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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
三章『十格』

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04 三章 十格 エピソード18 エーランドファミリー3

 道場を出て、敷地内の砂利を踏みしめていると、


「皆、手は出すな。俺が見極める」


 もうお冠。可愛い妹に群がったコバエを早く潰したいと言った風に、クサナギは指を鳴らし、俺を睨みつけていた。

 いえ、違うのですよ。俺は本当にリッカに手など出していない。それどころか結構まっとうに世話をしてきた自負があります。

 当時のリッカは家を出た時の自分と重なる部分もあったゆえ、甲斐甲斐しく声を掛けたし、好きな物は買って与えてきた。仕事においても、他の者と区別し、叱るのではなく、褒める方面で育ててきたのだ。

 だと言うのにこの対応。大きくため息が出る。


「俺を前に余裕だな。アルマ」


 どこを見たらそんな感想が出るのでしょうかね…………。そんな訳ないでしょう。土下座で許してもらえるならば俺は今、完璧に行いますよ。何しろエイダと言う土下座の名手を目の当たりにした直後ですからね。まぁ、それぐらい参っている。

 でも、そうは出来ない理由がある。


「アルマ様…………」


 と、吐息混じりに囚われの姫よろしくリッカがこちらを見ている事が、本当に腹立たしいのだ。

 一度、本当に一度でいいからあの娘を引っぱたいてやらねば、気が済まない。そうするまでは死ぬ訳にはいかない、と歯ぎしりが漏れる。


 そうです。ええ認めます。俺は今結構頭に来ています。

 俺が何をしたというのですか。ちゃんと下手に出たでしょうに…………あのリッカが。あの娘が馬鹿な事を言いだすから…………こんな羽目にぃ…………ッ。


「っく、聞いて頂きたい!俺は、貴方様と拳を交えるために来たのではない。どうか、考え直してくれませんか!」


「問答無用と言っただろう。俺より弱い者に、妹はやらん」


「いえ、妹君は差し上げます!」


 言った途端。「キャ捨てられちゃった」とか体をくねらせる馬鹿はやはり無視し、俺は誠意を込めて願い出た。


「なので立会人の承諾を!」


「なに、俺の妹を弄び捨てると言うのかッ!!」


「あぁ、そう解釈されるのですか?!ではもう、どう言えばいいのです。どう言えば、願いを聞いてくださるのか!!」


「アルマ様ー頭に血が上った兄貴は、一回のしちゃわないと、突っ走るだけっすよー」


「えぇ…………じゃあもう、お手上げです」


「アルマ、君。体術は得意か?」


「…………いえ。出来れば術の方が」


「そうか。俺は得意だ」

 

 ああ、なんだろうな。この会話が噛み合わない感じ…………そうだ。エンバーとの会話を彷彿とさせる。

 要は無益だ。なんの得もない。


「参る」

 

 言葉と共に、クサナギの姿が消えた。

 まさかこんなところまでエンバーと似通らなくてもいいのに…………と思ったが、少し違う。

 エンバーはその速度ゆえに存在感はそのままに空間を支配していたが、クサナギは逆に、空間に溶け込んでいるように静か。

 足音はおろか、足跡も無く。気配も感じられない。俺では到底追いつけない技量と速度。


「やはり、お手上げではないですか…………」


 愚痴った途端、俺の視界が明滅した。鈍い痛みが、股間から脳天まで突き抜けたのだ。

 たまらず、その場に崩れ落ちた。

 これは、金的かッ!!?


「俺の妹を穢したんだ。去勢しないといかん」 


 だから、俺は無実なのだ!このような仕打ちを受ける謂れはない!!!!

