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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
三章『十格』

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04 三章 豪華客船 エピソード11 ぼったくり占い

 ダース・ヴヴィブントの部屋を後にし、ウィズ・キャネルの部屋のドアノブに手を掛けた途端、


「ガッカリだわ。」


 と、ドアが開き、ウィズの残念そうな表情が俺を覗き込んだ。首を横に振る代わりに、壮麗な赤い髪を軽く揺らし、咎める様な視線で、気だるげな白色の虹彩を細めている。


「だって面白くないもの。他力本願なんて。」


「と言う事は、俺がなぜ訪ねてきたのかもご存知ですね」


 「はぁ…………」と、大きくため息を吐いて、ウィズは室内へと踵を返し、手の甲で俺を招き入れた。

 室内では昨日同様、話の席が出来上がっており、今回は既に紅茶もテーブルへと置いてある。

 俺がその状況に少しの驚きを上げると、「あぁ、お待ちしてましたよ、アルマさん」なんて、アポロがにこやかに笑ってベッドに腰掛けていた。

 本当に、一体どこまで見えているのだ、この女は…………。


「早く座ったら。」


 面倒くさそうな声に促され、俺はウィズの正面へと座り、単刀直入に聞いた。


「ロシノさん達は、どこへ?」


「…………本当にそれでいいの。」


「何がです」


「私に任せて、よ。こういう時って、捜査は足で稼げってよく言うじゃない。それがこんな…………ねぇ?楽な道を選ぶなんてナンセンス。誰も興味をそそられない。見る価値もない落第点でしょう?」


「あなたは勘違いしてらっしゃる。俺は探偵ではありません。奴隷商です。」


「…………そ。でも、それに答えるかは、私が決める事よね?」


「俺は、あなたに占ってもらうために来ました。別に、あなたに答えを聞きに来た訳ではない。それならいいでしょう」


「へー…………そうくるの。でもいいのかしら、そんなことを言ってしまって。」


「何がです」


「綺麗な花には棘がある。それは私も同じ事。ぼったくるわよ。理不尽に。」


「構いません」


「もぅ…………分からず屋ね。強情だわ。いやんなっちゃう。お冠よ。」


 俺の意思が固いと知り、追っ払うのを諦めたのか、腕を組んだウィズは口をへの字に曲げる。

 ただ、その拗ねた感じは昨日よりも人間味が溢れているように感じるが、気のせいだろうか。

 何はともあれ、俺の話を無下にする気はないと分かったのは、不幸中の幸いだ。


「では、交渉成立ですね」


「ま、いいわ。いい。仕方ない。」


「おや、思ったより素直ではないですか。拍子抜けだ。」


「だって、あなたに私が話しかけてしまった時点で、こうなる未来が一番近かったし…………」


 「それに」と、ウィズは艶やかに笑った。

 いや、違うか。艶やかと言うより…………慈愛に満ちているように見えた。


「それに、なんです。少し君が悪いですが…………」


「あら失礼しちゃう…………可愛い坊やのために。今回は一肌脱いであげましょうって言っているのよ。感謝してね。」


「…………」


 何というか、ウィズが世界を見る目は基本的には一線引いている。

 でも、先ほど見せた様な微笑みや、昨日エクシアの治療法を口に出していた時の雰囲気は、まるで我が子を見るように錯覚する。

 だから、思わず口に出た。


「あなたは、俺の血縁なのですか?」


「え。なんで。」


「あ、いや。なんとなく、ですが」


 我ながら、馬鹿げたことを言ったと直ぐに後悔してしまう。今となっては顔が熱くなっていた。

 実際、ウィズは目をぱちくりさせた後、今度はアポロと顔を見合わせ、おかしそうに笑ったのだ。


「っち…………忘れてください」


「ふふ、照れなくてもいいわ。今のはアレね。先生をお母さんって言っちゃうアレ。でも、んー違うわよ。髪の毛一本、DNAの一片たりとも、我らに交わる部分は存在しない。赤の他人で遠い存在。」


 でーえぬえー?聞き慣れない単語だ。昨日の魔法使いや造物主と言い、ウィズはこの世界の根幹にも目を通しているのだろうか。

 俺が不思議そうに顎に手を添えていると、「分からない事はぺって流しちゃいなさいな。」と、彼女はそっけなく言い放つ。


「ただ、広義の上では…………そうとも、言えなくもないかもね。なんて。ふふ。」


「は、は?いえ、どういう意味なのですか」


 混迷が俺の視界を揺らした時、「話はお終い」と、ウィズは一回拍手を打って話を締めた。


「さて、占ってあげるわね。」


 二回柏手が打たれ、合掌した状態のウィズは瞼を閉じる。今更ながら、その姿はまるで祈りを捧げているかのようだ。

 そして、静寂が数分間続く。

 一体、その瞼の裏で何が見えているのか。静寂が伸びていく都度、俺の緊張は高まった。

 アポロにそれとなく何が起こっているのかと視線で問うたが、彼は苦笑しながら首を横に振るのみ。

 しばらく経ち、「ああ。」とウィズが息を吐く。


「じゃあ、教えてあげる。あなたはこれから、選択を迫られる。己か、他者か。その二者択一は、決して逃れられない。そして、その選択によって、あなたの物語が終わるか、それとも続くのか…………決まる。」


