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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
三章『十格』

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04 三章 十格 エピソード19 エーランドファミリー4

 先の諍いの後。

 道場内へと戻った俺は軽く手当てをしてもらい、改めて今置かれている状況を一から説明し直した。


「――――じゃあ、何か。お花屋さんリンドウは今、トグサの街とクォールの街に飽き足らず、首都サディーまでも縄張りにしているとっ…………驚いたな、それでは十格(俺達)の面目丸つぶれだ。フォリアファミリーの焦りも分かる。」


 「いや」流石にそれは語弊がある。俺は再度現状を伝えた。

 ダリオファミリーは滅ぼしたが、そこでは彼らの拠点を乗っ取ったにすぎない事。その次に、サディーではパイプを構築したが、別に縄張りなどにはしていない事を、懇切丁寧に身振り手振りを持って話したのだ。


 ただ、首都サディーに限っては、バトー――――ファウスト卿の事を公にするわけにはいかないので、それとなくほのめかすことに留める。

 とは言え、


「首都は首都だ。十格(俺達)ですら手を出さない暗黙の了解がある。何故かわかるかな、アルマ」


「はい。そこが、チェックメイトへの近道であるから。つまり、皆がこぞってそのルートを選べば、渋滞が起こる。先を読まれるからでしょう。」


「ん、チェスの話か?悪いが、俺は詳しくなくてね。ただ…………言わんとする事は合っているよ」

 

 つまりサディーを奪れば、ほとんどこの島の王と言える。何しろこの島の中心だ。貿易も政治もそこから端を発する。流通を支配し、操作できることになる。

 なぜなら、ヴァニラ列島は多くの島の群れ。島々が陸地で繋がっていたり、橋が渡されている訳ではない。島々を阻むのは大海原。言い換えれば、俺達の住む場所ヴァニラ列島は、それぞれが孤島といっても過言ではない。


 そして、島国という特性上、どうしてもその島固有の統治の仕方へと落ち着いている。

 要は、ここサディーの島においては、首都こそが全ての中心であり、全ての発信元。謂わば、その他の街を縄張りにしている者共は皆、そこからのおこぼれを貰っているに過ぎないハイエナだ。


 だからと言って、そこを奪るために皆が動けば、それだけで甚大な被害が出る。要は戦争の始まりである。そうなれば、裏社会の火の粉はやがて表社会へと燃え移り、終いには黄金ランクの介入、そして鎮圧が始まりかねない。


 ゆえに、近づかない。ゆえに今の均衡が保たれている。


「しかし、婿()殿はその均衡を破ろうとしている。はは、虫も殺せぬような顔して、存外野心に満ちているのだね」


 そう、認めたくはないが、傍から見れば俺は王手を掛けている。

 実際、バトーも俺の手中なのだ。まぁ、こうなった発端の一つが、そのバトーのせいでもある事が、手放しで喜べない要因でもあるのだが。


「…………しかし、今はそんな事よりも」


「ほう、首都に手を掛けることなぞ、些事であると?本当に豪胆だな、婿殿は」 


「いえ、それです。なぜ、婿殿と?」


「話を聞いて更に欲しくなった。君が居れば、エーランドはさらに飛躍する。」


「いや、俺は別に了承などしてはいないのですが…………」


「では、リンドウのみで、十格と渡り合うか。」


「ぐっ、それは…………」


「確かに、その魔力量なら抗えはする。だが、生き残るのはやはり、君の言う通り()()だけ。復興などもってのほか。追っ手にうんざりする生活なんて直ぐに発狂するぞ。荷物をまとめ、別の島に逃げるのが賢明さ。」


 いいや。それでは、俺が傷つけたジューン・ホーン一家との約束を、死するまでの相談役を、違えることになる。

 駄目だ、容認できない。

 でも、かと言って、


婿()殿、顔色が悪いな」


 それも嫌です。エーランドの傘下に入るつもりはない。


「もしかして、相手が気になるかな」


 と言った途端。俺の視界の端で、リッカが体をくねらせたが、そちらは奇しくも、俺とクサナギ二人の声が同時に「(あなた)じゃない」と意気消沈させる。


「安心しろ。器量良しを見繕う」


「はい?冗談ではない。俺は外見に重きなど置いてはおりませんよ。」


「…………ふむ、では好みは何だ」


 婿入りするつもりなどないのだから、「言う必要などないでしょう」。俺が素っ気なく言い放つと、またもリッカが口を挟んだ。

 いや、その時のソレは、挟むなんて可愛い表現ではなかった。

 それは謗りだ。


「アルマ様はー衆道。男色なんすよーだ」


「…………な。え?そうなのか?」


 そんな訳ないでしょうが。ふざけやがって。

 あ、クサナギめ、急に俺から距離を取り始めたぞ…………この野郎、俺はノーマルだ。

 思わず、「リッカっ」を強く諫めた。


「あなたね、先の演説もそうですが…………どうしてそうも俺の立場を貶めようとするのですか。流石に堪忍袋の緒が切れましたよ…………」

 

