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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
三章『十格』

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04 三章 豪華客船 エピソード05 ??????・????

 エイダをロシノさんに預けたあとすぐ、二人はダースを追って甲板の方へと移動した。

 一方、単独行動となった俺は、ひとまずロビーに残り、バズ・ボーンとどのように接触するかと考えていた。

 何しろ彼は船員。話しかけるだけなら問題ないが、その職業柄、シフトや担当スペースを把握できぬ限りは視界に入る事すらないからだ。かと言って、適当な船員を捕まえ直接聞くのも警戒を敷くかもしれない。

 さてどうしたものか…………と、浮かんでは消えるアイディアがそのうち苦心へと変わり始めた。ただそれは、アイディアが底を尽き始めたからではなく、もっと別の理由である。

 それは、俺の周りにたむろする騒音。

 たとえば、


「お兄さん、お一人?」


「ちょっと。」


 とか、


「もし、時間があるのなら…………今晩お食事でもどうかしら?」


「ねぇ、私の声聞こえてる?」


 その他にも


「あの、先にお話を伺ったのはこっちなのだけれど」


「はぁ…………私を無視するなんていい度胸じゃない。」


 等々…………周囲を取り囲む女性の群れ。その他にもなぜかちらほらと男性の姿も見受けられ、ざっと見渡しても二十名はいる。

 エイダが傍を離れた途端これだ。本当に嘆かわしい。見た目に惑わされるなどその時点で願い下げである。


「皆さま申し訳ございませんが、人を待っている所。ですのでどうか、お引き取りを――――」


 諦めを促すため、半ばぶっきらぼうにも声を挙げた時、


「――――ちょっと、()()()。聞いているの?」


 人波を割って俺の間正面へ顔を出した女性は、俺の肩を跳ねあがらせたのだ。


「あら。アポロ…………じゃない?」


 絶句している俺の瞳に映るのは、壮麗な赤い髪で非常に美しい女性。彼女は珍しい白色の虹彩を白黒させ、なぜか驚いていた。

 俺は彼女を知っている。 


「ウィズ・キャネル…………」


「ん。アナタ、なぜ私の名を知っているの?」


 しまったと思った。思わず口を手で覆ってしまう程、迂闊にも口が滑ったのだ。

 相手はギルド調停官の可能性がある相手。少し前の失態――――エンバー・ライトに対してのバッドコミュニケーションが走馬灯のように脳裏をよぎる。


 いや、だが仕方ないだろう。これは事故だ。だって、彼女はアポロと口にしたのだぞ。


「ねぇ。言ってご覧なさいな坊や。なぜ、私の名前を知っているの?」


 その時にはもう、周囲の人波ははけていた。俺の待ち人が来たと思ったのか。それとも、彼女の見目麗しさには敵わないと退散したのか。それは分からないが、ともかく、今この場、この空間は俺と彼女の尋問場へと変わっていた。


「…………それは」


「それは?」


 口の中で舌を回し、口角が歪む。

 いかんともしがたい緊張感が俺の中を渦巻いていた。

しかも、その緊張感は薄まるどころか、更に引き締まるような出来事がやってくるのだ。


「キャネルさーん。何をして…………ん?」


 暢気な声音で近寄ってきた、その声とその褐色肌に白髪頭。十人中八人は振り返り、残りの二人は恋に落ちるであろう優男には見覚えしかない。


「アポロさん…………」


「え、俺の名前…………あの、どちら様ですか」


「え、いや。アポロ・オーガスさんですよね。スプーシャさん。は?」


「っ!お、俺のフルネーム…………」


 本気で驚いた。いや、警戒を敷いたと言わんばかりに、アポロは表情を引き締め優男を取り払って俺を眺めた。


「俺と同じ()()…………魔力量も凄まじい。まさか。いやそうだろう、でも、なぜこっちに…………あなた何者ですか…………スプーシャとやらは?」   


 ウィズと顔を見合わせ、戸惑いを独り言として吐き出すアポロに対し、俺はさらに意味が分からなくなる。

 何しろ、アポロはしらを切っている風でも、嘘をついている雰囲気でもない。「あの…………」なんて、頬を掻き、気まずそうに苦笑する様は、まさに人違いと言わんばかり。

 つまり、俺の事を知らないのだ。でも、確かに俺の目の前に居るのはアポロ・オーガスだ。


「どう、いうことです…………」


「えぇ?そ、それはこっちのセリフですよ…………誰かと間違えてるんじゃ」


 混乱が俺の思考を焼き切ろうとした時、ウィズは「少し待ってね。二人共。」と、二回柏手を打つとその状態で瞳を瞑った。その無防備な状態は数分間続いたのだが、突然眉間に皺をよせたのだ。