「抽象的ですね。具体的にはどうすればいいのです」


「教えない。それじゃあ、答えを聞いてるようなものじゃない。」


「それじゃあ意味がないでしょうっ」


「だから。私はいつも一つの方へと指を指す。そう、指を指すだけ。誘わない。進むか止まるか。それとも別の道をみつけるか。それはあなたが決める事。私はね、メアリー・スーにはならないの。」


 ウィズは、廊下の方へ人差し指を向けてそう言った。

 いや、おそらくその方向は、


「…………甲板ですか?」


「はてさて、それはどうかしら。」


 ウィズは悪戯に微笑んだ。それは、俺に解釈を委ねた本当に意地悪な笑みだ。

 でも、今はそれしか頼みの綱が無い。


「結構、失礼します」


「あ、待って。」


「なんです」


 「お代。」と、ウィズは掌を俺に向ける。

 ああ、ぼった来ると言っていたな…………、


「いくらです」


「一千万オウル。」


「あ、!?い、一千万!??」


 それは…………俺の一か月分の賃金とほとんど同じだぞ。じゃあ何か、俺に今月無給で働けと言うのですか!?


「そ、それはぼったくりを超えているでしょう」 


()()()()と言ったじゃない。それとも踏み倒してみるかしら。アナタに出来る?私は何でも知っているけど?例えばアナタの本当の名前とか。人身売買の業績を、お花屋さんとしか申告していないゆえの脱税とか…………その他にも、言いふらしたら…………きっと面倒事になるでしょうね。」


「っ…………」


 この女脅す気か。

 確かに今回は助言を求めに来たのは事実だ。ぼった来るとも言われた。

 でも、しかし、それにしてもだ。あらゆる事象を自身の暇つぶしに消化するような悪女に、とやかく言われる筋合いは在りませんよ。流石に少し、頭にきました。

 その旨を示すように俺は初めて睨みを利かせ、魔力を全身に流し始めたのだが、「ああ、荒事は辞めておきなさいな。」と、ウィズは軽く手を振っていなした。


「私がなぜ、アナタを毎回ここに招き入れていると思っているの。ねぇアポロ?」


「ゅ、キャネルさん、あの、俺を引き合いに出すのは…………止めてくれません?」


 別に疑うつもりはないが、苦笑しているアポロを、俺は下から上まで見つめ、吟味した。

 魔力量は同等だろうと思う。だが、それ以上に脅威は感じない。


「彼は…………お強いのですか。俺とそう変わらないと感じますが。」


魔力量(才能)はね。けれど、知識と技術には天と地ほどの差があるの。でもヤルと言うなら留めないわ。さ、()()()()()で刮目しなさい。魔の神髄を…………ね。」


「神髄、ですって。魔術王を差し置いて、なんとも大口をたたくではありませんか。」


「ええ。太陽の子アポロ・オーガス。少なくとも、彼以上に炎をうまく扱う者を、私はとんと認知していない。そう、それこそ…………魔王を殺し、世界を閉じる程のね。」


「魔王…………とは?」


「自分で考えなさいな。でないと、頭が固くなるわよ。」


 …………それ程なのか?分からない。どうなのだろうか。

 いや、俺を日和らせるための真っ赤な嘘かもしれない。そう思いたいのだが、俺としては、ウィズ・キャネルの言葉を噓だと思うのは危険だと直感していた。ともすれば、慢心ともいえるかもしれない。


「…………いいでしょう。払います。ですが今は手持ちがありません」


「ふふ、借金(リボ払い)でもする?」


「は、なんですそれは?」


「あら、ごめんなさい。知らないわよね。んーそうね。じゃあ、今度取り立てに行くから。アナタの屋敷、その何処かに置いておいて。」


「どこでもいいのですか」


「ええ。いいわ。金庫の中でも、自室の机の上でも。応接室のソファーの中でも。あ、トイレは辞めてね。それ以外ならどこでも。物があれば勝手に持って行く。無ければ、アナタが泣く事になる。」


 応接室のソファー。その隠しギミックもご存知か…………本当にこの女は…………、


「…………あなた、本当に何者なのですか」


 俺への返答は、ウィズが甲板へ向いていた人差し指を、自身の唇にあてる「シィー…………」という吐息で閉口させられた。


「今、アナタが優先すべきは、私への追及なの?違う。違うわよねアルマ。」 


 そうだ。確かにこんな所で時間を無駄にするべきではないだろう。


「…………では、失礼します」


 俺が足早に部屋を出て、ドアを閉める刹那。


「さようなら。私もしおりを抜いて、続きを読むわ。アナタのお話。その続きを。」


 愉しそうな含みを帯びた挨拶が、ドアの閉まった気圧差と相成り、俺の背中を押したのだ。

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