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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
三章『十格』

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04 三章 十格 エピソード15 北方地方エンバス

 幹部会の後日。俺とリッカの二人は馬車にのり、エーランドの縄張りたる北東――――エンバス地方へと進んだ。そう()()だ。俺のリンドウやダリオファミリーの縄張りとする町ではない。

 十格ともなれば、地方丸々一つが、縄張りであることも珍しくはないのだ。


 ちなみに言うと、悪魔祓いに奔走していた俺ですら、エンバス地方はあまり馴染みのない場所だ。理由はもちろん、十格、エーランドファミリーの縄張りだから。

 もっとも、表社会の一般認識からすれば、サディーの島でも北側に位置する関係か、夏場は避暑地として有名である事も知っている。


 逆に言うと、夏期でも無ければ曇り空が陰鬱と気分を落とし、豪雪が進路を邪魔し、迂闊に近寄れば慣れない悪路に足をとられ、雪で隠れた川底に落ちて溺れる。しばしば視界不明瞭な雪の壁に迷い、魔獣や猛獣の餌になる事も少なくは無いらしい。

 馬車で移動すれば、トグサからは大体二日ほどに位置する試される大地。それが、エンバス地方。


 とは言え、その移動中の二日間何もしなかった訳ではない。一日目はそれとなく彼女の緊張を解し。翌日の最終道中には、リッカからトグサの街へ流れ着いた事情を、改めて根掘り葉掘りと聞いたのだ。


「いや、あの時は必死だったんすよ。生き残る事に…………」


 馬車に揺られながら、俺の対面へゆったりと座るリッカは、出会った頃と同じ、老化遅延ゆえに変わらない金髪碧眼の少女のまま。

 気掛かりではあった。普通老化遅延を行うのは、魔力量が最盛期を迎える二十代から三十代の肉体が定石だ。もしかしたら、エーランドに戻った際、己だと一目で分かるよう、あえて少女の肉体を保っていたのかもしれない。

 こんな風に思うのは、ロシノさんの件が直近であったが故だろうか…………俺がアンニュイな感情を持ち出すと、リッカは俺の態度を邪推したのか、少し気まずそうにも、頬を掻きながら切り出した。


「フォリアファミリーと同じ。うちも代替わりの時期で。基本的には兄貴に継がせる方向で決まってたんすけど…………中には、私を担ぎ上げて実権を握りたい輩もいたわけで…………」


「それで、逃げ出したと」


「と言うか、逃がされたって感じっすね。兄貴の派閥にも邪魔な私を消したい人たちがいたんすけど、それも一枚岩じゃなくって。結局、その兄貴に近しい人たちに手伝ってもらって…………」


 その時、リッカは遠くを見るように車窓の方へと顔を逸らした。

 なつかしい表情だった。昔、出会った頃はよくそんな顔をしていたことを思い出す。


「…………なんとか、トグサ近くまで流れ着いたんすけど、そんときにはもう、追っ手と私の護衛が差し違えてて…………でも、私こんな素性だから誰にも頼れないし、でも、皆が私を生かしてくれたから、生きなきゃって…………必死で。そこでアルマ様に会った…………ってのが、真相っす。」

 