「そう。そんなことが。」


 困惑と動揺が瞼をピクピクと痙攣させていた。

 アポロはその様子を珍しいと思ったのか、恐る恐ると言った風に彼女の肩を掴んで揺らした。


「ちょ、もったいぶらず教えてくださいよ~キャネルさん」


 俺が以前であったアポロより少し無邪気な雰囲気を感じ、俺はまた訝しげにも片眉を上げる。つまりは、それだけウィズ・キャネルと親しい間柄であるとの証拠ではないか。

 ならば、スプーシャ・アールマティと一緒にいたあの男は、本当に誰だ…………。

 と、その時、


「あぁ…………じゃあこうしましょうか。」


 ウィズが、一人納得した感じで微笑みを浮かべ、俺を見た。


()()…………アルマ・サンて、呼んだ方がいいわよね。」


 その副詞にドキリとした。呼ばれたのも俺の名前に間違いはない。

 「なぜ知っている」と口を開ける前に、人差し指で唇を塞がれた。その意味は、ここからは私が話すとの意思表示であると同時、閉口しろと叱られた気分でもあった。


「ふふ…………さっきはごめんなさいね。アポロってよく女性を引き寄せるの。人だかりを見たらまず彼なのよ。それに、その中心からは『落胤』の気配もしたものだから。そうだと思い込んでしまった。」


 落胤。待て、それは、鬼畜クソ女が何度か口にしていた単語ではないか。

 俺はしびれを切らし、ウィズの人差し指を掴んで離した。

 するとそれを機に、


「少し、席を変えましょうか。着いてきて?」






                 ※※※※※※※※






「さ、入って。」


 先頭をウィズ。後ろをアポロに固められ、半ば連行される形で俺は豪華客船の最高グレードの一室へと招かれたのだ。

 何度か二人の顔を交互に眺めていると、「ふふ、取って食いやしないわよ」と笑われた。 


「失礼します」


 慎重に足を踏み入れ、室内を眺めようとしたのだが、


「そこへ座って。アナタの疑問に答えて上げる。」

 

 と、流れるようにアポロに椅子を用意され、俺は有無も言えぬまま、ウィズの対面へと座る。視線を彼女へ誘導される…………と言うか、まるでそちら以外へ向けられないよう、縛られていると感じた。

 その不思議な感覚に困惑していると、アポロはウィズの背後に陣取り、近衛兵のように控えた。


「さて、それじゃあ自己紹介からやり直しましょう。アナタのお名前は、なぁに?」


 名を知られているのだ。もう、今更だろう。


「俺は、アルマ・サンと言います。」


「えぇ、ええそうよ。自己紹介は自分から。それがマナー。礼儀がなっているじゃない。いいわ応えて上げるわね。私は…………そうね。今はウィズ・キャネルという偽名を使っている。」


 話してみてわかったが、彼女は韻を踏むというか、詩を謡うように話すため、些細な言葉でも歌詞のサビのように耳に残る。


「偽名…………では、何とお呼びすれば?」


「ふふ、ウィズでいいわ。キャネルでも。けれど、素性を探ることはお勧めしない。」


「なぜ」


「私達、フェルメニア大陸から来てるから。面倒事になってしまうわ。」


「あの、鎖国からっ?では、い、いま、あの大陸はどうなっているのですか」


 「教えて上げない。」と、悪戯にウィズは笑った。

 そして続いて意味深にも、「それはまた、()()()()だから。」と締めくくる。

 やはりとんだくせ者のようですね。

 でも、今は逐一言及している暇はない。それより気になっている事柄があるからだ。


「アポロさんとは、どういうご関係で」


「ああ、そうそう。それが聞きたかった事だったわね。いいわ。そちらは教えてあげる。」


 ウィズはアポロに指示を出し、お茶を汲みに行かせた。と言う事は、彼はこの話には必要ないのだろうか…………ますますわからない。

 俺がそんな風にアポロを目で追っていると、「まあ、そうよね。」と、ウィズは見透かしたように口を開いた。


「実は十年と少し前、とある物が盗まれた。私とアポロはそれからずっと、フェルメニア大陸を駆け回ったの。でも、結局私の占いにも引っ掛からず…………半ばお手上げ状態。なのに最近、不自然にも尻尾を掴んだ。それがここ、ヴァニラ列島。上陸したのは約三か月前になるかしら。」


