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ド外道奴隷商くんと鬼畜クソ女ちゃん  作者: スヤニカ
一章 惡の華 リンドウ

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02  一章 惡の華 エピソード03 シュバルの街の賭博場

 露店立ち並ぶ通り道から、シュバルの街北側へ。

 屋根伝いに空を駆け、人目の付かない路地裏から下道へと戻った俺は、目的地である賭博場の目と鼻の先へと来ていた。

 

 ここに来るまでの間、下道を歩いていると、三度ほど道行く人の層が変わっていた。

 最初はよく見る一般人。可もなく不可もなく、普通の人種だ。続いて、賭博場に近づくにつれ、派手な服装や、大枚をはたく身振り羽振りの良い人物が目に付くようになった。彼らは皆、浮かれた様子だったが、その様子を恨めしそうに遠巻きから見られている事に、気付いていないようだった。

 そして今。賭博場の敷地内では、人種が二極化していた。


「…………終わりだ…………明日から俺はどうすれば…………」

 

 と、頭を抱え、肩を落として去る者や、茫然自失といった様子で、膝を抱えて動けない者も居た。

 でも逆に、


「ん~っま!おい、俺は今日から仕事を辞める!!アッハッハッハ!!!!」


 なんて札束にキスをし、大声で無職宣言をのたまう者。

 またある者は、大金を持つこと自体初めてなのか、欲に目がくらみ、たかられている事に気付きもしない者も居る始末。


「これはこれは…………大層繁盛しているようで。」


 俺はポツリと口の中だけで呟き、有象無象に顔は向けないまま、視線で様子を伺うのをやめ、何食わぬ顔で賭博場のゲート――――店番の男二人の前へ着いた。


「失礼。お客様、会員証を拝見したいのですが」


 男の一人は寡黙そうな物調面。俺に話しかけてきたのは、もう一人の方。彼は屈強な肉体で衣服を下から盛り上がらせていた。


「すみませんが、俺は初見です。会員登録しなければ入ることは出来ませんか?」


「不可能です。これはお客様の身の安全と、不正を未然に防ぐためのもの。ですがご安心を。年会費は無料ですし、登録自体は数分で済みます。まずは、『身分証明(ギルドカード)』の提示をお願いいたします。」


 男は脳みそまで筋肉で出来て居そうなのに、思いのほか流暢に話す。もしくは、流ちょうに話せるほど、その文句が喉に染みついているのだろう。

 まぁ、俺としてもここまで来て内部を見学できないのはいただけない。 


「分かりました。登録をお願いします」


「承りました。少々お待ちを。」


 直後、「おい」と筋肉マンは、寡黙な物調面に俺のギルドカードを渡し、賭博場内へと下がらせた。

 ただ、そうなると待ち時間が暇。手持無沙汰となる。これはいただけない。

 時は金なり。たとえ休暇中であろうとも、商人たるもの常に一石二鳥を得るために行動しなければならない。あぁ、なんと勤勉なのだろう。自画自賛も思わず零れると言うものだ。


「待っている間、こちらの説明をお聞かせしてもらってもよろしいですか?」

 

「…………構いませんが、当賭博場の詳細な説明でしたら、会員登録の後、担当者より声出しがありますが?」


「ええ、俺が知りたいのは、従業員規則や、不審な者の見分け方ですので」


「どういう意図がおありで?」


「いえ、勘違いしないで欲しいのですが、不要なトラブルを起こすつもりは毛頭御座いません。」


 「ただ」俺は半身翻り、賭博場の敷地内の二極化を前置きとして、肩をすくめてみせた。


「彼らのように、錯乱した危険な人物から身を守りたいのです。ほら、もしも大金を手にしてしまったら、そういう知識はいりようでしょう。それに、目に見える危険人物なら対策できても、潜んでいる者を見抜くのは至難の業です。」


「…………では、従業員規則の方は?」


「同様です。ここ以外にも賭博場には幾度か足を運びましたが、その際、覆面衛兵が大金を手にした者を捕えていくのを見ましたので。従業員の方なら、そう言った方を見分ける嗅覚…………いや、『体系』が出来上がっているのではないかと思った次第です。これまでにも、俺意外に聞いて来た者はいなかったのですか?」


