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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
三章『十格』

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04 三章 十格 エピソード16 エーランドファミリー

「お、あったあった。アレっすよ。ある…………旦那様。」


「アルマ()で構いません。そんな呼び方をさせていては、印象が悪くなります。」


「はは、は…………そっすか…………でも、様は着けさせるんすね」


「当然です。俺の名を敬称も付けずに呼ぶなど、一体何様のつもりか。許しません」


「でも、カイニスには許してるっすよね」


「あぁ、嘆かわしい…………勘違いをしていますよ、リッカ。俺は奴のあの態度にしても許してはいない。ただ、何度言って聞かせても聞き入れないので、あきれ果てているだけ。だから、あなたは俺を失望させないようにしなければなりません。分かりますね?」


「りょ、了解す…………」


 リッカの苦笑を余所に置き、彼女が指さす地点を見た。

 でも、あるのは変わらぬ街並だけ。ここまでの道中同様、自然あふれる閑静な住宅街がそこにあるのみ。

 確かに、ここに近づくにつれ、人波はどんどんとはけていき、今じゃ俺とリッカのみが砂利の上で立ち止まっているのみではある。でも、ダリオファミリーや、フォリアファミリーのような、一目見てヤバイと感じる大邸宅は、やはり見当たらないのだ。

 ゆえに、「して、どれです?」と俺は視線を絞る様に、意識を彼女の指先へと向けたが、


「…………どこにも、拠点と呼べるようなものは、見当たりませんが?」


「いや、ここっすよ。あの町みたいなの全部。私らの拠点。家っス」


 …………なんと。絶句だぞ。

 つまり何か、俺が今見ているこの街並みは全て、エーランドファミリーが作り上げた城。いや、城下町とでも言うのか…………。

 もはや、一国の主と言っても過言ではないな。


「…………はは、背筋が凍り付きますね。」


「まぁ、そっすね。ここの領主とも裏で組んでるんで。この地方で白か黒か決めてるのは、うちっすよ」


 でしょうねとしか言えない。どんな取り決め事があるのかは知らないが、いやむしろ、知らない方が寿命は延びるだろう。知らぬが仏だ。

 些か俺が気圧されていた時、背後から『ジャリ…………』と、気配がした。


「おい…………」 


 その声と同時に、俺の背中へと鋭い物が押し付けられた。

 あぁ、この問いかけ方。この()()の聞いた声音。間違いない。


「この辺りに、うちの島ぁ、土足で踏み入るやつは居ねぇ、ここのもんじゃねぇな?」


 俺の視界の端で、リッカが眉間に皺を寄せたのが見えた。でも、今は大人しくしていてもらわなければ困る。その旨を、首を振る所作で表し、


「ええ…………仰る通り。」


 俺は刺激しないようゆっくりと両手を上げ、振り返って相手を見た。

 まだ若い男だ。丸坊主だが、えぐい角度の鬼ぞりがМ字に掘ってあり、ほとんど禿げ上がっているようにすら見える。もっとも、そんな感想を言葉にすれば、真っ先に俺の首が飛ぶだろう。 

 だから、ここは穏便に。マウントを取られた屈辱は、この際置いておく。


「俺達は、エーランドファミリーへ、お願いがあって参りました」


「聞いてねぇ」


 その言葉からは、聞く耳を持たないとの意味も漏れている。

 参った。最悪なファーストコンタクトとなってしまいましたか。 


「ですが、聞いていただきたい。こちらは、あなた方のよく知る人物から、助言をいただき参っているのです。」


「あ?誰だ」


「そちらの、リッカです」


 男はジロリとリッカを見た。下から上までなめ尽くすように眺め、そして、鼻で笑ったのだ。


「知らねぇよ。誰だ」


「ご存知でしょう。八年前に行方知らずとなった、あなた方の後継者。現頭領の妹君です」


 すると、途端に「与太こいてんじゃねぇ、殺すぞ」と、男は俺の襟首をつかみ、ドスを俺の瞳へと近づけた。


「お嬢は死んだ。カシラから、そう聞いてんだよ。」


 なるほど確かに。八年もの間、帰りもせず便りすら無かったのだ。死亡したと考えていても仕方ない。

 そしてだから、リッカを探す事もしなかったのですね…………、


「…………ですが、事実です。見てわかりませんか」


「生憎と俺の入る前の事だ。顔は知らねぇ。が、その事は禁句。ただの迷子なら二、三殴りつけてお帰り願おうかとも思ったがぁ…………さぁて、どう落とし前つけてくれようか…………なぁ、兄ちゃんよ」


 もう、ドスの切っ先がぼやける程に俺の瞳に近づいたその時、


「はーいはい、そこまでっすよ。」


 リッカがしびれを切らしたと言った風に、ドスの刃をあえて掴んで取り上げ、その手から血を流した。

 男はその動きにギョッとしたようで、少したじろぐ。俺はその隙に、彼から距離を取ることに成功した。

 そして代わりに、入れ替わるように、リッカが男へと啖呵を吐く。


「…………ハァ、今自分が何してたかさぁ、分かってんのか?」


「てめぇこそ、俺らに眼くれて、ただで済むと思ってんてんのか、クソアマが…………」


「恩義に唾かけて吐き返したのよ…………ん?分かる?」


 「…………あぁ?」と男は睨んだが、リッカは怯むどころか、臆すること無く更に一歩踏み込んで、ドスを持つ拳へ更に力を籠め、血を滴らせ男を委縮させたのだ。


「ハッ、血が怖いか?オメェじゃ話にならん。カネヒラか、イッショウ連れてきな」


 そのリッカの声音は、この八年間で初めて聞くものだった。凛として、腹の底に響くような筋の通った声音。

 だが男の方は、リッカの声音ではなく、その名前の方に驚きを見せた。

 

