03 ニ章 身近に潜む意 エピソード07 カイニスと言う男
スプーシャとアポロ。胡散臭い二人と別れた俺は関所を難なく突破し、足早にも首都サディーの敷地へと足を踏み入れる。
「何年振りでしょうかね?」
確か、バトーに出会って以来なので…………かれこれもう、二年。いや、三年近く足を運んでいなかった計算となるはずだ。
とは言えその程度ともいえる年月。
実際、俺の視界に映るサディーの街は、記憶とそこまで変わらない。昔見かけた服屋は飲食店へと変わり、人波も昔より増えたように思うが、特出する程の事でも無いだろう。
一目見てサディーと分かるレンガ造りの家屋と、石を敷き詰め整えられた歩道。そして、馬車の通り道は一切変わってはいないのだ。
少し顔を道路へと向ければ、「邪魔だ!どけ!」との怒声が馬車の御者から放たれ、即座にも「すす、みません」との平伏が見て取れる。
他にも身なりのいいものが堂々と歩道を歩く中、それらを避けるように質素な装いの者は横へとはける。
この町はこの島の首都であるためか、貴族連中がステータス目的で、土地を売買する事も多い。そのため、元々住んでいた者達や、事業に失敗した者達は立ち退き、没落する事も少なくはない。
要は、貧富の差が極端なのだ。
つまり、金が全てと言う事である。
「さて、宿屋の場所は、変わっていないといいのですがね」
昔泊まった普通の宿屋へと、記憶を頼りに進んだ俺の不安は、幸いにも杞憂に終わった。
サディーの街をしばらく歩いた俺の目の前には、記憶通りの三階建ての宿屋があったのだ。ただ、近隣住宅を合併するように、横へと増築している節が見受けられた。
思えば人波が増えているのだから、宿屋は繁盛してしかるべきだろう。
中に入ると、カウンターから「おひとりですか」とにこやかにも声を掛けられる。
「ええ。最低でも一週間は。空きは在りますか」
「当館の既存の方は既に満室なのですが…………増築した方はまだ空きがございます。ただ、そちらは新築と言う形で少々値が張るのですが」
金を持ってきて正解だった。俺は「構わない」と簡素に告げ、鍵を受け取ったのだ。
鍵には三階の二号室と刻印がされており、俺は館内に掲示されている案内板に従い、そちらへと足を運んで、入室した。
室内は値が張ると言う割には、そこまで豪勢ではない。
確かにキレイではあるのだがそれだけだ。むしろ、綺麗である分、テーブルに仕舞われた椅子の脚が床に描くこ擦り傷が、よく目立っていた。
他には壁に飾られた著者不明の絵画や、どこにでもある姿見。そして、窓の傍にベッドがあった。
「まぁ、上流階級御用達でも無ければこの程度でしょう。」
ドアを閉めると鍵をかける。
久方振りの一人――――自由に舌鼓を打つように、俺はベッドへと座り込んだ。
「さて…………サディーへ来ましたよ。」
そう。呼ばれたから来たのだ。
カイニスの居る場所など、俺は知らない。
でも、問題はない。
だってその時、ドアがノックされたのだ。
「どうぞ」
「いやぁ…………鍵かかってるぜぇ?」
ドア越しに聞こえるくぐもった狼狽に対し、「二言は在りませんよ」と入室を促す。
すると、ものの数秒でガチャンと鍵が開錠され、ドアノブが回る。
「よぉ。早かったな。アルマ」
カイニスが呆気なくも入室し、また鍵をかけ直したのだ。
「相変わらず手癖の悪い。」
「お前が開けろって言ったんだがぁ?」
「関係ありませんね、さ、適当に座りなさい」
「へーいへい」と気だるそうにも椅子を引き、カイニスは椅子の背もたれを抱くように座った。
「で、なぜ俺の場所が分かったので?」
「ま、いつもの事だろ」
「また気配を断って俺の後をつけたのですか」
「半分正解。もう半分は、関所のおねぇちゃんに聞いたのさ。女心なんざオイラに掛かれば水の流れと変わらねぇ。」
