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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
四章 幕間 アルマ・サンの日常が崩れる時  

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間幕 エピソード03 バーバラの日常1

 ジェーン・ホーン様の家を後にし、わたくしは通常業務に戻りました。

 わたくしが普段いるこの場所は、以前のダリオファミリー跡地。もちろん、今ではリンドウのクォール支部という位置付けとなっていますけど。それゆえ、わたくしが座っている場所も、パッシオーロ・ダリオが使用していた執務室の机です。

 今は部下を呼び出し、注意喚起の真っ最中。気分はすこぶる悪いと言って差し支えないでしょう。

 当てつけるように机を指で打ち鳴らし、出来るだけ据わった瞳を作ると、わたくしはため息交じりに口を開きます。

 

「エンフィー。なぜ呼び出されたのかは…………理解していますか?」


 問われた女性。エンフィーはビクッと体を震わせ、瞳を泳がせた。

 その委縮した姿勢を見て、わたくしの威嚇はきちんと伝わったと、内心で安堵いたしました。

 実は、こう言った叱責は苦手なのです。でも、今回は心を鬼にしなければ。


「その様子だと、理解していませんね?」


「えと、何を…………」


「先ほど、ジューン・ホーン様の自宅へ足を運んだでしょう」


 すると、エンフィーはようやく叱責の理由を知ったのか、「あっ」と口を開け、言い訳した。


「で、でも、旦那様からの手紙でしたので、早くお届けした方がよろしいかと…………」


「いいえ、それは間違いです。()()()()()、わたくしが帰って来てからで十分でしょう。」


「そ、そんなものって!だ、旦那様直筆のものですよ!?」


「エンフィー。我々の業務内容を言ってごらんなさい。」


「は…………ぇ、あ、じ、人身売買。と、その調達では」


 わたくしは再度、「違います。」と、強く言い放ち、エンフィーの意識を改めさせる。


「我々がここに派遣された第一の目的は、ジューン・ホーン様一家の安全の保障。商売など二の次です。今回、あなたのような『弱者』が家を訪れたれことで、彼女達への急所を作られては困ります」


「じゃ、じゃくてんですか?」


「はい。彼女も含めあの一家はお優しい。見知らぬ人でも手を差し伸べる方々です。万が一、あなたが彼女達と知り合い、あまつさえその後の消息が絶ったと知れば、いらぬ気苦労が生じるでしょう。」


「そんな、お、おおげさじゃ…………」


「…………我らの尺度で言葉を放たないで貰えますか。エンフィー。わたくしは万が一と既に言ったはずですが」


「っ、す、すみません」


「そして、万が一も億が一もあってはならないのです。それは、リンドウの掟を破る。ひいてはアルマ様への謀反です。」


 「肝に銘じなさい。」加えて、念も入れておきましょう。

 わたくしは立ち上がりました。こういう場面でのアルマ様の行動を思い起こし、出来るだけその真似をしながら、おもむろにもエンフィーの前へ立って、彼女の頬に優しく触れる。