「そうでしたか。まぁ、それなら、俺が聞かなかったことは…………間違いではなかったのでしょうね」


「なんでっすか」


「そんな哀しそうな顔で居られても、辛気臭くてかないません。あなたは普段通り、あっけらかんと軽口を叩いているくらいが、性に合っていますよ」


 「でも…………」と、リッカは車窓から顔を此方へと向け直した。その時にはもう、普段の二ヘラとした軽薄な表情に戻っている。


「…………それ、演技かもしれないっすよぉ?」


「おや、演技なのですか」


「もしかしたら、心の中じゃ何時も泣いてるかもしんないっす。あぁ~アルマ様が抱きしめてくれたら泣き止むかもぉ…………ぉ?お?」


「ああ、なんと白々しいのでしょうか…………本当に演技のようですね。無視を致しましょう」


「ちょ、ち、違う、違うっすよ!今のは本音なんすけど!?」


「なら、普段から誤解無き態度を取りなさい。」


「えぇ、してるっすよぉ」


「知っていますよ。あなた、エイダやミネルバ、それにバーバラとお酒を交えて話し込む際には、そのような口調ではないのでしょう?」


「…………えーへ、へへ…………いやぁ、そのぉ~」


「笑っても誤魔化せませんよ。言質は取ってあります」


「だ、誰っすか!密告者は!?」


「バーバラです。」


 「あんにゃろめ…………」と、芝居掛かって他方を睨んだリッカは、それから気まずそうに視線の置き場に困っていた。


「…………その、そうした方がいいっすか?」


「構いませんよ、お好きなように。参考になるかは分かりませんが…………昔は俺も、荒い口調でしたから」


「うぇー!うっそぉ!?嘘っスよね?」


「はて、どうでしょうか。ただ、俺は既に、それでも構いませんとは言いました。とある人からこう言われたからです。『俺は無駄を省きたい。その口調でなきゃ、話しにくいなら、それでいい』と。なので、当時は…………そう。当時はその言葉に甘えておりましたが…………今となっては、そのような口調を使ってしまっては、商談(コミュニケーション)に不向きとなりますので。矯正いたしました。」


「へー…………なんか、アレっすね」


「なんです」


「その、アルマ様の秘密を知れたみたいで、ちょっぴり得した気分すよ」


「別に、秘密にしている訳でもありませんが。そう思う事であなたの作業効率が上がるのであれば、今後は話すことを躊躇うとしましょうか。」


「…………えっとつまり?」


「俺とあなた。二人だけの秘密と言う事です。」


 言った瞬間、リッカは、ゆでだこのように顔を真っ赤に染め上げ、恥ずかしそうに両手で覆っていた。

 なんともまぁ、これ程反応がいいとからかいたくなってしまいますね。まぁ、後が怖いので踏み込みはしませんが。


「ヒャー!!ちょ、アルマ様、それはずるいっすよ!」


「本当に初心ですね。そのように顔を赤くして。二人だけの秘密など、大した事ではありませんよ。」


「むっ、その言い方は駄目っすよ、乙女心をおちょくって遊ぶなんてひどいっす」


「おや、水を差してしまいましたか。失敬。」


「そうっすよ…………ぁ~あ、帰ったら弄ばれたって言っちゃおっかな」


「ま、待ちなさい。それは、俺の首が飛ぶ可能性があります。お辞めなさい。謝ります」


「大げさっす…………あ、でも。この八年間の言い訳考えたんすか?」


「ええ、考えましたが…………」


「が?なんすか??」


「相手方から見れば、です。俺はあなたを八年もの間拉致誘拐、もしくは軟禁していたようなもの。どんなに耳触りの良い言葉を並べても、聞く耳を持ってもらうことは出来なかもしれない。と思いまして。」


「ほうほう、それで?」


 俺はお手上げと所作で示し、リッカに笑いかけた。


「なので、リッカ。あなたから説明してください。」


「え、ええ。いいんすか、私が下手うったら…………」


「俺の言葉よりかは、耳を傾けてくれることでしょう。何より、何を言っても、言い訳の域を出ない。大事なご息女をその辺りの下っ端よろしく、使い古してしまったのは事実なのだから。もっとも、それで俺が死ぬ形になったとしても、俺は全力で抗いますがね」


「うーん、そこは潔く首を差し出す場面じゃあないんすか?」


「おや、ではあなたは俺に死んでほしいと?」


「いや、いやっすよ!そんなら私が死ぬっす!!」


「ははは、そうでしょう。だから安心なさい。俺は死にません。死ぬつもりは毛頭御座いません。大往生するためにも全力で逃げ切って見せますよ。ゆえに、あなたが体感したこの八年間を、あなたの言葉で語るのです。」


「でも、私何にも考えてなかったんすけど…………」


「それでよいのです。これはスピーチではない。あなたの日記と思いなさい。要は、予め見繕った言葉など心を打ちません。つっかえ、しどろもどろになろうとも、相手に伝えようとするその姿勢こそが、真に相手の心を動かすものなのです。頼みましたよ、リッカ」


「…………了解っす。任せて下さいっす!」


 小気味い挨拶を受け、俺は余裕の笑みを浮かべると、足を組みなおし、腕を組んで話を仕舞いにした。

 ただ、それは表面上の話だ。足を組んだのは緊張で冷や汗をかいたが故だし、腕を組んだのだって、手の震えをごまかすため。

 …………認めたくはないが、俺は内心戦々恐々としていたのだ。


 何しろ、相手は『十格』だ。そして、裏の世界ではどのような噂であろうと、それは受け取り手次第。十格ともなれば、白と黒の決定権すら自由自在。

 もっとも、リッカがエーランドから逃がされたと言う事実のみをすくい上げれば、きっと彼女は歓迎される。それは、リッカにとってはまごう事無き安全地帯――――命の水たるオアシスであるが、俺にとっては体を蝕む毒水、もしくはボトルネックと言えるだろう。


