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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
三章『十格』

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04 三章 十格 エピソード27 和平交渉2

 今歩いている場所は、フォリアファミリーの敷地内、まだ庭だ。

 クサナギ達を先頭に、俺達リンドウはその後方についている。隊列は俺を頂点とした三角の形。フォリアファミリーを刺激しないよう、無駄な会話も無駄な所作も控え、細心の注意を払っているのだが、


アルマ様(ボス)、凄まじく因縁つけられてます。」


 本日のフォリアファミリー内部は、満遍なく殺気立っていた。


「分かっていますよ。だからと言ってヴォルド、睨み返すのはおよしなさい。」


 壁と錯覚するほどの恨めしい目線の数々が、俺達の侵入を拒もうと行く道にプレッシャーを置いている。それはもはや、悪意という水が溜められたプール。俺達を押し返そうと逆流してきているとしか思えない。

 俺達の足取りは、ゆったりした余裕なものから、緩慢とした亀の歩みへと落ちていった。


 ロシノさんが世話した構成員は山ほどいる。だからフォリアファミリーの態度は憎悪が半分、もう半分は悔しさと言ったところか。当然だ。どう伝わっているかは知らないが、彼らからしてみれば、ロシノさんを殺した俺が、堂々と自陣を闊歩している風に映るのだから。

 目の前に俺という仇が居るのに、エーランドファミリーという後ろ盾に隠れている俺が、堪らなく苛立たしいのだろう。


 俺達は皆の悪意をかき分けるように、重たい足を引きずりつつ、本家は大きな平屋敷へとたどり着いた。

 これで第一段階は突破だ。もしかしたら、ここにたどり着く前にしびれを切らした者が飛び掛かってくる可能性もあったため、俺は安堵に息を吐く。

 その時、本家玄関の引き戸が荒々しく開かれた。

 以前嗅いだ時と同じアロマの甘い匂い。そしてそれと似合わない、いかつい男がヌゥっと出迎えのために顔を出した。


「クサナギ・エーランド様。遠路はるばる、よく()()()()()()


 面子が邪魔をするのだろう。一構成員が使うにはその言葉選びは挑発的だった。

 しかし、クサナギは別段気にした様子も見せず、「ご苦労」と簡素に返す。取り合わない。ともすれば肩透かしを受け、男は少し表情を渋くする。それこそ、格の違いを見せつけられたとでも言うように。

 そしてそうなれば、次に因縁を吹っ掛けられるのは決まっている。俺だ。


「よくも、ノコノコと顔を出せたものだな。」


「ええ。後ろめたい事はありませんので」


 すると、舌打ちを貰う。しかし、俺としてはこの男と謗りあいをしに来たわけでは無い。そもそも、言葉を交わしたところで俺には何のメリットも無い。ただ、無益に口内の水分を失うだけだ。

 俺は見せつけるように、自身の爪へ視線を落とし弄り始めることで、あなたとの会話は退屈であると、所作で示した。


「早く、案内していただけませんか。」


「っち。こい」


 男は今回の席へと続く通路を、怒り肩で荒々しく歩いた。その道中。俺の知り合いは居なかった。と言うより、人っ子一人見当たらない。

 和平を結びに来たとは言え、流石に不用心ではないだろうか。

 どう言う訳か、


「和平のためだよ。アルマ。」


 俺が視線を彷徨わせている時、クサナギが前方を向いたまま答えた。


「君をなぶり殺したい人が、ここには五万といるからね。俺が事前に、当日は人払いをしておくようにと。文にしたためておいた。」


 それはそれは。気が利くではないですか。

 ですが、

 