「いえ、ごまんと…………。」


 当然だ。皆考える事は同じ。金が欲しく、その金を守りたい。

 そうでなければ俺だって、こんな注意を引き、警戒を強めさせるような怪しい質問を、迂闊にも口にはしない。


「でしたら、お教え願いたいのですが」


「確かにそういった該当項目はございますが、内部秘となっておりますので――――」


 その時、俺は()()()()()()、弱者を演じ、懇願するように見つめた。

 そう、賄賂だ。


「――――お願いいたします。どうか」


「……………………っ!」


 男は自身の手から零れそうになった紙幣を見て、にやけを隠しきれていない。つまり、買収成功と言う事だ。

 実際、男の葛藤は一瞬だった。瞬きをする振りで視線を上下左右に警戒を敷いた直後、誰にも見られていない事を確認した男は、サッと金を懐へ忍ばせ、「これは独り言です…………」と語りだしたのだ。


「…………まず、衛兵は外部に特徴を出す服装はしません。質素以下の素朴な姿が多い。でも、目が座って、視線だけを異様に動かしている事。あと、特定のルートを持って巡回していることも多々あります」


 なるほど。ここまでは他の賭博場でも聞いた事がある。既知だが有益だ。統計が取れる。統計が取れれば警備網の取捨選択が出来る。取捨選択が出来れば、自ずと人員を最小限に抑えられ、経費削減となる。

 あとは、賭博場内の配置だな。彼の言葉を信じるならば、ルート巡回の表側には無難な賭け事しか置いてはいないだろう。問題は、その無難な賭け事と難儀な賭け事の判断が、俺にはまだ難しいところだ。


「なるほど。ありがとうございました。」


「独り言です。」


「そうでした。」


 その時だ。


「戻ったぞ。お客様。会員登録が済みました。どうぞ」


 寡黙な物調面が、ギルドカードに加え、新たに俺の会員証カードを渡してきた。ゲートの奥を見やれば、破廉恥な服装をした従業員の女性が、「こちらへ」と接客スマイルで出迎えている。


「ありがとうございます。では、楽しんできます」


 俺は悠々と門番二人の間をすり抜け、薄皮一枚張り付けた様なパンツルックの担当者の下へ移動した。


「初めましてお客様ぁ。」


 その喋り方はとある鬼畜クソ女を彷彿とさせ、俺は無意識に手を固く握っていた。

 対して、担当者は俺の機微には気付かず、マニュアル通り話していく。


「わたくし、初回のご案内をさせていただきまぁす。キャサリンですぅ」


 とは言うがどうせ源氏名(ニックネーム)だ。

 こういった場所で本名を名乗れば、ストーカー被害含むあらゆる犯罪に巻き込まれるリスクがある。実際、俺の所でも、部下には表――――公的なギルドカードと、裏――――本名を時と場合に合わせて使い分けさせている。