「…………手癖と言うか、口が悪い。あなたに女心を理解される何て…………屈辱でしょうね。」
「まぁそう言うなって。おかげで滞りなく合流できたんだからよぉ」
「それで」俺は懐から、カイニスのしたためたメモを取り出し、説明を求めた。
「バトーは何を?」
「こんな早くにお前が来るとは思ってなくてなァ、まだ調査中。経過報告になるけど許してくんね?」
「いいでしょう。言ってごらんなさい」
「エイダの店に情報を提供した、二組の男についてなんだけどよ。」
「待ちなさい、俺が知っている前提で話を進めるのはおよしなさい。」
「はぁ?お前の事だし、どうせそのあたりの情報、エイダから吸いだした後に出発してんだろう?」
「…………まぁ、そうですが。俺の事を知った風に語るのは気に食いません」
「面倒くせぇのは嫌いなんだよ。省けるもんは省きてぇ~効率重視よ。お前も好きだろ?」
「…………それで、その二人組が何か?」
「そいつら、バトーの手下だぜぇ」
「面白い…………証拠は?」
「オイラを信じてもらうほかねぇな。以前、バトーに付き従ってんのを見たことあんのよ」
「では、質問を変えましょう。どうやってその男達を突き止めたのです。当時はまだ幹部招集の命も受けていなかったはず。」
「サディーからトグサの街に奴らが入った時点で、目星をつけてた。だってさぁおかしいだろう、わざわざトグサの街に何しに来るって話よ」
「そこまで分かっていて、なぜ俺に報告もしなかったのです」
「そん時はまだ、ウキが沈んでも居ない状態。魚影も見えない状態だぜぇ?なんとでも言い訳できるだろうさ。ともすりゃぁ、逆に混乱を招く。」
「だから泳がせたのですか…………」
「そ。釣ってのは即ち待つことなり~」
「遊び過ぎぬよう、気を引き締めてもらいたいものですがね。」
「善処しますよぉ」
「ああ、そうです。あなた、スプーシャ・アールマティと言う黄金ランクとアポロ・オーガスと言う漆黒ランクに心当たりは在りますか?」
「漆黒ランクは世界に五百人はいるんだぜぇいちいち憶えてランねーよ。」
「では、もう一人は?」
「…………知らねぇなぁ。そいつのギルドカードを見た上で言ってんだろう?」
「如何にも。彼らとは道中ばったりと出会いまして、つい今しがたまで同行していたのです。」
「…………てことは、偽装の線は無し。あるとすればジーランド大陸からの渡航者兼、最近成ったばっかのピカピカ一年生だなぁ」
「そう思いますか。彼らもそう言っていたのですよ」
「ハッ、ならそうなんだろうさ…………面倒なのと絡んでんねぇお前も。オイラの事言えねーじゃん。」
「そうでしょうかね」
「オイラは手癖が悪いが、お前は運が悪い」
「うまくはありませんね。何にもかかっていない。」
「サーセンね。学が無いもんで」
「他に言うべきことはありませんか」
「あー…………そうだな。いや待て思い出した。最近なんだが、聞いた話によると、お姫様誘拐の件を解決すべく、ギルドに依頼したとか。もしかして、そいつらが?」
「どうでしょうかね。そのためにわざわざジーランド大陸から呼び寄せるとは思えませんが…………ギルドとは俺も疎遠。奴らの考える事など、とんとわかりません」
「だな。じゃあ目先はバトーの動向探っておくわ」
「ええ。頼みましたよカイニス。」
「へーいへい。」
「あと、異名追跡もお忘れなく。そちらが最優先なのですから。」
「ぁ…………へ、いへい。」
カイニスは立ち上がると、部屋を出ようとドアノブを回す。
「カイニス」
「え、なに?」
「期待に応えてくださいね」
「うわ、プレッシャ~…………オイラそういうの苦手なんだよなぁ」
「では言葉を変えましょう。信用しています。」
「…………おーらい。有難き幸せ~」