 でも、あまりの痛みに俺は呻く事しかできない。と言うか、見やれば股間からは血が流れていた…………ほんとにつぶれていた。


「…………ぁ…………勘弁してくださいっ…………」


 俺は激痛と戦いながら、魔術へと意識を注いだ。


「む、それは…………治癒魔術か。」


 使えて本当によかった。俺はなんとか、治癒魔術で尊厳を取り戻し、震える足で立ち上がった。

 でも、先ほどの痛みがトラウマのように俺の足を内股へ変えている。あまりにも無様。我ながら嘲笑が漏れる。


 いや、もう吹っ切れた。もういい、十格相手とはいえもう知りません。怪我をしても、俺のせいではない。どうせ何をしたって俺の印象は悪くなる一方なのだから。


「火炎の柱、我が眼にて顕現せし、立ち昇らん」


 中級の火魔術を詠唱し、俺自身をそれで包んだ。

 文字通りの火柱を壁とし、俺はそこに閉じこもる事にしたのだ。


「戦を放棄すると?軟弱者めッ…………」


 そう。これは籠城だ。ちなみに言うと、俺はこの状態で一週間は引きこもれる。

 もっとも、中級魔術程度であれば、一か月弱は出し続けられるが…………それでも俺は人間。要は、食を絶った状態では一週間が限度なのです。


 でも、効果はあった。

 それからピタリと俺への敵意が止んだのだ。それに、無理をして立ち入ってくる気配も無い。


「さて…………これで頭が冷えるまで待つとしましょうか」

 

 それから二時間はずっとこうしていたと思う。まぁ、体感なので実際はもっと短いかもしれないが、俺はこの場でじっとしていた。

 そして更に二時間が経ち、そろそろ空が茜色に染まり始めた頃。


「中々どうして…………凄まじい魔力量だったのだな、アルマ」


 不意に声がかかった。それは言葉通りの賛辞で、この立ち合いが始まる頃よりも声音が落ち着いていた事が、返答するきっかけとなる。


「お願いです。話をもう一度聞いていただきたいのです」


「叶わぬ願いだ。奴隷商などという薄汚れた輩が…………俺の妹に片棒を担がせるどころか、手を出した」


「だから誤解なのです!」


「何が。」


「俺は、確かに薄汚れた者ですが、誓ってカタギには手を出しておりません。ゆえに、リッカもです。彼女は清らかなままだ!」


 まぁ、つい最近ダリオファミリーの件で一般人に手を出してしまったのだが…………この際黙っておくとしよう。

 