「残念ながら、フォリアファミリー(こんな所に)に五万も構成員はいませんよ。」


「…………君なぁ…………一言付け加えないと気が済まないのか」


「お気になさらず。冗談です。」


「ぁあ、俺はしないよ。もう慣れた。」


 「ただ」、クサナギの視線は、案内を務める男の方へと向いていた。

 見やれば、男は青筋を浮かべ、俺の方へと床を踏み鳴らし近寄ってきて、そのまま襟首を掴まれた。


「今ここで、殺してやってもいいんだぞッ」


 男は顔を近づけ、唾を飛ばしながら、がなり立ててくる。


「お前も、ロシノに世話になっただろうにッ…………」


 その過去は否定しない。そして、俺がロシノさんを殺してないと言ったところで、火に油を注ぐだけ。

 だから、俺の背後で今にも飛び掛からんとしているヴォルドとフェリルの二人を手で制し、その怒りを受けて立つ。


「手を離した方が身のためですよ。」


「恩知らずが、日和りやがって…………」


「俺は今回客人なのです。ご覧なさい、エーランド様の前でなんと無礼な」


「借り物の力で威張って、満足かぁ、あぁ!?腰抜けがッ!!」


「ええ、もちろん。借り物だろうと自力だろうと、力は力。選り好みは致しません。同じ結果を得られるならば、俺に忌諱感はございません。」


「…………っこ、の…………クズがッ」


「そっくりそのままお返ししましょう。我らの世界にそれ以外は一人もおりません。」


 そして遂に、男が拳を振りかぶった時、その怒り肩にクサナギの「待った」が掛けられる。


「御仁。もういいだろう」


「エーランド様、いや、しかしっ!!」


()()()()()()()()()()()。だから、ここは俺の顔を立て、鎮めて欲しい」


 その言葉は説得力の権化だった。事情を知らぬはずの男ですら、何故か同情感を催したのか、留飲と拳を下げたのだ。

 果たして、「…………っ。命拾いしたな」と男は吐き捨て、また案内役へと戻り、俺達も歩き始める。


「エーランド様、感謝申し上げます。」


 俺が囁くと、クサナギはうんざりとした様子で「いいよ」と俺の気持ちを振り払った。


「君の言葉は障子紙のように薄い。その奥から、『もっと早く助けろよ』…………と、透けて見える」


 おや、分かっているならばよろしい。俺は乱れた襟を整え笑った。


「とは言えだ、君を敵に回したくはない。だから助けた。それで許せよ、アルマ」 


「ええ、当然。よい働きでした。」


「それと、もう少し口を慎んでほしい。要らぬ波風を立てるな」


「無論、向こうが凪いでいるのなら、俺もそうしましょう」


「君と出会ってから、ため息が絶えない」


 クサナギの嘆息と同時、「お連れしました」と、男はとある部屋の前で正座をし、室内へと声を飛ばした。

 すると簡素に、「ああ」と聞こえ、男は恭しくもふすまを開いた。彼は顔を此方へ向け、顎で「入れ」と促してくる。

 まず、先陣を切ったのはクサナギの面々。俺は彼の指示があるまで、外から内部の様子を伺った。

 

 部屋は八畳程。部屋中央に堀があり、その上に重たそうなテーブルが置いてある。今回の人数分たる三つの座椅子も同様にあった。

 内装は板張りで土壁ながら、古臭さは感じない。それに、俺が知らない部屋であることからも、改装された新造なのだろうと思う。


 室内最奥には既に三人と一匹の犬が居座っていた。

 フォリアファミリーの重鎮であろう男女が正装で一名ずつ計二名、正座で居る。

 彼らに挟まれるように座椅子に腰かけ、傍で行儀よくお座りをしている犬を撫でつけているのは、同じく正装の最後の一名。その男からは甘ったるい匂いがこれでもかとただ寄ってくる。

 その匂いの元たる男が、デュリエル改め、ガーベラス・フォリアその人。彼はまずクサナギの取り巻きをサラリと流した後、当人を見るなり片眉を上げた。


「少し見ない内に…………やつれたか。クサナギ」 


「気のせいだよ、デュリエル」


「悪いが今はガーベラスだ。クソ親父を思い出すもんで」


「そうか。以後気を付けよう。」


 その後、「アルマ」と呼ばれたのだから、俺も敷居をまたいだ。途端にもガーベラスは喉で笑い、下からねめつけるように俺を見た。


「久しい顔だ。」


「ええ、ご無沙汰しております。ガーベラス・フォリア様」


「口調が変わったってのは、事実らしいな。」


「席を設けていただき、恐縮です。」


「クク、気味がわりい」


 その侮蔑を腰を下ろす合図とし、俺とクサナギは座椅子へと座った。俺達の連れてきた部下達は、ガーベラスの取り巻きに倣い、各々の陣営の背後へと正座で腰を下ろした。

 そして、クサナギが咳払いをし、和平交渉が始まった。


「さて、ガーベラス。話を進めたいのだが」

 

