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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
三章『十格』

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04 三章 十格 エピソード14 フォリアファミリーへの対策

 ロシノが死んだ二日後、臨時点検と言う名目で、バーニス号はトンヘル港へとついた。

 その後は衛兵が船内を駆け回り、重要参考人として、俺とエイダとその他四名――――マイク・ジャックに囚われていた者達――――は軽い聴取にあったが、外傷も無く物的証拠もない俺達は、すぐに釈放された。

 その時には幸いにも、俺の言葉が身に染みている様子で、その他の四人も何も話さなかなったようだった。


 バーニス号はそれから二日後にトンヘル港から出港したが、幾人かの乗船客は、今回の事情を知り旅行継続を断念したらしく、荷物をまとめ不満たらたらと言った風に踵を返して帰路に着いたのだ。

 そして、それは俺とエイダも同じ事。

 ただ、ここトンヘルから俺の居るトグサまでは、馬車で一日ではあるのだが、生憎とその馬車の調達に難航してしまう。

 

 結局そのせいで、五日後に出向する帰りの船を待ちぼうけすることとなっていた。


「…………よう、オイラだ」


 トンヘル港からバーニス号が出航し三日後の昼。港近くの宿にて、帰路の船を待っていた俺とエイダの部屋を、気安い呼びかけがノックしたのだ。

 とくれば、言わずともわかる。

 エイダが率先しドアを開くと、通路に佇んでいたスーつ姿のカイニスが、複雑そうな表情で山高帽を外し、目を伏せながら、入室してきた。

 

「今回は散々だったらしいな、エイダ、それにアルマも。」


「ええ。そちらはどの程度話を聞いているのですか?」


「まぁ、ノーフェイスとロシノが組んでたって事かな。衛兵のおねぇちゃんがぽろっと零したぜぇ」


「ああ、本当に…………毎度のことながら、守秘義務はどうなっているのでしょうね。」


「てことは、まじで、事実か?」


 「そうよ。」とエイダの沈痛な肯定を聞き、半信半疑と言った複雑な表情だったカイニスは、真顔になっていた。


「でも、ロシノ様も今回、被害者と言えなくもない」


 そして、エイダが一部始終を語り、話がが佳境に差し掛かると、カイニスは残念そうに「もういい」と話しを畳んだ。


「そっかそっかぁ…………ロシノがなぁ。だが、これでフォリアファミリーを完全に敵に回した様なもんだぜぇ。どうするよボス」


「カイニス、アルマ様の心中を鑑みることは出来ないのッ」


「いえ、いいのです、エイダ。カイニスの言うことはもっとも。引き金は既に引かれているのですから、俺達はその弾丸をどう避けるか、いなすかを早急に考えねばなりません」

  

「そうそう、切り替えが大事だ。つーわけで、馬車、用意しといたぜぇ」


「ほう、話が早い。では幹部も?」


「ああ、オイラが先だって召集しといた。オイラ達がトグサに着くころにゃあ、みーんな首長くして待ってる事だろうさ」


「よろしい。エイダも、構いませんね?」


「…………はい。御身のご意思に従います」 


 それから俺達は荷物を手早くまとめ、馬車へと乗り込んで帰路に着いた。






               ※※※※※※※※※※※※






 ――――翌日。

 屋敷へと帰った俺を待っていたのは、玄関口で、幹部達が行儀正しく腰を折った歓迎だった。

 ただ、今はその茶番に付き合っている暇はない。

 俺は手で鳩を追い払うかのように、奥へと促し、いつもの会議室へと足を運んで、即刻座ると船内での事柄を簡潔に話し聞かせたのだ。


「と言う訳です。ゆえに、これから行うのは、フォリアファミリーへの対策会議。方針を決めたいのですが」


 俺はまず、こう言った荒事に最も詳しい宮廷魔術師たる、バトーへと視線を向けた。

 すると、そうなる事を事前に知っていたかのように、彼は臆することなく髭をすきながら口を開いた。


「そうですな、ワシとしまては…………まず、戦うのか、それとも和平交渉を行うか。その前提から決めるべきかと存じますが」


「ええその通り。して、バトーあなたなら、どちらがいいと思いますか?」


「定石で言えば…………和平でしょうな。」


 その時の反発意見は五割以上だった。

 だが、まだ話の最中だ。俺は皆を一喝し黙らせるとその心を聞いた。


「なぜなら、戦いは数にございますアルマ様。我らの構成員は、百七十と少し。対して相手は二千超の大組織。兵力はさることながら、そもそも鉄砲を始めとした武器、人を動かず資金面、地域に及ぼす影響力、その他諸々あらゆる事柄で総合的に劣っておりまする。」


