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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
三章『十格』

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04 三章 十格 エピソード32 嵐4

 アルマとのゲームが始まって何十分経ったのか…………分からない。

 分かるのは、俺がニヤの死後行った三回の勝負に勝ち続けたことだけ。この時は我ながら神がかってたとほくそ笑んだもんだ。脳内麻薬がドバドバと体を満たし、直感が冴えわたってた。ともすれば、やけ酒のように現実逃避も入っていた気がする。

 しかし、四回目の勝負になると事態は一変した。 

 

「今回は、俺の勝ちですね」


 五発も空撃ちした鉄砲を俺に寄越したアルマは、「やれやれ」と芝居掛かって首をすくめる。

 ふざけやがって。自分だけ安全地帯から高みの見物と決め込みやがって…………こんなのがゲームであってたまるか。

 歯ぎしりで奥歯が欠け、耐えがたい理不尽に体が揺れた。

 いや、そもそもこいつ、何時になったら魔力が途切れるんだ。もう、ずっと魔眼に魔力を注ぎ続けてるはずなのに…………。


「表情に出ていますよ。」


「…………なにが」


「残念ながら、俺の魔力にはうんと余裕があります。このゲーム期間中、魔力切れを起こす淡い希望は、捨てた方が良いでしょう。」


 いいや、はったりだ。そんな化物この世に居る訳が無い。

 きっと、今の無表情も意図して表情を変えないんじゃない。変える余力が無くなった時、それを悟られないよう、ポーカーフェイスを決め込んでるに違いない。

 そう思わないと、正気を保っていられない。


「何はともあれ。さ、残機を使いますか?」


 「それとも…………」アルマは含みを持たせ、俺を見る。


「死にますか」


 ()()()

 俺は死ぬつもりはない。このクソやろうをぶち殺すまで死にきれない。

 ()()()()()()

 だが、そうなると…………コーツを手に掛ける事になる


「…………。」


「悩んでおりますね。では、こうしましょう。一度だけ、難易度を落としましょうか」


 不穏な気配を察し、アルマが指さす方を見た。

 途端、こいつはここまでするのかと、血の気が引く。


「今回に限り、あの犬を残機として数えます」


 俺の身内。そのうちの最後の一匹、『ブブ』までもがアルマに捕らえられていた。首輪の部分を掴み、まるで物のように引きずり、蹴り飛ばして俺の前に連れてくる。

 そしてアルマは事も無く、鉄砲を俺の手に握らせた。


「こいつは関係ねえだろうが!!?」

 

「知りません。殺すか死ぬか。選びなさい。」


 ブブは俺を見る。普段通りの愛くるしい潤んだ瞳で主人たる俺を愛おしそうに見てくる。そんなこいつを、殺せって言うのか。

 無理だ。

 そう思った時、「いけませんよ、きちんと狙わなければ。」と、アルマは俺が持つ鉄砲に手を添え、ブブの眉間へ照準を合わせた。

 

「苦しませぬよう一息に殺さなければ。可哀そうでしょうに。」


「…………外道が…………」


 ブブは最後まで状況を理解していなかった。ただただ、俺を見ていた。それこそおやつでも貰えるのかとすり寄ってさえきたんだぞ。

 なのに俺は、引き金を引いた。

 呆気なくブブが死ぬ。これ以上の言葉が思いつかなかった。


「よろしい。では、これの処分は後にしましょう。さぁ、席へ戻ってください。」


「なぜだ」


 椅子に座った時、不意に零れた。


「なぜとは?」


「どうしてこうも、人の急所を抉れる。なんでそんなにも、無感情でいられる。」


 ここまで来ると、アルマの無表情は魔力の消耗を耐えるためのやせ我慢。そういった考えはどこかに吹き飛んでいた。もしも、百歩譲りそうだとしても、ここまで心を鎮めた状態でいられることが、理解できない。

 

「普通、少しくらいは…………愉悦に浸るだろう。なんでだ」


「この企みを思いついたのは俺の部下、そう言いましたが。俺はこのゲーム…………あまり興味をそそられなかったからですよ。」


「は…………?」


「だから、退屈なのです。」


 と、アルマは爪に視線を落とし、頬杖まで突く徹底ぶりを見せた。 


「今回は玩具や畜生が壊れるのを受動的に眺めるだけだ…………俺としては、もっと派手に遊びたかった。それこそ、上から目線が次第に綻び、涙目になって命乞いをするような。悲鳴が慟哭へ変わり、絶望へ転じる様を…………そんな地獄を手ずから作りたかったのです。ゆえに、弾丸に薬もつめてみましたが…………体が跳ねる程度では…………ねぇ?お話にならない…………はぁ…………」


 退屈だと。興味がないだと…………?

 それが、それが俺の身内を弄び、殺しておいていうことなのか?