 話を切りだすと、ガーベラスは犬を撫でるのをやめ、部下へ預ける。


「あぁ、その事なんだがな。あんた、なんで奴隷商の肩を持つんだ。」


「文に全て書いたはずだよ。」 


 その内容は、俺も大方聞いている。

 たしか、リッカ(身内)を助けてもらった恩があると言う、俺が当初持ち込んだ筋書きはそのままに、不審に思われぬよう細部を脚色したらしいのだが。

 ガーベラスは納得いっていないらしい。


「それにしちゃぁ、あまりに温い対応だと思うんだがね。そいつは首都にまで手を出そうとしてんだぞ。下手すりゃ戦争だ。そもそも、これは俺達自身から出た錆でもあり、ケジメともいえる措置だった。」


 「部外者が入る余地はねぇはずだが」と、ガーベラスは一度だけ俺を視線で牽制し、またクサナギへと顔を向け直す。


「どう、丸め込まれた?十格の威厳はどこに置いてきた」


「何度も言わすな。文にしたためた通り。君も理解したから、この席を甘んじたのだろう」


「勢力で言えば、うちはそちらに劣ってる。ありゃぁ…………ぶ厚い面の皮被った、脅しだろうが」


「今更、問答をするつもりはない。さっさと片を付けようよ、ガーベラス。」


 「それとも」、クサナギは敢えて大きな身振りで、扇子を取り出し威嚇した。


「やっぱり君は、戦争がしたいのかい。」


「おっとと…………おっかねえな。そうなりゃ、パルファシイの思うつぼだ…………まさか、そっちの背後に居るのは、そうなのか?」


「それこそまさか。こちらには、殺しに美学がある。あんな野蛮人と一緒にしないで貰いたいよ。」


「ならいいさ。茶番は終わり。始めよう…………コーツ」


 呼ばれると、ガーベラスの背後に控えていた男の方が、一枚の紙を取り出し、テーブルの上――――俺達の中央へと置いた。

 一見した限りだとまず、フォリアファミリーの家紋で始まっているそれの内容は、ロシノさんの件を水に流し、今後まっさらな状態に戻す。お互いに不干渉となる。そのような旨が書かれていた。

 そして、締めくくりに紙の下部には、署名用の空欄に加えて、エーランドファミリーが取り持ったことを示すための、押印欄も設けてある。


「ご希望通り、十格(俺ら)御用達――――『格印書』だ。よかったなぁ…………たかが、奴隷商如きじゃあ、生涯お目にかかれる代物じゃあないんだぜ」


「ええ、噂には聞いていましたが。初見です」


「当然だよ。おいそれと持ち出していい契約ではないからね。これを反故にしたとなれば、双方力無しとみなされ、他の十格全員が虎視眈々と武器の手入れを始めることだろうさ。俺達は力があり過ぎる。こういった目に見える『掟』を設けなければ、事は停滞してしまうのさ。さ…………署名を、アルマ。」


 促された俺は速やかにペン取り署名した。続き、クサナギも袖から取り出した印を押した。

 すると、途端にもガーベラスは格印書を横からかすめ取り、ヒラヒラと仰ぎながらもじっくり目を通していく。

 そして、


「確かに。これで咎めなし。話は済んだな。」


「ああ、そうだね。それではこれで失礼するよ、デュリエル」


「ガーベラスだ。」


「あぁ、そうだった。」


 差して気にした風でも無しにクサナギは姿勢を崩すと立ち上がろうとする。

 それに際し、俺も膝を折って立ち上がろうとしたのだが、「待て」と引き止められた。


「まだ、何かあるのかい」


「いや、正確にはあんたじゃねぇ。お前だ、アルマ」


「はて、なんです?」


「うちのもんは、今何してる?」


 察しがついた。襲撃してきたあの男か。しかしながら、和平はもう済んでいる。余計な手出しは出来ないはずだ。

 俺は肩をすくめ、知らぬ存ぜぬと決め込んだ。


「さぁ…………とんと分かりかねますが。」


「殺したか。そうか残念だなぁ…………アレもお前同様、ロシノに目をかけられてたと言うのに。」


 こいつ、それで俺にけしかけたのか。いや、だがそうなら俺を直接狙えばいいはず。

 なぜあんなにも遠回りな犯行を。


「俺は遊技が好きでね…………だからアレも、ゲームだったのさ。」


「どういう意味です」


「お前は、一ページ目でボスを倒すような物語を呼んだとして、没入感に浸れるか?あるいは、ルールや筋道を無視し、何の努力も無しに敵を倒して、悦に浸れるか?」


 「いいや、無理だ」。そう言ったガーベラスはまた、犬を手元に呼び寄せ、愛おしそうになでつけ始めた。

 ただ、その愛ある手つきに対し、話す内容はあまりにも対極で悪意にまみれていた。


「だから今回、アイツには『レベリング』を済ませてから、一つずつステップアップしていくよう、命令を出してた。要は、俺がプレイヤーで、お前らは盤上の駒。まぁ、結局今回は俺の負けだったんだがね」


