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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
三章『十格』

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04 三章 豪華客船 エピソード04 乗船

 そして乗船当日。幸運なことに今日は晴れ。波も弱く、航行に適した天候となっており、夏の日差しも潮風に追いやられるように清々しく心地いい。

 港に着いた俺は蝶ネクタイのスーツ姿。エイダも群青色のシックで瀟洒なドレスに身を包み、身なりは万全に整えていたのだが、それでも周囲の乗船客と見比べれ目立つことは無い。


 それれもこれも、上流階級御用達がゆえんだろう。最も多い種族は人間であったが、もう半数は様々な種族だ。

 たとえばエイダ以外の身なりの良いエルフもちらほらと見受けられ、総額いくらになるかもわからない、装飾や美容の成果たる美肌が日光で輝いていた。

 その他にも獣人(ハーピー)や、人間との混血と思わしき人狼。赤い瞳の者も居たのでおそらくアレは吸血鬼だろうか。

 最も目を引いたのは、珍しい種族の――――下半身と顔が蛇――――竜族であった。彼は見るからに奴隷のような人間の召使を連れてきている。


 その状況に対しては「ロシノ様、アレは…………」とエイダが思わず心情を吐露する。

 しかし、返答はそっけない。


「あんま、ジロジロ見んなよ。違法だがお偉いさん(奴ら)が白と言やぁ、それは白だ。」


 そして、俺へジロリと右目が向いた。


「マル坊。お前の仕事は、ああなる覚悟があってやってんだろ。一々ショック受けてんな」


 俺は首肯し、エイダを窘めた。

 当然だ。だからこそ、一般人を俺は売らない。

 だからこそ、俺はあんなものを見ても、憤らない。ただ、罪悪感が俺を人間たらしめてくれるのみ。


「ほれキビキビ動け。よそ見してねーで、荷物を渡してこい」


 言われるまでもない。俺とエイダは荷の積み込みをしている船員へ荷物を渡し、早々に船へと掛けられたタラップを上り乗船した。


 内部は流石は豪華客船といった感じ。

 まずは「乗船券を拝見いたします」と、多数いる事務的で感情を排したフロントマンの一人に声を掛けられる。

 俺の担当者は長身であったため、事務的な動作が加わると些か圧迫感があったのだが、素性の照合が済むと、打って変わりにこやかにも「お楽しみください」と、ロビー部分へと促された。


 円筒状のロビーは乗船客が最も目にする部分であるためか、壁には所狭しと名の在る芸術家の品々が飾られ目を楽しませる。中央にはブロンドで象られたどこかしらの女神像が鎮座し、その天井には本物の宝石が意匠としてはめ込まれたシャンデリアが備わっている。中心の空間を囲うように歪曲した階段が左右に取り付けられ、各々の船室へと誘っていた。

 一見して豪華絢爛。色鮮やかな華やかさであろう。

 しかし俺からすると、窓から入り込む日光で、シャンデリア等の宝石類が無駄に輝いており、眩しく、華美であると映った。

 

「成金ここに極まれり。悪趣味ですね」


「口じゃなくて足動かせマル坊。行くぞ」


 俺のイチャモンに対し、ロシノさんが更にイチャモンを付ける。このやりとりも懐かしいものだ。思わず「フン」と笑い、俺とエイダはロシノさんの後を追い、各々船室へと移動した。

 当然であるが船室にはグレードがある。景色が一望できる上階に行くほど、値段が指数関数的に跳ね上がるのだ。

 もっとも、今回は遊びに来た訳ではないため、俺達の泊る部屋は最低値。ほとんど最下層に位置し、ここより下は船員の寝泊まりするスペースだったと記憶している。


「じゃ、荷ほどきが済んだらロビーに集合してくれ」


 船室内に入ると、俺達が渡してあった荷物も揃えて床に置いてあった。他の設備は必要最低限の生活用品とダブルベッド。大金をはたくのならば些か不満が残る印象を受ける。

 ただ、一応は豪華客船であるためか、最低価格でもベランダと椅子が備え付けてあった。

 とは言え、ベランダの下はすぐ海だ。荒波が立てば、窓に打ち付けてくるのではないかと心配になる高さであるためか、ベランダに置いてある物は、例外なく船体と癒着してあり移動や海上へ投げ出されないようにとの措置済みであった。