「それでは、ご案内いたしまぁす…………が…………っ」


 それは「お願いします」と俺が軽い会釈をした後だった。キャサリンは説明を中断し、ハッとしたかと思うと、俺の事を舐めるように見てきたのだ。

 なんと不愉快な。けしからん視線だ。俺は客だぞ。仕事をほっぽりだすなど言語道断だ。

 大方俺の身なりを見て、金を持っていると嗅ぎつけたのだろう。先ほどの少女たちもそうだった。本当に汚らわしい。シュバルの街の評価が俺の中で暴落していくのを感じる。

 とは言えだ、


「あの、おれの顔に何か?先ほど朝食をとったので、食べ残しでもついていたでしょうか?」


 俺は今休暇中。裏の顔は引っ込めているため、出来るだけ人当たり良さそうな表情を努めて聞いた。

 すると、キャサリンは迂闊とでも言いたげな表情を浮かべ、自身の接客態度に恥を知ったのか、頬を赤らめたのだ。


「ぁ、い、いえ。それでは、こちらへどうぞぉ」


 俺に意図を見抜かれたキャサリンは必死に取り繕い、ぎこちない笑顔で移動し始めた。

 駄目だな。接客業としてはうちの方が教育が行き届いている。俺の部下ならこのような失態は犯さない。

 まあ、それ以外で犯したがゆえ、今俺がこのように出張する羽目にもなっているのだが…………そこは棚に上げよう。

 俺はマウントを取りたいのだ。そんな風に俺がほくそ笑んだ時、キャサリンは一度咳払いをしたのち、声を作って甘ったるく説明を始めた。


「まず、こちらのエリアは賽を振って出目を当てるチンチロになります。」


 言葉通りだった。キャサリンのさし示す方向は賭博場に入ってすぐの右の区画。仕掛け人と客がすり鉢状の器に賽を投げ込んで声を張っている。

 ルールは至ってシンプルがゆえ、とっつきやすいようにとの采配だろう。よくある事だ。


「説明は必要でしょうか?」


「いえ、ここは初見ですが、賭博場自体は何度か足を運んでおりますので。コーナーの配置だけ教えてもらえれば問題ありません」


「あら、そうでしたか…………」 


 以外とでも言った風にキャサリンは目を丸くした。まったく、自我を出し過ぎだ。接客業ならば、誰に対してもフラットな対応を心掛けるべきだろう。

 その点で言えば、ドッコを買った露店の女店員の方が、好印象だ。何しろ彼女は誰に対しても同様の対応をしていた。

 決めた。キャサリンに対する『紙幣(チップ)』は無しだな。


「それにしても、何やら含みがあるもの言いですね。俺が足を運んでいては何か変でしょうか」


 「その…………」とキャサリンは少し口ごもった後、喉を動かし声を作る。


「無礼かと思いますが…………お、お客様は大変お綺麗で――――」


 この一般人は馬鹿である。俺は男だぞ。そもそも、身なりの小綺麗さに惑わされるようでは、底が知れる。低評価だ。


「――――褒め言葉も対象が違えば、不愉快です。言葉選びに気を付けなさい。接客業でしょう。あなた。」


「あ、いえ。失礼いたしました。とても、身なりが整っていらしたので、このような喧騒溢れる場所とは縁遠い、高貴な血の方なのだろうと、勝手な思い込みを。」


「ふむ…………?」


 確かに。身だしなみには気を使っている。

 行きつけの仕立て屋に、このシャツとズボンをオーダーメイドで同じものを何着も作ってもらっているし、今回の旅路には不釣り合いな革靴だって俺だけの特注品だ。マントは最高品質で夏は日陰に、冬は毛布として申し分ない性能を持ち合わせている。もちろん香水も使う。

 貴金属類は目立つし重いため、基本控えているが、必要な場では身に着ける。


 今の俺の服装の総額だけで、実は家が建つ。この金は違法でなければ稼げない額だ。ゆえに、どちらかと言えば、疑われるなら俺――――アルマ・サンは良からぬ事に手を染めている悪人である。そんな風に他者は思うのだろうと高をくくっていた。


 しかしながら、まさか貴族とは…………意表を突かれた。その様な勘違いをされるとは思わなかった。実際、トグサの街ではそのような謂れを被った事は無い。と言う事は、この南方地方の権力者は俺に似た格好。もしくは、この地方特有の価値観なのかもしれない。

 何にせよ、悪目立ちするのはいただけない。

 俺は自身の襟首を摘まみ上げ、服装の趣味をもう少し質素に改善するべきだろうと、ため息を吐いたのだ。


「…………しかし、そもそも貴族であるならば、なおの事かしましい場所には慣れているでしょう。彼らは社交界や、舞踏会と言った自己顕示欲を満たす場を常に求めています」


「詳しいですね。」


「俺への詮索は結構です。あなたには自身の本業に意識を割いていただきたい」


「は、はい。」


 「では、続いて…………」と、キャサリンが次のコーナーへ誘導しようと手を差し出した時だ。彼女の水平移動していた手は、見るからに一般人ではない黒服の男にぶつかり、ジロリと睨まれる。


「あ、の。す、すみません!」


「いや、いい。キャサリン、お前は下がれ」


「え、でも…………」


「お前では、()()()()


 そのやりとりは旧知の中としか思えない。はた目には上司と部下。ただそうであるならば、部下の仕事を上司がわざわざ引き受けるなど大事だ。何しろ、今の俺がそうなのだから。

 とすると、雲行きが怪しくなってくる。俺が念には念を入れるため、魔力による身体強化を施したのと同時、


「アルマ・サン殿。」


 と、男は畏まって礼を尽くしてきたのだ。


「ここからのご案内はこの賭博場の胴元――――アレクス・スルマがお預かりいたします」

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