 確かに。仮想敵を鉄砲とした場合、俺や武闘派の幹部連中ならばかろうじて避けたり、いなしたりは可能だが、他の者が同じようにできるわけでは無い。

 戦に勝っても、その時に復興するだけの人手が足りなければ意味はない。


「これを覆すとなれば、自ずと助力が必要にございます。ゆえに納得いかないながら、和平を口にしました。」


「納得いかない…………ですか。では、『十格(じっかく)』に頭を垂れろと言うのですね?」


「如何にも。そのうちのどれかに乞い願い、立会人となってもらうのです。」


 『十格』。フォリアファミリー含めた十の大組織の総称。構成員四千以上を最低ラインとした一種の区切りだ。

 もっとも、俺はそこへ上り詰めるつもりはないため、詳しい訳ではないが、それでもしばしばその名を耳にする。

 噂では、一国の王が率いる組織があるとか。莫大な富を抱えているとか。黄金ランク相当の猛者を従えているとか…………真偽定かではない噂を挙げればキリがない。


 そして中でも、フォリアファミリーは古株であり別格。いや、特別枠と言い換えてもいいだろうか。

 昔ならばともかく、近年となり減った構成員数であれば、『十格』から除外されるであろう所を、その一般人を狙わない特異性から裏社会と表社会の仲介人を担う事で、例外的に『十格』として存続してきた…………と、以前ロシノさんから聞かされたことがある。


「そう、ですので…………願い出るとしたら、この島に居る十格ゆえにフォリアファミリーと因縁浅からぬ、パルファシイファミリーか、もしくは、エーランドファミリー、でしょうかな。しかし…………」


「口ごもりましたね、なんです?」


「はい。和平を結ぶという事は、それ即ち我々が後れを取った、怯んだと公言するに等しい行為。さすれば今後、フォリアファミリーだけでなく、立ち合い人となった者達にも借りを作り、我らの組織は単独では存続できぬ、『ついばみ』に合うでしょう」


 まぁ、それは避けては通れぬ事ではある。元々俺の仕事は奴隷商。マフィアでないのだから、下手に見られることには慣れている。

 でも、そう思わない者も居るのだ。

 たとえば、


「それはつまり、リンドウがどっかの傘下になるって事か!?ならやっぱ戦争するしかない。そうだろう皆。」


 と、割って入ったのは、蛇の下半身と顔を持つ竜人ヴォルド。彼は「なぁ、バトー?」と低く唸った。


「逆に聞くけどよ、戦うとなったらどうなんだ。なんか策くらいあんだろ」


「まぁ、の。ただ、段取りが必要じゃ。それまで彼らが待ってくれるかどうか。それが問題。ゆえに最も手堅い和平をワシは推す。」


「そんな弱腰で、これからのリンドウはいいのかぁ!?ダメだろう!俺様は断固として戦う。竜族の誇りは戦いの中に在る!どんな凶弾であろうとも、俺様の鱗がアルマ様を守護する盾に――――」


 ヒートアップしてきたな。

 俺と同じ思いを持ったのか、カイニスから目くばせを貰ってしまったぞ。


「――――静かになさい、ヴォルド。今はまだ、どちらにするかを問うている段階なのです。勝手に話を進める事の無きよう」


 俺に叱られたヴォルドは、舌をチロチロと伸ばし、「ピ~!…………」と情けない降伏宣言を吹いた。


「申し訳ございません、ボス。俺様ようやく役に立てるかと…………」


「いえ、あなたの気概は買います。でもその時まで燻ぶらせておきなさい。さて、バトーの和平を前提に進めようかと思いますが、他に意見は?」


 聞くと、おずおずと手が上がった。しかも、その人物は以外にもエイダだったことが俺の驚きに一役買う。


「アルマ様、わたくしは今回…………ヴォルドに賛成です。」


「はて…………珍しい事もあるものです。戦うべきだと?」

 