 ちなみに言うと、ロシノさんはなぜか一人部屋。俺とエイダは夫婦と言う体なので同室である。

 いや、そう言われたからエイダを指名したというのに、


「詐欺でしょう。なぜあの人は一人なのですか…………」


「も、申し訳ございません、アルマ様。お目汚しになるようでしたら、わたくしは湯船か、ベランダで寝泊まりいたしますが?」


 おっと、今のは配慮に欠けていましたね。

 俺は咄嗟に首を横に振り、「いえ、失敬」と声を挙げた。


「あなたと寝食を共にする事を嫌った訳ではありません。忘れてください、エイダ」


 荷解きの最中、「御意」とのお辞儀を貰うが、それ以上の補いはしない。だって、下手に刺激すると彼女が興奮していらぬトラブルを招く。もちろん、叱責が重なれば今度は病んで首を斬るか、最悪身投げするかもしれない。

 ゆえに、今回の二週間。俺は出来るだけ彼女と中立的な距離感を保つと決めている。


「エイダ、この二週間は仕事ではありますが、慰安の意味合いも兼ねられる。適度に力を抜いてもらって構いせんよ」


「え、そ、そんな…………よろしいのですか?」


「ええ、二言はございません。あと、服装もカジュアルに落としなさい。乗船時はドレスコードを求められますが、それ以外では夕食時の社交界やダンスホールくらいでしか使う事は在りませんから」


 「かしこまりました」と恭しくも一礼をし、エイダは数着手に取ると、バスルームで衣装替えを行い始めた。

 それを機に俺も普段の衣服へと変える。正直、蝶ネクタイのような首を絞めつける類は好きではないからこれ幸いだ。

 そうして俺は、オーダーメイドで作らせたシャツとズボン。地味だがいい生地を使っていると理解できる装いである。

 一方エイダは、体のラインが出るシックな装いはそのままに、耳にピアスをし、バスローブのような露出の高い衣装へと変わっていた。


「…………あなた、それは破廉恥が過ぎるのではありませんか。あまり目立ちすぎても支障をきたしますよ?」


「あら、そうでしょうか…………では、他の物へ変えてまいります」


 苦笑気味にもエイダは再度衣装を変え、最終的にはタイトな黒のノースリーブワンピースの上から、ジャケットを羽織るようなコーディネートに落ち着いた。


「どうでしょうか」


「先ほどよりは改善されましたね。あとは、他のお客と見比べ、今後調整していけばよいでしょう」


「…………そう、ですか」


 ん?なんですかね。落ち込んでいるようですが、また失言でもしたでしょうか…………。

 少し観察していると、エルフ特有の長い耳が、意気消沈で垂れ下がっているなと視界の端に映った。するとその時、なんとなくその理由に目途がついた。


「ああ、俺がサディーの街で買ってきたお土産ですね、その耳飾りは。似合っていますよ」

 

「っ!あ、ありがとうございます。」


 分かりやすい。耳がピコピコと動いている。と言う事は気分は持ち直したのだろう。

 