 直後、リッカは顔を青ざめ。代わりにクサナギが顔を赤くし、俺を怒鳴りつけてくる。


「おい、俺の妹に何を眼くれてやがる」


 あぁ、またこれか。厄介なシスコン。

 しかし、しかしだ。俺は既に散々下手に出た。どれだけマウントを取られても辛抱した。

 それに、改めて聞いたお願いも、曲解の末に、婿入りと言うエーランド傘下しか引き出せなかった。


「おい、聞いてんのか?奴隷商。」


 ならばもう、この際いいだろう。どうせこれ以上、俺に有利に転がることなど無い。

 ならばいっそ、うさを晴らしてしまいましょう。

 

「だから何だというのです。こちらはね、全肯定にはうんざりしている。」


 十格を敵に回すかもしれませんが、既にフォリアファミリーに狙われているのだから同じ事。


「あなたのソレは、思いやりではなく、彼女を探し出せなかった負い目から来るものでしょう。」


 十格相手に文句を言ってしまった。もう後戻りはできない。だが、胸のつかえがとれたようだ。スッキリした。

 やはり、俺には他者に傅く適正はない。俺は、他者にマウントをとって生きていたい。

 今や道場内に、エンバス地方の爽やかな風が吹いてきたようだった。


「…………」


 クサナギは無言ながら、目が座っていく。それに比例するように、背後では殺気立つのも感じる。硬質な物音もする事から、武器を手に取ったのも分かった。

 でも、


「こちらも、我慢の限界ですよ。何が婿か。いいように使われるのは真っ平ごめんです。」


「残念だけど、少し、調子づきすぎたな。こっちが妥協案だしてやったのに…………袖にする気か」


「こちらの要件を都合のいいように捻じ曲げておいて、よくもまぁ、いけしゃあしゃあと。言うではありませんか。悪党風情が」


「…………ふ、ハハ…………本気だな。今度は加減しねぇ。死ぬぞ、アルマ」


 「望むところ。」と、俺が立ち上がろうと膝を折った時、肩にずっしりとした重たい手が乗せられた。見やれば、イッショウがドスを片手に見下ろしている。

 けれど、この俺に対し、マウントをとっているこの醜い手が、無性に気に食わない。


「癪に障るとはまさにこの事…………誰に断りを得て、その手を俺に乗せているのですか」


「減るもんじゃねぇ。けち臭いこと言うなや、兄ちゃん。哀しいことだぜ…………リッカの手前、仲良くできると思ったのによぉ…………お前さんが悪いんだ。」


「ええ、確かに。俺が悪い。悪人ですからね。信じたあなたの落ち度だ、ご老体。」


「あぁ、よぉく分かったよ、リッカの口が達者になったのは、お前さんの――――」


 イッショウが言い終える前に、俺が口を開く。


「――――一度だけ言って聞かせます。その手をどかしなさい。虫けらが」


 俺が魔力偽装――――枷を外して立ち上がると、イッショウはゾッと表情を強張らせ、すぐさま飛びのいた。

 いや、彼だけじゃない。この道場内に居た全員が、今じゃ脂汗をかき、息を飲んでいる。俺の魔力に当てられた中には吐しゃ物をまき散らす者も居る始末。リッカも既にそのうちの一人だった。

 もっとも、「な、なんだ。ありゃ…………」と怯えを漏らす者に対しては、一瞥を持って泡を吹かせた。

 そして、「あんなの…………化、物…………」なんて、泣き出す者は滑稽で、愉しませてもらったがゆえ、放っておいた。


 道場内は今や、俺の魔力、感情の発露によって、阿鼻叫喚の地獄絵図へと塗り替えられた。


「…………っ、アルマ、君のその魔力量…………いや、()はなんだ。俺達を、欺いていたのかっ」


 唯一正気を保っているクサナギには、最低限の敬意を表し、嘲笑をくれてやる。


「欺く…………はてさて、これは異なことをおっしゃる。俺は一度たりとも、騙したつもりはございません。」


「…………白々しい。その左目が相なると、虫唾が走るよ…………アルマ」


「そちらが勝手に、低く見積もっただけの事」


 そして、見下ろし告げる。


「さ、表へ出なさい。その額へと、更なる恐怖を刻んで差し上げますよ」

 