 俺の家族が無慈悲に死んだことは、コイツにとって、遊びですらなかったとでも言うのか。

 それじゃあまるで、 


「文字通り犬死にですね…………とは言え、バトーからは、あなたの尊厳を壊すにはこの方法が最も易いと言われましたので。今回に限り、渋々と。」


「…………お前は、地獄に落ちる」


「ゆえに、俺は大往生するつもりなのですよ。今日命散るような、あなたと違ってね。」


 「さあ、あなたからだ。」と、沙汰を渡され、俺はもう無意識に鉄砲をこめかみに押し付けた。

 一回、二回、三回…………今回はそれで終わり。


「では、俺ですね」


 一度目が空鳴り、二度目も、()()…………と空鳴りを示した。俺が三回、アルマが二回引き金を引いたのだ。

 つまり次は、俺のこめかみを弾丸が通過する。

 

「…………俺の勝ちです」


「……………………」


 コーツが我が身を犠牲にすべく、後方で暴れている音がする。だからだろうか。続いて「大人しくしていろ」と、鈍い打撃音も響いた。


「もう、いい。」


「いい。とは?」


 返事として、俺はこめかみに銃口を押し付けた。そして、引き金に人差し指を掛け力を籠める。 

 しかし、普段通りに動いているはずなのに、俺の動きは愚鈍だった。いくら力を込めても、引き金は重く、ビクともしない。

 次第に、視界がぼやけてくる。涙が溢れてきたんだ。

 ここに来てまだ、俺は死にたくないと思ってしまってる。

 だが、それでももう、終わりにしたい。


「俺が死ぬ。」


 言葉にすると、力が戻った。

 覚悟が決まる。

 いまこそ一息に――――


「――――痛いですよ。死ぬのは」


 その言葉で視界がブレた。

 いや、ブレたのは体がビビったから。それに伴い、覚悟も揺さぶられ、また、引き金にかける力が弱まる。


「死ぬ直前には、走馬灯を見ると聞きます。」


 聞くな。ヤメロ。俺は死ぬんだ。喋るな。


「その瞬間は、時間が何十倍にも圧縮されるとか。」


 そんなもん迷信だ。だから何だ。俺はもうここから逃げたい。


「とすれば、あなたの脳髄を弾丸が通過するまで、一体どれ程の間あなたは苦しみ続けるのでしょうね?」


 その時、「カヒュ」…………と言う音を聞いた。

 思わず気が抜ける間抜けな音だ。一体何だと思ったが、なんてことはない。俺の喉からだった。

 

「はは…………」


 肉体と精神の乖離。

 俺の心はまだまだ愚痴を吐ける。実際今もこうして、のべつ幕無し思考が途絶える事が無い。

 でも、肉体が付いてこない。目に見える形で涙が絶え間なく零れ震える。降伏をつげている。

 どんな手を使っても生き残りたいと、体が反射的に立ち上がり、コーツの方を向くと鉄砲を構えて、照準を定めた。

 情けない。俺の体は死が怖いんだ。

 そう、俺じゃない。俺の体が悪い。

 俺のせいじゃない。


「俺は悪くない。」


 声は、発砲音にかき消された。

 それと同時、コーツの命も消えた。


「お見事。眉間に一撃。良い腕前です。」


 アルマが拍手を打った。

 だが、これでもう残機はない。

 次は、次こそは…………俺の番。


「終わりにしましょうか。」


 言葉の意味を理解するため、俺は一分を要した。


「なに。おわり?」


 振り返り聞いた時、アルマは無表情を取り下げ、微笑んでいた。

 表情筋が仕事をしている。なら、本当に、終わりなのだろうか。


「ええ、条件付きですが…………吞みますか?」


 何度も頷いた。


「では、署名していただきたい。」


 席に促され座る。俺の左右の眉間には、これまでニヤとコーツへ向けられていた銃口が触れている。

 だが、そんなことしなくとも従うさ。 

 

「それで、ここから、逃げれるんだな」


 アルマが首肯し、俺の前に紙が置かれた。簡素な文字列にはただ一文だけ。『フォリアファミリーのボスの座を、アルマの指名者へ譲る』そう記されている。

 と言う事は、フォリアファミリーは存続するらしい。均衡を鑑みたゆえか。それとも、別の思惑があるのか…………。 

 そこまで推察した時、空笑いが漏れた。緊張状態は続いているにもかかわらず、俺の思考はクリアだったから。

 でも、


「本当に、これで?」


「二言はございません。なんなら、そのように署名致します。あぁ、ご安心を。()()()()()()()、俺は約束を守りますので。」


 アルマはこの状況を読んでいたのだろうか。懐から折りたたまれた紙を取り出し、俺へと渡してきたのだ。内容は、先ほどアルマが言った通り。俺を今後一切狙わず害も与えないと記され、アルマ直筆の署名も既に為されている。


