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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
三章『十格』

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04 三章 十格 エピソード28 嵐の前の静けさ

 和平の後、ボッシュの街でクサナギと別れ数日後。屋敷に帰った俺を待っていたのは当然ながらミシェルと、まさかのバトーだった。


「なぜあなたがここに。」


「今回の案を申し出たのワシですからな。結果も気になると言うもの」


 そして彼は、期待に満ちた瞳で聞いて来たのだ。


「そのお顔を見るに、つつがなく済んだと思われますが?」


 だから俺は簡素にも「事は済みました」と伝えた。

  

「では、本当に和平は済んだのですか?」


「そうだと言ったでしょう、ミシェル。」


 何度言おうと結果は変わらない。苦笑も漏れると言うもの。


「何度も言いますが、襲撃に怯える必要もなくなりました。二人一組の厳戒体制は、もう解いてよろしい」


 「かしこまりました。」そう言ったミシェルの声は、些か弾んでいた。各位に報告するため俺の前を離れて行った足取りも、どこか軽いと感じたのだから、浮かれ調子と言っても過言ではなかっただろう。


「では、ワシもこれにて帰りますかな」


「おや、泊っていかないのですか」


「ええ、こう見えても忙しい身ゆえに。」


 見やれば、屋敷の外に馬車が待たせてあった。

 とは言え、今のバトーはお忍びで来ている身だ。それゆえに、サディー首都で見かける様な仰々しいものではなく、造りは素っ気ないちんけな借り物のようだった。

 バトーは「それでは、また…………」と肩をすくめ、早々に屋敷を後にした。


「ならば来なければいいものを…………まぁ、人の事は言えませんか」


 実際俺も肩の荷が下りた気分でいる。それは、今回の和平もそうだが、最も俺の気持ちを軽やかにしているのは、鬼畜クソ女を祓えたことだ。

 これでようやく、奴隷商に本腰を入れ、この町に根を下ろせると言うもの。


「ここからですね。俺の人生は。」


 おかげで柄にもなくスキップをしそうだぞ。

 さて、これから何をしようか。まず、何から手を付けようか。


「あぁ、まずバーバラに文を出しましょうか。」


 思えば、ジューン・ホーン一家の件は彼女に任せきりだ。当時はダリオファミリー周辺の整備もあり、忙しいだろうと思ったがゆえ、手放しでいたが…………そろそろ一報を入れ、彼女自身の言葉から近況を聞いてもいい頃合いだと思う。


 「となれば」自室へ向かう事にした。

 

 自室への道中、「あれ、何かいい事でも?」と、すれ違った召使の一人に声をかけられたのだから、俺は相当浮かれていたんでしょうね。   

 だから自室に入った後、俺は直ぐに鍵をかけた。変に追及されたり、今の気分に水を差されたくなかったから。

 

 文にはまず、悪魔祓いが済んだこと。そして、フォリアファミリーからの襲撃を機に、リッカがエーランドファミリーの娘であり、その件を利用し、和平へとこぎつけたことを簡素に記す。ここまでは大体二行半で済んだ。

 本題たる残りの十数行は、バーバラの近況に関する訊ね事と、ジェーン・ホーン一家の経過についてだ。もっとも、その本題の文章構成には大いに苦戦した。書き出した途端、「あぁそう言えば…………」と言った風に聞きたいことが湧きだし、十数行以内に収める事が非常に難しくなったから。

 

「…………さて、こんなところでしょうかね」


 何度も添削し、俺が筆を置いた時には、既に二時間以上が過ぎていた。

 机の引き出しから、便箋用の封筒を取り出し、丁寧に包むとようやく一段落が付いた。

 軽く伸びをし、首を回すことで姿勢を固定していたがゆえの凝りを解し、俺は立ち上がって窓辺へと寄った。


 召使いの数人が庭の手入れをしている。

 何のストレスも無い状態で庭を眺めるなどもしかして初めてかもしれない。


「素晴らしい。これで俺の寿命は末永いものになるでしょう」


 もう、何をしても心安らぐ時間にしかならない。これ程平穏な時が突然やってくるとは、夢にも思わなかった。

 

「いや…………あぁ、そうです。お金を用意しておかなければ。」


 ウィズ・キャネルへの占い料を思い出し、俺は金庫から札束を取りだすと、応接室のソファーの中へと隠した。

 その後、屋敷をうろついているとミシェルに丁度すれ違ったゆえ、ウィズ・キャネルについてもそれとなく仄めかし、金の回収が来ると告げる。


「一千万…………ぼったくりでは?」


「…………まぁ、そうなのですが。事実として有益でした。彼女が来た際には、頼みましたよ」


「承りました…………あの、そのウィズ・キャネル様の、身辺調査は行いますか?」


 「いや」、しない方がいいだろう。というか、既にフォリアファミリーが調べた後だ。それに今更調べたところで何になると言うのだろう。


「止しておきなさい。あの情報量を敵に回したくはない。」


「はい。では、赤毛の女性が来た際には注意をしておきます」


「あと、リンドウの臨時休業ですが、二日後に再開と行きましょう。各位にその旨の通達もお願いしますよ」


 「はい。」と一礼を受け、俺はまた自室へと戻った。

 何をするのか?決まっている。読書だ。ここ近年はずっとせわしなく飛び回っていたため、落ち着いて目を通す暇が無かった。たとえあったとしても、鬼畜クソ女等が邪魔をしてくるせいで、目が滑ることもしょっ中。

 ようやくプライベート時間をとれたのだから、夕飯まで優雅に過ごすさ。そのために地下倉庫から赤ワインを拝借し、俺はそれから数時間『勇者伝記』を読みふけり、指に触れる紙の感触を楽しんだ。