「僭越ながら。」


「あなたまさか…………ロシノに当てられた。とでも言うつもりですか」


「…………そう、かもしれません。」


 その声はか細いながら、思いのほか芯が通った決意の表明だった。


「彼は我ら同様、アルマ様の事を考えておいででした。アルマ様の生き様を、傘下に加わるのではなく、アルマ様が進むその『外道』を見たいと思いなのです。その気持ちを汲みたく存じます…………」


 だが、そう思うのならばだ。


「あなたの言い分を聞く限り…………戦うべきではないでしょう。」


「そんな、なぜなのですかっ」


「ロシノが俺の事を思っていたと言いましたね。ですが、彼はフォリアファミリーの事も思っておりました。彼の意を汲みたいと言うのであれば、そちらを無下にするのは、如何なものか。」


「そ、それは」


「どうなのです、エイダ」


「……………………出過ぎた真似を行いました。」


 俺は意見を取り下げたエイダから視線を外し、他の者の顔も見渡した。けれど、反対意見はもう出てこない。


「…………よろしい。では和平へ向け、パルファシイファミリーか、エーランドファミリー。このどちらにするべきか…………いえ、その前にあなた方は、この二つの組織の情報、どれほど知っていますか?」


 聞くと、皆は顔を見合わせ自身の既存の情報と最新の情報に誤差が無いかすり合わせた。

 そして、少しの喧騒の後、神妙な顔をしたカイニスと、不自然にも勝ち誇った笑みをしたリッカの二人が代表し、声を挙げる。


「そんじゃオイラから。パルファシイはなぁ知っての通り極悪だぜぇ。でっけぇところで、違法薬物、人身売買、裏カジノ、不動産、水商売。小さくまとまって、詐欺、恐喝、暴行、暗殺なんでもござれ。このサディーの島の半分はあいつらのもん、とぉ言っても過言じゃあねぇ。和平なんざ頼もうもんなら、骨の髄までしゃぶられんぜぇ」


「でしょうね。」


 「じゃ、次、私っすねぇ」と、リッカはニヘラヘラと口を開いた。


「エーランドはぁいいっすよぉ。悪党だけど義理は通すし、恩は返すっす。ま、いざとなったら、カタギだろうと何だろうと、即刻殺すんすけどね」


「ん、んん…………いえ、他の十格はヴァニラ列島の他の島…………この際贅沢は言えないでしょう。」


「ってことで。私の出番っすね~」


「…………リッカ。不思議だったのですが。あなた、なぜそんなにも自信ありげなのです」


「え、だってだってぇアルマ様。エーランドって言ったら、私の実家じゃないっすかぁ」


 会議室が一瞬で静まり返った。それはもう、冷や水でも叩き込んだのかというくらい、冷え切った静けさだった。

 それでも、俺は何とか震える唇で聞いたのだ。


「な、んと。何と言いました。あなた」


「え、実家なんすけど…………あれ?」


 今この娘は何と言った?じっか?じっかとは…………実家か?

 いや待て。おかしい。俺はそんな話聞いた事が無い。俺が動揺に促されるまま周りを見渡すと、やはり、初耳だったのか、皆口を開けた状態で、ポカンと唖然としていた。


「…………あれ、言ってなかったっすかね。私んち、十格。エーランドっすよ。まぁ、継いでるのは兄貴っすけど。」


「言っていませんよ!!!あ、あなた、俺には身寄りがないと言ったではありませんか!!?」


「え~~だから、家出して、その日暮らしだったんすよぉ~」


「ば、あなた、名前を聞いた時には、リッカ・()()()()()だと、そう言っていませんでしたかッ!」


「あ、それママの旧姓っすね。ほらぁ、エーランドってバレたらまずいっすからぁ。咄嗟に出たんすよ。申し訳ないっす…………」


「な……………………な…………ん…………えぇ」


「え、何すかこの空気。」


「あ、の。り、リッカ…………()()


「な、なんすかエイダ。他人行儀っすね…………」


「あんたが、い、いえ。あ、()()()が、身持ち固い理由ってじゃあ…………?」


「そりゃだって、跡取り問題起こしちゃあまずいっしょ?」


 妙に納得する理由だった。ゆえに、更に沈黙は重くなる。


「あれぇ…………やばい?もしかして私、今まずい感じっすかぁ…………?」


 いや待て。落ち着くんだ。今はまぁいい。いや良くはないが、今はいい。いいことにする。

 一旦落ち着いて噛み砕こう。何故なら別の問題が今、俺の中でグルグルと回っているからだ。


「皆!一応聞いておきます!!!いいですか、あなた方の中に!他にも!!身分を偽っている者がいるのならば!!!正直に名乗り出なさい!!!今、す、ぐ、にッ!!怒りませんから!!」


