出の準備を進めている。

 よかった、物わかりの言い方で。なんなら、わたくしの部下にも爪の垢を煎じて飲ませたいくらいですわ。

 「よし、いいよ。連れてって」とわたくしの方を見た時には、この前と同様の服装に着替え終わっている。


「はい。ではついてきてくださいまし」


 それから、わたくしが向かったのは、ご子息様がよく遊びに行かれる場所。海岸がほど近い広場です。既に老若男女年齢問わない人々が思い思いに広場の恩恵に預かっており、ベンチに座り談笑する老夫婦や、ペットを散歩させているご婦人。そして、彼ら彼女らに見守られるように、子供たちも駆け回っております。

 ここの地質は元々粘土質で黒色なのですが、今では近場の塩風にさらわれてきた、きめ細かい砂が満遍なく埋め尽くし、薄く金箔でも張る様に黄金色に変容を遂げております。

 その他にも、塩風の影響は猛威を振るっており、木々があまり生えていない。生えていたとしても瘦せ細っていたり、風に薙げられる事で歪曲して背の高い木も少ないのです。

 要は見晴らしも良く守護りやすい。そのおかげで、ご子息様の姿を容易に捉えることが出来ました。


「クルシュ君」


 ご友人とボールを蹴っていたところを呼び止めると、彼はキョトンとわたくしを見て、何故ここに居るのだろうかと首を傾げました。そしてすぐ、「ちょっと待ってて」と、ご友人に断りを入れ、こちらへと翔けよってきます。ただ、距離が近ずくに連れ、ご子息様の視線はわたくしからその背後へと釘付けになって行きました。


「バラ姉。その人…………もしかして」


 きっと、彼女の薄桃色の髪を見てピンと来たのでしょう。聡明です。

 わたくしは首肯した後、半歩翻り彼女を紹介ました。すると、その名に覚えがあったようでご子息様は大きく驚き二度見したのです。

 対して、彼女の方は気まずそうに頬を掻いていた。そして、自身の過ちを認めるようにやや弱弱しい声で言った。


「まぁ、そう言う事だからさ。少年、その友達の家に案内してくれる?」


 ただ彼女の心配とは裏腹に、ご子息様は彼女を責めるつもりはないようだった。

 むしろ、問題が解決するかもしれない方向に期待を含まらせ、「こっち!」と彼女の手を取って走り出しました。


「あ、クルシュ君、走ると危ないですわ!」


 すると案の定。ご子息様は砂に足を滑らせよろけた。いけませんわ。言わんこっちゃありません。傍についていなければと思い、わたくしも寄り添うように後を追いかけました。

 そして、今しがた居た広場を抜け、ホーン様の家がある近辺を通り過ぎていく。

 道中、ご子息様から伺った話によると、ご友人は町と広場の間あたりに位置する地域に住んでいるとか。

 となると、それなりに距離がありますわ。

 大人であればその程度の時間、黙々と移動する所ですが、ご子息様はまだ幼い歳も二桁に届かないのです。それゆえ彼女が質問攻めに合うことになるのは必然的で、時間の問題でしたわ。


「じゃあ、竜倒したことあるんですか!??」 


「うん、あるわよ。と言っても、ここじゃ無くてジーランド大陸に遠征に行った時に。」


「すげー!!」


「そんな事無いわよ。倒したのは四足竜だから手応えなんてなかったし。」


 彼女はこともなげに言いますが、それはすさまじい偉業です。

 竜は、世間では魔界や魔境と呼ばれるジーランド大陸に住処(コロニー)を置いております。要は群れている。しかも、竜の体躯はアギトから尻尾まで含めると二十メートルあると聞いた事もございますから。

 わたくしからすればそれらを相手取り、軽く蹴散らすなんて全く想像できませんわ。

 けれども、彼女からすればやはり朝飯前なのでしょう。


「むしろ、あそこまでの船旅の方がしんどかったわ。あの時は海が荒れてたから、一か月以上かかってね…………胃袋ひっくり返るかと思った…………ウプ…………今思い出しても吐き気が…………」


 そう言った彼女の顔色は、竜を思い出した時よりもゲッソリとしていたのですから。恐ろしいことです。アルマ様が言う通り、絶対に敵対してはいけませんわ。


「えと、あの、しそく、りゅうってなんですか」


「うぷ…………ん。あぁ、えっとね。竜にも種類があるの。ほら、私達で言う猿と人間みたいなね。四足竜は猿よ、火炎袋を使わないと火も扱えない。でも、二足で立つ知的竜は魔術を扱う。一説には、世の魔術はアレらからもたらされたなんて言われるくらい知的で、しかも排他的…………と言うよりかは、差別的?」


「はいた?また吐いたんですか??」


「…………んー、難しいか。えっとねなんて言えばいいか。例えが難しいのよね…………あ、そうそう。性格が悪いって言えば分かるかな?皆より自分が偉いって威張り散らしてるのよ。」


「えー…………そうなんだ。図鑑はかっこよかったのに」


「見た目はそうかもね。でも、外見に惑わされちゃダメよ。大事なのは心。そこだけは強くありなさい。」


「おれも、じゃあ強く考えてたら強くなれるかなっ?」


「成れるわ」


「お姉さんみたいに?!」


「勿論。てか、少年は強くなりたいの?」


「かっこいいから!」


「子供ねー…………でもそう言うのは大事よ。弱いよりはできる事が増えるし。ねぇ?」


 その問いは唐突でしたわ。彼女の視線はわたくしに向いていたのです。


()()もそう思うでしょう」


「え、急に何を」


「だって、それなりに鍛えてるでしょう」


 ドキリとしました。わたくしはその様な話しを一度たりともしたことが無いのに。

 

「立ち振る舞いを見れば分かるわよ。さっきの砂地の広場でも、お前は足を滑らせることも無かった。いい体幹よ。それに常に視野を広げて周囲を警戒してる。」


 「そして、極めつけに」と、わたくしの顔をズイっと覗き込んできた。


「私を見る時、その瞳がいつも僅かにブレてる。それは恐れによるものよ。舐めないでくれる?」


「あ、はは…………いえ、どうでしょうか」


 状況把握もさることながら、観察力が飛びぬけている。きっと、戦場においてそれが劣っている者から脱落するのでしょう。

 油断ならない。


「その、わたくしは嗜む程度でして。」


「私を怖がるって事は、強さが分かるって事に繋がる。嗜むなんて謙虚ね」


「バラ姉そんなつよいの!?」


「さぁ、どうかしらね。手合わせでもしてみる?バーバラ。」


 「いえ、遠慮したいのですが…………」いくらわたくしがドエムでも、一撃食らって死んでしまうようでは、楽しめませんし。


「ははは、冗談じゃないのさ。そんな委縮しないで。言ったでしょ、私はギルドの命がないなら無害よ」


 牽制でしょうか。だってその言い分は、ギルドの命があれば容赦しないと同義ではないですか。

 うぅ…………胃が痛くなってまいりましたわ。だから、関わりたくなかったのです。


「肝に銘じておきますわ」


「え、なんで?何を?」


 訝しげな顔がまたもわたくしを覗き込んだ。

 しまったと思いましたが、その時ご子息様が「着いたよ!」と助け船を出して下さります。


「早く!こっち」


 そのおかげで、彼女の顔は是非も無く目的のお家へと向け直されたのですわ。

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