「お、お前、本気で言ってんのか。馬鹿か、俺にあの人ら呼べる分けねぇだろ」


「誰が…………出来るか出来ねぇか聞いたのよ、ねぇ?」


 そして、男の額に青筋が浮かんだ瞬間。しかし、先に手を上げたのはリッカの方だった。

 彼女は持っていたドスを器用に持ち替え、男の重心を支えていた足を蹴り上げてその場に転ばすと、彼の股くらへと躊躇なくドスを突きさしたのだ。

 正直、その瞬間は俺も一瞬ヒヤッとした。


「て、てめぇ――――」


 ただ、怯える男のイチモツは無事だ。ドスの刃は、『太』の字で言う、股の点付近へと突き刺さっている。でも、それで十分だろう。

 実際、


「――――私は、連れて来いっつってんだよ。つんぼか?あ?」


 「行け」とリッカが低く唸ると、男は砂利をかき分けるように後ずさりしながら、上へと報告しに行ったのだ。

 そして、その背中を見送った後、リッカは俺へと近寄ってきた。その表情には脂汗が浮かんでおり、


「ひー!!い、いたい!!痛いっスぅ!!!!な、治してくださいぃアルマ様ぁ!!!」


 気が抜けた影響で脳内麻薬が引いたのか。涙目になって俺へと手を突き出し、治療を嘆願してきたのだ。

 ああ、勿論治しましたよ。こんな状況をエーランドのお偉方に見られたら、何と言われるか…………。


「さぁ、もういいですよ」


 治癒が終わった後、リッカは手を太陽に透かすように掲げ、その出来栄えにうっとりとした。


「わーぉ…………やっぱすごいっすねぇ…………あ、ありがとうございますっす」 


「最後の『す』はいらないでしょうに…………」


 でも、今回助けられた事は事実。深くツッコミは入れない事にしましょうか。

 やれやれと首を振った時、道の奥、遠くから人影が二つ近づいてきた。一人は先ほどの鬼ぞりの男。そしてもう一人は、着物姿で堀の深い白髪頭の初老の男性だ。


 そうして、彼らが対面する距離まで来た時。

 鬼ぞりの方は、初老男性に隠れるようにこちらの様子伺っていたが、リッカを見た初老男性は、嬉しさかそれとも驚愕が勝ったゆえか。震える両手でリッカの肩を掴んだ。


「不届きな輩が現れたと聞きつけ、重い腰を上げたのだが…………まさか、生きておられたのか。」


「今帰った、イッショウ、息災か?」

 

「ワシのセリフだ…………生きていたなら、便りの一つも寄越すものだろうに…………今まで何を」


「便りが無いのは良い便りだ。そうだろう」


「は、はは…………口が達者になられた。」


「お前は、白髪が増えたな。老化遅延をおざなりにしすぎね」


 となると、後が怖いのは言うまでもない。鬼ぞりの男だ。彼は面白い程に目を泳がせ、過呼吸気味に自身の過ちに対するケジメの付け方を模索し始めていた。

 そして、その沙汰は直ぐに降る。


「ヨウダイ。お前、さっき()()()()がワシを呼んどると…………ほざいたそうだな?」

 

 着物姿のイッショウが、裾を翻し振り返った時、彼は傍目も憚らず、既に土下座だった。


「す、すんませんでした!ま、まさか本物だとは…………その、ゆ許してくだせぇ!!」


 「おー…………そういやおめぇ」と、イッショウはリッカからドスをもらい受け、男へと近寄りしゃがみ込んだ。


「なんでここら一帯、自然豊かで、砂利だらけなのか知ってるか?」


「…………へ?そ、そりゃ…………俺らは、荒神さまを――――」


 言い終える前に、イッショウのドスは、男の首を突き刺した。鮮血が噴き出し、地面へと流れるが、すぐに地面深部へと吸収されていく。


「――――ちげぇ。血の処理が楽だからだ」


 呆気なく。何の感慨も無く男を殺したイッショウは、「ヨッコイショ」と、膝をいたわるように立ち上がり、腰を叩きながら俺達へと振り返った。

 いや、違うな。俺へと、だ。


「そちらさんは?」


「俺は、アルマ・サンと申します。今回、リッカ・エーランドさんの招きで、お願いを持って参りました。」


 「…………願い?」と、訝しそうにイッショウはリッカを見る。もしかしたら、俺が彼女の弱みを握って、ここへ案内させたと思ったのではないだろうか。

 けど、その間違いはリッカの説明で取り払われた。彼女は簡素にも、「アルマ様に助けてもらった。」恩人であるとイッショウへ伝えたのだ。


 おかげで、険悪な雰囲気は一転した。

 イッショウは堀の深い奥から覗く眼光を、鈍く淡く弱らせると、今度は俺の頭を見ながら、おちょくる様に自身の白髪を撫でつけたのだ。


「ワシと揃いだなァ。ん?その年で若白髪たぁ…………えれぇ苦労したとみた」


 「いや…………」俺のは生来のもので、ストレスから来たものではないのだが。しかし、逐一否定するのもまた、機嫌を損ねるかもしれない。

 俺は曖昧に笑うという、我ながら珍しい処世術で流し、再度聞いた。


「…………その、感動の再開のところ申し訳ございませんが、お願いをお聞きください。」


「ん~…………あー…………ま、リッカをここまで連れてきたのは事実なんだろう。なら、義は返す。」


 イッショウはリッカの肩に手を回し、俺から遠ざけるように傍らに寄せ、「ついてこい若人」と零した。

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