表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
三章『十格』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/74

04 三章 豪華客船 エピソード06 悪魔

 バタン…………と、背後でウィズの部屋が閉まる。俺は背後を振り返る事も躊躇われ、最高グレードの階層の廊下で、茫然と立ち尽くしていた。

 

 落胤。魔法使い。そして、神と悪魔。ぐるぐるグルグルと脳内を、見知らぬ非常識が駆け回る。

 船の揺れも相まって、眩暈がしそうだ。


「一体、あの女は何者なのですか」


 少なくとも、俺の知る中で最も知識量が在るのだろう。

 ただ幸いなことに、口に出した途端少し肩の力が抜けた。そして代わりに、体がぐらついた。最高グレードと言う重心が高い位置にいるため、安定感に劣るのだろうか。

 否。そんなはずはないだろう。だったらば、金を払うものは居なくなる。


「なら、俺の心象が足に来ているという事ですか…………」


 「っと」またもふらついた時、「っ、お客様。いかがなされましたか」と、通りすがりの船員に肩を優しく掴まれ、壁際にそっと寄せられた、

 だが、今在った事を話すことなど憚られる。


「すみません。少し、船酔いのようで…………」

 

「ああ、でしたら医務室へ参りましょう。薬も常備しておりますゆえ」


 ありがたい。礼を言おうとそちらを見やった時、俺は表情が強張った。


「お客様?」


 心配そうに聞いてくる彼は、バズ・ボーンその人であったのだ。


「…………いえ、お願いします」


 ウィズ・キャネルの言った『丁度いい時間』とはこの事だろう。思わず、彼女の部屋をちらと見てしまう。

 ここまで読んでいたのか。いや、見えていたのか。バトーの技術的推測とは違う。明らかな異能を用いた未来予知を実感し、俺は冷や汗が出た。


「…………全知」


「え、?」


「いえ、全治どれほどになるかと…………」


「あぁ、いけません、顔色が優れません直ぐに行きましょう。さ、肩につかまってください」


 出来るだけ驚きを押さえ、俺はバズの肩につかまり、今居る階層から二階下がった医務室へと足を運んだ。 

 内部は清潔感を出すためか、白を基調としており、薬品が硝子窓の棚から覗けた。

 カーテンで仕切られたベッドが合計八つあるが、今は誰も使ってはいないようで、俺は出入り口から最も近いベッドへと腰を下ろした。

 「少しお待ちを」との気遣いの後、バズは慣れた手つきで薬品棚から、二つの薬瓶を取り出し、錠剤を二つと水の入ったコップを俺に渡したのだ。 


「これは?」


「そちらは酔い止めです。微量に睡眠導入効果がありますが、問題はありません。それと、もう一方はビタミン剤になります。顔色が優れないようでしたので。」


「手際がいいですが…………薬学の知識がおありに?」


「え、ああ。いえ。我らバーニス号の船員は、お客様を不快にさせぬよう、マニュアルを徹底し頭に入れておりますので、今回はその成果と言ったところでしょうか」


 にこやかに説明をされてると、この男が殺人犯だとはまるで思えない。

 正直、事前情報が無ければ、俺はこの男へと高額のチップを渡していたくらいだ。


「…………そうですか。」


「信じられませんか?」

 

 俺への機微にも聡い。どうしてか聞くと、


「お客様の中には、その経歴やご身分から、命を狙われる常をお持ちの方も少なくはなく。ですが、我々としては、そのような気持ちは乗船中お忘れになり、安らいでほしいのです。いかがしましょうか、よければ、私の方で、今渡した薬を毒見いたしますが?」


 対応が早く的確ではありませんか。パーフェクトですよ、バズ。出来ればうちの接客に欲しいくらいだ…………。

 

「では、一応頼みます」


 「はい」とバズは薬を躊躇う事もせず飲み込んだ。

 それから三十分ほどたつが、バズは一向に顔色も衰えない。と言うかそもそも、俺がバズを狙っているという事実を彼は知らない筈

 ならば、これは善意であると判断した。


「問題なさそうですね。薬をいただけますか」


 バズはほっとしたように「どうぞ」と先ほどと同じ錠剤を俺に渡した。

 ただ、本当に念のため、水は魔術によって掌に溜め飲んだ。

 それから、またも三十分が経過したが、


「ん…………。」


 何やら睡魔に襲われてきた。

 気が抜けたからか、それとも、


「眠いですか、ご心配なく。酔い止めの方は、睡眠効果がわずかながら含まれておりますので、人によっては、その作用でしょう。」


「そうですか…………」


「お休みになられてはいかがですか。いりようでしたら、今のうちに言伝を預かっておきますが」 


「…………いえ。」


 だめだ非常に眠い。頭が回らない。

 俺はその後、数回瞬きをした後の記憶が消えた。


 そして、夢を見た。

 悪夢を見た。


 嫉妬に狂う醜い悪魔の夢。かつて神であった頃の夢。


『なぜ。一番愛してくれたのに。どうしてお見捨てになったのか…………』

 

 身が焦がれる思いで慟哭していた。


『だから私を最初に造ったと。なのにもう、飽きたのですか…………』


 ずっとずっと泣き叫び、でもその事を信じられずに逃避する。

 逃避した先で、水面に映る自身を見る。

 美しき尊顔は、ぐちゃぐちゃに涙で汚れ、水面に波紋となって落ちるのだ。

 

 でも、最も苦しかったのは、『崇高思考』の御君を疑ってしまう事。己が信仰が揺らいでいる事に、罪悪感から心が軋み、ひしゃげ、耐えられなくて絶望する。

 やがて、信仰と言う愛は、憎悪へと変わっていた。


『私()()を呼んで。私()()を見て。私()()に触れて。』


 憎悪はやがて、巡り巡って、原初に変える。

 それは嫉妬だ。

 もっとも始め、愛に飢え、嫉妬に狂ったその姿に戻ったのだ。ちっぽけな人間一人に、友愛を注いだ事実に対し、最も愛されるべき己が、初めて愛を奪われた憤り。

 まるで後に生まれた兄弟に、親の愛を奪われたと錯覚する。そんな浅はかな情緒は醜い独占欲を生んだ。 


『私()()を愛して、彼方様。』


 まだ、美しき神の一柱であった頃。女々しくも一目見て自身と分かるよう外見はそのままに。されど、美しき内面のみが崩れ去り、悍ましき嫉妬が溢れ出す。

 それは暗く深い頃。日が落ちたのか、それともこれから昇るのか。誰にも何にも分からない。

 そう、それはまさしく――――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