「何だと」


 よろしい、何度でも言うが、今までの苦労が台無しだ。

 あぁ、本当になんのために下手に出たのだろうか。今となっては、表情筋に入れる力もない。俺は今間違いなく無表情だろう。

 まったく…………これでは全て、長い長い助長ではないか…………。

 でも、だからこそ、ようやく掴んだ自由時間。楽しまなければなりませんよね。


「二度は言いません。俺があなたをねじ伏せた暁には、俺の願いを十二分に果たしていただく」


 俺が振り返ると、道場内の全員がサァッ…………と、行く道を割って作る。それはさながら、海が割れる様で壮観だった。

 しかし、俺が敷地へと降り立っても、後続は見られない。

 嘆息が出る。

 たまらず、「出ろ」と脅迫すると、クサナギはようやく従った。遠目にも分かる緊張した面持ちで、打刀をしかと両手で握りしめ、砂利を踏みしめたのだ。


「…………アルマ。君は、自分がしている事の愚かしさに気付いているのか。十格に対しその態度、この仕打ち。万死に値する」


 「何を今さら」。失笑が漏れる。


「忘れているようなので言って聞かせて差し上げますが…………悪人とは皆愚かで、どうしようもない弱者なのです。」


「何がだ」


「『真の強者とはなんぞや』。かつてロシノから聞かされました。答えは表に生きるもの全て。当然ですよね。だって、彼らは皆、必死に懸命にその日を生きている。表にしがみ付いて、裏の世界に落ちてこない。ご立派です。俺達では到底考えられない、偉業。」


「分からん。何が言いたい」


「彼らは法律を守る。秩序も。節度も。きちんと守って生きている。()()()事です。」


 「素晴らしい。」俺は今、十格に対し、マウントをとって高説を垂れている。

 あぁ…………気分がいい。


「対して、俺達は()()()一線を超える。破綻者です。最悪だ。さて、傷付けぬ善人と傷つける悪人。どちらの方が強く映りますか?」


「己が身も守れぬ者だ。フォリアファミリーの報復に怯える、君のようにな」


 「いいえ、それは違う。」そうであるならば、ジェーン・ホーンさん達は弱者となる。 

 違う。彼女たちは力は弱いが、その心は誰よりも強い。他者を傷付けず生きる事の何と難しい事か。その自己犠牲のなんと気高い事か。

 ゆえに俺は、自身の左胸を打ち鳴らした。


「真の強さとは心の強さ。それに比べれば、肉体の強度など誤差に過ぎず。術の脅威など自慢の域を出ない。暴力など、全てを捨てきった末の逃げに過ぎない。本当に、愚かで浅ましい行為だ…………」


 「ゆえに」俺がこれから行うは、無論、暴力である。


「半殺しに致します。俺は所詮悪人ですので、暴力を持ってあなたをねじ伏せ、這いつくばらせるのです。」


「それで、話は終いか。いい辞世の句だったよ、本当に残念だ。」


「ははは、胸に刻むとよいですよ。今からその()にも刻むのですから、バランスが取れる事でしょう」


 俺はそして、両手を広げた。無防備に、邪気にまみれた無表情で彼を凝視した。

 「なんのつもりだ」とクサナギは戸惑うが…………なぁに、いつもの事ですよ。


「さぁ、先手をお譲りいたします。どこからでも、どうぞ。」


 ギリッ…………と、クサナギの口から忌々しそうな歯ぎしりが漏れた途端、彼の姿が視界から消える。

 けれどもう、急所を狙うその手口は知れている。

 俺は唾を吐き捨てた後、迷うことなく()()()()を魔術の火で防護した。それは触れる前に骨子が溶ける程の熱波。それを産み出す俺自身ですら、風魔術の空気層を併用しなければ死ぬでしょう。


 つまり、クサナギは防御の薄い、俺の心臓を一息に狙い、刀で差してきたのだ。

 だから、「あぁ…………獲物が掛かりましたね」。俺は声だけを笑わせ、無表情のまま、そのクサナギの腕を掴んだ。


「なんだ、心臓を突いたはず、狙いがそれた?!」


 馬鹿が。来るだろうと読んでいたのだ。ズラした決まっているだろうが。大変でしたよ。己が唾だけで、水魔術の光屈折を行うのは。何しろ、あっという間に蒸発してしまいますからね。