「ロシノさんに倣い、俺が扱う商品は全て、悪党と決めているのです」


「それはつまり、俺達エーランドファミリーも、十格であろうと、狙うと言うのか?」


 さぁどうしたものか。いや、いい。そうだ。今更何を言ったところで印象は悪くなると知ったではないか。

 俺はだから、意を決した。


「…………そうです。あなた方ですら、俺の商品足りうる悪党だ」


 直後の返答はなかった。

 いやな静けさが訪れ、茜色の空が、だんだんと紫へと変わり始めた。

 そして、


「十格に宣戦布告を叩くか。いい気概をしているじゃないか。アルマ術を解け、顔を見せろ。」


「できません。」


「反抗的だな。無理やりに解き放ってもいいのだぞ」


「つい最近、悪党の言葉を信じるなと、忠告を受けたばかりなので」


「…………ロシノか。」


「そうです」


「なら、決して手を出さぬとエーランドの名に誓う。」


 まぁ、そこまで言うのなら。止むおえまい。と言うか、そこまで言わせた上で、こちらが尚反抗的でいれば、それこそ立場が最悪へと追い込まれる。

 だから渋々と術を解き、エンバス地方特有の爽やかな空気を数時間ぶりに吸い込んだ。


「あれだけの脅威を数時間保ち尚、顔色一つ変わってはいない。君のことを見くびっていたようだ。」


 久々に拝んだクサナギの顔は、まだ釈然とはしていないものの、今すぐどうにかしようという気は見られなかった。


「だが、リッカはやらん。」


「ええ。俺は立会人さえ受けてくれれば、それで」


「だが、気に食わないよ、アルマ」


「はて、何がです?」


「…………それだけの力があって、なぜ戦に身を投じない。」


「それで生き残れるのは、俺だけでしょう」


「そうか、なら仲間のためと?」


 「まさかそんな」と俺が鼻で笑った時、「そうっすよ!」と、要らぬ援護が俺の顔を曇らせた。


「アルマ様は、私達を思って兄貴の力を借りたいの。保身のためじゃない」


「いや、違う。断じて違うのです――――」


 が、誤解無きよう訂正する事は叶わない。


「――――シッ。今、リッカが喋っているだろう」


 と、クサナギに鋭く一喝を受けてしまったからだ。このシスコンめが。

 そして、これ幸いとばかりに、リッカは己が胸中を語りだしたのだ。


「アルマ様はお優しい方。」


 本当に違うのですよ。もしも戦争をしてしまえば、その後の復興に際し、人手が足りなくなっては面倒だと思っただけだ。だから和平を望んだだけ。


「私達日陰者を、ずっと思ってくれている…………」


 別に駒の一人や二人、無くなろうと知った事ではない。世話を焼いたのだって、自分と重なった部分を差し引いても、押し付ける恐怖より、慕わせる親愛の方が、扱いやすいと思ったまでの事。

 もっとも、今となっては後悔しています。もっと突き放すべきだったと。


「アルマ様は、私達の寄る辺なの…………」


 俺の白け具合とリッカの熱弁具合。温度差で風邪を引きそうだ。

 エイダの時もそうだったが、最近の幹部連中は妄信が過ぎる。ともすれば狂信者。まるで宗教のようだ。もう少し厳しく躾けるべきだった…………。

 とにかくだ。その妄信具合に関して、リッカ達には耳にタコができるほど、改善しろと言って聞かせているのだが、


「アルマ様が、これまで私を世話をしてくれたの。服もくれた。住む場所もくれた。ご飯だけじゃ味気ないだろうって、こっそりお菓子もくれた。優しく頭も撫でてくれた。傷をなめ合う仲間もくれた。全部くれた。私が初めて仕事を終えた時には、『大好きですよ』って言ってくれた!」

 

 おい、変な事を言うな、おかげでまたクサナギに睨まれたではないか。

 一応言い訳を垂れるが、アレはリッカがその時、『悪人』となったからだ。断じてそういう意味ではない。

 けど、誰も俺の話など聞いてはいなかった。おかしな話だ。俺の話だと言うのに、当の本人は蚊帳の外。もはや空気。

 ここに来て、エーランドが白と言えば白と言う発言権に、俺は屈服させられていたのだ。


「私は…………アルマ様に全てを捧げる覚悟がある。強制されたんじゃないよ兄貴。これは、私が決めたこと。私達リンドウの総意。」


 一体、あなたはリンドウの何なのだ。そんな風に声を出したが…………あぁやっぱりだめだ。リッカは完全に自分の世界に入っている。

 いやね?確かに思いのたけを語れとは言いました。言いましたけども、ここまで全肯定しろなんて言っていませんよ。これじゃ逆に不自然でしょう。俺が洗脳したと思われるのが関の山だ。

 

 はぁ…………嘆息がでる。もう、なるようになれ。自暴自棄だ。勝手にやれ。俺は知りません。一抜けです。ただ幸いにも、リッカがここで悪い様にされることは無い。ならば俺も全力で逃げるだけです。

 となれば、この馬鹿な演説の最中に、逃げ道を探しておきましょうか…………と、俺が視線を彷徨わせた時だ。流石に聞き捨てならない発言が、俺の顔を再度リッカへと引き寄せた。