「えっ。わ、私…………お、怒られるんすか…………?」


「あなたは黙っていなさい!!今はそれどころではないのです!!!で?居ますか!?居ませんか!?どうなのです!!!!」


 だが、幸いにも他に身分詐称の不届き者は居なかった。

 ならばとりあえず問題は増える事はなさそうだ。

 よし、それでは…………話しに戻るとしましょう。


「リッカ」


「ひ、ひゃい。な。なんすかアルマ様」


「…………あなたの言葉本当なのですか?」


「う、嘘じゃないっすよ。私リッカ・エーランドは、マジっす」


「…………あなたー…………これまでにエーランドと連絡を取り合っていたなんてことは…………?」


「えっ、へー…………ないない。ないっすよぉ。あっはは」


「それで…………俺に就いて、何年になるでしょうか…………」


「えっと…………ざっと今年で八年目っすかね」


 「ですよね。」と俺は頭を抱えた。

 そうだ、リッカはリンドウにおいても割と古参の面子なのだ。

 俺がリンドウをカイニスと立ち上げ、その三年後。リッカは俺達の前に、ひもじそうな青っ白い肌で現れたのだ。だから俺はてっきり、孤児か何かだと思い込んでいた。

 しかもその時の彼女は、何やらふさぎ込んでいた。だからそれならば嫌な記憶を、過去を語らせるのは悪いと思い、深く踏み込まないでいたのだが、


「裏目でしたね。もっとあなたの事を知っておけばこんな事にはぁ…………いえ、そもそも、身持ちが固い理由に対してもっと深く踏み込んでいればぁ…………いやしかし、それは一線を飛び越えた不謹慎っ…………ぅう…………悔やまれます…………これは、俺の監督不行き届きでしょう…………」


「そ、そーんな大げさなぁ」


「何を言っているのですか!?あなた事の重大さを分かっていませんね!?エーランドのご令嬢を、俺はッ、これまでこき使ッてきたのですよ!?お分かりか!」


「え、でも雇用関係上当然じゃあないっすか?」


「何をもっともらしい発言を!!!馬鹿ですか!?馬鹿なのですねあなた!事はそう簡単ではないのですよ!いいですか、これは弱小企業の社長が、大企業のご令嬢を足蹴にするようなもの…………しかも加えて、約八年もの間、拉致誘拐していたようなものなのですよ!?!?」


 眩暈がして、俺は力なく席へと崩れ落ちてしまった。


「お、終わりです。リンドウはフォリアファミリーに潰される前に、身から出た錆によって瓦解するのです…………あ、あぁ……………………ロシノさん。申し訳ありませんが、俺もすぐそちらへと逝くことになりそうです。」


「大丈夫っすよ。これまで良くしてもらったんですし、私に任せて下さいっす」


「………………………………と、言われましても。」


「い、いやほんとっすよ。何しろアルマ様のためっすから。一肌でも二肌でも、何なら全裸踊りだってお茶の子さいさいっすよ。大船に乗った気持ちでいてくださいっす」


「お、お辞めなさい。裸踊りなどしようものならエーランドから俺が殺されます。そうでなくとも、つい先日まで大船で痛い目に合ったのです…………あなたの言うそれも、泥船に見えて仕方ありませんよ…………俺は。」


「わお…………深刻っすねぇ。えーでもじゃあパルファシイにするんすか?」


「ぐっ、それは…………」


「そっすよね?だから私にお任せ!準備しましょうっす」


 俺はこの時、ヴァルドス含めた男連中に助け舟を求めた。けれど、返答は素っ気ない。皆、沈痛な面持ちで目を伏せ、顔を背けるのだ。

 それはバトーであっても例外ではなく…………あぁ、この先が思いやられる…………。


「どうして…………こうなったのでしょうか…………」


 途端にも左の目球だけが熱くなり、涙がこぼれた。

 それはまるで、ロシノさんが笑い転げ、落涙しているようで、俺は無性に腹立たしくなってしまった。

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