「だが…………刀は刺さったまま。俺がズラし引き抜けば、君は死ぬ」


「ははは、出来るのですか、どうやって?」


「虚勢だ」


「やって御覧なさい。」


 だが、クサナギは動けなかった。俺が腕を掴んでいるからだ。

 もっとも、彼はその間様々な業や術を、俺に繰り出した。蹴り、刺突、殴打。魔術の火は俺の纏う炎に飲まれたが、それなりに頑張った。

 そう、無駄な足掻きだった。気付けばクサナギの顔色は、ひどく悪いものへと変わっていた。焦燥感が浮き彫りにした、「なぜ、ビクともしないッ」とのたまう声は、か弱い少女の様だった。


「あなたはもう、理由を知っているでしょうに。」


 俺が答え合わせをつげると、クサナギはビクンと肩を跳ねあがらせる。その顔は、「まさか、有り得ない」と訴えていた。


「治癒魔術で、全て治しきったと…………」

 

「はい。壊れる傍から治しました。いやはや、よい見聞を得ましたよ。クサナギ・エーランド(あなた)は、人形遊びがお好きらしい。」


「ば、かな。痛みを感じないのか、いや、そもそもどんな速度だ。どう、いう…………魔力量だ」


 焦燥感が不安感に変わったクサナギを侮蔑し、俺は彼の腕に力を籠める。刀ごと引き抜き、彼の両膝を逆の字に蹴り壊して、その場に這いつくばらせた。

 俺の胸に傷はない、既に治した後。その事実を見せつけるように、クサナギを覗き込むと、彼は情けなくも吐息を漏らした。


「ぐぁ…………一体、君は何だッ、人間なのか」


「ええ、よくある話。才ある者です。見たでしょうに、同じ赤色の血が流れていたでしょう?」


「では、何が目的なんだ」


「立会人の承諾。ですが、今はあなたのその苦痛にまみれた表情を、もっと堪能したいと思っております」


「…………リッカが、あんな風になった気持ちが、少しわかったよ。悪魔が」


「さぁ、話はお終い。そして、あなたが玩具()で遊ぶ時間もお終いです。」


 「次は俺の番」。半殺しの時間。

 まず手始めに、腸を引きずり出し、蝶結びにリボンを作ると、彼の頭へと飾り付けた。


「あぁ、何と可愛らしい。リッカとそっくりですね。」


 そして、治す。振り出しに戻す。

 続いて、股間からイチモツを斬り取ると、彼の額へと乗せた。


「ははは、あの女。ユーモアがあったようです。確かにこれは滑稽だ。」


 そして、元の股間へと繋ぎ合わせ片付けると、その額へと新たな傷を作った。焼き印だ。リンドウの華の形に焼き焦がした。

 そしてまた次に移る。クサナギが何度絶叫しようと俺は手を止めなかった。その際には、道場の縁側から幹部連中が、未だ俺に委縮させられたまま顔を青ざめさせ、猟奇的光景をずっと閲覧していた。