「さて、では行きましょう。ロシノさんも首を長くして待っている筈です。」


 「はいっ」と浮かれた返事を聞き、俺達はロビーへと戻った。

 女神像が鎮座するロビーを下に見る、階段の上に来ると、とある絵画をボケーと眺める見知った黒髪が居た。

 「早いですね」と階段を降り始めた時、


「危ないっ」


 俺の死角でエイダの悲鳴が聞こえた。

 何事か。弾けるようにそちらを見やると、子供が足を滑らせた瞬間が見え――――刹那。滑落音の中でエイダが子供を庇うように、己を犠牲にしていたのだ。

 踊り場で止まった事は幸いだろう。そのまま下まで転げ落ちていれば、最悪大けがものだ。

 突如として起こったアクシデントに対し、一瞬辺りは唖然と静まり返ったが、子供の親であろう身なりの良い女性が即座にも静寂を破り、子供の下へと走り寄る。

 そして、女性はすぐさま子供を抱き起し、何度もエイダへとお礼をしたのち、気まずさからかその場を逃げるように後にしたのだ。


 残ったのは、苦笑しながら立ち上がるエイダと、彼女へ対する賞賛の拍手であった。


「あ、アルマ様、お騒がせしてしまい、申し訳ございません」


 エイダはジャケットの襟を整える所作を持って、俺へと謝意を示した。その際、ちらと見えたその腕は、青黒く変色していた。おそらく庇った際の怪我だろう。


「…………いえ、結構なお手前でしたよ。」


 ただ、俺は怪我は直さなかった。だって移動に困る足ではなく腕だ、その程度直す必要もない些事。それに、美しい勲章だ。

 俺は些か気分をよくし、歩みを軽くしながらも、絵画を見つめるロシノさんの所へと近づいた。


「おお、お前はいつも俺を待たせんなァ…………あぁそれと、さっきなんか騒がしくなかったか?」


 エイダの事だろうが、別に自慢する事でもないため、俺は話をそらした。


「それより、何を見ているのです」


「ん?ああ、これは…………無色の竜だってよ。知ってっか?」


 タイトルには確かにそう書いてある。絵は、一頭の竜を大迫力で表した色彩豊かな一品だ。目の端に映れば、自ずと引き寄せられる魅力がある。

 ただ、


「あなたが、絵を見て情緒を乱すことがあるとは思いませんでした。どのような曰くが?」


「知らねぇから聞いたんだぜ、俺が詳細分かるかよ。エイダさん、あんたは?」


「いえ、わたくしも存じ上げませんわ」


「そりゃそうか。フェルメニア大陸産らしいからな」


「なぜわかるのです?」


 「ん。」とロシノさんの親指が指した絵画の端っこに刻まれた作者名は、フェルメニア大陸訛りの綴りだった。


「なるほどそのようですね。して作者は…………ベレト・シェヘム。確か、黄金ランクの錬金術師…………でしたか」


「よぉく知ってんなァ、お前。そうそう、空に触れた天才、空触のベレト・シェヘム。芸術家としても知られてるらしいが、フェルメニア大陸の鎖国後は後続作品が手に入らないってんで、特に価値が上がってんだとよ。これだけで一生食いッぱぐれねぇなぁ…………」


「あなた、盗もうなんて思っていませんよね」


「……………………」


「おい、無言は辞めろ、せめて繕え。」


「冗談冗談。へ、へへ…………さ、さてと。作戦はじめっか」


 この男…………まあ、今後は絵画の数を確認しておけばいいでしょう。


「それで、ダース・ヴヴィブントはどちらに?」


 聞くと、ロシノさんの右目がピクリと左を向いた。その視線に釣られるように、俺とエイダも不審感を抱かれぬ会話しながら位置を調整し、顔を向ける。

 すると、居た。長身痩躯の中年男性が、酒を片手に談笑している。その相手は盛り上がり方からして、おそらくは知り合い以上友人だろうか。


「乗船は一人だったが、友人たちはボッシュ港に来る前に乗り込んでたんだろう。で、ここで合流って訳だ」


「バーニス号はヴァニラ列島各港へ停泊しながら、二週間の遊覧ですものね。ロシノ様達と言えど、流石に全ての動向を把握するのは難しいと言ったところでしょうか?」


「そゆことよ。ま、標的が囲まれてたとしても、必ず一人になる時間は訪れる。トイレだろうと寝こみだろうとな。問題は、証拠を押さえた後じゃなきゃぁ消せねぇってことだ。」


「ただ、何度も言いますが、俺は決めつけてかかるのは良くないと思いますがね。ウィズ・キャネルはともかくとして。バズ・ボーンくらいは誰か付いた方がいいのでは?」


「だがなぁマル坊、言ったろう?目撃証言じゃ、()()()()()だったんだぜ。バズ・ボーンは中肉中背、平均的身長だ」


「…………まぁそうなのですが。」


「アルマ様、気になるようでしたら、どうぞ、わたくしをお使いくださいませ」


 ふむ、しかしだ。相手は顔剥ぎ犯。もちろんエイダが遭遇し返り討ちに合うとは思えないが…………そろそろ、あの鬼畜クソ女も蘇る頃合い。

 出来れば二人以上で行動してほしい所。


「いえ、ならばやはり、俺が付きましょう。ロシノさんはエイダとダース・ヴヴィブントを調べて欲しいのですが」


 とロシノさんを見ると、苦笑気味に頬を掻いている。


「はぁ…………ほんと俺の言う事きかねーなお前は…………もういい勝手にしろ。ただ、騒ぎは起こさねーでくれ」


「ええ、もちろんです。では、エイダ」


「はい、アルマ様」


「ロシノさんのご迷惑にならぬよう、そして、己が身は己で守りなさい。あなたは俺にとってただの駒。何があろうと、助けに行くことはありませんので。」


 「厳しいねぇ~」なんて、ロシノさんは口笛を吹いて茶化すが、


「…………委細承知しています」


 エイダは表情を引き締め、決意を示した。

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