「もしも、あなた方の落ち度によって、彼女達に被害が及べば、それがあなたの生の終わりです。わたくしのサンドバックには、なりたくありませんよね?」 


 エンフィーは首を縦に振らなかった。でも、その代わり喉がやかましく上下した。わたくしの耳にもその嚥下音が聞こえくらいです。


「分かったようですね。」


「…………はい。」


「では、各位にもこの事、誇張せず、曲解せず、過不足無く伝えなさい。」


 エンフィーは逃げるようにわたくしの前を後にした。

 ドアが閉まり、駆け足が遠ざかって行ったのを境に、「…………ふぅ」と肩の力が抜ける。


「…………うまくできたでしょうか。」


 アルマ様は何の躊躇も気負いもなく、虐げや叱責をやってのけるけれど、わたくしはそう言う風には出来ない。

 こう言う厳しさが一番苦手です。

 実際、殴られるのが好きになったのだって、殴るのが苦手だったからですし…………まぁ、そのうちそれが気持ちよくなってしまったのは、我ながらどうかと思うのですが。

 とにかく、出来れば皆で仲良く笑いあっていたいと言うのが本音。


「でも、万が一があってはいけません。アルマ様に任されたのですから。」


 自分にも気合を入れ直すため頬を叩く。すると、頬の痛みが心地よく、わたくしの頬が弛緩してしまいました。


「あぁ、いけませんわ。もっとシャキっとしなければ。」


 痛みでは意味をなさないと思い、エイダとウェインの死を思い浮かべる事で、わたくしは意識を切り替える。

 そしてまた、執務机の前へ座り、手元へ視線を落とした。

 今日の書類内容は先月の業績に関する報告書と、それに関わった者の給与査定、輸送や賄賂に使用した経費、そして、最も面倒で頭を悩ます商品の在庫管理です。

 リンドウでは一般人を取り扱わない。そのため、悪人が主な商品ではあるのですが、彼らは非合法な薬や、不摂生がたたったゆえの病気を抱えている事が多いため、身体を始めとした、容姿や、性格、素性を精査する。その上で、難があった場合お客様に売ることが出来ないため、手元に残しておくことになる。


 そしてだからこそ、全てはけさせるのは至難の業。在庫管理は売れ残りの処理と言い換えても問題はないでしょう。

 わたくしが目を通している在庫管理表には、『七名』と記されている。つまり、七名売れ残った。逆に言えば七名が生き残ったともいえる。

 でも、特に感慨は浮かびませんわ。既に金に換えるための算段を自然と脳内で探し始めているくらい。

  

「もう、人の命を数で捉えるにも、慣れてしまいましたか…………」


 自嘲気味に呟いた時、昔の自分が顔を出した気がしました。

 以前の衛兵であったわたくしが、…………悪党全て牢屋に入れると息巻いていた世間知らずであったわたくしが、今では奴隷商の一幹部ですもの。

 昔のわたくしが見たら、きっと泡を吹いて腰を抜かすでしょうね。

 

「ふふ…………我ながらおかしい事です。ま、自業自得ですわ」


 実際、わたくしはもう公には居ない事になっている。周りの制止を振り切り、手を出してはいけない山に首を突っ込んだ挙句、親族諸共抹消されたから。

 生き残ったのはわたくしと、伯父様だけ。生き残れたのはアルマ様が手を貸してくれたから。 

 あの時のわたくしは、不躾で高慢にもアルマ様に疑いの目を向けていたのに、敵対していたのに…………わたくしが死する直前、アルマ様は無表情で現れた。


「『滑稽なことです。善人が食い物にされるのは』――――」


 無意識にも唇が動いていた。追想していた影響でしょうか、それとも、鮮明に憶えているからでしょうか。分かりませんわ。

 分かるのは一つだけ。あれは、あの無表情は怒り心頭だったと。わたくしの未熟な正義感ですら、あの方には眩しく映っていたのだと今なら分かる。


「――――わたくしも、今はそう思いますわ。」


 このような昔の事を思い返すなんて…………エイダとウェインの死を業務への切り替えに用いたのは間違いだったかもしれません。

 ナイーブになり過ぎですわ。そろそろ仕事に戻らなければなりません。

 また、在庫管理表と睨めっこすることにしましょう。


「とは言え、本来ならば、在庫管理はわたくしの仕事ではないのだけど…………」


 思わず愚痴が零れるけれど、こればっかりは仕方ありません。

 トグサの街からクォールの街へ寄越された人員は三十名。そこからジューン・ホーン様一家に人員を回し、さらに実働部隊にも割いている現状、事務作業は部下だけではどうしても手が回らない。

 だからわたくしに回ってくる。

 この状況に置かれてようやく、ミシェルの気苦労が分かるようになってまいりました…………。

 

「はぁ…………」


 ため息が漏れた時、執務室のドアのぶがノックも無く回りました。

 流石に不躾です。きちんと注意しなければ、


「誰ですか。わたくしは今忙しいのですが」


「そんな固い事言わんでくれよ、()()()()様」

 