 ならば、彼らにも楽しんでいただかなければなりません。そう思った俺は、腕の神経を引きずり出し、弦に見立てて演奏した。もちろん、奏でられる音色はクサナギの声。

 しかし、演奏の終わりに拍手は無く、代わりに幹部連中の崩れ落ちる音が響く。


 今日食べた物を当てる遊びでは、クサナギ自身に腹を裂かせ、内容物を現物確認させる。

 相手が十格であるという点も、俺の興奮を高めたのだ。この後先考えない、刹那的の快感が、俺に飽きを与えなかった。


 でも、終わりは突然やってきた。


「……………………ぁ」


 反応が悪くなってきましたね。

 いくら痛めつけられても治され、振出しに戻る絶望はいつしか、クサナギの生気を奪い去っていたらしい。


「困りましたね。俺はまだ遊び足りない。」


 どうしようかと思い悩んだ時、ふと、目に留まる者がいた。

 道場の縁側で、俺に委縮されなすすべなく眺めている事しかできないものの中から、俺は彼女を選んだ。


「リッカ。こちらへ」


 クサナギが怯えた表情で、反応を示したが、俺はそちらには一瞥もくれなかった。

 一方、リッカは俺に呼ばれたことが嬉しかったのか、小走りに近づいてきた。

 だから、まず、その頬を裏拳で殴りつけた。


「あぁ!な、なんてことしやがる!あぁアルマ!!!」


 リッカはその痛みに呻き、その場に倒れ込んだ。けれど、すぐに起き上がり、俺の下へと舞い戻る。彼女の鼻は曲がっていた。どうやら折れたらしい。

 でも足りない。俺はまた殴りつけた。今度は腹を。続いてまた頬を。いたる箇所に青痣を作り出し、暴力を振るう。 

 クサナギはその間、悲痛に叫んでいた。けれど一方、何度痛めつけられてもリッカはへこたれない。


「へへ、アルマ様ぁ…………」


 なんて、嬉しそうに何度も俺を見上げ、恍惚とした瞳でうっとりとしている。何と愚かで滑稽なのだろう。馬鹿もここまで極まると、愛おしさすら感じますよ。


「な、んで。リッカそんな奴の所へ」


「兄貴、悪いけど。私の全ては、アルマ様のもの」


「そ、んな…………」


 あぁ、いい表情です。そしていい気分だ。

 リッカの事は、先の演説を聞いてから必ず痛めつけると決めていた。それが、こんな形で叶うなんて、一石二鳥だ。


「殺す、殺してやるぞッアルマあぁ…………必ず、リッカを取り戻す。」


 でも、そんな因縁も、俺がリッカの首に手を添えると、途端に霧散する。効果は抜群。ここに来てようやく、溜飲が下がってきました。

 俺はリッカの首に添えた手に力を籠め、見る影もなくなったリッカの顔を、クサナギの方へ向かせてこう言った。


()()()()()とはこういう事ですよ。」


「い、言うに事欠いて…………急所だと、それは道理に背いた浅ましき行為だ、外道者がァッ!!」


「よく言われます。ですが、悪人に道理を説かれる筋合いは在りませんね。」


「ふざけるな、ふざけるなよアルマっ。一緒にするな。我らエーランドが胸に刻むは一撃必殺。決して他者をいたぶらん。」


 は?嘘をおっしゃい。俺のまたぐらを壊したでしょうにあなた。

 いや、まぁそちらは今一旦余所に置いたとしても、そもそもの話、


「殺しを正当化している時点で前提が間違っている。まったく…………御託はいいのですよ、さぁ立会人。受けてくれますね?」


「人質とって、頼む事か。それが、十格に対する敬意か!」


「ああ、申し訳ございませんが、これは既に命令です。」


 「ですが、嫌なら結構。」俺はリッカを見た。


「あなた、本当に使えませんね」


 言った瞬間、リッカは絶望に瞳を曇らせた。


「もう、いりません。自害なさい。」


 すると躊躇なく、リッカは首にナイフを押し当てた。それが俺の言葉ならと盲目的に従おうとする。

 たまらず、「ま、まて!!!」なんて、舌ったらずな叫びが、クサナギから放たれた。


「分かった。承諾する。だから、リッカの命だけはっ、どうか…………っ」


「その名に誓いますか」


「誓う!二言はない」


「よろしい。リッカ、ナイフを此方へ」


 「はいっす」と、呆気なくも命令に従う。その様を見たクサナギは、自身の手の届かぬ場所にリッカは居るのだと、ようやく理解したようで涙を垂らした。

 でも、まだ。念には念を。俺はリッカの腰に手を回し、引き寄せながら言った。


「この娘は、俺の物です。」


 傍らで、リッカの艶を含んだ喘ぎが聞こえたが、俺は無視をした。


「…………それだけは、どうか。残された家族なんだ。頼む…………っどうか。」


「いえ。俺の物。俺の玩具。壊すも生かすも俺次第。肝に銘じなさい。あなたがリッカの事を思うなら、今回の事は水に流しなさい。いいですね?」


「…………だが、俺は、十格だ。」


「心折れ、俺の前に這いつくばるあなたが。何かあるのですか?」


 クサナギはキッと睨んだ。そして、「矜持がある」と、最後の気概を見せる。


「確かに俺は破れた。だが、一奴隷商に言い様に使われるなど、あってはならない。面汚しだ」


「己の額をなぞりなさい。そしてリッカを御覧なさい。既に、暴力に刻印されているでしょう。面汚しめが」


 するとクサナギは「…………あぁ。」と諦観を零すしかできなくなる。

 当然だ。既に、リッカの異常さを知ったのだ。下手な真似をすればまた大事なものを失うと理解しているがゆえの虚脱。

 だから俺は、「リッカ」を呼び、彼女の傷を全て癒した。


「よい、役目を果たしました。偉かったですよ」


「は、はいっス!!」


 となると、クサナギの膝も治さなければなりませんね。

 そして、これで一先ず、和平交渉にはこぎつけることが出来たようだ。

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