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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
三章『十格』

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04 三章 豪華客船 エピソード02 出発準備

 幹部会が終わり四日後。俺は自室に居た。旅行カバンを開き、最終確認をしている所だったのだ。

 何しろ明日にはトグサの街を発ち、ボッシュへと馬車で向かう算段が付いている。

 一つ一つ指さし確認をし、問題ない事を念入りに確認した。


「これでよいですかね」


 と確認を込め呟き、二週間分の衣服と生活用品をカバンに詰め込み閉じた。

 正直、荷物の用意など部下に任せてもいいのだが、俺が必ず持って行く物品は種類が多く、逐一説明するのも面倒だったので、自身で行ったのだ。

 続いて、準備を手伝わせていた者へと顔を向ける。


「フェリル、エクシアのお世話頼みましたよ。」


「押忍。常日頃、愚妹をかまっていただき恐縮です。屋敷の事はお忘れになり、ごゆるりと」


「ははは、そう言う訳にもいきません。相手はロシノさんですからね」


 そう苦笑すると、フェリルは珍しそうに首を傾げた。


「何か疑問でも?」


「ロシノ様と、アルマ様は…………どのような関係なのですか」


「はて、知っているでしょうに。俺が一人立ちするまでの約五年間、彼らに世話になっただけの事」


「しかし、それにしては…………命令を受けたというのに、気にもしていない様に見受けられるのですが。」


「ほぉ…………言いますね、フェリル」


「すんません。出過ぎた真似を…………」


 ふむ、しかしながら、フェリルがここまで首を突っ込んでくるのは珍しい。

 と言う事は、


「誰に聞けと言われました?」


 「あ、はい。」と、フェリルは素直にも部屋の扉へと顔を向け、「その…………」と逡巡した。


「はぁ、誤魔化すならもっと上手になさい、フェリル。誰です、この話を盗み聞こうとしている不届きな輩は?」


「エイダです――――」


 白状した瞬間、ドアが勢いよく開き、慌てた様子のエイダが飛び込んできた。 


「――――ちょっとっフェリル!?」


「俺のセリフですよ、エイダ。遠回しに嗅ぎまわるような真似を…………不愉快です」


「も、申し訳ございません、即刻――――」


 と言い終える前に、フェリルへ指示を飛ばし、エイダの手からナイフを取り上げた。

 

「――――自害はお辞めさない。で、どうしてこのような真似を?」


「その…………先にフェリルが代弁した通り、アルマ様はロシノ様の言い分を鵜呑みする事が多いので…………まさか、弱みでも握られているのではと。」


 弱みですか。まぁ、言いえて妙と言うか。当たらずとも遠からずと言いますか。


「アルマ様に諭すような言葉を掛ける無礼、先にお詫び申し上げます。が、知っての通り、わたくし共の生きる世界に法律は適用されません。契約も義理も人情も上辺だけ。あるように見えたなら、それはペラペラの紙一枚よりさらに薄く、打算にまみれた利害関係のみ。信じられるのは己のみ。他者を頼れば足元をすくわれ、骨の髄までしゃぶりつくされてしまいます。」


「口に出すまでもありませんね。要らぬ思いです。もっとも、事これに関しては、ですがね…………」


「…………それは?」


「ロシノさんとフォリアファミリーには大変お世話になったのです。俺が裏で生きる上で必要な事は全て彼らから教わりました。一般人を狙わずとも悪徳を積むことのできる手法も含めてです。」


「恩返しであると?」


「ははは、まさか。俺にそのような人情は備わっておりません。これはビジネス。彼らは一般人を狙わない。ゆえに、俺も提携を許すのです。ただそれだけの事」


「左様ですか…………承りました。それと、出過ぎた真似をしてしまい、重ねてお詫び申し上げます。」


「ええ、二度と同じ真似をせぬよう。ですが、もし、もしもです。それでも知りたいというのであれば、カイニスにでもお聞きなさい」


「カイニス、ですか?」


「そう、彼はフォリアファミリーではありませんでしたが、俺との関係は長い。当時の事もよく憶えているはずです。」


「かしこまりました。」


「よろしい。それで、エイダ。あなたこんな所で油を売っていて大丈夫なのでしょうね。出向は明日ですよ」 


「はい、勿論に御座います。既に荷物の整理も終え、馬車に積ませた後にございます」


「おや、早いですね。ならばよいでしょう。俺はこれからバトーの所へ行きますが、構いませんね」


 しゃなりしゃなりとお辞儀したエイダに追随する形で、フェリルも部屋を去って行った。






                ※※※※※※※※※※※※






 部屋を後にし、俺はバトーの待つ、普段は使われていない別室へと向かった。

 途中、俺を探す書類を持ったミシェルを廊下の奥に発見し、仕事を振られてはたまったものではない。と、別のルートを通ったせいで少し遠回りになってしまったが、


「お待ちしておりました。アルマ様」


 室内に入った時、バトーは厳かにも立ち上がり、一礼を持って俺を対面へと座らせた。 

 そして、俺の左目を見て、少し心苦しそうに聞いてきたのだ。

 