「…………では、スプーシャさんは」


 丁度その時、「いやぁ、俺は知りませんね」とアポロは苦笑気味に紅茶を淹れ、俺に差し出してきた。

 受け取り、一口含むとホッとする。緊張が些かとんだ気がする。


「しかし、アポロ・オーガスさん、俺はあなたを見ています。もしや、アレは偽物であったと?」


「ふふ、彼に聞いても知らないわ。彼じゃないもの当然よ。知っているのは私だけ。ちなみに言うと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


「は?いや、ですが。」


「私は事実を述べている。なら、その証拠を語りましょうか。たとえばそう、アナタは最近、サディーの街へ行く道中、スプーシャ・アールマティと、アポロ・オーガスに出会ったのでしょう。」


「な、んでそれを」


「それだけじゃないわ。奴隷商アルマ・サン。」


 そんな馬鹿な。

 な、なんなのだ。この女は一体。これが占いの結果だとでも言うのですか…………っ。

 きっと、俺は今とても珍妙な表情をしている事だろう。

 しかし、ウィズはそちらには全く触れず、話を続けた。


「サディーの街では()()()が企てた脚本に従い、ポイストを貶め、姫を救出。()()()()はそれ以降お姫様と関りを持っている。」


 「どうかしら?」と、聞かれる前に俺は警戒心が爆発し、立ち上がってたじろいでいた。

 ウィズ。この女性は何者だ。表の名前でなく、裏の名前を次々言い当てるに飽き足らず、直近の出来事を事細かに知っている。

 

「占い師…………と、聞いていましたが、度が過ぎている。」


「ちなみに言うと、スプーシャ・アールマティについて、教えてあげる事は出来ないわ。これは、戒律に抵触する可能性があるから。」


 「さ、座って。」と、椅子をさし示され、俺は大人しく席に戻った。

 いや、戻らざるを得ない気がしたのだ。


「あなたは、ギルド調停官、なのですか?」


「へー…………ウィズ・キャネル()は今、そんな風に疑われてるのね。ちょっと、占いの精度を上げすぎたかな。失敗失敗。」


「どうなのですか」


「違うわよ。まぁでも一応、ギルドの人間ではあるけれど。私はね、フェルメニア大陸で、ギルド支部長をしているの。」


「なんと…………」


 支部長…………ときましたか。

 ギルド上層部は簡単に整理すると三層構造。上から、ギルド連盟、ギルド本部長、そして、支部長。

 ギルド本部長がその国のギルド全体を任されている者だとするならば、支部長は、その下部に位置する。権限は本部長や、本部長をまとめ上げるギルド連盟には劣るものの、しかし、ギルドでその地位に昇り詰めるだけでも偉業であり、下々からすれば雲の上の権力を持つ。

 くそ、まだギルド調停官の方がマシでしたよ…………、


「…………っ、では。俺を衛兵に突き出すのか」


「え。なんで。」


「俺は、悪人ですよ。奴隷商です。」


「そうね。でも、私はそう言うの、興味ないから。」


「どういう意味です」


「文字通り。ギルド支部長になったのだって、昔の教え子に頼まれたから渋々。私が興味関心が在る事は、人生と言う名の『書物』だけ。それを読んで(見て)どんな物語か楽しむの。だから、悪人だろうと、善人だろうと。そのどちらでもなかろうと…………その人生が起伏ある面白い物語なら、それでいいの。」


 どこか達観した言い分だが、俺にはとんと理解できない。

 人の人生を見て楽しみを得る?そんなのは、魑魅魍魎の思考回路だ。正気の沙汰ではない。

 でも、まだ聞かねばならない事がある。


「…………あの」


「ああ、落胤についてでしょう。」


「ええ、何故お分かりに?」


「なぜなぜなぜ。そればかり…………まぁ、いいわ、仕方ない。落胤と言うのは、とある美麗なる存在に一瞥を受けた者――――彼ら彼女らは皆、黒髪か白髪と決まってる。それは、大気中の魔力を過剰に取り込む体質(祝福)であり、先天性の障害(呪い)よ。願望を成就させやすく、本来ならば赤子の内に死ぬことが、ほとんどなのだけれど。」