 なるほど。なら本来は、あの大男からロシノさんとの関係値を聞かされた俺が、動揺を催すまでが脚本だったわけだ。 

 もっとも、鬼畜クソ女が全て台無しにした訳だが。


「良い趣味をお持ちですね」

 

「ん…………?あぁそう言えば、お前も玩具で遊ぶのが好きだったか。もしかしたら、気が合うかもなァ、俺達。」


「ええ、そうですね。和平も済みましたし、今度遊びに参りますよ」


「…………社交辞令でない事を祈ろうか。」


 話しが一段落着き、俺がクサナギの方を見ると、彼は心底嫌そうに表情を歪めていた。何度も出入口を見やり、早く去りたいと言う感情が漏れ出ている。


「穢れが移る前に、お暇したい」


「どうぞ、ご勝手に。話は済んだ」


 クサナギが足早に踵を返したのを機に、犬が初めて鳴いた。まるでもう来るなと言わんばかりに唸りも加わる。

 だから、俺もこの場を後にした。





 

             ※※※※※※※※※※※※※※※※






「よろしかったのですか」


「何がだ。」


「アルマを、あっさりと帰してしまって」


「エーランドの後ろ盾があっちゃ、ああするしかねーだろ。奴らはパルファシイと方向性は違うが、結果としては同じ。野蛮な殺し屋集団だ。敵に回せば面倒になる。」


「…………良かったです。それを聞いて、私はホッとしました。ね、コーツ?」


「ああ。しかし、文には身内の恩ゆえ、とあったんだろう?…………オレには分からん。一体、どんな手品を使ったんですかね」


「そうだな…………あのエーランドが、身内をむざむざ人質に取られるような真似は考えられん。」


「じゃあ、ガーベラス様は文の内容は誤っている。そうお思いなのですか?」


「エーランドが首都を狙っているという噂も聞かんしな…………皆目見当もつかん。ただ…………」


「なんです?」


「…………ゲームはまだ、終わっちゃいない。」


「まさかっ、本気なの!?相手はエーランド。しかも、既に格印書も記載済みなのにっ」


「何か問題でも?」


「大ありですよっ。私の一息を返してください。クサナギ・エーランドも言っていたでしょうに。反故にすれば、それを機に目の敵にされるわ。アルマが首都へ進出する事が、それ程お気に召さないのですか」


「あの白髪頭が、俺達十格と同じ位地に這い上がろうとしてんだぞ。俺達からスルリと抜け出た奴がだ。それで俺達に旨味があるならともかく…………無いならそりゃあズルだろう。最悪、パルファシイから因縁付けられんのは御免だ」


「いいえ。今回、エーランドがアルマに肩入れしたことで、私達は彼と縁切れた証明にもなります。どうか、お考え直しを。」


「なぁ、ごちゃごちゃと口出すのはいいが…………お前らは俺の何だ?」


「…………世話役です。だから、あなたがお一人にならぬよう、私とコーツは、その助言を申し上げているっ」


「そうだよな、俺の家族はお前らだけだった。」


「そうです。だから、自棄を起こさないで下さい。」


「自棄?そりゃあ、俺じゃあなく、親父に言うべきことだろう」


「それは……………………ですが」


「家業にかまけ、お袋の見舞いにも一度も来なかった…………あのクソ親父に唯一感謝したのは後にも先にも、お前らを寄越した事だけだ。俺が寂しくないように、俺に一人遊び(ゲーム)を教えたのもお前らだ。なら、その醍醐味を言う必要はねぇよな?」


「…………勝つまで続ける、ですか」


「その通り。奴は格印書にかまけ隙が出来てる。ボーナスステージだ。さぁ、続き(コンティニュー)と行こうか、兄弟。」

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