               ※※※※※※※※






「…………ん。」


 迂闊。眠ってしまっていた。しかも何やら足が温い。嫌な予感に顔を引きつらせ、恐る恐る下を見やると、ワインを本に零した状態だった。


「…………せめて白ワインにすべきでしたか。」


 白い紙は赤く濡れよれていた。文字も滲み、まるで血でも零したようだ。

 今後は、酒を読書のお供にしない方がいいだろうか。いや、以前の俺ならこんな下手な真似はしなかった。きっと、気が緩んだが故の失敗だ。

 それなら、そう思うとこんな馬鹿な真似も、嬉しい副産物で済ませられる。


「もしくは、奴隷商などが勇者ものを読んだ罰か…………」


 まあいいさ。ふと顔を上げると目に飛び込んでくる彩度も殆ど赤。

 時刻は夕方。そろそろ、夕飯の時間。

 赤ワインが色濃く染めるズボンを脱ぎ、身支度を直した後、俺は別室へ移動しようとドアノブを手にかけた。

 

「旦那様、夕食のお時間です」


 丁度いい。ドアの直ぐ奥から召使いの声が聞こえ、俺は返答の代わりにドアノブを捻り、顔を出した。

 そして、別室までの歩きすがら、「今晩のメニューは?」と聞いた。


「角ウサギのソテーです。それと、珍しくもジーランド大陸から魔獣の卵を輸入していましたので、そちらを使ったスフレをデザートに。」


 角ウサギ…………は、いい。あれは珍味だ。

 ただ、


「魔獣ですか。大丈夫なのですか?」


「ええ、味見しましたが、中々に濃厚です。確か…………赤い…………タコのような…………何と言ったかな…………」


「…………まぁ、毒味が済んでいるのならいいでしょう。そう言えば、リッカやミネルバはもう帰ったのですか?」


「ええ。お二人なら既に。今屋敷に居るのはレイ・フィールド様です。ですが、彼女はもうお食事をお済ませになっております。」


「おや、なぜ。」


「はは、旦那様と共では、気が休まらぬのでしょう」


「…………意地が悪い事を言うではありませんか。」


「私達は違いますよ。」


「なんのフォローにもなっておりません。ほら、早くドアを開けなさい。」


 苦笑した召使いがドアを開けると、俺の鼻孔を芳醇な肉の匂いがくすぐった。






                ※※※※※※※※






「ヒック…………まぁ、フォリアファミリーでの事の顛末はそんなとヒックこっすよ」


「リッカ、あなた飲み過ぎよ」


「うぇーい…………ま、お祝いだしぃ、仕方ないんじゃね。」


 私――――エイダの店を貸し切りにしたリッカに乗っかる様に、ミネルバもビールジョッキを一気に飲み干す。

 今晩は悪魔祓いと和平の達成を祝い、朝まで飲み明かすつもりらしいわ。


「でも、なんで私があんた達に酒をつがなきゃいけないのよ」


「だってこの店やってんのエイダちゃんじゃん。それに、エイダちゃんだって、ばかすか呑んでんじゃん。前に聞いたよぉ、アルマ様にその酒の度数バレたんでしょぉ~?」

   

「っく。聞いてたの」


「そっすよぉ…………ヒック…………うぇ」


「…………ちょっと、吐かないでよリッカ!?」


「うぇ、大丈夫っすよぉ…………ヒック、う、うぇ…………うぷ」


 とは言うものの、リッカの喉は怪しく上下し、今ではしゃっくりよりもえづきの方が増えてる。


「…………これが本当に、エーランドのご令嬢なの?信じられないわ。」


「ね~威厳ねぇわ。そりゃ誰も気付かんて~」


「てぇやんでぇ!オメェら私の事馬鹿にしやがったなァ!?頭かち割んぞぉ!!」


「うわ、急にカッカするじゃ~ん…………面倒くせぇ…………」


「はぁ、こんな時バーバラが居てくれればねぇ、嬉々としてサンドバックをやってくれるのに…………」


「んお…………そういや、バーバラどこっすかぁ?」


 その発言にはさすがにあきれ返ったわ。思わずミネルバを見やると、彼女も同様にジト目でリッカから少しだけ身を引いた。


「…………いや、バーバラは今クォールの街でしょ~が」


「ありゃ、そうだったすっかねぇ…………はぁ!?私の酒が飲めんぇってんですかぁ!?後輩のくへにぃ生意気なやつぅ…………うぇ…………」


「情緒が、情緒がやばぁいよ~…………呂律も回んなくなってきてるしぃ、だからコイツと飲むの嫌だったんだよねぇ~」


「今回は特にね。本当に飲み過ぎよ。ミネルバが止めないから」


「は?私のせい~??そんな訳なくねぇ?どうしようもなかったじゃーん」


 確かにミネルバの言う通り。

 私の制止を振り切り、チェイサーすら噛ませず、リッカがこの状態になるまでものの一時間だった。

 

「はぁ…………もう、吐かなければそれでいいわ」


「うぇろおおおおおおおおおおお」


「って――――言った傍からっ、私のお店がぁ!!!???」


「え、エイダちゃん!!布巾!水なんて今更意味ないってェ~!!」


 ミネルバの言い分はもっともね。私は水がひったコップから手を離し、カウンター席の下から布巾を取り出した。 

 その時。正面出入り口のドアがノックされた。


「あら、おかしいわね。」


 今晩は貸し切りという事で、店の前には看板を出してる。お客が来ることは無い筈なんだけど。

 でも、実際にノックは響いてる。 

 しかも、ミネルバはリッカの介助で手が離せない。


「仕方ないわね…………」

 

 嘆息を吐きながら、私はドアを開いた――――でも、そこには世闇が広がっているだけ。


「あら…………?」


 その瞬間だったはず。私は床に倒れ、意識はそこで途絶えた。

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