 「偶に生き残る者がいる」と、ウィズはアポロと俺を交互に見やった。


「それが、俺。と、そこのアポロさんだと?」


「そう。生き残れたのは運が良かった。すると、呪いは祝福へと転じるの。膨大な魔力量はそれだけで他者の追随を許さない、絶対的優位性へと昇華するのよ。この世界に落ちて良かったわね。産まれてきてくれてとっても嬉しいわ。」

 

「なぜ、あなたがそのように思うのです」


「ふふ、秘密。でも、私がこんな風に祝い、言葉を掛けるなんて、とても光栄な事なのよ。」


「…………っまるで理解できない。あなたは一体、何を知っているのですか!?」


「何もかも。」


 その一言は、俺の中で『全知』へ置き換わって静寂が降りた。

 これまで聞こえていた潮風も、波の音も、全てが意気消沈したかのように絶え、彼女の言葉を引き立てた。

 まるで、彼女の言葉を遮ってはいけないと、世界そのものが平伏しているかのようだった。


「そう。全てよ。たとえばそう、アナタに憑いてる悪魔のことも。」


「まさかっ」


「ふふ、アナタが、唐紅へとギルドランクを上げた、いえ、上げてしまった所以――――あの()には近づくべきではなかった。」


「…………それすらもご存知か。いえ、今はいい。教えてください、アレは何なのです」


「アレは(バグ)った神々の一柱。それも結構大物よ。」


 そのとき、アポロはギョッとした様子でウィズの顔を覗き込んだのだ。

 その慌てよう、そして動揺から、重要な事であり、言わなくてもいい事であるのは火を見るより明らかだった。

 でも、ウィズは腕を軽く上げてアポロを下がらせ、ゆっくりと話を続けた。


「少し前、席替えが起こり、かつての神々は悪魔へと堕ちた。今では各々が造物主を探すため、独自に思考に走ったり、反してその場に留まったり、まぁ、人間にとっては理解できない行動を取るようになってしまった。アナタに憑いたそれもその一つよ。昔はとても愛情深い一柱であったと記憶しているわ。」


「そんな、馬鹿な。アレが神?!ありえない。信じられない」


「そう、信仰を失った神々の成れの果て。それが悪魔。問題はアレの成れ果てた原因が、人々からの信仰の廃れではなく、アレら自らが奉りし造物主が消えたことで、神々自身の信仰が穢れた事。ああなってはもう、どうしようもないわ。」


「あなたは、その事を知っていながら、どちらにも注意喚起を行わないのですかっ?」


 「ええ。だって」と、ウィズは瞳を引き延ばし、()()()()な笑みを浮かべた。


「攻略法が分かっている苦難では、流れ作業になってしまう。そんな怠惰は好みじゃない。」


 邪悪な笑みだ。あまりにも美しく、俺ですらその外面に騙されかける程の、蠱惑魔的で、魅惑的な甘美な微笑。

 決して関わってはいけない類の感情の発露に対し、俺は息を飲む。


「何もしないでいた方が、人々はあくせくと動くでしょう。困難に立ち向かおうと前を向くでしょう。私はそれを見ていたい。必死に決死に努力して…………悪徳正徳それら全て報われるその時を、私は手に汗握って見ていたい。だから私は静観するの。だから私は干渉しない。誰がどの道を歩むのか、それはその人自身が決める事――――自由意思に基づかなくてはいけないの。」


 そして、「だからこの際、()()()()()()()()()…………」と、ウィズは高揚したように、ともすれば嘲笑するように、声音を一段高くした。


「私は、私を含めたアナタ達を、あまねく人間その全てを、差別も区別も分け隔てなく、その悉くを愛しているのよ。」


 言葉の終わり、俺は目の前の壮麗なる赤毛の女が、人ならざる者に見えて仕方なかった。

 人間の精神性ではないと思った。

 彼女の言い分は、何一つ理解できない。楽を出来るならそれに越したことは無い。幸福を享受できるなら願ったりかなったり。それが普通だ。

 でも、ウィズはそれを良しとはしないらしい。

 彼女は言う。努力が報われて欲しいと。確かに聞こえはいいが、裏を返せば人々が苦しみぬいた末の結果が見たいとしか解釈できない。いや、それどころか、言葉の端々から自身が愉しむために、手を貸さないと言っているようにも聞こえる。


