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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
一章 惡の華 リンドウ

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02  一章 惡の華 エピソード06 シュバルの街の夕食2

「おじさん、飲み過ぎですよ」


 言った直後だった。おじさんは体を震わせ、家屋から離れた空き地の隅で、四つん這いになったのだ。

 他人の家屋に吐しゃ物を吐き出す酔っ払いが多い中、理性的にも無人の敷地を選ぶなど、偉いではないか。


「うぇ、をろおおおおおおおおおお」


「…………言わんこっちゃないですね」


 とは言えそれは、不良が子犬を拾うが如きギャップであり、客観的に見れば、無人とは言え人様の敷地に吐しゃ物を巻くなど言語道断。状況は依然最悪だ。

 と言うかなぜ俺が中年の背中をさすり、あまつさえ介助をしなければならないのだ。もしもおじさんが部下としてこの状況に出くわせば、『あぁ、今日が命日か…………』と、走馬灯を見るぞ。


「さ、今日はもう帰りましょう。たくさん、ご馳走をいただきました。俺はもうお腹いっぱいです。」


「ヴうう…………ま、まだだぁ。俺はまだいけるぞ~」


「いえ、もう無理でしょう。あなた、度数15もある酒を、七杯も飲み干したのですよ。意識が在るのが奇跡です。最後の方は女将も顔が引き攣っていましたよ。いつ、あなたがゲロを吐き出すかと。まるで死刑執行を待つ囚人のような表情でね。」


「ま、まだまだぁ…………」


「さっきから、それしか言えてないではありませんか。早く帰らないと奥様が、怒りますよ。」


 言った瞬間だった。おじさんはビクンと肩を跳ねあがらせ、恐怖によって姿勢を正したのだ。いや、それだけにとどまらず、素面さながらに流暢にも話し出した。


「い、今、何時か分かるかにいちゃん?」


「おや、相当躾が行き届いていると察します。効果てきめんでしたか。そうですね…………先の一軒を出た時にはもう、日をまたぐ間近でしたが」


「っ!!!や、やっべぇ!!!!!俺ぁ明日せがれと山行く約束があんだ!!!」


「あぁ、奥様ではなく、息子さんの件で青ざめていたのですね」


「もし、遅れちまったら、(カァチャン)にどやされっちまう!!!!!!」 


「…………結局、奥様がこわいのですね」 


 しかし、長く関係が続く夫婦の秘訣は、亭主関白ではなく、尻に敷かれる事であると、以前誰かから聞いた事がある。

 それに、口では嫁が怖いと言いつつ、いの一番に出てきたのは子供の事。その点には感銘を受けると言うものだ。

 美しい。こういう者こそ、価値ある美しさなのですよ。


「関所の近くまで、肩を貸しましょう。今ならまだ、明朝前にご自宅につける筈」


「い、いやいい!関所はもう閉じちまってるからよ。別の道で帰るわ!」


「おや、ではそこまで」


「いいって!そっちは地元のもんしか知らねぇ脇道だ。一人で問題ねぇよ」


「しかし、そのような千鳥足では」


「おうおう構うもんか。吐いたら楽になったから気にすんな。むしろ兄ちゃんこそ、そんな身なりで気を付けろよぉ?」


 おじさんは照れくさそうに俺の腕を振りほどき、よちよちと街灯の方へ向かっていく。


「世話になったなァ。じゃ、また会ったら今度はそっちがおごってくれや!」

 

 街灯と街灯の間。顔が見えなくなってから、その元気のよい声が別れを告げたのだ。


「そうですか。まぁ、悪人たる俺が、これ以上深入りするのもよろしくありませんね」


 俺も表社会からくるりと踵を返し、街灯の光に頼らない、暗い帰路に着いた。

 おじさんには悪いが、もう二度と会うことは無い。なぜならもう明日には、この町を出るつもりでいる。

 休日は終わったのだ。

 明日からはまた、整地された大地を踏みしめ、二週間弱に及ぶ最終目的地への旅路――――出張が再開する。


「いやはや…………フェルメニア大陸では、国と国とをつなぐ整地された大通りがあると聞きます。ヴァニラ列島も見習ってほしいものです」


「キヒヒ…………独り言なんて恥ずかしいぃ。どしたん、どしたぁん。おじさんと別れて寂しくなっちゃったぁ?可愛いねぇ可哀そうだねぇ、うんうん。それはキミが悪いねぇ、話聞こうかぁ、慰めてあげるぅ、ねね、ぼぉ~~~くちゃん?」  


 あぁ、本当に…………忌々しい。

 俺は、真横から聞こえる悪魔のささやきを振り切ろうと、歩く速度を速めた。


「お前、何しに来た」


()()()()()をしにぃ~~~」


「なに?どういう意味だ。アレクスはどうした」


「あぁ~~私とお話してるのにぃ他の人の名前出すのぉずるーい。今は私と話してるじゃぁん~~、私に意識を割いて?うわーん泣きそうだよぉ、チラ。チラ?」


「その舌ったらずな口調を辞めろ。イライラする」


「知ってるよぉん。だからやめなぁい!キヒヒ!!」


 我慢の限界だ。今は深夜、人通りは無い。街灯から離れたところで、俺がナイフで首を斬ろうとした時、


「はいこれぇ」


 と、鬼畜クソ女は大金を俺に差し出してきた。その手は、真っ赤に薄汚れている。


「あ、気になるぅ?この血はねぇ、純潔散らしちゃったやつなのぉ~ぐすんグスン。ド外道君がぁ体で稼げって言うからぁ~~」


「白々しい…………淫売が。よくもそのような嘘八百をのたまえるものだ。下衆が、また殺したな。」


「キヒヒ…………見てくればぁ?てか、キミがそうなるよう仕向けたんでしょう??ね、私はご主人様の意思に従ったまでぇ~~」


「世迷言を言うな。お前の主人など反吐が出る。俺とお前には一切の関係は存在しない。お前が纏わりつくから…………俺は一所に留まれない。そのせいで、詳細の確認が滞り…………ッ、今回のようなミスが出たんだぞ!」