「その、義眼のお加減はいかがですか」


 俺は義眼を指で叩き、硬質な音を立てて笑った。


「図太いもの言いですね、バトー。あなたのせいなのですよ」


 俺が皮肉を込めて足を組むと、バトーは恐縮した様子で気まずそうに咳ばらいをし、視線を伏せた。


「意地悪な返答でしたか。まぁ、気にする事はありません。」


 実際、この義眼は高性能だ。バトー曰く、最近発明された土魔術と風魔術の複合『陣』を刻印されているとの事で、視覚情報を得ることは出来ないが、右目と同調するように義眼の視線も動くのだ。

 おかげで、ロシノさんも俺が左目を無くしたことは気付いていないようだった。


「思いのほか、違和感は在りませんよ」


「そ、うですか。いえ、ならば何も言うことはありますまい」


「ははは、あなたは本当に、上からのもの言いが板についていますね。流石は宮廷魔術師様。それは不敬な物言いです。」


 バトーはギョッとした風に言葉を詰まらせた。

 ただそれは、俺に対する敬意を持っているが故の不覚であることは、その態度と表情から読み取れる。

 宮廷魔術師――――国の中枢が俺に傅いているのだ。気分がいい。多少の事は目を瞑りましょう。


「とは言え、逐一沈まれていては話が進みませんね。さて、今回俺を呼んだのはなぜです?」


「ええ、実はお耳に入れたい事がございまして」


「その言葉、つい最近も聞きましたが…………また、何か企んでいるのではありませんよね?」


「いえ、滅相もございません。今回はワシの手を離れたところでの噂です」


「おお!と言う事は、俺の字に対する進捗が?」


「は?」


「ん?」


「え?」


「え、とは…………違うのですか?」


「あ、ああ申し訳ございません。別件で。」


 なんだ。がっかりだ。嘆息も出ると言うもの。


「はぁ…………では、一体何なのですか」


「フォリアファミリーについて、なのですが」


「ん、何があったのです」


「近年、フォリアファミリーの頭目が代変わりし、長男へ引き継がれたことはご存知かと存じます」


「ええ、それが?」


「引き継がれたのは、ファミリーの名だけのようでして。これまでは、秩序が取れていた彼らの動きが荒れている。仕事も一線を超える事が多くなった。と、聞き及んでおります」


「一線…………と言うと、まさか一般人に手を?」


「危ういところまで行った。と、聞き及んでおります。ただ、その時には衛兵が駆けつけ事なきを得たとも。」


「…………その失態を起こした者は、ケジメを付けたのですか?」


「分かりません。ですが、その後その者を見る事は無くなった、とは聞いております」


「…………そうですか。」


 俺は一旦考えるため深呼吸をし、思考の海へ沈んだ。

 フォリアファミリーは構成員二千超ある、このサディーの島でも十本指に入る大組織。 

 だが、俺がそこへ所属している時は、その様なミス徹底し起こらなかった。むしろ、ボッシュの住人からは用心棒のような存在として認知されていた。それゆえに、フォリアファミリーが危うい立場になった時には、ボッシュの住人が弁護を行うという、他では見られない異様な光景まで目撃したこともある。


「にわかには信じられませんが――――」


 思考の海中から息を吐いた俺に対し、バトーは海面へと引き上げるように言葉を引き継いだ。


「――――事実です。アルマ様。」


「ええ、あなたが言うのであればそうなのでしょう。残念ながら、今の頭目――――ガーベラス・フォリアは…………第一に金を重んじる守銭奴。先代たる親父殿とは似ても似つかぬ思考の持ち主ですから…………」


「如何いたしましょう、アルマ様。ワシの伝手を使い、もう少し探りを入れましょうか?」


「その伝手、探りを入れている事がバレない者でしょうね?」


「アルマ様ともあろうお方が…………気付かれると、何か問題がおありなのですか」


「大ありです。先の幹部会では無用な角が立たぬよう端折りましたがね。今、俺はフォリアファミリーにとって、目の上のたんこぶと成っているそうなのです。それもこれも、あなたがサディーの街で暗躍したが故なのですよ?」


「…………っ…………面目次第もございませんな。では、落ち着くまで探りは控えましょう。」


「ええ、そうしてください。ただ、動こうと思えばいつでも動けるよう、配置は徹底しておいてほしい」


「承知いたしました。御身のご意思に従います」

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