 考えてもみろ。

 俺で言えば、八年もの間エクシアがどこの馬の骨ともわからぬ輩に囚われていたのだぞ。しかも、今度はそれを盾に、約束事を取り付けようと言うのだ。俺ならば、そんな不届き者は即刻売り払う。もしくは、死にたいと思わせるほどの責め苦にあわせる。

 そう、これは我ながら、礼を失した最低な交渉だ。

 

 最悪、立会人の懇願どころか、フォリアファミリーと結託し、俺達リンドウを潰しにかかるかもしれない。

 そうなれば詰みだ。

 裏の世界を追われた者は、表でも生きられない。だって、悪徳を積んできているのだ。よくて、牢獄。まっとうに行けば、ギルドを介した暗殺となってしまう事は想像に難くない。


「あれ、アルマ様、お腹痛いんすか?」


 どうやら、顔にでてしまったらしい。リッカは不思議そうに俺の顔を覗き込んでいた。

 再度、余裕の笑みを取り繕い、「何でもありません」と軽く流したが、


「あ、ならいいんす」


 と、深く踏み込んでこなかった彼女は、果たして、俺の言葉に納得したのだろうか。

 我ながら、俺の作り笑いはお粗末だ。いえ、笑い事ではありません。この状況で笑う者がいるならば、狂っているでしょう。


 と、その時。馬車が止まったことで、慣性の法則が、俺の上体を前屈みにも折らせた。

 まるで、十格に対する予行演習だとでも言うような、その無様な会釈が如き俺を見て、


「あ、着いたみたいっすね」


 リッカは馬車を降り、エンバス地方の空気を久方ぶりに吸ったのだ。

 俺も彼女に続き、馬車を降りて久方ぶりの開放感あふれる空気を吸った。すると、新鮮…………とは違うな。爽やかな青臭さが鼻孔を突く。


「車内からちらちらと見えてはいましたが…………これは、木々?」


 見渡せば周囲には自然が溢れていた。歩行の邪魔にならぬ程度に、いたるところへと植林が行われ、基本的に道も砂利か土。

 家屋と緑の割合は半々と言った風に感じる。そこから少し視線を遠くへ向ければ、年中雪化粧をしているであろう山脈が、空の青色と薄く混ざり合い、絶景を作り上げている。


 気候も、聞いていた通り、今の時期にしては涼しく適温で、通りすがる人々の中には、長袖の者も見かけられる。一年を通して、日が出る時間帯が夏期に集中しているせいか、出会った頃のリッカ同様、肌が白いものが多かった。

 それに、喧騒も少ない。基本的に騒いでいるのは観光客であろう者達ばかりで、この地に根ずく者たちは、自然に活気を吸音されているかのような、慎ましやかさと素朴さを感じた。 


 いまいる所は一応、エーランドファミリーの支配下。その中心地たる街の筈なのだが、見ようによっては田舎ともいえるかもしれない質素極まる町並みは、とてもじゃないが、十格の拠点とは思えない閑静さで、俺は拍子抜けしてしまった。

 思わずリッカを呼び付け、昔からこうなのかと聞いた。すると、「んーそうっすね。あんま変わってないと思うっすよ」と簡素に首肯を貰う。


「エンバスの民は…………なんてゆーのかなぁ。自然信仰ってゆーんすかね。その場にあるもので何とかしようって気持ちが根本にあるんすよ。合成甘味料より、自然そのものの旨味こそ至高!みたいな?ん?違うかな?まぁ、そんな感じっす。」


 なるほど。そう聞いてから再度街並みを見渡せば、また見方も変わってくると言うものだ。

 実際、観光客達は安易にも木々に寄りかかったり、腰掛けたりとしているが、その姿勢を見る現地民の視線は、どこか迷惑そうだった。

 きっと、現地民にとって自然とは、畏れを抱く存在であり、自らの暮らしを豊かにする体のいい道具ではないのだろう。


「だから、基本的に、人工(ドーピング)より、自然(ナチュラル)。血筋もすっごく重んじるすよねー…………そのせいで、野心ある人達はみこしを担ぐしかなくって、名家の派閥争いも日常茶飯事っすよ」


「神輿とは言いますが、要は傀儡でしょう。あなたが言うと、重みが違いますね」


 「ほんとそれっすよ。」なんて、リッカは肩をすくめ、芝居掛かった感じで首を横に振った。


「ま、でもおかげで、道順は変わってなさそうっすけど。」


 「こっちっすよ」と、迷わず歩き出した彼女の背中を、俺は追いかけていった。

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