「でもぉ、『契約』は無効にできないよん。」


「それは一方通行な押し付けであり、詐欺だ。よって無効。俺は関係ない。」


「あるよん。キミが、私を助けた」


「そんな覚えは一切ない。失せろ俺が死ぬまで顔を見せるな。俺はお前が嫌いだ、人の形をしただけのバケモノがッ」


「キヒヒ…………いいよぉ~。あ、最後に一つ新情報~~アレクスはぁ、とぉっても()()


「…………なんていらぬ情報だ。俺の脳の容量がまた一つ無駄に圧迫された。」


「キヒヒ…………その表情。ぐぅっど!!じゃねぇ…………私のド外道君」


「…………鬼畜クソ女がぁ…………ッ」


 俺はその後、無言で街中を歩き回り、灯りを探した。そして、まだ開いている飲み屋を見つけると、暴漢に追われている女性さながらの速度と剣幕で、中へ入り、記憶が飛ぶ事を願いつつ酒をかっくらった。






                ※※※※※※※※※※※※※






「たのむ!見逃してくれぇ!」


「悪いわねぇ、私ら金が要るのよ。薄汚い施しじゃあなくって、汗水たらして稼ぐ、金が――――ねっ!」


 私が尖ったヒールのつま先で中年の腹を蹴ると、「おぇ…………」と面白い程に男は痙攣した。

 どうやら、よからぬところへ入ったみたい。そのうち、赤い血が口から泡となって溢れてきたところを見るに、内臓を痛めたのかも。


「よっわ。私、魔力による身体強化もしてないってのに…………ヴァニラ列島の男は軟弱ね」


「ヒッヒッヒ、姐さん。厳しいなぁ、俺らだって今の喰らったら赤いうんこがでらぁ」


「それ、痔じゃないの?ほら、金やるから医者いきな」


 私の素っ気ない返答を聞き、冗談を言った手下の一人はわざとらしく悲壮を浮かべた。

 続いて、他の部下の二人がフォローに入る。


「手厳しいなぁ姐さんはぁ。アイツ渾身のギャグですよ?」


「そうっすよ。姐さんを喜ばせようと、言ったのに…………」


 「馬鹿言ってないでよ」とは言うものの、私は言葉とは裏腹に、楽し気な声音を隠さない。

 彼ら黒服三人と私エルモーは、ジーランド大陸からの腐れ縁。共にダリオファミリーに入った気が置けない仲間だから、軽口くらい笑って流す。

 でも、今は仕事中。ならば、下を締め付けるのは上の仕事。


「いいから早く金取んなさいよあんたたち。けつの穴増やされたいの?」


 「へーい」と言う軽返事ながら、彼らの手際は良い。

 中年から少しの抵抗を感じれば、即座に肘を入れる。蹴りを入れる。鼻を潰す。そこに慈悲は無く、容赦もない。

 金を全て取り終えた時には、中年の歯はまばらに折れ、右の眼孔は異様に窪んでいた。

 でも、そんな状態でも、


「こ、殺さないでくれ。…………俺は、家に、帰らねぇと…………せがれが」


 なんて、必死に地面を這って私らから逃げようとしている。

 

「駄目に決まってんでしょ。顔見られてんだから、殺し一択」


「ヒッ!待って!」


 それが最期の言葉だった。私が中年の頭を踏み潰すと、周囲には円状に脳漿が飛び散った。その一部は私のヒールに否応なく付着する。

 私は地面にヒールをこすりつけながら汚れをこそぎ落とし、部下たちに成果を聞いた。


「で、どんくらい持ってた?」


「姐さ~んコイツ超しけてますよ。たったの十五万オールです」


 十五万オールと言えば、ヴァニラ列島の下働きの月給程。とんだくたびれもうけね。


「はぁ?それであんなに上機嫌に酒飲んでたって事?…………はぁ、とんだ詐欺にあったもんね」


「姐さん、この死体どうします」


「は、ほっときなさい。」


「えぇ?証拠の残しとくんすかぁ?」


「ふふ、あてつけよ。私らを買収しようとした、あの薄汚い奴隷商へのね」


 私の言葉に感化されたのか、部下たちは合点を打ち、愉しそうに死体をさらに醜悪な状態へと変えた。

 その後の中年は、腕の関節が四つに増え、股の裂け目は胴体にまで及んだ。でも、表情は笑顔に変えられていた。

 そして、最後にイチモツは切り取られ、中年の額に置かれたの。


「ぷっ!あっはははは!!なにそれ!!」


「へへ、きったねぇユニコーンでさぁ。面白かったですかぃ姐さん」


「ぷぅ…………クク…………ククええ、ええ!あんたユーモアのセンスあったのね」


「もちろんでさぁ、俺以上におもしれえ男なんてこの世にいやしませんて!」


「ふふ…………言ったわねぇ、じゃ、帰ってあんたのレパートリー見せてもらおうじゃない。他の二人もよ!今日は寝られると思わない事ね!腹がよじれる程笑い明かすぞ」


 その日の夜は最高に愉しかった。

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