 「え」、それはわたくしの名前。

 それに今の声は…………じゃあ、まさか。 


「伯父様っ?」


「久しぶりぃ~会いに来たよ」 


 と、この肌寒くなってきているクォールの街において尚、汗をかき帽子で自身を扇いでいるのは、紛れもないわたくしの唯一の肉親でした。


「嘘、どうしてこちらに?」


 「こっちは落ち着いたと聞いて」そう言うや否や、伯父様はソファーに腰掛けた。

 

「ここ、一応、わたくしの執務室なのですが。」


「まあ、そう言わずに。実は旦那様に休暇を貰ってね。あ、そうそう。これドッコっていう魚なんだけど、お土産」


「あ、あら。これはご手寧に…………伯父様、これ臭いますわよ?」


「ええ?…………ほんとだ。腐ってる…………おかしいな。下処理の仕方は間違ってない筈なんだけど。」


「生ものですし、仕方ないですわ」


「いや困ったな…………旦那様にもお土産としてねだられてたんだけど…………」


「アルマ様なら、気にしませんわ」


「そうかい?なら、いいか。」


「あ、いえ。腐ってもいいという訳ではなく。訳を話せば、分かって下さるという意味ですわよ。」


「え。」


「え。とは?」


「あ、ああ分かってるよ。はは」


「…………粗相はやめてくださいね」


「分かってるよ。それで、最近調子はどうだい?」


「…………露骨な話題転換ですわね」


「まさか。俺は心配してるんだよ、可愛い姪っ子が単身赴任だ。それで、どうなの?」


「伯父様がいらしたおかげで、仕事は今、宙ぶらりんですわ」


「違う違うよ。」


「じゃあ、なんですの」


 「コレだよ」と、伯父様は小指を持ち上げた。


「まぁ、下品ですわね…………」


「と言う事は…………誰とも進展なしかい。まったくミュランもそうだったけど…………そこまで似なくともいいのに。若いんだから、もっと交流した方がいいぞ」


「お母さんは関係ないでしょう。今、わたくしは仕事が何より優先なのです!」


「…………老化遅延をしてるとは言え、今年で四十だろう?そろそろ…………」


「歳は関係ないですわ。寿命は百五十前後ですし、昨今では適齢期は四十から六十の間と聞いておりますから、まだまだ問題ありません。むしろようやくですわ。」


「そう言って、婚期を逃した奴を何人も見てきた。独りだと老後が寂しいぞ?」


「おかまいなく。わたくし、十分にお給金をいただいておりますので。いくらでも老後を楽しめると自負がありますわ」


「孫の顔が見たい」


「とうとう正体を現しましたわね」


「だって、俺もう今年で七十だぞ。」


「もう、知りませんわよ…………退職して、適当な老後を過ごされたら?」


「それだと、エクシアちゃんと遊べないだろ?」


「ああ言えばこう言う…………エクシアが居るのなら、いいではありませんか」


「それはそれ。これはこれ。孫にお菓子買ったり、玩具上げたい。この気持ちが分からないのかい?」


「生憎とお年寄りの考えは縁遠く。何しろ、まだうら若いので」


「若くは無いだろう?」


「っ……………………わたくしの機嫌を損ねにいらしたのですか?」


「あぅ…………そ、そんなに睨まなくてもいいだろう。冗談だよ…………あ、旦那様はどうだ?」


「残念ながら。崇敬はしておりますが、異性としてではありませんので。」


「そんなぁ…………」


「もういいですか。仕事が溜まっているのですけど」


「分かったよ…………あ、休暇の間ここに泊まってもいいかな?」


「構いませんけど、宿は?」


「とってないよ。」


「え。どうして」


「泊めてくれるだろうと思ってね」


 …………何でしょうか。無性に腹が立ってきましたわ。


「わたくしがダメと言ったら、どうするおつもりだったのですか」


「その時は取るさ。旦那様からも旅費を融通してもらったからね」


「まぁ!まさか、アルマ様のご厚意を懐に入れるおつもり??!」


「…………へへ」


「呆れましたわ…………」


 昔のわたくしなら、小一時間説教している所ですわよ。

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