「独り、誰の力も借りられなかったときに、私の手を握ってくれたのはその方だ!()()()()()()!!」


 おっと?そのもの言いは、流石に言いすぎだと思いますね。


「…………りっか…………。」


 俺がちらとクサナギを見ると、結構本気でショックを受けていたのだから、心中お察しする。

 まぁ、おかげで俺の言葉を遮るそぶりも、みせなくなったのですけどね。


「リッカ、兄君の気持ちも考えてものを言うべきですよ。」


「っ、でも」


「あなたがトグサ近くに流れ着けたのも、兄君の助力あってこそでしょう。」


「…………そう、すけど」


「ほら見なさい。ならば、謝るべきですよ。」


「でも、アルマ様っ」


「でも、ではありません。血のつながった家族なのでしょう。俺ですら持ちえない貴重品です。大事になさい。」


 よし、いいたいことは言った。つまりこれは捨て台詞だ。

 俺は既に魔力を全身に流し終えている。風魔術を発動し、ふわりと浮かび上がる。地面があっという間にも遠のき、程よい高度まで上がったところでとどまった。


「っアルマ様?」


「御達者で。リッカ。エーランド様も、お邪魔いたしました。出来ればこの度の無礼は、リッカを送り届けたことで謝意を願います。」


「逃げるつもりかい、アルマ」


「ええ」


「早まったな。俺はまだ、溜飲を下げたつもりはないよ」


 でも交渉は破談でしょう。いくら待っても収穫は見込めないのだから。

 なら早急に戻り、戦争の準備をせねば。そう思い、目立つことも省みず、俺が飛ぼうとした時、


「――――ガッ?!!」


 衝撃が背中から腹へと抜け、視界がブレた。

 いや、違う。これは冗談でしょう…………クサナギめ、この高さまで跳躍して俺を蹴ったのか?!


「早まったと言っただろう。その程度の高さなら、届くさ」


 次に瞬きした時。リッカの悲鳴と、凄まじい激痛がまたも俺を苛んだ。

 気付けば道場内の砂利の上で、クサナギに踏みつけられていた。


「…………ぁ、の。俺を、どうなさるおつもりか…………っ」


「何度も言うけどな。俺は君を助ける気はない。」


 「でも、確かに恩はある。」と、クサナギはリッカを見る。

 なんだ。少なからず心揺り動かされたとでも言うのか?


「…………で、では?」


「俺の、エーランドの傘下に降れ。さすれば願いを聞き入れよう」


「そう来ましたか…………しかし、出来ない相談です」


「この期に及んでなぜだ。運営もそちらに一任する。これまで通り自由にやって貰って構わない」


「いいえ、申し上げたでしょう。俺は悪人しか狙わない。同じ志を持つ者としか、提携するつもりはございませんよ」


 啖呵を切ったが、その直後、クサナギの踏み付けが更に強くなった。

 彼は俺の左目を覗き込むように聞いてきた。


「…………ロシノが、そうだったからか?」


「え゛え…………その通り。くっ…………ぁ、っ。それが、俺が人間でいられる最後の境界線だからです。」


「俺たちの生きている世界に住む者は皆、例外なく他者を啜って生きている。醜い化物だよ」


「いいえ、ば、化け物にはなりません」


「忌々しい…………またか。死しても尚、俺に立てつくのかアイツは…………参った。そっくりだよ君。」


「ハッ、今日一番の罵倒です。屈辱ですよ、エーランド様」


「知ってるよ。だからそう言ったんだ。もしも、俺がそう言われた暁には、即刻喉笛を掻き斬るよ。でも、そうならしょうがない」


 そう言った直後、俺を圧迫していた足がどかされ、ようやく楽な姿勢を取れた。背中と喉の痛みを撫でつけ沈めた後、「しょうがないとは」どういう意味なのかと問う。


「なんの筋も覚悟も無い。最初はそう思ったけど、考えを改めよう。」


「…………今度は、何を言われるのですか」


「その魔力量、そして掲げる意思を汲むと言ってるんだ。」


「はぁ…………そう、ですか。」


「ところで、君は体術は疎かだが、そう言った者は術に心血を注いでいる事が多い。何処まで扱える?」


「……………………上級魔術なら。」


「それだけ?」


「…………と、原典魔術を。」


「へぇ、それはすごい。風魔術で飛ぶものも初めて見た。エーランドの中にもそこまでの術師は居ないよ。漆黒ランクでも上位だ。まぁ、局所戦では心もとないが…………代わりに殲滅能力としては、及第点と言える。」


「あの、どういう意図なのですか。これは?」


「君、伴侶は居るかい?」


 は?なんだ急に。どういう意味だ。


「入り婿に来い、アルマ。それなら、エーランドへ喧嘩を打ったとしてフォリアから守ってやる。」


 「はぁ?」それは結局、エーランドの傘下に降るのと同じではないか…………。 

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