 これは、能動的な博愛主義などではない。

 これは、受動的な加虐主義だ。

 高みの見物と言う言葉が、これほど似合う女もいないだろう。


「…………背筋が凍りますね。もはや、まるで他人事で…………」


 惡神のようだ。そう言いかけた時、初めてウィズに苛立ちが見えた。


「その先を言えば…………私の機嫌を損ねる事になるわ。」


 本来であれば、ゾクリとする感情の発露であった筈なのだが、こと今回に限っては、彼女にも触れられたくない部分がある――――要は、ようやく人間臭さが香った気がして、逆に安心へと繋がった。

 おかげで素直に謝意を示せると言うもの。


「失礼しました。気分を害するつもりは、ありませんでした。」


「素直で結構。知りたいでしょう。悪魔祓いの方法を。」


「…………どうすればいいのですか」


「契約しなさい。アレと、真に主従の契約を。」


「な、冗談ではありませんよっ。そんなこと、御免被ります」


「でも、アナタとアレの契約(パスコード)は不完全。それだと、アナタの命令を聞かず、殺したところでアナタの魔力を糧に何度でも蘇る。それこそ、アナタが死ぬまでね。」


「それ以外に、手は?」


「造物主に抹消してもらう。でも、無理ね。造物主はもう居ないから。席替えの後、世界からは排斥されたの。」


「…………仮に、仮にです。契約するとして、どうすればいいのですか。」


「え。アナタがアレを助けた時と同じことをすればいいのよ。」


「…………アレと、俺の血をまた吞み交わすと?」


「正確には、魔力を体内に取り込めればそれでいいのだけれど。もちろん、その方法でも構わないわ。そしてその時は、アレの名を呼び、アナタもアレに名を呼ばれる必要がある。」


「名前を?」


「馬鹿にしてはダメよ。言霊と言うものがあるわ。中でも、名は体を表す。お互いに呼び合う事で、魔力の照合が終わるのよ。」


「それが済めば、奴は俺に従うのですね」


「ええ。主従関係たる契約だとあらかじめ了承しておく必要はあるけれど。」


「…………そうですか。分かりました。そうだ、一応聞きますが――――」


 と、ダメもとで口を開いてみたのだが、


「――――ん。ああ、違うわよ。私はノーフェイスではない。と言うか、こんなに鮮烈な美人が、犯人な訳ないでしょう?」


 と、逆にダメ出しをくらった俺は立ち上がった。しかし、立ち眩みでも起こしたかのように視界がぐらつく。いや違う。これは今までの常識が揺らいでいるかのような錯覚だった。

 数回深呼吸を行い、なんとか地に足を着け、踵を返すことに成功したのだ。


「あら、もう行くの?」


「はい、余りにも情報が多すぎて、一度持ち帰って整理しなければ、頭がパンクしてしまいます。」


「そ。じゃあ最後に一ついい事を教えてあげる。」


 まだ何かあるのか。俺が身構えた時、彼女は素晴らしい一言をくれた。


「エクシア。彼女の治療法について。聞きたいでしょう?」


「っあ、あるのですか!」


 思わず足元が揺らいだが、今回は喜びによる浮足だった。

 俺の反応に対し、「ええ。」とほほ笑んだウィズの表情は出会ってから、最も慈しみに溢れていた。


「その方法はどちらに?いつ向かえばっ」


「いつごろか…………それは明言出来ないけれど、もうすぐ、このヴァニラ列島に『()()使()()』がやってくる。」


 聞き間違いか、今何と言ったんだ?


「あの、もう一度お聞きしても?」


「魔法使い。」


 聞き間違いではなかった。

 しかし、魔術ではなく魔法…………知らない。俺はそんな単語、生まれてこの方、聞いた事も無い。


「魔法とは、『魔法使い』とはなんなのですか?」


「造物主と並び立つ、セリオン粒子の代行者――――使徒。かつては『α(アルファ)』の名を冠した万能なる者よ。」


「使徒とは?セリオン粒子…………なんですかそれは」


「詳しく踏み込むと、アナタの物語の本筋から外れてしまうから。説明はここまで。」


「い、いや、せめてその者の姿形だけでも」


「うーん…………そうね。胡散臭いわ。とてもね。」


「そ、それだけ。ですか?」


「そ。それだけ。でも一目見れば分かるわよ。きっと。きっとね。さ、部屋を出るといいわ。()()()()()()()()()()()()()()。」


「何の、話をしているのですか」


「決まっているでしょう。アナタの物語のお話。その一ページが捲られようとしているの。」


 と、ウィズは手を掲げ、まるで何かを床に落とすような所作を行った。


「さ、行きなさい。ありうべからざる七つ目玉の賽は今、アナタの眼下に投げられた。」

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