「…………わかった。」


 鉄砲の代わりに渡されたペンは、あまりにも軽く感じた。僅か数十グラム。これが、俺の命の重さか。

 殴り書くように、俺は署名をした。すると、即座に紙を奪われ、アルマはそちらへと目を通していく。が、俺には目が滑っているようにも見え、内心穏やかじゃあなかった。

 しかし、「確かに。これにて終わりです」と、アルマは満足げに頷いて、ようやく肩の力が抜けた。

 いや違った。本当に腕が自由になったんだ。俺の両腕を縛っていた縄は、ほどけていた。


「さぁ、どこへなりとも消えなさい。」


 反撃なんて、考えもしなかった。

 一刻も早くここから逃げ出したかった。ここから。そう、身内の死から目を背けたかった。






              ※※※※※※※※






「行ってしまいましたね。」


 脇目も振らず一目散に俺達の前から立ち上がり、ドアをけ破る勢いで飛び出て行ったガーベラスを尻目に、俺はようやく普段の調子を取り戻しつつあった。


「よろしかったので?」


 伸びをした時、フェリルから渋く問われた。


「何がです。」 


「逃がしてしまって。今からでも、自分が追いかけましょうか?」


 馬鹿ですねぇフェリルは…………だって、そんな事を言ってしまったら、


「そうですよボス!殺すには絶好の機会じゃあないですかぁ!行くなら俺様を!!」


 そら見た事か。ヴォルドがまた血気盛んにも鼻息を荒くしだしたではないか。


「エイダとウェインの仇なんですよ!?」


「おかしなことを言いますねぇ…………俺は別に、敵討ちなど考えてはおりませんよ。」


「ピィー…………そんなぁ…………」


「これは、応急処置。十格を完全に消すとなると、世間への影響は計り知れませんからね。それで、一般人の方々が被害を被ることになれば…………それは俺の責任となってしまう。と、ここまでが、バトーの発案でした。」


「…………んん?」


「もう、俺の自由時間と言ったのですよ、ヴォルド。」


「じゃあ!?」


「ひとつ残らず、()()()()()()()()」 


 その途端、竜人は下半身をくねらせ、歓喜に染まった尻尾を床に打ち付けた。そして部屋を飛び出していったのだ。


 一方、フェリルはギョッと俺に詰め寄ってきた。


「アルマ様、外では流石に…………」


 無論、フェリルの謂わんとする事は分かっている。食人はこの世界における最大の禁忌に抵触するからだ。

 その理由の一部として、この世界にはヴォルド含めた亜人種が腐るほどいる。遥か昔にはそれら種族間には垣根が憚り、差別や抗争が絶えなかったと文献には記されている。


 ところが、今現代ではそんな事はほとんど無い。現代を生きる俺達からすれば、既に克服した戒め程度の認識だろうか。

 実際、俺が自身の心を矯正するため、医学や生物学を嗜んだ際にはこう記されていた。

 いわく、『人間』と言う大きなくくりの中に、俺達のような人族がいて、さらに細分化した中に、吸血(ヴァンパイア)属、長耳(エルフ)属がいて、その他に、竜属や(ハーピー)属、粘土(スライム)属、数多の属種がいると。

 要は、姿形は違えども、全て同じ人間であるとの記載だ。そしてそれゆえに、食人は種族間に禍を招くとし、最大の禁忌であると位置着けられている。

 だから、フェリルは気が気ではなかったのだ。

 

「今回は、バトーの計らいでポイストの領地を借りての行いですよ。もし少しでも痕跡が残ってしまえば…………」


「彼も弁えておりますよ。また、全て余すところなく平らげるでしょう。」


「…………押忍。アルマ様がそう仰るならば」


「では、行きましょうか。」


「え、どこへです」


「決まっているでしょう。人間の踊り食いなど、早々お目に掛かれるものではないのだから。良い余興になります。そしてそれは、俺の趣向にあった、逃走成功と言う希望からの急転直下――――緩急と言う名の絶望。俺の大好きな玩具の真骨頂たる喜劇なのですよ。ははは」


「…………アルマ様がお楽しみになられるのであれば、なによりです。押忍。」


 実際、その後は本当に愉しかった。

 必死に逃げ回るガーベラスとヴォルドを炎上網で取り囲み、二人きりにした途端、ガーベラスは「やめてくれ!ひでぇよ!!!!」と喚き散らした。

 続いて、左腕を噛みちぎられた時には、「逃がしてくれるって言ったじゃないかああああああああ!!!!!!」なんて、その場にうずくまり命乞いをした。

 でも、腹を食いちぎられ、自身のはらわたを引きずり出され、麵よろしく啜られ始めた時には、その悍ましさに対し、感情が追い付かなかったのか、ゲロを吐いてしまったのだ。

 その間、ヴォルドはずっと獣のように肉へむしゃぶりつき、生き血を啜り、骨をしゃぶり砕き、咀嚼していった。

 果たして、ヴォルドがげっぷをした時にはもう、その場にはひとかけらの痕跡も残らず、ガーベラス・フォリアはこの世から消え去った。


 まぁ、蛇ではなく、竜ですからね。丸のみで無かったのは仕方ない。

 ただ、これはこれで珍しいものが見れたと言うものですよ。非常に満足です。

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